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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第8回   ★☆不正☆★
 話は一週間前のことである、深夜0時4棟あるマーメイプロジェクトビルの右端に位置する3号棟の2階の窓の一部の照明はまだ点いたままだった。

 小さな女の子が苦虫を噛み潰したような顔をしてモニタに映し出されているプログラムのコードを眺めていた。時折ため息を漏らし、キーボードを叩く。

 「アミアン、そろそろ帰ろう」

 すらっとした背の高い女性が小さな女の子に声を掛けてきた。

 「・・・・」

 女の子は集中しているせいもあって、声をかけられたことに気が付いていない。

 「アミアン!」

 背の高い女性は今度は大声で名前を呼ぶ。

 「あ、アーリー」

 「もう」

 「あんたは集中すると周りが見えなくなるからね、どうしたのトラブル?」

 「ううん、ちょっと」

 「どれどれ」

 アーリーと呼ばれた背の高い女性は、アミアンを横にどかしアミアンが見ていたモニタを覗く。

 「何したの?全部マーメイからの警告メッセージじゃないの」

 アミアンはブルブルと頭を横に振る。

 「私じゃないよ、多分、移行データのせいよ」

 「データ?まさか、で、マーメイは何て?」

 アミアンは上目遣いでアーリーを見上げる。琥珀色の大きな瞳をした小さな女の子、アミアンは誰がみても小学校高学年から遊びに来た子だと思うだろう。

 しかし彼女はれっきとしたMITを卒業した26歳の女性である。

 「電子認証が、偽装されているって」

 「このまま続けるつもりなら、警察に自動告発するって言われてるの」

 アーリーはモニタから慌てて身を引き、改めてアミアンの顔をうかがう。

 「ま、まさか」

 「単なる不具合じゃなかったら大変なことよ」

 「う、うん、たぶんとても大変なことになると思う」

 アミアンは小さな声でつぶやいた。

 アーリーはこのフロアには自分とアミアンしかいないのを分かっているつもりだが、他に誰かいないか周りを見渡した後、アミアンに不安そうな視線を投げかける。

 「もしかして他の部署の経理データも一緒かしら?」

 「うーん、作業が本番移行まで進んでいるチームは無いから、まだわかんないよ」

 「そ、そうね」

 アーリーは腕を組んでしばらく考えて後、アミアンの肩をぽんっと叩いた。

 「どっちにしろ、もう帰ろう」

 「私たちのチームは特に遅れているわけでもないし、明日考えよ」

 「う、うん」

 アミアンはまだ、色々試したいらしく残りたかったようだが、さすがにもう午前の一時近くになろうとしていため、アーリーと帰ることに同意する。

 「ごめんねアーリー、深夜まで付き合せちゃったみたいで」

 「気にするなって、私もちょっと今日中に片付けたい仕事が残っていたから」

 二人はエレベータで3号棟の1階に降りると、そのまま渡り廊下を歩き2号棟にある正面玄関の広い吹き抜けのフロアへ出る。

 3棟あるマーメイプロジェクトのビルの出入り口は2号棟にしかなかった、そのため1号棟と3号棟、4号棟で働いている人は、わざわざ2号棟まで渡り廊下で行く必要あった、むろんセキュリティ上の配慮である。

 『お疲れ様、今日は遅いですね』

 アミアンとアーリーは少し驚く、監視用のカメラに備え付けられているスピーカからマーメイプロジェクトビルを警備しているルジウェイ警察の警察官から声を掛けられてきたからだ。

 「え、ええ、遅くまでご苦労様」

 アーリーはLEDが点滅している監視カメラに向かって声を掛ける。

 正面玄関のガラス張りのドアが自動的に開くと「お気をつけてお帰りください」と声が返ってきた。

 アーリーはカメラに向かって手を振ると、アミアンと一緒に正面玄関を後にする。

 「ねぇ、アーリー」

 「ん」

 「警備室にいる警備員さんは、帰らないのかしら」

 アーリーは左手を口元にあて小さな声で笑うと、歩きながら小声でしゃべりだした。

 「彼らは、警備員じゃないわ、れっきとしたルジウェイ警察の警察官よ」

 「24時間体制で、このビルを警備しているそうよ」

 「へぇー、あっそうか、ここには警備会社なんてないもんね」

 「そうよ」

 「ここは一時的だけどルジウェイのあらゆる情報が集まっているから、セキュリティは特に厳しいそうよ」

 「ふーん」

 遠くから二人を見るとどうしても、親子が仲良く歩いているように見える、だがアーリーもアミアンと同じ26歳で同じ大学を卒業し、最近ルジウェイにエンジニアとして配属されてきたばっかりである。

 二人は、世界一であると思われる会話型システムマーメイに興味があり、数ある大企業からの誘いを断ってルジウェイのエンジニア募集に応募してきた、その優秀さから即採用が決まり、新たにルジウェイ市民となった経緯がある。

 あいにく都合よくマーメイ本体の開発には関われなかったが、いずれこの経理システムの統合が終わり次第、マーメイ本体の研究開発に関わりたいと希望を出している。

 二人はそれぞれ自分の車に乗るとマーメイプロジェクトビルを後に、自分の住むアパートへ向け車を走らせて行った。

 この一週間後、アミアンはとんでもない追跡プログラムを作り出し、ルジウェイ建設当初から行われていた不正処理された経理データを明るみに出してしまうことになる。


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