ルジウェイ空港周辺で展開しているモルタニア軍の将兵らは呆然と立ち尽くしていた。
部隊の背後に16台の重戦車を先頭に60台の巨大ダンプトラックが急に姿を現し自分らを威嚇する様に停車していた。
理解できないのは先頭にいる戦車にはモルタニアの国旗が貼られており、どう見ても自軍の戦車部隊だったからだ。
砂漠は日が傾き上空に広がる青空が濃くなり始めていた。
ヘリの残骸が散らばる砂丘の中腹に砂に体半分が埋まっている将校の姿があった。
気を失っている様だ。
しばらくすると眉毛がぴっくっと動く。
うっ、・・・・・・・・
静か過ぎる
カービンは朦朧とした頭を横に振り、砂の中から立ち上がった。
軍服にまとわりついた誇りを払い落とすと、ゆっくりと後ろを振り向く。
ルジウェイの連中か・・・・・・。
カービンの目には巨大なダンプトラック群がコンビナートの巨大なビルの様に光輝き立ち尽くしている様に見えた。
しかもそいつらはいつ自分らに襲いかかってきてももおかしくない威圧感があった。
ふっ
まさかこんな手を使うとは・・・・。
カービンは今度自軍の方に目を向けた。
殆どの輸送用トラックは破壊され、その周りに停車している装甲車等の戦闘用車両は沈黙していた。
多くの兵士が車両の周りに座り込んでいた。
戦闘はとっくに終わっていた。
アウトサークルの方に目を向けると、モルタニア軍が渡航用に掛けた桟橋を渡るルジウェイの歩兵ロボットの姿が見える。
そして歩兵ロボットに守られ渡航する数台のルジウェイ警察の車両も確認できた。
カービンはその場に座り込む。
この様子ではワゲフ将軍も降伏したのか、将軍の乗っていた戦車がこちらに砲身をむけているくらいだ・・・
敗北したな・・・・・。
『ルジウェイの通信システムが100%復旧しました、同じく監視システムも100%復旧しています』
マーメイの声がルジウェイコアサークルの地下100メートルにある作戦室内に鳴り響いた。
シンの奴、復旧させたか
コクトがつぶやく
「見せてくれるか」
『はい、メインパネルに切り替えます』
すると作戦室のメインパネルの映像が急に切り替わり破壊された通信塔を映し出す。
「ひどいです、まだ煙が立ち込めています」
アミアンがそう言うと、カメラの視点が段々上に移動しルジウェイ上空に広がる深く青く澄み切った大空を映し出した。
「なんだ?」とクレイ。
映像には小さな三つの風船が束ねられているのが確認できた、それを捉えているカメラが徐々にズームアップしていくと三つの風船は地上と三本のワイヤーで結ばれている。
それにこれは風船とと言うより気球と言った方がよさそうだ、以外に大きい。
『シン・ツカヤマは、気象観測用の気球と新素材の細く強力なワイヤーを利用し、気球を地上3キロ上空に固定させています』
『気球にはハイクオリティカメラ、赤外線センサー、レーザー測定器等の複数のセンサーと通信用のアンテナ、・・・・』
『省略しますと観測衛星を打ち上げたことと同じことになります、但し静止衛星ですけど』
「・・・・」
コクトはマーメイの説明を消化するのに数秒掛かった。
「ははは、なんて奴だ、・・・・」
もう少し早く完成させてくれれば、アミアンと空のドライブする必要は無かったのに、・・・・。
メインパネルの映像が再び作戦図に切り替わると、モルタニア軍の展開状況やダンプトラック軍団の配置等今までより詳細な情報がこと細かく映し出された。
「完全に復活ですね」
「モルタニア軍が少しでもおかしな動きをしたらすぐ分かります」
クレイが腕を組んで満足そうに見上げていた。
「たしかに」とセティもクレイの隣で同意する。
コクトはゲスト区画の手すりを両手で握りしめた。
「ふぅー」
コクトは大きくため息を漏らした。
こ、これで安心だ
フレア、少し休憩させてくれ
・・・・
バタン!
