☆★第45章 アウトサークルの攻防(後編)☆★
ワゲフは空から支援してくれた空軍の報告を受け、ルジウェイアウトサークル南に展開する巨大車両軍団の正体を把握するために、自ら60台からなる戦車のみの部隊を率いていた。
そしてその正体は驚くべきことに巨大ダンプトラックの集団であった。
ワゲフは正体が判ると直ぐにルジウェイ空港近辺に集結している砲兵部隊に榴弾砲での攻撃を指示する。
そして数分後には砲兵部隊がダンプトラックが展開する南西方向に砲弾を打ち込み始めていた。
ワゲフ将軍が率いる戦車部隊を除いたモルタニアの大部隊は空港とルジウェイとを隔てている水路の近くに集結しているむろん砲兵部隊もである。
その戦力は20台の戦車部隊を中心に装甲車両190台、軽装甲車両200台、輸送用トラック200台、自走式高射砲10台そして自走砲10台である。
ところが水路に掛けられていた橋は水没し空港はルジウェイ本体と完全に切り離されていた。
モルタニア軍のトラックからは慌しく渡航用の物資が降ろされていた。
そしてそれらを守るように10台の自走式高射砲は空からの攻撃に備えて砲芯を空に向けていた。
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ
そこへカービンの率いる痛手を負ったヘリ部隊が次々と着陸して来た。
カービンはヘリから降りると補給担当の将校を掴み大声で命令する。
「燃料弾薬の補給を済ませ直にでも出撃できる体制にしておけ」
「イエッサ!」
もし私がコクトなら、この機会を絶対に逃さない、全ての航空戦力を動員してここをたたきにくるはずだ。
カービンはペットボトルの水を飲み干すと、ルジウェイの方を向き目を細めた。
そのころコクトとアミアンの乗った無人戦闘機ボーイはセンターサークル南の幹線道路に沿って滑るように着陸した。
キュッ、キッ、キッ、キィィィィィィーーーーーッ
着陸時のタイヤと路面が接触する音が激く鳴り響く。
シュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル
無人戦闘機は幹線道路の真ん中にピタッと止まりエンジンを停止する。
「ボーイ233、ナイスフォローだった」
『ドウモ』
「クレイ、ボーイの回収を頼む」
『了解、お疲れ様でした』
無人戦闘機ボーイの横に専用のトレーラがピタリと停車すると直にクレーンが伸びボーイを持ち上げ回収する。
操縦席が真っ暗になると「プシュー」と油圧音と共に操縦席ユニットの蓋が開いた。
コクトは操縦席から少しふらつきながら出るとヘルメットを取りアミアンに手を差し伸べる。
「感想は?」
アミアンはまだキョトンそし現実世界に戻っていない、まだ本物の戦闘機に載っていると錯覚したままのようだ。
「あっ、はい、ここは?」
アミアンはヘルメットを被ったままキョロキョロ辺りを見渡す。
そこには道路も森もなく、薄暗く機械の状態を示すLEDが無数に点滅している、地下100メートルにある作戦室だ。
コクトはアミアンを両手で抱きかかえ操縦席より降ろしヘルメットを取ってあげた。
「す、すみません」
コクトはアミアンをコックピットの隣に降ろすとクレイの方を向いた。
「クレイ、近くから確認したかぎりモルタニア軍の戦車には予備のタンクは搭載されていなかった、どうやら燃料はトラックで運んでいるみたいだ」
「そうですね、ボーイからの映像でも確認できました、間違いなさそうです」
クレイも満足そうにうなずく。
「?」
アミアンはそれがどういう意味を持つのか理解できていない、首を横に捻る。
それを見てコクトが頭をポリポリと数回掻いて、しょうがない説明が必要だなと思った。
「アミアン、戦車の燃費がどのくらいか分かるか?」
「え、えーっと」
「重たいし燃費は悪そうだからリッター5〜6キロですか?」
それを聞いてクレイが吹き出しそうになるのを堪えていた、その隣ではセティもアミアンと同じ様に頭の上に疑問符が浮いている。
コクトはクレイに教えてあげてくれよと視線でせがむ。
「は、はい」
「あのぐらい重量級の戦車だと、せいぜい200メートルがいいところですね」
「に、にひゃく!!?」
思わずゲスト区画で聞き耳を立てていたオニールが大きな声を出した。
オニールだけではない、クレイとコクト以外は全員驚いている様だ。
「ふぇー、信じられない」とアミアン。
コクトはクレイに向かって指示を出す。
「今度はこちらから攻撃するぞ」
「全航空戦力をルジウェイ空港に近辺に集結している部隊に向かわせろ」
「目標は敵の輸送部隊だ」
「イエッサ!」
クレイはコクトからその指示が出るのを待ってたように敬礼を返す。
そして無人兵器のオペレータに次々と細かい指示を出して行く。
コクトはアミアンと伴に彼らの邪魔にならない様にオニールとアーリがいるゲスト区画に戻った。
