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作品名:星屑の詩 作者:柳原奈生

第6回   6
 それから天体観測のあったその夜は、炊事場までは全員で戻り、その後は就寝する者もいれば、そのまま炊事場の光を当てに座談会の続きをする者もいたり、めいめい好きに過ごしたようであった。女子のほとんどは疲れ切ってしまったのか、すぐにテントへ戻って行ったため、残念ながら深夜の暴露話に参加してもらうことは出来なかった。
 こういう時といえば、たとえば誰かと誰かが示し合わせてどこかで逢引をしているだの、恋愛関係が成立するだの、そういったことが起きるのだろうかと、年頃の興味津々な男子たちは、あれこれ妄想を語っているのだが、生憎とそういったことは起きなかったようで、怪しげな行動をする者がいれば後をつけていって後で話のねたにでもしようと思っていただけに、がっかりさせられるような結果だった。講師や卒業生が付いているというのも理由にあるし、また妄想は妄想で秘めたまま行動に移すつもりもないというのが実のところであったのだろう。
 「大体、そういうのをする気すら起きないね」
 桔梗がきっぱりと言うのを、周りは、
 「一番桔梗がそういうことをするような気がしていたけどな。行動力あるし、社交的だし、なんと言っても俺様っていう感じなところがするから」
と言うので、そんな風に見られていたのかと思うと、桔梗は少し恥ずかしい気持ちになる。
 「まあ、確かに星空の下で好きな子を口説くというのは夢があっていいけどな」
 笙馬がしみじみと言うのを、葵生はなんとも興味深く思って聞いている。
 「こんな夜は、星屑が詩を紡ぐんだぜ。そんなところで何をするでもなく、色々語り明かせたら最高だなあ、って思うよ」
 皆は適当な相槌を打って聞いているが、今日一日の笙馬の様子を見ている葵生は、自分一人が笙馬の思いに気付いていることが面白くて仕方なく、かと言ってそこで深く掘り下げて聞くのは体裁が悪いと思い、敢えて、
 「じゃあ、うまくいったら成功談でも聞かせてくれよ。後学のために」
と言ってやると、笙馬は少し顔を赤らめながら、
 「僕よりも、葵生の方が似合っている気がするよ」
と、しどろもどろになりながら言う。ここで女子がいれば葵生を中心とした話になっていくのだろうが、運のいいことに男子の集まりで話をしているため、笙馬は自ら墓穴を掘って皆からの質問攻めに遭うこととなった。だが、まだその相手が誰であるかをはっきりと口にしないので、それがかえって葵生は面白くてならず、にやにやと笑いながら適当に笙馬をからかっていた。
 それからの内容はとてもここでは言い表せないほど過激なものも含まれていたし、そもそも日付が改まってから数時間ほど続けられてしまったため、取るに足らないよもやま話も多かったのだとか。なんにせよ、これほど後のことを何も考えずに、夜更けまで自由に過ごせたのは初めてであったため、つい話が弾んでしまうのも無理のないことであった。
 葵生はというと、そんな話を聞きながら、いつも思いをかける椿希のことを重ね合わせていたので、誰かが恋人についての妄想話をすれば、椿希ならばどうするだろうと思って、どきどきはらはらしていた。だから、その次の日はまともに椿希の顔を見ることが出来なくて、大層困ったのだとか。

 次の日は打って変わって一日雨がしとしとと降り、葉から零れ落ちる雨の滴が土に跳ねて、あちこちに水溜りが出来ていた。施設によっては、屋根のあるところでキャンプファイヤーをすることが出来るようなのだが、生憎とここにはそんなものはなく、室内でキャンドルサービスをすることが早々に決まってしまった。
 当初するはずだったオリエンテーリングについても、雨の影響で残念なことに道を大幅に変更せざるを得なくなり、時間が余ってしまったのでひたすら座談会が続けられることとなってしまった。そうなってしまったのは、準備の足りなかったこちらが悪い、と卒業生たちは申し訳なさそうに頭を下げていた。
 「なんだか今日の葵生くんは変ね。まあ、いつも無口だけど今日は特別に変ね」
と、妥子は気が付いていたのだが、流石の妥子も、昨晩の会話を聞いていたわけではないので、葵生が椿希と視線を合わせづらそうにしているのを不思議に思っていた。
 「まあ、葵生くんがどうやら本当に椿希のことを気になり始めているらしいから、あまり私がおせっかいに手を出し口を出しては、かえって葵生くんも気が引けてしまうかもしれないから止めておこう。椿希にとっても、葵生くんは悪い縁ではないと思うけど、あの子は葵生くんのことを一体どう思っているのだろう。悪く思っていないようだけど、まだ色めいた風には思っていないようだし。そもそも椿希の恋にまつわる話は今まで聞いたことがなかったから、私が知っているはずもないのだけれど、椿希に合うのはこの人だと思う人がようやく現れたのだから、私も椿希がもしその気になってくれるのなら、出来る限りの手伝いはしよう。それにしても椿希と葵生くんが並んだときの、あの見栄えのすることといったら本当に溜め息も出そうなほどだったこと。椿希の瑞々しく華やかで、見る者を思わず微笑ませずにはいられないほどの美貌と、葵生くんのなんとも言えない艶やかで妖しげで、目を逸らすことの出来ないような魅力と、まるで正反対なんだけど二人が一緒にいると上手く調和されているのが、本当に出来すぎなくらい似合いだこと」
 有り余る時間の中で、そんな風に妥子は二人を見比べて思いながら、時折眠気に引き込まれてうとうととしていた。言葉に出しては言わないけれど、妥子がそんな風に思っていると葵生や椿希が知ったら、それぞれはどういう反応を見せるか、全く想像がつかないこと。


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