20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第9回   ★☆汎用ロボット☆★
 シュミレーションルームから出たコクトらは、オニールの運転する警察車両でルジウェイ南西の位置にある、汎用ロボット組立て工場に向かっていた。

 オニールは運転しながら、後部座席に座っているコクトとルナをバックミラーでチラッと確認する。

 っく、俺が後部座席でルナと一緒に座りたかった、と思いつつも、これが自分の仕事だと思うとため息を漏らす。

 車はアウトサークル沿いの幹線道路を西へ向かって走らせていた。

 「オニール、運転変わろうか?」

 コクトは仕事とは言え友達を運転手にしているようで、あまり落ち着いた気持ちにはなれない、運転はオニールではなくもっと若い警察官にしてもらいたかった。

 オニールはルナの近くに居たがっているのだと、その方が自分の罪悪感が少し薄れると思った。

 「ブッブー!!」

 オニールは思いっきり不満そうな顔をする。

 「俺に仕事をさせないつもりか、俺はマーメイプロジェクトとコクトの監視兼護衛の責任者だぞ」

 「へっ、監視も含まれているのか?」

 オニールの表情が少しまじめそうな顔になる。

 「そうなんだよ、上から逐一お前の動向を報告しろっと言われているんだ」

 「オニールさん、監視対象の人に対してお前を監視してるぞって言うのは変だと思いますけど、ばれないように監視しなくていいのですか?」

 ルナが横から笑いながら口を挟んできた。

 「そうだよ」と、コクトもルナに同意する。

 オニールは頭を掻きならが「今のは独り言だ、だれも聞いていない、聞いていない」と繰り返し反芻する。

 オニールもいくら上司の命令だからと言っても友人を監視するのは心が痛む、どんな形であれコクトにそのことをどうしても伝えたかった。

 しかし重い空気が車内に漂っている感じがしばらく続いた。

 「オニールさん、一人で心を痛める必要はありませんよ」

 ルナはオニールに気持ちを察してか、オニールに声を掛ける。

 「ん?」

 オニールは気のない返事をルナに返しす。

 「実は私も、総務局局長の命で、コクトさんの秘書兼監視役を仰せつかっていますの」

 「同類ですね」


 「ごほっ」「ごほっ」コクトは思わずが咳き込んだ。

 そしては柔らかい後部座席のシートに身を深々と沈めて、ため息を漏らす。

 「マーメイプロジェクトの責任者に祭り上げられたと思ったら、監視対象にもなっているとは、信用されているのか警戒されているのかどっちなんだよ」

 コクトは独り言の様につぶやく。

 「しょうがないですよ、マーメイプロジェクトにはルジウェイの全ての情報が集まりますから、やましいことをやっている人達にとっては気が気ではないと思います」

 「そんな、もんかな」

 「それに、あなたはルジウェイを武装集団から守った隠れた英雄ですからね、注目されるのはしかたありません」

 オニールがルナに向かって自分も自分もと言うように、自分で自分を人差し指でさした。

 「も、もちろん、オニールさんもです」

 オニールは満足そうにハンドルを握り締め、目的地に車を走らせる。コクトはレイモンの件はあまり話題にしたくなかった、ルナに横目で見るが、何事もなかった様にすぐに視線を窓の外に向けた。

 何故俺はルジウェイに残っているんだ?

 昔一緒に仕事した連中の大半は自国に帰っているのに。

 第1次マーメイプロジェクトではあっちこっちのサブシステムに飛ばされ、牛馬のようにいいようにこき使われていたが、自分への評価は低かった。

 都合のいい便利屋さんだったからな、成果はちゃんと他の人が横取りしていたし。

 まぁ結果として、巨大なマーメイプロジェクトの全体像が把握できたから、悪いことだけではなかったからいいか。

 コクトは昔のことを思い出して一人苦笑いする。

 「コクト着いたぞ!、どこに車を止める?」

 オニールの言葉が、物思いに耽っていたコクトを現実へ引き戻す。

 「組立て工場の方へ頼む、そのまま車で工建屋内に入ってくれ」

 「了解!」

 オニールは工場の建屋の入り口に差し掛かると、郵便ポストの様に立っているセキュリティカード読取装置に自分セキュリティカードをかざす。

 すると工場の巨大なドアが横にゆっくりと動き出した、炎天下とあって工場の外には人影はないが、巨大なドアの内側には何にかの人影が動いているのが見える。

 車はゆっくりと工場の建屋内入って行った。工場は大型の旅客機が10機位は余裕で入りそうなぐらい大きかった。

 コクトらが入っていった汎用ロボット組立て工場の横にはダンプトラック専用の巨大な半地下の格納庫があった。コクトとシンが港町ティオリスで積み込んだコンテナは組立て工場で降ろされ、ダンプトラックはそのまま格納庫に戻されていた。