コクトはまるで膝が砕けたかの様にがっくんと床に座り込んだ。
頭は力が抜けたように下をうつむく。
完全に意識を失っていた。
オニールはモルタニア軍の武装解除で外を飛び回っており、アーリは負傷兵と捕虜の受け入れの仕事で既に作戦室にはいない。
アミアンは急ごしらえの戦車部隊プログラムの調整でゲスト区画隣のマーメイ端末にいてゲスト区画にはコクト一人しかいなかった。
クレイやセティ、そして作戦室のオペレータらも降伏の意志を示したとはいえ、モルタニア軍の動向に神経を集中させていたため、コクトの状況に誰も気がつかなかった。
「コクトさん?」
アミアンが急に後ろで見守ってくれていたコクトの存在が消えたように感じた、ゲスト区画の方を見るとコクトの姿が見えない。
慌ててゲスト区画に掛け上がると、コクトが床に倒れ込んでいた。
「コクトさん!!」
「誰か!早く救急車を!」
「コクトさん!」「コクトさん!」
アミアンの大声で叫ぶ声がコクトの耳に微かに聞こえた。
数時間後ベトラによって世界中にモルタニア軍が降伏したことが伝えられた。
同時にモルタニア大統領モハメド・カーンの声明も発表された。
『今回の件はワゲフ将軍と一部ルジウェイ上層部が企てたと確信しています、現在調査中であり、・・・・』
世界中のマスコミはロボット兵器と人間の戦争はロボット兵器の勝利に終わったと大げさな誇張と多くの興味本位な誤報と共に大々的に報道された。
商業主義に陥ったマスコミの報道は酷いものだった、彼らによるとコクトはカリスマ的な天才ハッカーで自由自在に歩兵ロボットを操りモルタニア軍を意図も簡単に撃退したことになっていた。
中には報道官のベトラをアイドル視するところまで現れる始末だ、むろんそんな連中はベトラに軽くあしらわれ大恥を世界中にさらされることになってしまう。
しかし問題は肝心のコクトの姿はまだどこにもなかった。
コクトの目の前に巨大な樹木がそびえ立っていた、いくら見上げてもその樹木の天辺は見えない、永遠に続いているように空に向け延びている。
ははは、宇宙まで届きそうな高さだ。
おや?
オニール、シン、それにランロッドさん、アーリ、アミアン、ベトラ、なんだ他のマーメイプロジェクトのメンバーもいるじゃないか。
コクトは巨大な樹木の下でみんなが忙しそうに何かを積み上げている光景が見えた。
あれ、フレア、フレアもいる
フレアー
コクトはみんなの中にフレアを見つけると、大声でさけんだ。
フレアはコクトに気がつくとうれしそうに手を振ってきた。
フレアが手招きしている、僕もいかなくちゃ。
コクトはみんながいる巨大な樹木のところへ走り出そうとするが足が思うように動かない。
うっ、なんだよ
足下を見るとどす黒いコールタールのようなどろっとした液体がコクトの足下に絡みついていた。
行かせるもんか、お前はここにいろ、おまえさえここにいれば、あいつらもあきらめるさ、・・・・。
へへへ、いづれみんな俺たちの中に取り込まれるのだ、・・・、心配するなそう悪くはないぞ、・・・・・。
黒い液体は不気味な重たい声でコクトに話し掛けてきた。
こ、こいつ、離せ!
コクトの心に恐怖ではなく、怒りに似た感情が大きく燃え上がった。
き、きさまー
なんで人のじゃまばかりするんだ!?
だがもがけばもがくほど、コクトの体は黒いどろっとした液体の中に埋もれていく。
く、くるしい、・・・・・。
薄れていく意識の中で微かに声が聞こえた。
コクト、彼らを導くのです。
こんなところでとどまっている時間はありません
ジャン・フィデル・コクト
奮起しなさい、あなたがやらなければなりません
ま、マーメイ?
