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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第7回   ★☆シュミレーションルーム☆★
 ルジウェイの上空を西に向かって飛行する小型のヘリがあった、かなり高度があるため気が付く人はいなかった。

 ヘリはルジウェイのセンターサークルを抜け数分後にはアウトサークルも抜けた、おそらく最高速度で飛行していると思われる。そしてルジウェイの境界線を抜けると、さらに高度を上げ西に向かった。

 ヘリ自体、空の色と近い保護色になっている、それに人を乗せる必要が無いため、かなりコンパクトな作りである。そのため高高度で飛行されると人の目での目視はかなり困難であった。

 ルジウェイ警察には3機の偵察用の無人ヘリが配備されいて、その内の1機である。現在はマーメイプロジェクトにて最終動作確認が行われていた。

 無人ヘリはルジウェイの西100キロの地点まで来ると速度を落とし、偵察用の複数のカメラを眼下に広がる広大な砂漠の一点に向け照準を合わせ始めた。

 そこには無数の黒い点が砂埃を上げながらルジウェイの方向へ向け移動しているのが確認できた。

 モルタニア軍機甲師団による大規模な軍事演習である。

 モルタニアは、砂漠とはいえ自国の領土の一部をルジウェイに提供している国家である、コクトとシンがダンプトラックで物資を受け取りに行った港町もモルタニアの領土内にあった。

 数年前までは頻繁にクーデターが発生していたため、殆どの国が渡航規制を行っていたが、ルジウェイ建設が始まるころには政治体制も落ち着き、今は周りの近隣諸国に比べれば比較的安全な国となっていた。

 マーメイプロジェクトシュミレーションルーム。そこはルジウェイ警察に配備されている無人戦闘システムのテストを専用に行うフロアである。

 そこには治安局配下のルジウェイ警察より50人近くの人員がマーメイプロジェクトのメンバーとして配属されていた。

 メンバーの半数は元々のルジウェイ警察の警察官で、残り半分は新たにルジウェイに来た若い連中である。

 彼ら全員システムの検証が終了次第そのままルジウェイ警察へ再配属される予定になっている。

 シュミレーションルームの前方には巨大なメインパネルがあり、全員がみることができる、そしてその左右にはサブパネルがあり、複数の区画に分かれて特定の情報を常時映し出すことが出来るようになっていた。

 メインパネル及びサブパネルを前面にして、各専用の機器が配置されており、担当者が慌しく、機器に接続されているキーボードを叩きまくってる。

 全体を見渡せるように中央の少し床を高くしたところに10人程度の人間が陣取れるゲスト区画があり、そこにコクトとオニールは立っていた。

 「どう思う、オニール?」

 メインパネルにはモルタニア軍の各車両の配置が記号として表示されていた。そして全ての記号の進行方向はルジウェイを示している。

 「単なる演習だよ、まさかルジウェイに攻めてくるなんてありえないだろう」

 オニールは自信なさそうに答える。

 「マーメイ、もしこのままモルタニア軍が進行を続けた場合、ルジウェイに着くのはどのくらいかかる?」

 『はい、単純にこのまま進行すれば約10時間後にはアウトサークルのルジウェイ空港付近には到着します』

 女性の声でマーメイの返事が返ってきた。

 「そうか」

 コクトはゲスト区画から少し身を乗り出し、シュミレーションルームのコマンダー(司令官)席に座っている若い男の方に向かって声を掛けた。

 「クレイ、格納庫にある残り2機の偵察ヘリもいつでも発進できるようにしてくれ」

 「イエッサ!」

 クレイは大きな声で返事を返し、ピシッと敬礼をした。

 コクトは頭を抱え込む。

 「ク、クレイ、俺は将軍様ではないんだ、気持ちはうれしいが、それはやめてくれ」

 周りからクスクスと小さな笑い声が聞こえてくる、オニールも両手を上げて、俺を見るなよと、言っているようなそぶりを見せる。

 「す、すみません、つい癖で、・・・」

 クレイはオニールの後輩だが、いずれ無人戦闘システムの責任者として治安局で主要な役割を担う人物である。コクトは早くシステムを彼に引き渡して自分の負担を出来るだけ軽くしたいと考えていた。

