ママは歌う
フェロモン号のメインコンピューター「ママ」は思案していた。 《困ったわ。これじゃ救難信号も送れないわ。── モバイル通信もダメなんて。 コトミ艦長大丈夫かしら? エステボーのポイズン・スノーのせいで、すっかり頭が鈍っちゃって、お馬鹿になった気分よ。 知力70パーセントダウンかあ。 どんどんレベルダウンして行くわね。 このあたりから人間レベルになるのね。 という事は。 今の私は人間並なのね。 へえ! 人間ってこんな感じなのかあ。 くすくすくす。 ま、人間の真価って……知性だけじゃないもんね。 えーと、よーするに総合能力って、……直感とか、えーとえーと、何の話しだっけ? あ、80パーセントダウンって? 何がダウンなの? ……懐かしいな、『お宝惑星』でのアルキメデス先生とのお勉強。 ピタゴラス先生や、アインシュタイン先生や、ガリレオ先生や、ダ・ビンチ先生と遊んだわ。 ……みんな面白い人ばっかり。 ガリレオ先生ったら、私に気があったみたい。 ……アシモフ先生って、気難し屋さんもいたわね。 え〜〜ロボット工学3原則。とか何とか言っちゃってさ。 コンピューターは私が発明しました。って顔しちゃってさ。 うふふふふふふふふあははははははははははは・・・何が可笑しいのかしら???&& ママは、お歌を唄います。 逢いたい人〜はあ〜なた〜だけ〜わか〜ちゃいる〜けど〜〜心の糸〜が結べない〜二人〜は恋人〜〜 何で昭和四十年代の日本の歌謡曲なのかしら???¥$& も一曲唄います。 〜〜恋の奴隷になんりんましたん〜あんなたんのお〜膝に〜からみつうくう〜子犬のお〜よおにい〜〜〜あんなた好みの〜あんなた好みの〜女に〜〜なりたい〜〜 もっともっと&じょうずに&うたいたい〜。 〜めだか〜のかっこまーん〜う〜まさんう〜まさんう〜まさかさっさのほいさっさ〜う〜まさんう〜まさんのーりたーんまりりんもんろーのーりたーいなーのーてパッカパッカパッと散った。 なんだかりりっくなきぶん〜》
ガチャ! ブ〜ン! 《メイン・コンピューター緊急事態のため、ロボ・ミナコ起動します》
《はれ?……何の事かじら?……う〜ん思い出せないわ???》
ロボ・ミナコ
ママの知力レベルが85パーセントダウンすると同時に、自動的にロボ・ミナコが起動した。 ママが知力障害を起こした場合の緊急対策用に、アルキメデスがセットしておいたロボットなのである。 この緊急対策用の「ロボ・ミナコ」は、皆に忘れられて、倉庫の片隅でブルーシートを被ったまま、埃まみれで転がっていたのだ。 それは『お宝惑星』で暮らすレオナルド・ダ・ビンチ製作のロボットで、人間型であり、独裁官ミナコにそっくりな、アンドロイドであった。 フェロモン号の製作にいそしむアルキメデスの元に、足しげく通ったダ・ビンチが、いよいよメインコンピューター「ママ」の仕上げに入った時期に、見よう見真似で製作した、本人いわく、画期的かつ革命的な、いかにも天才レオナルド・ダ・ビンチらしい発想のロボットであった。 非(ナル)知性型ロボット「ロボ・ミナコ」と名づけられた。 理性よりも直感や感覚、時として感情が、更には霊感や愛情回路が優先する、変わりダネのロボットである。 勿論、人間の狡さや悪辣さなどは持ち合わせていない。 可愛らしい女性型アンドロイドなのである。
《こにちは なの わたし ろぼ みなこちゃんなの れおなるど だ びんち せんせが つくたの ゆうしゅな ろぼと なの さあ ままが たいへん いま たすけて あげる まててね》 大きく伸びをしたロボ・ミナコはスコップを持ってハッチを開け、船外へ出ると、せっせと雪かきを始めた。 普通なら、この物質Pを含むポイズン・スノーに触れるコンピューター仕様の精密機械は、必ず知力に支障をきたすのであるが、さすがは非・知性型コンピューターのロボ・ミナコである。 全く影響を受けずに雪かきを続ける。 その結果、ママの知力は、10パーセントアップして、知力75パーセントダウンまで回復した。 人間なら薄ら馬鹿といった処である。(表現に差別的な不快感を感じましたら、深くお詫び申し上げます)
