ぼくは 少しうつむき加減に 歩いていた。 西岡の小学校がら南に伸びる通学路。 大学へ通い始めて 3年目になっていた。
「少し あついな」
その道の途中には コンビニではなく 小さな商店があった 道は その商店のあたりから ゆるいのぼりになっていた。
前方に 宅地造成から取り残された 白樺の林が いつものように 青くかがやいていた。 「いつまであるのやら」 「売地」の看板が立っていて そのあたりが 坂道の頂上だった。
「あそこから 学校がみえたな」 5年の年月がすぎていた。 ようやく 記憶もかすれていたが 「それでも ましか あの頃のほうが」 まだ 十分に時間があり 何もわからなくとも 未来は約束されていると 信じてさえいればよかった。
「いまはどうだ...」 毎日 坂道を 行き来して 特に たのしいわけでもなく、 特に どきぢきするでもない。 なれてしまったのだ。 ただ ひたひたとせまる 終りの日。 それだけしか わかっていなかった 「不安? ちがうな 後悔? もっと ちがう」
パタパタと足音が後ろから聞こえた。 ぼくを 追い越すと クルリとこちらを向いた。 「さみしいの? でも げんきだして」 「おおっ わわわ...」 小さな女の子だった。 [「つらくても がんばるのよ」 ぼくは 右手を小さく あげて 「だいじょうぶだからね ウン」と答えた。 「ほんとう?」 「ああ ほんとうだ」 「ばいばい」 「あ ばいばい」 そういって 彼女は 元きた方へ パタパタと 戻って行った。
ぼくは すこし わらってしまった。 「みやぶられたかな まいったね」 彼女は 覚えたての言葉を とにかく 口にしただけなのかも と おもった。
「なにか 飲もう」 通り過ぎた 商店にもどった。 ぼくは 缶コ−ヒ−と 焼酎を買った。
つづく
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