まばゆい光と共に鋭く細く輝く槍を持った美しい女性が現れた。
コクトはなぜかマーメイを感じた。
光輝く女性は鋭い槍をコクトにまとわりついている邪悪な黒い存在に突き刺す。
ぎゃぁああああああああああああああああ
人とは思えない荒ましい叫び声が周りの空間を切り裂いた。
おまえは、・・・・。
ル、ルナ?
女神の様な美しい女性は微笑むと、微かな甘い香りを残してコクトの目の前からゆっくりと姿を消していった。
「お、おい」
「コクトが目覚めたぞ」
オニールの声だった。
「うぉーっ、コクトーー、心配したぞーー!」
オニールは叫びながらコクトに抱きついた。
「うっ、や、やめてくれよ、気持ち悪い」
コクトは顔をすり寄せてくるオニールをどうにか両手で遠ざける。
「な、なんだ、冷たい奴だなぁー」
そこは病院のベットの上だった、コクトは大げさに感動するオニールの後ろで、ほっとし床にヘタれ込むフレアの姿を見た。
「お帰りなさい、どこ行ってたの?」
フレアは床に座ったまま、コクトに話しかけた。
「さ、さぁ」
コクトは首を横に曲げた。
「フレア」
そしてフレアに手をさしのべる。
コクトはオニールに気を利かせろと目で訴える。
「お、おう、すまんすまん」
フレアは立ち上がりコクトのベットの横に座ると、コクトを抱きしめた。
「・・・・・・」
「あなたが目覚めないもんだから、大変だったんだから」
「わかってる?」
「ご、ごめん」
コクトはオニールと目を合す。
するとオニールは軽く敬礼をすると、静かに病室を後にする。
ごゆっくりとオニールの口だけが動いた。
コクトは手を少しだけ上げそれに答える。
オニールは病室から出ると病室のドアの両脇で銃を構えて立っている二人の武装警察官に声を掛けた。
「しばらくは絶対安静だ!誰も中には入れるなよ」
「たとえ医者でもだ!」
「はっ!長官」
オニールは頭をボリボリ掻きながらエレベータホールに向かって病院の廊下を歩いて行く。
途中途中に武装警察官が配置され、コクトのいる病室の階そのものが厳重に警備されていた。
「コクトのやつ、今の状況を知ったら驚くぞ」
オニールはそうつぶやきながら病院を後にした。
数日後の朝ルジウェイ周辺を湿った涼しい風が吹いていた、雨期が近づいていることが野生動物でなくても分かるぐらいだ。
しかし雲は多いがまだ雨が降り出すところまではいってない、まだ青空が多くを占めていた。
パーーーーーン、パパラパッパパーーーッ
トランペットだけの勇ましいファンファーレが鳴り響いた。
バーーーーーン、ババババッババーーーッ
その後をトローンボーンの力強いファンファーレが後を追う、その後を多くの金管楽器のファンファーレが重なるように鳴り響いた。
ヒューーーーー、・・・・パン
ヒューーーーー、パン、パン、パン
ヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー
パン、パン、パン、パン、パン、パン
閲覧式の開始を告げる花火が打ち上げられ、大空に白い綿飴のような、花火の煙が、打ち広げられた。
ルジウェイ警察の吹奏楽団を先頭に、コアサークルメインストリートを多くのルジウェイ市民が見守る中、旧マーメイプロジェクトのメンバーが行進し始めた。
吹奏楽団の次はクレイ、セティを先頭に旧シュミレーションチームのメンバー現在はルジウェイ防衛軍が毅然と整列し逸し乱れぬ行進を見せていた。
「おおーっ、かっこいいー」
「へなちょこ軍隊だと思っていたけど意外だな」
ルジウエィにこんな訓練を受けた軍隊があったのかと、多くの市民が驚愕した。
ところが、・・・