 オニール曰く、クレイは元軍人でどうも特殊部隊に所属していたらしい、最近ルジウェイに来たばかりの若きルジウェイ市民である。

 コクトはポケットからマイクとイヤホンが一体になった小型の通信機器を取り出し、右の耳に掛けた。

 「マーメイ、俺の声が皆に聞こえるようにしてくれ」

 『はい、外部スピーカーに接続します』

 コクトは2、3回右耳の通信機器をコンコンとたたく、その音が外部スピーカーより聞こえるの確認すると、マイクを口に近づける。

 「みんな聞いてくれ、既に知ってはいると思うが、総務局外務部から治安局を通して、モルタニア軍の軍事演習の監視依頼がきている」

 「現在は、監視依頼だけだが」

 「出来る範囲で万全な準備はしておきたい」

 「今のルジウェイは外敵に対して無防備と言って良い」

 「但し、今俺達が検証中の戦闘システムが稼動すれば、話は別だ」

 「形だけでも戦闘システムが稼動しているように見えれば、モルタニア軍も少しは躊躇するだろう、多分、・・・・」

 遠くで「クスッ」と笑いを堪えるのが聞こえた。

 「今回は良い機会だ、検証も兼ねて、全ての実機を戦闘システムと結合する」

 「クレイを中心に各自、作業に専念してくれ」

 「以上だ!」

 コクトの作業のさせ方がうまいのか、シュミレーションチームの士気は悪い方ではなかった、サブリーダ的存在のクレイも堅物ながらみんなから、信頼されているようなので全員がクレイの真似をする。

 「イエッサ!」

 コクトは皆が自分に敬意を払ってやっていると分かっていたので、苦笑いするしかない。オニールは笑いを堪えるように腹を抱えて中腰になって震えていた。

 コクトは通信機器のスイッチを切ると、横目でオニールを見る、そして小さくため息を漏らす。

 「ところで、オニール」

 「おう?」

 「この件に関して治安局か警察の担当者は、お前でいいのか?」

 コクトは戦闘システムに関しては、マーメイプロジェクトで全面的に責任は持つが、あくまでも運用は治安局かその配下のルジウェイ警察が行うべきだと思っていた。

 オニールは天井を見上げる様に、考え込む。

 「いや、俺の仕事はこのビルの警備とお前の護衛だけだ」

 「・・・・」

 コクトは再び頭を抱え込む。

 「俺は、コクトお前が指揮した方が良いと思うんだがな?」

 オニールは相変わらず深く考えていないようだった。

 「コクトさんが言いたいのは、ここにいるメンバーはマーメイプロジェクトのエンジニアだけなので、今回のモルタニアの件に関しては、治安や防衛に関する責任と権限がある人が対応すべきだと言っているのです、そうでしょ?」

 コクトとオニールの後ろから、ルナが声を掛けてきた。

 「そのとおり」

 「あれ?」

 二人は同時に後ろを振り返る。オニールはルナを見て少しだらしない笑顔になり、コクトはほっと、安堵の表情になった。

 「ルナ、外務部の方はどうだった?」

 コクトはルナにモルタニア軍の動向に関する情報を集めるように依頼していた、ルナは元々総務局局長の秘書であり、ルジウェイの外交を管轄する外務部は総務局の配下にある。情報を得るにはルナは適任であった。

