サユリには、子供がいる。が、夫はいない。いわゆるバツの女
性である。子供は実家に預けていた。
ソープ嬢の出勤形態は2勤1休。2日働いて1日休むという形
態だ。そのほかに月に一度、生理休暇が与えられる。
サユリは休みの日以外は子供と会っていない。子供には「仕
事が忙しいから、おばあちゃんと一緒にいてね」と言ってある。
幸いサユリの子供は、おばあちゃんが大好きなので今の所た
いした問題にはなっていない。
実家の母も、元風俗嬢のせいかサユリに対して理解していた。
リビングにはサユリの子供の写真が飾ってある。帰宅すると必ず
写真を見て“ただいま”と心の中でつぶやくのである。
「サユリちゃ〜ん。お腹すいてる?」
花梨はいつもサユリを呼ぶ時に、“ちゃ〜ん”と声を伸ばして呼
ぶ。
「店で食べてきたから」とサユリが言うと、花梨は悲しそうな顔を
して「花梨特製のキムチ鍋作ったのに〜」と言った。
花梨はオカマだが、料理は上手だった。自分が本物の女じゃな
いからせめて料理くらいは女より上手に作りたいと言うのが、彼
女の口癖である。
「マジ?キムチ鍋?食べる!食べる!」
サユリは花梨の作るキムチ鍋が大好きだった。
「これは花梨流のおせち料理よ。あけましておめでとう」
“そっか年明けたから、世間はお正月だった”と改めて思うサユ
リだった。
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