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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第6回   ★☆ビル・アッカーマン☆★
 コクトがマーメイプロジェクトの責任者に任命されて一ヶ月後、フレアは自分の所属する脳科学研究所の裏にある公園をルジウェイ最高評議委員会の委員ビル・アッカーマンと二人で歩いていた。

 ビルはフレアの父バーンの恩師であり、友人でもあった。家族ぐるみの付き合いもあってフレアもビルのことを慕っていた。

 「バーンからはまだ何も話しかけてこないのか?」

 「ええ」

 「ビル、今日は何しに?」

 ルジウェイに来るまではビルもよく家に来てくれ一緒に食事も兼ねて、世間話をよくしていたが、ルジウェイではわざわざビルが尋ねてくることなんて無かった。

 ビルは少し照れたような仕草をするが何らかのタイミングを測っていた様だ。

 「いや、たいしたことは無いんだが、少し気になることがあって、・・・」

 「何ですか?」

 ビルはフレアに気付かれないように息を深く吸い込んで心を落ち着かせるようにゆっくり吐き出した。

 「コクトのことなんだが、どういう人物かな?」

 「えっ?」

 フレアはビルの口からコクトの名前が出たのに驚く、ビルも罰が悪そうにしていた。

 「いや、マーメイプロジェクトの責任者としてどう思う」

 「あれほどの巨大なプロジェクトだ、彼に任せて本当に大丈夫なのかと思ってね」

 フレアは安心したように肩の力を抜いた。

 「私は、最適だと思います。面子よりも実現性を最優先に考えた、ルジウェイ最高評議委員会に対して敬意を払います」

 フレアはビルを上目で睨みつけ、きっぱりと言い切った。それからうつむいて小さな声で「美人秘書はどうかと思うけど」と、ぼそっとつぶやく。

 「そ、そうか」

 「君を助けてくれた恩人でもあるしな、フレアが太鼓判を押すなら間違いないだろう。安心した」

 フレアはビルがまだ本当に聞きたいことを言っていないような気がした。

 「ビル、それだけではないんでしょう?」

 ビルは「相変わらず鋭いな、フレアは」と笑って頭をぼりぼり掻く。

 「ブラック・ダイヤのことを聞いたことはないか?」

 ビルはフレアの些細な反応を見逃すまいと、フレアの反応を注意深く待った。

 「ブラック・ダイヤ?」

 「石炭のことですか?」

 フレアは心臓が止まるかと思ったぐらい「ドキッ」としたが、表面表は平静を装う。

 「いや、石炭ではない」

 「・・・・」

 「すまない、変な質問をしたようだ、今のは忘れてくれ」

 ビルは笑ってフレアの背中を叩いた。

 「今日は君が落ち込んでいないか、様子を見たかっただけだ」

 「困ったことがあったら遠慮せずに、私のところに来るといい。力になるぞ」

 「ありがとう、ビル」

 「フレア、これで失礼するよ」

 ビルはそう言うと自分を待っている黒塗りの車の方へ歩いて行った。

 フレアはビルが車に乗り込み窓から手を振っているのが見えると、フレアも笑顔で手を振りそれに答える。

 ビルも鉱石のことを知っているみたいだけど、やはり相談した方がいいのかしら?。

 ああー、もう全を世界中に公開して楽になりたい気分。

 フレアは両手を空に向かって思いっきり広げ、深く息を吸い込み頭の中にあるもやもやとした気分を全て吐き出す為に深く空気を吸い込んだ。


 ビルを乗せた車はルジウェイのコアサークルへ向かって走っていた。ビルの隣には総務局局長のモンヘも座っている。

 「委員、お疲れ様」

 「フレアは間違いなくブラック・ダイヤの存在は知っていますね」

 モンヘの手には掌にすっぽりと収まるぐらいの機器があった、それは簡易版のうそ発見器である、殆どの諜報機関なら似たような装置は持っていると思われる代物である。

 どんな訓練された人間でも「うそ」をつく場合は身体的に独特の反応を示す。モンヘが持っているのは音声でそれを検知する装置であった。

 ビルは服の裏に挟んであった盗聴用のワイヤレスマイクを取り外しモンヘに渡す。

 「こんなもんで分かるのか?」

 「ええ、委員、古いやり方ですけど今でも十分役に立ちます」

 「委員がブラック・ダイヤの質問をした時のフレアの反応です、人の耳では分かりませんが明らかに動揺しているのが分るでしょう」

 モンヘは装置の波形が映し出されている部分を指差してビルに見せた。

 「と、言うことはコクトも知っていることになるか?」

 「おそらく、」

 「まあ、もうすぐコクトも我々の側に付くことになるでしょうから心配ありません、委員」

 ビルは大きく溜息をつくと、思い出すように鼻で笑った。

 「しかし、君がコクトを推薦してくるとは正直驚いた、いったい誰の入れ知恵だ?」

 「深い意味があってのことです、・・・」

 モンヘはわざと思わせぶりな台詞を吐く。

 「・・・、まぁ、そんなことはどうでもいい」

 「マーメイプロジェクトの責任者として打診した連中の殆どが青ざめた顔をすると、取って付けた理由を並び立て断るものだから、委員会としても困り果てていたのだ、中には打診した翌日に自分の国に帰った奴もいたぐらいだ」