ルジウエィ警察の演奏する曲調がポップス調の明るい音楽に切り変わると、キリッと堅い顔をしていたクレイとセティが顔を合わせ二人ともにこっと微笑む。
それが合図となって毅然と行進している全員の表情も和らぎ、曲に合わせた華やかな行進に変わった、これには見ていた多くの市民が手を叩いて喜んだ。
その次はチームごとに旧マーメイプロジェクトのメンバーが続々とそれぞれの嗜好で登場、そして武装警察、消防署、cte・・・・と、多くの市民見守る中メインストリートを行進して行った。
しんがりは歩兵ロボット軍団である、ただし銃は持っていない、それどころが一台一台が一輪の花を手に持ち、まったく揃っていない行進で市民の前を花を振りながらとおり過ぎていく、これも大いに受けた。
ルジウェイ創立で初めての大規模なパレードがこうして始まった。
コアサークルメインストリートの終着点は広場になっておりここも多くの市民で囲まれいた。
それに加え世界中から集まった多くの報道関係者らのカメラや放送用の機材あちらこちらに設置されていた。
広場には白い布で覆われた100人ほどが座れる雛壇が用意され、既に近隣諸国の招待客が座って雑談している。
もちろん雛壇の周りはルジウェイの私服警察官が厳重に取り囲む。
普通雛壇の後ろにはその国のシンボルとなる宮殿や塔などが見られるが、そんな物はなかった。
あるのはコアサークルの中心部の芝生が敷き詰められた広大な広場があるだけだった。
「おい、現れたぞ」
カメラを回せ他社の連中に遅れをとるなよー。
カメラマンがカメラを向けた先には・・・・。
コクトとフレアの姿があった。
フレアは白いワンピースにいつものポニーテール、そしてささやかな宝石のアクセサリー、質素だが気品があった。
コクトも仕立てたばかりの某有名ブランドのスーツを着こなし、雛壇のセレブな招待客と比べても見劣りはしなかった、かなりレクチャーを受けたようだ。
二人が姿を表すとそれまで雑談をしていた招待客全員が立ち上がり拍手で迎えた。
「コクト、フレアこっちへきなさい」
「ありがとう、ビル」
「ど、どうも」
フレアの父バーンの師であり友人のビル・アッカーマンが二人を席の中央に案内してくれた、そこにはルジウエィ評議委員の長老ミューラも座っていた。
「ふおっ、ふおっ、ふおっ」
「お前の忠実なる僕たちは知名度のある我々をまだ利用したいらしい、この雛壇に上がってくれとさ」
「長老そんなことはありません」
ランロッドがコクトとフレアのところへ歩み寄ってきた。
「コクトさん、フレアさんお待ちしておりました」
「合わせたい人がいます」
ランロッドが近づくとビルは肩をすくめてミューラの隣の席にふてくされるように座った。
「まったく、マーメイプロジェクトの連中は何を考えているのか・・・」
「ふおっ、ふおっ、ふおっ」
「よくやってるじゃないか、たいしたもんだ」
「そうですかねー」
ミューラはビルをなだめると横目でランロットを目で追った。
ランロッドがコクトとフレアに最初に合わせた人物はモルタニアの大統領モハメド・ハーンだった。
コクトとフレアは目を合わせ驚く。
「この方は・・・」
ランロットの言葉をコクトは遮った。
「ようこそ大統領、ルジウェイへ」
「お会いできて光栄です」
コクトはハーンに手を差し出した。
「こちらこそ、まさか招待してくれるとは思いませんでした、ミスターコクト」
ハーンはコクトの差し出した手を握りしめた後、力強く抱き合った。
その後フレアとも軽く包容する。
「ミセスフレアあなたの美しさはモルタニアでも有名です、今度は是非我が国へ招待したいものです」
「あ、ありがとう大統領」
