エステボーの奇襲
友和は、明智の鉄砲隊の一斉射撃からフェロモン号に救出され、九死に一生を得た。 艦内で、命の恩人となったaタイプとの、再会を喜んでいた。 蘇生プログラムにより、生き返った織田信長と、森蘭丸がうろちょろと歩き回っている。 友和はコトミ艦長に尋ねる。 「信長と蘭丸はどうなるんだい?」 「245ヶ星系の『お宝惑星』に連れて行くわ。英雄とか天才が余生を送る惑星なのよ。新しいテクノロジーや哲学を学習して、発想や才能を、連盟の為に役立てているのよ。何もしないで、お散歩してたってかまわないんだけどね」 「俺はどうなる?」 「特異点を捕まえておく事なんて出来ないわ。元の世界に送ってくわ」 信長と蘭丸は立ち止まって、珍しげに眺めている。 「凄まじいからくりじゃな。この世の物とは思えぬのう。これは何じゃ?」 コトミ艦長が答える。 「うるさいからママに聞いてね」 「ママとな?」 《はい、信長さん、私がフェロモン号のメインコンピューター・ママよ。何でも質問して頂戴》 「この壁掛けの文字は見た事があるぞよ。確かギリシア国のものじゃ。バテレンを呼んだ折、色々な書物を見たのじゃが、これはアレキサン大王のおわしたギリシア国の文字じゃ。相違ない。この船はギリシア国の物なのか?」 《そのプレートには、このフェロモン号の設計製作者の名前が刻まれています。その人には、これから信長さんの行く『お宝惑星』で、会う事ができますわ。ギリシャの人で、アルキメデスという人です。偉大な人です。なんてったって、私の産みの親ですから》 「アレキサン大王もおわすのか?」 《ええ居るわよ。その人は『お宝惑星』のひょうたん島という小島で、素潜りのチャンピオンになっています》
ブザーブザーブザーブザーブザー。
突然、警報ブザーが鳴った。 そして同時に、強烈なロックビートに乗って、まるでターザンのような雄叫びが、艦内に大音量で響き渡った。 ドンドドタドンド・ドンドドタドン! ア〜アア〜アア〜! ア〜アア〜アア〜!
友和はぶったまげた。 「この曲は、レッド・ツェッペリンの『移民の歌』じゃないか!」 「エステボーが来たわ! エステボーヨシユキの『奇襲の歌』よ!」 とaタイプが友和にしがみついて言った 《敵襲! 敵襲! コトミ艦長、奇襲よ。敵艦はハイパードライブにより当艦上空、電離圏に出現! あ、ミサイル3発発射したわ。シールドはもう、間に合わない》 「ゼリービンズ弾で迎撃して!」
プチュムプチュムプチュムプチュムプチュム
《一発命中! 破壊したわ。さあ残りは2発よ。ゲル状被膜、緊急噴射するわ》 「ママ、緊急着陸。用意しといて。さあ来るわよ。つかまって!」 ズゴゴーーンンンン! 被弾した。 大揺れに揺れる。 全員ひっくり返り、床をすべって行く。 「キャ〜キャ〜!」 「もうだめだわ〜」 「助けて〜」 「aタイプー」 「友和さーん」 「殿〜お助け〜」 「人間〜五十年〜」 《2発被弾したわ。1発、動力部に達したの。これは効いたわ。もうシールドは無理ね。まあ大変。もう1発ゲル被膜で止まったんだけど時限信管だわ。これでお陀仏かしらね? とにかく、ゲル被膜噴射して、雪ダルマにしなくっちゃ》 コトミ艦長が言った。 「まさに宙賊の荒業ね。エステボーの奴、なんて無茶なワープをするの。ミナコちゃんが出発した後だって事が、せめてもの救いね」 対流圏にホバリングしていた所を、にわかに上空に現れた敵から狙われたのである。 これぞまさに、宙賊エステボーの荒業であった。 完璧な奇襲を食らい、ほのぼのとした安土時代の青い空の中、フェロモン号は黒煙を上げて、ぐらぐら揺れている。 《みなさん何かにつかまって。デッキの外壁に当たった時限信管、炸裂するわよ。さあ、頼みの雪ダルマね》 ボグググーーンンン! 激震が走った。 だが大量のゲル状被膜のお陰で、機体に損傷は無かった。 コトミ艦長が言う。 「エステボーは私達が目当てのはずよ。さあ、着陸して地上戦に移るわよ。みんな、武器を持ってカートに乗って! チンコロンもね! ママ、援護してね。行くわよ!」 「友和さん、行くわよ!」 aタイプは友和の耳をひっつかんだ。 友和は信長の帯をひっつかむ。 信長は蘭丸の襟くびをひっつかむ。 わらわらとカートの中へもつれ込んだ。 艦の着陸と同時に大ハッチが開く。 6台の半重力カートは、次々に飛び出して行った。
フェロモン号はハッチを完全にロックすると、被弾した動力部の自動修復を始めた。 こうなると、たとえ無理矢理こじ開けて入ったとしても、無人のフェロモン号は自爆の恐れがある為、エステボーにも手が出せないのだ。 だが、変てこなテクノロジーが自慢の、宙賊エステボーが、黙っている訳がない。 やがて、不時着したフェロモン号の上空から、銀色の雪がしんしんと降ってきたのである。 これぞエステボーの新兵器、ポイズン・スノーであった。
とうとうフェロモン号は、このポイズン・スノーにすっぽりと包み込まれてしまった。 ポイズン・スノーは、電波も磁力線も、完璧に絶縁する物質であった。 だから、救難信号を送る事はおろか、コトミ艦長に通信を送る事も、出来なくなってしまった。 そして何より恐ろしいのは、このポイズン・スノーには、コンピューターの知力の低下を引き起こす、物質Pが多量に含まれている事なのだ。 この作用により、ママの知力は急速に低下して行った。
|
|