 「それとは別に安易に承諾した連中も何人かいたが、こいつら全員マーメイに拒否される始末ときたもんだ、不思議とコクトの場合はマーメイにすんなり受け入れられたぞ、君はコクトの適正を見抜いていたのか?」

 モンヘは満足げにうなずく。

 「断った連中はバーンと同じ運命になるのを恐れたのでしょう、臆病な連中です」

 「それに全てのシステムをマーメイに統合することがブラック・ダイヤの力を手に入れることができる唯一の近道ですから、・・・・」

 「そう願いたい、会社の方もそろそろ今までの投資分を回収したがっているからな」

 「ブラック・ダイヤさえ手に入れば、それを担保にいくらでも金を出してくれる連中はいますから当分の間は我々は安泰です」

 「確かに」

 モンヘとビルは互いに大声で笑いあった。

 ビルは国連よりルジウェイに委員として派遣されていたが、テルベ社の技術顧問も兼ねていた。

 「ところでモンヘ局長、モルタニアのワゲフ将軍が不穏な動きをしているとの情報を得たのだが、どうなっている?」

 「君のところの外務部には何か情報は入っていないか?」

 モンヘは少しわざとらしく驚いた振りをする。

 「さすが、委員よくご存知で」

 ビルもまんざらでもなさそうな顔をする、モンヘが自分に対しおべっかを使うのは当然のように思っている様だ。

 「ええ、あのモール人の将軍がルジウェイの近くで大規模な軍事演習をすると、通告して来ています」

 ビルは不機嫌そうな顔になる。

 「表向きはどうでも良い、何を要求してきた?」

 モンヘは勿体なさそうに咳き込むと、一呼吸置いてからビルに話しかける。

 「ブラック・ダイヤの成果をよこせ、と」

 「それがまだなら、新たに1,770万ドルの軍事援助をくれ、と内々に打診がありました」

 ビルは腕を組むと深くため息をする。


 「モルタニアにしては大金だな」


 「またビンテージ物の中古戦車でも買うんでしょうよ」

 モンヘは皮肉交じりに答える。

 「金額が問題ではない、なぜ今頃こんな要求をしてきたかだ!」

 ビルは語気を強めて、モンヘを横目でにらみつける。

 「わ、分かっています委員」

 モンヘは少し狼狽する。

 「早急に調べさせるんだ」

 「はい、委員」

 「それと、金は一応準備しておこう、何とか捻出して置いてくれたまえ」

 「は、はい」

 モンヘは何かビルに質問しようとしたが直に思いとどまった。

 ビルはそれを察すると、ニヤリと不気味に笑う。

 モンヘもその笑いが何を意味するのか、直に分かった。

 使わずに済むのならそれに越したことは無い、金はいくらあっても困るものでもないかである。

 「ワゲフ将軍が攻めてくるとは思えないが、モルタニヤ軍の動きは把握しておく必要はあるぞ、その辺は大丈夫なのか?」

 「心配いりません委員、マーメイプロジェクトの良い予行演習になりますよ」

 「無人戦闘システムか?」

 「ええ」



 「万が一の場合は勝てるのか?」

 「いえ、それは無理でしょう」

 「一世代前の兵器とは言え、モルタニアの軍隊はおそらくアフリカでは最も装備が整った軍隊です、無人のおもちゃの兵器では勝てないでしょう」

 「数も圧倒的に少ないし、外敵には対応できると思えません」

 ビルは少しがっかりするように肩を落とした。

 「そうか、まぁ、無理も無いか」

 「で、モンヘ局長、その万が一の場合の時の対策も頼むぞ」

 「はい、委員」

 「心配には及びません、その辺の準備は常にしておりますので」

 ビルはつい、笑ってしまった。

 モンヘと言う人物は、深刻なトラブルが起きた場合、当事者であるはずなのにいつの間にか本人は蚊帳の外にいる場合が多い、感心するぐらい逃げるのがうまいと思ったことがあったからだ。


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