フレアは横目でコクトに視線を移すと、コクトは右上を向いて、照れ隠すように耳元を指でこする。
その様子は世界中に中継された、ルジウェイとモルタニアは早くも和解したことを全世界は知ることになる。
ランロッドはコクトを中心とするルジウェイの統治体制を次々に整えていた。
さながらコクトが大統領でランロッドが首相と世界は受け取っているようだ。
コクトとフレアは招待客との一通りの挨拶が済むと中央の席に座った。
「ねぇ、ランロッドさんは私にファーストレディの役目をして欲しいって」
「そ、そう、・・・」
「僕は大統領の役を押しつけられているよ・・・」
ぷっ!と
二人は吹き出すように笑った。
「はははははは、なんかしっくりこないや」
・・・・・・・
「ところでルナについては?」
コクトは気になって心の中に引っかかってしたものをこの際聞いてみることにした、今日は聞いてもいい日だと思った。
「ふぅー」
フレアは大きくため息を漏らす。
「ビルおじさんや、ミューラおじいちゃんと話したけど、結局はっきりしたことは分からなかったわ」
「ルナとお父さんの関係、そしてミユーラやビルとの関係も、いくらなんでもルナは私と同じぐらいの年でしょ」
「20年、30年前の話と全然かみ合わないの、ビルもミューラも今となっては、はっきりしたことは分からないって、二人とも年だから、・・・・」
「そ、そう・・・・」
コクトも肩を落とした、何か新しい情報が聞けると思っていたが、それはなかった。
「んんー!」
「おっほん!」
ミューラとビルの席はコクトの隣だ、二人とも顔を赤くしせき込んだ。
フレアは下をぺろっと出して直ぐに引っ込める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォーーーーーーン
20機の無人戦闘機ボーイの編隊が姿を現した。
パレードの上空にさしかかると、色とりどりのスモークを吐き出しながらゆっくりと雛壇の上を通過していく。
おおーーーっ
すばらしい!
広場を取り囲む様に集まっている大勢の観客が歓声をあげる、雛壇の招待観客も歓声を上げた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・
今度は無人ヘリメイサの編隊が上空を次々と通り過ぎて行った。
パレードの先頭を飾るルジウェイ警察の吹奏楽団がテンポのいい行進曲で雛壇の前に着くと行進をやめ雛壇の下に整列し演奏を続けた。
ここでパレードが済むまで演奏を続けるようだ。
多くの市民に迎え入れられクレイとセティが率いるルジウェイ防衛軍の兵士がコクトらの前にたどり着くと、クレイが雛壇のコクトに向かってキリッと敬礼をした。
ザッツ!
それを合図に一斉に全員が雛壇に向かって敬礼をする 、統制のとれた彼らの行動は美しくもあった。
コクトも立ちあがり彼らに敬意を示した。
コアサークル地下100メートルの作戦室では・・・。
オニールがゲスト区画に立ち、新米のルジウェイ防衛軍のオペレータを使ってパレードの警備全体を指揮していた。
「長官、長官もコクト閣下の隣で閲覧式に出るべきだったんじゃないですかー?」
新米オペレータが何気なくオニールに質問してきた。
「ばかっ、主役が全員あそこにいたら、いざ、どこかが 攻めてきたら直ぐ対応できないだろ!」
「なぁ、マクロ」
オニールの隣には15、16歳ぐらいの女の子が立っていた。
漆喰のような光沢を持つ黒髪に琥珀色の瞳、そしてスタイルの良い体に軍服が良く似合っていた。
軍の募集用のポスターに使えそうなぐらいだ。
『いぇ、長官はただ恥ずかしいだけと、それに少しすねているだけです』
『その性格早く直した方がいいですよ』
ぷっ!