 「残念ながら外務部の方でも、単なる軍事演習と言う事以外、把握していないようです」

 「そうか」

 コクトは腕を組んでメインモニタの方を眺める。

 オニールは、コクトのやつなんだかんだ言っても、やることはやっているじゃないかと思った。

 オニールの携帯の着信音が鳴り響く、昔の電話機の呼び出し音を電子化した音である。

 オニールは慌てて携帯をと取り直立不動で対応する。その様子から上司と思われる人物からだろう。

 「はい、オニールです」

 「はい」

 「はい」

 「・・・・・」

 「はい、分かりました」

 オニールは携帯を切ると、うれしそうにコクトを向いた。

 「何だよ?」

 「よろこべ、コクト」

 「ルジウェイ警察から戦闘システムの責任者がここにくることになった」

 「心の準備はしておけよ」

 コクトは少し不安そうな顔をする。

 「クセのある人か?」

 オニールは何がおかしいのか、吹き出しそうになるのを堪えた。

 「心配するな、変な上司が多い中で唯一俺が尊敬している人だ」

 コクトは自分は人に合わすことが苦手であることを自覚している、まぁ普通に常識的な人であれば問題ないのだが、少しでも権威的にふるまったり横柄な態度をとられると、どうしても反抗したくなってしまう。

 反省はしているのだが、なかなか直すことができない。そのため自分は出世とは程遠い存在だと思っていた。

 「良かった、助かる」

 「クセのある人に合わせるのは苦手だからな」

 ルナが口元を押さえクスクス笑い出した。

 「んん」

 コクトは胆を切る様に咳き込む。

 「だから、モンヘ局長が嫌いなのですね」

 ルナは口元を押さえながらも、目は笑っている。

 「否定はしない」

 「だからと言って中途半端な仕事をするつもりは無いぞ」

 ルナの顔は直に元のきりっとした顔に戻る。

 「分かっています、あなたは人類史上最大のシステム、マーメイプロジェクトの責任者なのですから、公私の区別は明確にする方だと思っています」

 コクトは強く決意は示したものの、少し落ち込んだ顔をしてルナにぼそっとつぶやく。

 「でも、やっぱりモンヘ局長は苦手だよ」

 ルナはニコリと笑顔をコクトに返すだけで、言葉にはしなかった。

 「へぇー、マーメイプロジェクトってそんなに凄いシステムなんだ、・・・」

 オニールが関心口調で独り言のように言うと。

 「そう言えば、そうかも」

 コクトもそれに同意するようにつぶやく。

 ルナは両腕を組んで目をつぶり、がっくりと頭を下に下げた。右のこめかみには血管が浮き出てきそうな雰囲気である。


 (^^+)


 巨大なメインパネルの情報が更新された、メインパネルの情報からはモルタニア軍は移動をやめ、各車両は規則正しく並んで停車し始めていた。

 メインパネルからの情報を見ると、今日はこれ以上移動することはなさそうである。

 「コクトさん」

 クレイがゲスト区画に居るコクトの方を振り向き、声を掛けてきた。コクトはクレイに向かってうなずく。

 「今日はここでキャンプを張るようだな」

 「ところでクレイ、こちらの使用可能な実機の一覧を表示できるか?」

 「はい、今、映します」

 クレイがコマンダー用の操作パネルのスイッチを数箇所上に上げると、右のサブパネルに無人戦闘システムで使用できる兵器類のアイコンが次々と表示され、その隣にはその兵器の数が表示された。

 オニールが目を見開いて、右のサブパネルに映し出されたルジウェイの戦力を凝視する。

 「これが、俺達の戦力か、・・・・」

 右のサブパネルに映し出されたのは以下のとおりである。

 ・偵察用ヘリ   3機( 1機)
 ・戦闘用ヘリ  13機( 1機)
 ・無人装甲車  25台( 0台)
 ・歩兵ロボット 100機( 0機)
 ・無人戦闘機  20機( 0機)

 オニールは右のサブパネルに映し出されている兵器のカッコ内の数が気になった。

 「コクト、何だあのかっこの中の数字は?」

 コクトはため息をすると、オニールの質問に答える。

 「実際に今、動ける数だ」

 「へっ?」

 オニールは返す言葉が思いつかない、固まってしまった。

 「クレイ、モルタニア軍の戦力も表示してくれ」

 「イエッサ!」

 クレイは軽く敬礼をすると、左のサブパネルのスイッチを数箇所上に上げた。

 左のパネルには、偵察ヘリから送られてきた、情報を元に、モルタニア軍の戦力が表示され始めた。メインパネルには主にモルタニア軍の配置図が表示されているのでおおよその戦力は分かるが。左のパネルには具体的に数字で表示され始めた。