 車は工場建屋内の制御室の下に停車する、制御室は工場中央の工場内が見渡せる高い位置に配置されていて、制御室には専用のエレベータで行く仕組みなっていた。

 コクトは車のドアを開け降りると、上を見上げた。

 「やってるな」

 反対側のドアからはルナも降りると、工場内を見渡す。

 「T2の組立ては順調みたいですね」

 車の中でマーメイプロジェクトビルを警備している自分の部下とやり取りを終えたオニールも車から出てくると。

 「す、すげー、なんだこの広さは」

 「なんだ!ありゃ?」と叫び、オニールが上を指差す。

 三人の頭上を巨大なクレーンが大型コンテナを吊り下げて物凄い車輪音を響かせゆっくりと通り過ぎて行く。

 あまりの煩さにしばらくは会話が成り立たない、三人はクレーンが通り過ぎるのを待つように立ち尽していた。

 制御室の窓からコクト達を見ていた人影が慌てて走り出し窓から、影が消えたかとおもったら、制御室のエレベータが降りてきた。

 若い少しやせた麻黒の男が「ボスーーーーー!」と、叫びながらエレベータのドアが開くと同時に小走りで走ってきた。

 「コクト、ここではボスって呼ばれているのか?」

 オニールの質問にコクトは苦笑いで答える。

 「シン、順調か?」

 「はい、やっと要領も分かり起動に乗りかけたところです」

 シンはそう答えると、オニールとルナを交互に見る。シンにとっては初対面であった。

 「おまわりさんと、婦人警官?」

 シンはこの三人の組み合わせが理解できなかった。

 「ルジウェイ警察のオニール警部補と、同じマーメイプロジェクトのルナだ」

 コクトは二人をシンに紹介する、シンは姿勢を正すと、

 「ツカヤマ・シンです、よろしくお願いします」

 大きな声で名前を名乗った。

 オニールとルナは互いに顔を見合わせ、笑い出そうとするのを堪えながら、交互にシンと握手を交わす。

 「よろしく」

 「最近ルジウェイにきた連中はみんな元気がいいな、特にマーメイプロジェクトの連中は元気がいい、コクト何かコツがあるのか?」

 制御室へ昇るエレベータの中でオニールがコクトに尋ねた。

 「さ、さぁー?」

 コクトの返事はそっけなかった、代わりにルナが口を添えてくれた。

 「今回の公募要領はルジウェイでの永住か長期滞在が条件なので、前回よりはルジウェイへの帰属意識が強くなっていると思います」

 「それに高学歴よりも意欲のある人たちを多く受け入れることに重点を置いていましたので、オニールさんが気が付いたように、目的意識を持った人が多く集まったようですよ」

 人の受け入れは総務局の担当なので、その辺のことに関してルナはよく知っているらしかった、コクトも新しい人員に関しては年齢、学歴、経験に関係なくやる気のある人なら誰でもいいとアバウトな要望を出していた。

 「へー、そうなんだ」シンはルナを見て納得したようにうなずく。

 「俺の場合は採用枠が余ってたからもぐりこめたみたいだぞ」

 オニールはコクトの耳元でささやく。

 「自分も似たようなもんだ」

 コクトもオニールの耳元で小声で返事を帰した。

 エレベータは制御室へ着いたらしく、ドアが自動的に開いた。

 「ようこそ、T2組立て工場の制御室です」

 シンがエレベータから一足先に降りると、両手を広げ歓迎するような仕草をした。

 コクトは「調子に乗るな」と言うと、シンの頭を軽く小突く。

 「いった」

 制御室の前面、人の目の高さの位置には分厚いアクリルの特殊ガラスが工場全体を見渡せるように張り巡らされており、少し目線を上げれば組立てラインの状況が一目で把握できるようになっていた。さらにその上には横に細長い電子パネルにさまざまな記号でラインや工程ボックス、生産個数等が表示されていた。