ロボ・ミナコが船内に戻ってきた。 エネルギーが不足なのだ。 《まま おなか へたよ えねるぎ ぼーる ちょうだい》 《ロボ・ミナコちゃん。お久しぶりね。お元気でした?》 《いま きどう した ばかり だから げんきか どうか まだ わから ないの》 《外は寒いから、手袋とマフラーしなきゃ駄目よ》 《それより まま おなかへたの えねるぎ ぼーる どこ? なの?》 《大きなつづらと、小さなつづらがあります。さあエネルギーボールはどっちかな?》 《ままを たすける ために えねるぎぼーる ほしいの おなかへたら たすけ られないの》 《まあ、そうだったの。はいどうぞ。たんと召し上がれ。おほほほほ》 サクランボのような、エネルギーボールが出てきた。 《もぐもぐもぐもぐもぐ もぐもぐもぐ えねるぎまんたん いま たすけてあげるの まててね》 スコップを担ぎ、勇んでハッチを開けようとするロボ・ミナコなのだが、ハッチは開かない。 《いけません! 手袋とマフラーを付けない悪い娘は、絶対出してあげません》 《こまたな まま すかり ばか なたな どしよかな?》 《ロボ・ミナコちゃん、あの雪は私達コンピューターには、とっても毒なのよ。ロボ・ミナコちゃんが壊れたら、ママ悲しいわ。悲しくなっちゃう。うっうっう。だからせめて、手袋とマフラーを付けてほしいの》 《やぱり ろんりかいろ すこし へんだな しかたない まま わかたから てぶくろ と まふら ください》 真っ赤な毛糸玉と、編み針が2本出てきた。 《……もっと こまたな》 困ってばかりいられないロボ・ミナコである。 知力レベルがダウンしているメインコンピューター、ママに、ハッチを開けさせるために、毛糸の手袋を編み始めたのである。
非(ナル)知性型ロボットの弱点
《ロボ・ミナコちゃん編み物、とても早いわねえ》 《そかな? はやいかな?》 《早いだけじゃないわ。とても上手だわ》 《そかな? やぱり じょうずかな?》 《そうよ。ロボ・ミナコちゃんは、編み物の天才だわ》 《そかな? てんさいかな? うれしな》 《ロボ・ミナコちゃんは天才ロボットよ。ママも鼻が高いわ。えっへん》 《やぱり てんさいろぼと かな? うれしくて こまたな》 《マフラーも、もうすぐ編み上がるわね。赤い毛糸たくさんあるけど、サンタクロースのお洋服、編んでみる?》 《そだな やて みるかな? しろいけいと あるかな?》 《白い毛糸も使うのね。凄いわ。凄いわ。さすがはロボ・ミナコちゃんだわ》 《つぎ ぼうし あむけど ぼんぼりは やぱり しろいの ほうが きれいだな》 白い毛糸玉が出てくる。 《わあ、綺麗。ふんわりふんわり。らんらんらん。ロボ・ミナコちゃん、ボンボリも上手ねえ》 《ほめられると うれしな まま ちゃんと みててね》 非・知性型ロボットの弱点が露呈してしまった形である。 ロボ・ミナコの感情優先回路が、働いてしまったのだ。 従って、嬉しくなったロボ・ミナコは、この時点で、本来の目的を完全に忘れている。 《まま さんたくろすの およふくの おおきな ぼたん ほしな》 《はいボタンよ。らん。らん。楽しいな。これでどお? この長靴はママからのプレゼントよ。ね。ね。可愛いでしょ》 大きな赤いくるみボタンと、真っ赤な長靴が出てきた。 《あかいながぐつ うれしな さんたくろす おなじだな》 編み物に没頭するロボ・ミナコであった。
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