作戦室のあちらこちらで笑いを堪えている気配がした。
こ、こいつ・・・・。
痛いところを指摘されオニールのこめかみに十字型の皺が浮き出た。
「な、なんで、こんなリアルな体にしたんだ!?」
「前の方がロボットらしくてなじみやすかったぞ」
『失礼な!この体はスイスのリアルドール社に1000万ドルで作ってもらった傑作ですよ!』
『空港の税関の職員だってもう少しでだませたぐらいなのにー』
『もう!』
『まったく見る目がないんですから』
っく
口ではかなわないと悟ってオニールは頭を抱えた。
「おっと、それどころじゃない」
「そろそろ始まるぞ」
オニールが作戦室のメインパネルの方を向くと、マクロも同じようにオニールと同じ方向を向いた。
メインパネルには大きくコクトの姿が映し出されていた。
パレードを行進していた全員が広場に整列し行進が止まり演奏が止むと、急に静けさが周りを包んだ。
全ての視線がコクトに集まる、公式の場で初めての発言である、誰もがコクトの言葉を聞きたがっていた。
「息苦しい・・・・」
「どきどきしてきた」
パレードに参加し今は最前列にアーリと一緒に立っていたアミアンがふらつく。
「何であんたが緊張するのよ?」
アーリがうんざりした顔で質問する。
「だってぇ・・・・」
「アーリは平気なの?」
「えっ?」
・・・・・・・・・
「あ、あんたが言うから、私も緊張してきたじゃないのよ!」
コクトさん、がんばって・・・・。
『ピィーーー、ガ、ガ、ガガガーーーー』
スピーカーから調整用の電子音が鳴り響く。
コクトはフレアと目を合わすと深くうなずいた、そしてマイクの前に立つと大きく深呼吸をする。
そして演説用の透明のパネルに目をやった。
そこにはランロッドは始めとする執行部がまとめた演説用の文言が表示されていた。
一応コクトも目を通してはいるが、コクトはランロッドに礼を言い一言伝えていた。
完璧ですね緊張したら棒読みするかも、その時は利用させてもらうよ、でも今回はシナリオ無しで話そうと思う、と・・・・・・・・。
『ジャン・フィデル・コクトです』
コクトの声は落ち着いていた、コクト自身こんな大勢の人々の前でしゃべるのは初めてなのに、平常心でいる自分が不思議に思えた。
「30年前バーン博士を中心とする科学者グループと誰もが認める世界最大の多国籍企業テルベ社が音頭をとり砂漠のど真ん中に人類の科学、文化、芸術の発展のための都市を造ると言う壮大な計画が実施されました、そして現在こうしてルジウェイはここに存在します」
「このルジウェイ建設には多くの企業や国家が賛同し参加し莫大な資金と人が投入されてきました、まさに人類の歴史史上例をみない巨大プロジェクトであることは間違いありません」
「普通これほど巨大なプロジェクトは利害関係が複雑にからみあいなかなか実現しない事が多いですが」
「ここではかなり良い線までうまくいっていると思います、まさに奇跡です」
ここでコクトはいったん言葉を止めひと呼吸する。
「と、まぁここまでは誰もが知っているところですが、その裏では多くの人々が想像つかない事が進められていました」
「それはごく一部の人しか知らなかったし知らされなかった計画です」
「今回のワゲフ将軍の行為もそれと深い関係があることは紛れもない事実です、彼一人を攻める事はできません」
急に周りがざわつき始めた。
コクトの後ろに座っているミューラの手が震えだした。
お、おい、まさかこんなところで全てを暴露するつもりか・・・・・?。
ビル・アッカーマンは頭を抱えて下をうつむいたままだ、どう対応していいかわからないようだ。
モルタニアの大統領モハメド・ハーンは最初驚くがしばらくすると下をうつむいて笑いを堪えていた。
「自分がとんでもない連中に喧嘩を売っていると気づいてしゃべっているのか?」
ハーンは愉快でしょうがなかった。
「静かに!」
パレードに参加していたシン、ツカヤマがざわめく周りの人々を諫める。
コクトは再び語り始めた。
『それを知っている人達はブラックダイヤと呼んでいる謎の鉱石です』
『この鉱石の解析こそがルジウェイ計画の最大の目的だったのです』
『表面上の華やかな研究開発と平行して莫大な資金と人材そして時間が謎の鉱石の解析作業に投入されていたのです』
『世界最大の大型加速器ですらそのために建設されました、素粒子研究は単なる隠れ蓑だったのです』
『但し計画は複雑に隠蔽され多くの人々は自分がその作業に従事していると気づくことは皆無に等しいことでしょう』