 部屋の中央には20席の制御用の座席があり、同数の作業員が慌しくモニタを見ながら入力ペンでモニタをチェックしている。

 「へぇー、ミニシュミレーションルームみたいだ」

 オニール独り言のようにつぶやく。

 シンは生産状況を表示しているパネルに目をやっているコクトを見上げた。

 「ボス、来てくれたのはうれしいのですが、どうしたのです?」

 シンはコクトが単なる視察でわざわざここに来たとは思っていなかった。

 「実はな、シン」

 「組立てラインの変更をたのみにきたんだ」

 シンは直に返事はしなかった、大きな目でコクトを見つめ数秒だまった後に、生唾を飲み込む。

 「事件ですか?」

 オニールの肩が「カック」とこけた。

 コクトはまじめにジンに答えた。

 「大事件だ、戦争になるかもしれない」

 ルナはコクトが何を考えているのか分かっているように黙っていたが、オニールはようやくコクトが何をしようとしているのか分かりかけてきた。

 「ま、まさかコクトお前、こいつらを、・・・・」

 オニールは窓から見える、工場の組立てラインを指差しながら、言葉に詰まった。

 コクトはオニールに向かってうなずく。

 「シン、何台完成している?」

 「えーっ、手順を一つ一つ確認しながら組立てていましたので、まだ50台だけです」

 「よし、農業用はそれでストップだ残りは全て歩兵ロボットにする」

 「せ、戦闘仕様ですか?」

 シンはブルブル震えながらコクトを見ている、オニールは驚いてコクトに声を掛けた。

 「そんなことできるのか?」

 制御室にいる他の作業員もただ事ではないと、ざわつき始めた。

 「で、できます」

 シンがコクトの代わりにしっかりとした口調で答えた。

 オニールはシンの言葉にさらに驚く。

 「マーメイプロジェクトっていったい何なんだ!?」

 コクトはオニールの言葉には答えずに、シンのくしゃくしゃの髪をさらにくしゃくしゃにするように乱暴になでた。

 「よし、よく言った」

 コクトはポケットからマイクとイヤホンが一体になった通信機器を取り出し、右耳に近づけた。

 「マーメイ、接続しているか?」

 『はい、コクト大丈夫です』

 コクトはシンの大きな目に視線を合わしたままマーメイに指示をだす。

 「シン・ツカヤマに汎用ロボットT2を戦闘仕様に組み立てる命令を出した、彼に武装に関する権限を与える」

 「戦闘開始以外の全ての権限だ、至急セキュリティシステムに登録してくれ」

 『期間はどうします?』

 「第二次マーメイプロジェクトが終了するまでだ」

 『分かりました』

 「もう一つ」

 『はい』

 「ダンプトラックに関しては全権限を与えてくれ、期限はさっきと同じだ」

 『分かりました』

 「ボス、ダンプトラックもですか?」

 シンは何でダンプトラックまで、と思った。それに対してコクトはニヤリと不気味な笑顔をシンに向ける。

 「シン、とんでもない作業をお前に頼むことになってしまったが、頼りにしてるぞ」

 シンはコクトの言葉にうれしくもあり、ほんとうにとんでもないことをさせれられると思うと、無条件によろこんで返事することは出来なかった。

 「ダンプをどうするんですか?」

 「となりのダンプトラック格納庫にある全ての車両を動けるようにして置いてくれ」

 「ええーーっ!?」

 「ダンプトラックだけで100台はありますよ、全部ですか?」

 「ああ、全部だ!」

 シンが驚いている隙に、オニールが話に割り込んできた。

 「コクトもしかして、これでモルタニア軍との戦力差は埋まってしまうのか?」

 コクトはオニールに向かって親指を立て「ってことだ」と答える。しかし今度はシンの頭の中が「?」マークで埋め尽くされた。

 「戦力差?」

 「シン、今はまだ詳しくは話せないが、マーメイプロジェクトの一環と思ってくれ」

 「汎用ロボットの汎用性の確認と生産ラインの切替手順の動作確認ってところだ」

 「そ、そうですか、・・・」

 シンは物足りなさそうにつぶやいた。

 「しかしこいつがここの責任者か?、えらく若そうだが、大丈夫なのか?」

 オニールがシンを指差し、シンをまじまじと舐めまわすように眺める。

 「悪いですか!?」

 シンは腕を組んで怒ったようにオニールを睨みつけた。

 「はっははは、確かに」

 「シンは若いが、一番ここのシステムを理解しているし、俺の一番弟子だ、大丈夫だ」

 コクトはオニールが心配するのも無理も無いことと思っている、しかしシン以外にここを任せられる人は今のルジウェイにはいない。殆どの人が経験不足だし、年齢や見た目にかまってる余裕はなかった。

 相変わらず、オニールは心配そうにシンを眺めているが、自分の目線の位置がシンの目線と同じ位置に来るぐらいにしゃがむと、

 「俺はルジウェイ警察のオニールだ、今はマーメイプロジェクトの警備を担当している、警備上の問題や相談があったら、俺に連絡してくれ、直に飛んできてやる、結構たよりになるぞ」

