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作品名:記憶の断片 作者:三毛猫三郎

第4回   道祖神祭

 何十年も前の話になる。正月が一段落して、門松や絞飾りを集めて燃やす「どんど焼き」
も終わると、雪が多く降り出し一面の銀世界になる。寒さが段々増して藁葺き屋根の軒の
氷柱は太くなって下に伸びた。二月に入ると小学校は休みになり、ミノル達はソリや池の
氷の上などで遊んだ。

 寒中休みの間には子供達が道祖神を祭った。村の道祖神はバス停のそばにあり、小川を
背にして座り、道路向こうの古い火の見櫓と手押式消火ポンプの格納庫をいつも観ていた。
夏や秋だと、そこには米や豆などを持った子どもたちが大砲型のトッカンを取り囲む情景
が観られたが、真冬になると雪が舞い土の路面が冷風で凍てつき、バスは鎖を鳴らして
走っていた。

 道祖神の祭の準備は小屋がけから始まった。小学生が中心になって、小屋の柱や梁に
する丸太などを近所の農家から借りて来た。ミノルの家より西方に住む同姓同名の
“西のミノル”が
「長いやつがあったよ。竹の棒も何本かいるな。もう一度行ってくるか」
 などと云って、白い息を吐きながら地面に丸太を下ろす。
 柱を立てる穴をミノルはスコップで掘り始めるが、地面がコンクリートの様に硬く
凍りついて少しも深くならない。いつもビー球やパッチンで遊んでくれる兄貴分の
カズアキがツルハシを引きずってきて
「重たいけれど、これでやってみるか。ちょっとどいてみな」
 と加勢に入って、穴はどんどん深くなった。

 掘った穴に柱を立て皆で支える。この時ばかりは大人も手伝って梁が渡され竹竿で
平らな屋根の骨組みができる。蚕作業に使うムシロを荒縄で柱や梁に縛り付けて壁を作り
道祖神を囲った。床にはムシロと藁を引き、屋根には稲束を置いた。こうしてどうやら
二間続きの小屋ができ、ミノル達は手袋の雪を払って、暖かそうにしている道祖神に手を
合わせた。そして小屋の中の藁床に座り火鉢を囲こむ。肩を寄せ合って
「ちょっと詰めてよ。女の子も入るといいね。節子ちゃんは来るのかな」
ワイワイ云いながら、かじかんだ手を暖めた。

 祭りの当日は朝からの準備で、大きな薬缶や漬物などを近所や自分の家庭から集め、
甘茶を買い、道祖神の前に賽銭箱を置いた。ミノル達は小屋の前に置かれた太鼓を叩く。
太鼓の皮がビンビンと弾けて音が遠くへ飛んでいった。夕刻になると太鼓を前後に担ぎ、
“ドンドン”
「どおそおーじんー、餅もってーこいー」
“ドンドン”
 と大声で近所にふれまわった。

 ロウソクの火に浮かびあがった道祖神に村の人達は手を合わせて、持参した餅などを
差し出し、賽銭箱にいくばくかの金を入れた。子供達が甘茶や漬物を出すと
「ありがとよ。寒いから気をつけるんだよ。火にも気をつけるんだよ」
 と云った。
 参拝客が途絶えるとミノル達は代わる代わるに太鼓を叩いて
“ドンドン”
「どおそおーじんー、餅もってーこいー」
“ドンドン”
と雪の小道を歩いてまわった。

 二日続いた祭りが終わり小屋の片づけが済むと、ミノル達はザラザラと鳴る賽銭箱を
持って土蔵を改造した世話役の家の二階に集まった。
「お札もあるね。最初の日より、後の日の方がお参り客が多かったね」
 と賽銭を数え金額を確かめる。そのお金を持って近くの“菓子でも何でも売っている
”小さな店でノードや鉛筆などを買いそれを皆で分けた。

 昼ごろになり美味しそうな匂いが漂って、油揚や人参、牛蒡などを醤油で煮た混ぜ飯
を小母さん達が出してくれた。野沢菜や沢庵をおかずにして、
「うまい、うまい」
 とミノル達は何杯もお代わりをし、腹を満たした。

 道祖神の祭が終わって、しばらくすると春が来る。陽光が強まって氷柱が日に日に
短くなり屋根の雪がドサドサと溶けて落ちた。田圃では覆った雪が所々消え、春が
そこまでやってくる気配がした。

 20081203


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