 左サブパネルに映し出されたのは以下のとおりである。

 ・戦車    80両( 80両)
 ・装甲車  190両(190両)
 ・軽装甲車両  200台(200台)
 ・自走砲   10両( 30両)
 ・輸送用トラック   200台(200台)
 ・自走式高射砲    10台(200台)
 ・戦闘ヘリ    5機(  5機)
 ・兵員 ※※※※4,000人以上


 シュミレーションルーム内のざわめきが一瞬で消え静まり返った。

 誰が見ても、戦うまでもなく勝敗は決まりきっている。この圧倒的な戦力差はいかなる天才軍師がいても埋めるのは無理だろう。

 「お、おい、コクト」

 オニールの顔は笑っているが、額からは冷や汗が流れている。コクトも腕組みをしてつぶやく。

 「改めて数字で見ると凄い戦力差だな、まいたなー」コクトは独り言のようにつぶやく。

 「でも、コクトさんには考えがあるんでしょ?」

 ルナは微笑みを浮かべながらコクトに声を掛けた。

 コクトも頭を掻きながら答える。

 「ああ、万が一モルタニア軍が攻めてきても、追い払えそうな気がする」

 「へっ?どうやってだ」

 オニールが目を点にしながらコクトに質問するが、。

 「考え中」

 「何だよ、・・・・」

 コクトはオニールの問いに対しての答えはまだ持ち合わせてなかったが、ルジウェイの誇る無人戦闘システムと都市ルジウェイの機能を駆使すれば、何とかなるような気がしていた。

 そしてコマンダー用の席のクレイが自分を見ていることに気が付く。

 「クレイ、何だ?」

 「あ、あの、実機接続のためにルジウェイ空港と警察の格納庫に何人か人を送る必要があります、派遣してかまわないでしょうか?」

 「クレイ、細かい指図はお前に任す、一々俺の了解を取らなくていいぞ」

 「それと俺達は別件で一旦ここを離れるが、問題があったら連絡してくれ」

 「イエッサ!」

 コクトは軽く敬礼をクレイに返した。

 そして右耳の小型通信機器を取り外すと、再度電源を入れ直し右耳に近づけた。

 「マーメイ、クレイのサポートを頼む、間違ってもこいつらが勝手に戦争をしないように見張っていてくれ、頼んだぞ」

 『了解しました、コクト』

 コクトは通信機の電源を切るとポケットに入れ、オニールとルナの方を向いた。

 「オニール、ルナ、少し付き合ってくれ行きたいところがあるんだ、それにここにいても彼らの邪魔だしな」

 コクトは、二人に早くシュミレーションルームから出るように促す。

 「コクトさん、人間よりもマーメイを信頼しているみたいですね」

 ルナが少しコクトをからかうようにコクトに話しかけると。

 「コクトとマーメイは愛称がいいからな、コクトの電子秘書ってところだな、・・・」
 と、オニール。

 「ん?」

 「おっと、すまん傷つくようなこと言ったかな、俺?」

 コクトは少し「むすっ」としていた。

 「オニール、何でいつも俺の側にいるんだ、他にやることは無いのか!?」

 「冷たいなー、俺の仕事にはお前の警護も入っているんだぞ、あきらめろ金魚のフンみたいにしつこく護衛してやる」

 「うそつけ!、ルナが目当てのくせに!!」

 コクトはオニールの首を両手で絞め激しくゆらした。

 「ルナ!、助けて、・・・」

 コクトとオニールは掛け合い漫才をするようにシュミレーションルームを後にする。

 ルナも笑いを堪えながら歩き出口に差し掛かると、立ち止まり後ろを振り返った、そしてシュミレーションルームを見渡す。

 「もうここはシュミレーションルームでは無いわね」

 「実質的なルジウェイの作戦室ってところかしら」

 「・・・・」

 「それには、ワゲフ将軍に期待通り動いてもらわないと、・・・・」

 そうつぶやくと、コクトとオニールを追うようにシュミレーションルームを後にした。


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