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作品名:二つの重なった世界 作者:雨月兎流

第5回   たこ焼き
 少し歩くと、この街の中心にある商店街にたどり着く。しかし各地の商店街がそうであるように、スーパーやデパートの影響で商店街の活気はずいぶんと失われていた、と言っても引っ越してきて数年の僕は過去の賑わいを知らない訳でこれは単なる推測でしかない。
 知人である彼の家に行くにはこの商店街を通るのが一番近い。
「どんな方なのですか?」
 ここまで何も喋らなかったみあが僕を見上げている。
「そうだなあ……未来が見えるっぽい人なんだよ」
「見えるっぽい?」
「単に読みが鋭いんだと思うんだけど、的確なことを言ってくれるから僕が困った時にいつもアドバイスをね」
 将棋とかカードゲームとか、先読みが物をいうゲームで彼に勝ったことがない。しかしそれだけで未来予知ができると表現するのは安直すぎるので未来が見えるっぽい人としてみた。
「まあ、会ってみればどんな人か分かるよ」
 百聞は一見に如かず。知らない人に会うのだから気になるのは分かるけれど、それ程気を張って会う人でもない。むしろ彼は気兼ねなく話せるタイプの人だ。
「あ、そうだ。ちょっと寄り道をしていこう」
 久しぶりの訪問だから何かお土産を買って行くことにしよう。時間を指定してあるわけでもないので急ぐ必要もないだろう。
「おっちゃん、たこ焼き一人前ね」
「あいよ」
 いつもの無愛想な返事。職人気質のおっちゃんは表情を緩ませることもなく注文を受ける。そこに営業スマイルなんてものは存在しない。しかしこれでも僕に心を開いてくれた方だ。このたこ焼き屋さんを初めて見つけた時は注文すると鋭い眼光で僕を見るだけで返事もしてくれなかった。あまりの恐怖でお金だけ置いて帰ろうとしたのは良い思い出です。あの頃が懐かしい。
「おまたせ」
「どうもっす」
 おっちゃんから渡された袋がいつもより重い気がして中身を見てみる。
「おまけだよ」
 中には二人前のたこ焼きが入っていた。おまけと呼んでいいのか分からないが、遠慮なく受け取っておくことにする。こんな感じでおっちゃんとは結構仲良しだ。
「おまけしてもらったよー」
「よかったですねー」
 浮かれる僕と、さり気なく共感してくれるみあ。これではどっちが子供なのか分からない。
「公園ってのはこの公園なんだよね」
 商店街を抜けてすぐにある公園。砂場や滑り台等の遊具と、ちょっとした休憩に使えるベンチがいくつか置かれている。みあの話によればここが事件の現場になるらしい。今はそんなことは予感させない平和な時間が流れていた。
 商店街を通る道を選択したのはここに立ち寄るためでもあった。
 みあは二日前ここで男を見かけた。時間帯は夜で周囲は暗く、本当に男なのかどうかも実際のところ定かではない。ただみあはその時一つの噂を思い出した。人喰い男。真夜中の公園に現れ、夜遅くまで遊んでいる悪い子どもを食べてしまうという噂。僕はそんな噂は聞いたこともなかった。都市伝説にも満たない学校限定で流行っている噂か、もしくは暗くなる前に帰りなさいという親の考えが生んだ噂か。まぁどちらにしてもさほど現実味がある噂ではないと思った。みあは男を見て噂を思い出し、怖くなってその場から走って離れた。このままだと、目撃者となった自分が狙われるかもしれないし、公園に近づいた他の誰かが狙われるかもしれない。
 これが僕に協力をお願いするに至った経緯らしい。どうして僕に頼んできたのか分からないのだけど、小さいとはいえ女の子に頼りにされるのは悪い気がしないので良しとする。
加えて公園に立っていた男が噂の人喰い男ではなくただのサラリーマンだったとか、お家のない人だったとかそういう夢のない可能性はこの際考えないことにした。この一件を楽しむにはその方が良さそうだ。
「昼間なのになんだか怖いです」
「大丈夫大丈夫。そんな怪しい男見当たらないよ」
「はい……」
 みあは僕の服の袖をぎゅっと掴んだ。
 たこ焼きが冷めないうちに目的地へ辿り着かなければいけない。最優先の任務だ。公園を後にした僕たちはまたしばらく歩いて目的の家へ到着した。


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