 そう言うとオニールは自分の連絡先が書かれている名刺をシンのポケットに差し込んだ。

 「あっ、はい、ありがとうございました」

 シンのオニールを見る目が明らかに変わっている、コクトはオニールらしい挨拶のしかだと思った。コクトはオニールのこのラテン系の明るく屈託の無い性格が好きだった。

 「シン、しばらくは24時間体制だぞ、人員を二グループにして交代で作業してくれ」

 「多分2〜3日で落ち着くと思う、もし問題が発生したら直に連絡するんだぞ」

 「分かりました、ボス!」

 コクトらがエレベータに向かうと、シンも着いてこようとした。

 「見送りはいい、それよりも作業優先だ」

 「そ、そうですか、・・・」

 シンは残念そうに子供じみた顔をする、それに応えるようにコクトはボサボサのシンの頭を撫で回した。

 「頼むぞ」

 コクトはエレベータのドアが閉まる瞬間に軽く敬礼をシンに送った。

 ゆっくりと下降して行くエレベータの中でオニールがコクトに向かって声を掛ける。

 「部下の使い方がうまいな、みんな完全にお前を信用しきってるようだ、コクトお前はカリスマ性があるかも」

 コクトはオニールの言葉に呆れる様に両手広げた。

 「まさか、そんな器じゃないよ」

 「だだ、反面教師が多かっただけさ、そいつらの逆をやってるだけだ」

 「オニール、お前だってなかなかじゃないか、シンの奴の心を一瞬で掴みやがって」

 オニールは照れくさそうに頭を掻いた。

 「そ、そうか」


 「互いに褒め合いですね」

 ルナが一言、言葉を添える。

 エレベータが下に着きドアが開くと、笑い疲れて涙を拭っているコクトとオニールの後をルナが呆れた様に腕を組んで出てきた。

 「ったく」

 コクトらを乗せた車は滑るように走り出した、巨大な工場の両サイドは十分に車が走れるスペースが確保させているので、運転はしやすかった。

 工場の中央に汎用ロボットT2の組立てラインが配置されていた、全てが無人のラインである。

 汎用ロボットの部品は直接コンテナからベルトコンベアに載せられ、工程毎の組立てモジュールに中に入り、次々と完成していく様は見物である。

 車は工場建屋の出口に差し掛かった。

 出口に近くには出荷用のトレーラが数台停車していた、そこに子供ぐらいの背丈の完成したロボット達が自力で歩いて行き、トレーラの近くで立ち止まる。

 トレーラに備え付けのクレーンがロボットの頭に備え付けられている搬送用のフックを挟むように固定し、専用の荷台に次々と載せていく。

 「こいつらを武装させるのか?」

 運転席から横目でトレーラに積み込まれるロボットの様子を見ていたオニールが口を開いた。

 「ああ、もうしばらくしたら戦闘仕様の組立てラインに変更されるはずだ」

 コクトは静かに答える。

 「まぁこいつらは戦力になるとして、あの図体のでかいダンプトラックは何に使うんだ?こいつらの輸送手段か?」

 「それもある」

 「それもあるって?なんだよもったいぶるなよ」

 オニールはバックミラー越しにコクトの顔を睨みつける。

 コクトは恥ずかしそうに笑い頭をかきながら「笑うなよ」とオニールに念を押す、自分でも奇想天外な使い方だと思っているためあまり話したくなかった。

 「おう、笑わない」

 オニールは断言したが、コクトは今度はルナの方が気になってしまった。

 「ルナもだ、笑うなよ」

 「我慢します」

 ルナは笑顔でうなずく。

 コクトは少し間を置いてから、まじめ顔で答えた。

 「もし、もしだぞ」

 「戦うことになったら、ダンプトラックでモルタニア軍の戦車を踏み潰す」

 予想通りオニールは爆笑したがルナは笑わなかった。コクトは気がつかなかったが、ルナは少し背筋を伸ばすと座席にもたれた、そしてしばらくはコクトの横顔を無表情で見つめていた。

 「うっ」

 オニールが小声で叫ぶ。

 車が工場建屋から出ると直射日光は容赦なくコクト達を乗せた車を焦がすように照り付けてきた。一瞬周りが別世界になったような感覚に落ちいる。

 薄暗い工場の中にいた分、目が外の明るさに慣れるには数秒の時間が必要だった。

 「どんな最先端の技術よりも、エアコンに勝る発明は無いと思わないか、コクト」

 「同感だ!」笑わないと約束を破ったオニールに対して、憮然と返事を返す。

 「そう、怒るなよ」

 「で、次はどこに行く?」

 「都市管理局だ」

 「了解!」

 車はコアサークルに向かって伸びる幹線道路を滑るように走って行く、幹線道路の横は整備された緑地帯が続いており見事な景観だ。コクトはこの真っ直ぐに伸びた幹線道路とこの緑地帯の景観が好きだった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 9563