「一部の人々はこの鉱石を超古代の知識が詰まったコンピュータ、この世の全てが収まったアカシックレコード、または地球外生命が残していったなんかの代物だと思っているようです」
「彼らはそれを解析することで多くの未知なる知識が得られ莫大な利益を生むと考えていました」
コクトは肩をすくめた。
「残念ながら謎の鉱石は今でも謎のままです、未だに何も我々にもたらしてはいません」
「おまけにその鉱石はもう物質としてこの世に存在しません、消えてなくなりました」
・・・・・・・
招待客の多くが驚きを隠せないよう様だ、隣同士でヒソヒソ話を始めた。
コクトはそれを無視し再び口を開く
「が、イメージデータとしてマーメイの中に存在します」
「しかしそれも今日までです」
コクトは襟元のバッチを口元に近づけ小さな声でささやいた。
「マーメイホログラムで映し出してくれ」
『分かりました』
マーメイがそう答えると雛壇の左右に設置されたレーザー発光器が7色の光を放ち、コクトの隣に直径5メートル弱の球状の揺らめく映像が映し出された。
それは太陽の様に無数の黒点が存在し消えては現れそして再び別の場所から現れては消えと、生き物のようにうごごめいていた。
その異様さに誰もが言葉を失い目を奪われた、そしてコクトの話が単なる妄想ではなく真実であると確信する。
「マーメイによるとこれでも視覚化作業はまだ10%程度で、解析が進むほど処理が複雑になりペースが落ちると言うことらしいです」
「ではいつまでかかるか聞いたところ計算上、後千年の時間が必要とのことです」
せ、千年?
コクトの斜め後ろに立っている進行役のランロッドがつぶやく。
「もう、いい消してくれ」
コクトがマーメイにそうつぶやくと、映し出されていたホログラムがゆっくりと消えて行った。
「ばかげています」
「さきほどマーメイに鉱石に関する解析処理を中止するように指示しました」
「今は鉱石解析に割り当てられている多くの資源を解放する作業を進めています」
コクトの視線は目の前の多くの聴衆に向けられた。
「ルジウェイにこんな訳の分からないオカルト的な代物に付き合っている時間はありません」
「解放された多くの資源と、新たに加わる資源を利用し新たなるプロジェクトを立ち上げます」
聴衆が息を潜めコクトの次の言葉を待った。
「第三次マーメイプロジェクトです」
「・・・・・・」
「第一次マーメイプロジェクトはルジウェイ建設と平行し、コンピュータネットワークのインフラの構築で終わりました」
「第二次マーメイプロジェクトは全てのシステムをマーメイを中心とするコンピュータネットワークに結合することでほぼ収束しつつあります」
「そして第三次マーメイプロジェクトでルジウェイは、・・・・」
ここでコクトは言葉を止めた。
そして空を指さした。
コクトの指さした大空には濃く深い青空が今も広がっていた。
「但しこれは夢でも目標でもありません、具体的に明日から実施されます、多くの市民がこのプロジェクトに参加することになるでしょう」
「今後ルジウェイは全ての資源をそれに費やし・・」
「宇宙を目指します」
コクトは軽く頭を下げた。
こうしてコクトの演説は終わった。
静かだった。
人々はコクトの言葉をゆっくりと消化していく。
ウーラー!
クレイが大声で叫んだ
ウーラー
ウーラー
クレイのかけ声につられる様にクレイの周りの防衛軍のの兵士達も大きく叫んだ。
ウーラー
セティは感動のあまり目頭を熱くしながら叫んだ。
ランロッドの手配した桜要員が機能する前に大きな歓声が周りを包み込み始めた。
ウーラー
ウーラー
ウーラー
大勢の市民がコクトによって驚愕の真実を知ることになった。
統一された歓声はやがて雑然とした大きなざわめきに変わって行く。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・
コクトの演説に多くの人々が感動し酔いしれはじめたのだ。
人々の叫びはやがて一つにまとまりコクトの名を叫ぶ
コクト!
コクト!
コクト!
コクト!
コクトの名前が連呼され続ける。
し、しかし・・・・・
バーン、いや、マーメイがこいつを選んだ理由はこれか?・・・・。
世界は新しいタイプの指導者を目の当たりにしてし動揺している。
ミューラはそう感じていた。
第二話「モルタニア」完
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