するとクレイの補佐役のセティがインターフォンで報告してきた。
『アウトサークル南に配置しているダンプトラック部隊に対し敵は榴弾砲で攻撃してきました』
『彼らに戦闘開始の指令を出していいですか?』
「風は?」とコクト。
『微風ですが南風です、こちらの想定どおりの状況になってきました』
「よかった、これで有利なった」
「では、検討を祈る」
『了解』
セティはクレイに確認をとるとすぐにヘッドホン付きのマイクを頭に被り目の前のキーボードを操作する。
「ダンプトラック達、長い間お待たせー」
「おもいっきり働いていいわよぉー」
『リョウカイ、サクセンカイシシマス』
「頑張って」
『ラジャ』
セティの命令は地下の作戦室から数十キロ離れたダンプトラック部隊に伝わった。
すると100台の巨大なダンプトラックの巨大なタイヤがゴムのきしむ音を立てながらゆっくりと回転し始める。
モルタニア軍の砲弾が近くで炸裂し無数の金属の破片が巨大なタイヤに突き刺さるが、しばらくするとぽろりととれた。分厚いゴムのタイヤを切り裂くのは容易ではないようだ。
ダンプトラック軍は前進しながら徐々に車間距離を広げ始める。それに伴い砂埃も広範囲に広がり始めた。
その間もモルタニア軍の放つ砲弾がその周りで炸裂する。
ドカーーーン、ドカーーーン、ドカーーーン
連続で打ち込まれた砲弾の一つがダンプトラックに直撃しすざましい爆発音が鳴り響く。
直撃を受けたダンプトラックの荷台の半分と運転席の大半が吹っ飛んだ。
そのダンプトラックは完全に沈黙した。
その隣に一台のダンプトラックが停車すると沈黙したダンプトラックに対して光で信号を送ると。
ゴ、ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・。
すると直撃を受けたダンプトラックが再び動き始めた。
『003号コントロール部分が完全に破壊、033号がコントロールを受け持ちます』
セティに対しマーメイから報告が入った。
「了解!」
セティはそう答えるが納得していない顔をする。
ルジウェイの全てのシステムがマーメイを中心に無駄なく効率的に機能している、す、すごい。
ダンプトラック軍と対峙しているモルタニア戦車軍団の砲主が戦車を走らせながらダンプトラックに照準を合わそうとするが、揺れと砂埃でなかなか照準が定まらない。
ならばと赤外線センサーを使ってコンピュータで照準を合わそうとするが、ダンプトラック自体が電気をメインにして走行する仕組みのため巨体の割には熱源は小さかった。
それに周りの灼熱の砂漠の気温も追い打ちをかける。
「くっそ、これじゃ攻撃どころじゃない」
『将軍!進軍を止め見晴らしのいい場所まで退却を進言します』
先頭を走る戦車の戦車長から無線でワゲフに連絡が入った、ワゲフは鼻息を荒く吐き出すと無線機を手にする。
「ばかめ、もう遅い」
「それよりも接近して確実にしとめる方法が賢明だ」
ワゲフは周波数を全戦車部隊に聞こえる様に切り替えた。
「誇り高きモルタニア戦車軍団の諸君、敵の巨体に惑わされるな」
「接近し慌てず照準を合わせ破壊するのだ」
「これは戦車による白兵戦だ」
『イエッサ』
『ワゲフ将軍万歳!』
モルタニアの60台の戦車軍団はさらに速度を上げ、巨大ダンプトラックが巻き上げる砂埃の中へと突き進んでいった。
両軍が接近するにつれダンプトラック軍団への砲撃は徐々に収まってきた、味方に被害が及ぶことを避けたようだ。
砲撃による被害の全容は砂埃で把握できる状況ではなかった。
セティのモニタでは走行が極端に遅くなったダンプトラックが数十台確認できたが、完全に停止しているダンプトラックは一台もなかった。
あと数分で両軍は交差することになる。
ルジウェイコアサークルの西向けの幹線道路の中央に2台のトレーラーが停車した。
ゴオォォォォォォォォォーーーン。
その上空を2機の無人戦闘機が上空を飛び去って行く、別の幹線道路から発進した2機だ。
グィーーーーン
2台のトレーラーの屋根が開くとトレーラーに装備されているクレーンにより無人戦闘機ボーイが降ろされた。
2機のボーイはエンジンを始動させゆっくりとトレーラーから離れると、離陸体制を整えた。
『ボーイ203、離陸します』
『続いてボーイ204、離陸します』
ドドーーンとエンジン出力を最大限にし2機の無人戦闘機が飛び立った。
その上空からは別の無人戦闘機2機が飛び去って行く様子も伺えた。それらも別の幹線道路から飛び立った無人戦闘機である。
ゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・・・。
無人戦闘機が飛び立った後の幹線道路上空を20機の無人戦闘ヘリが低空飛行でルジウェイ空港方向へ飛び去って行く姿を一台の監視カメラが追っていた。
『非武装のボーイ4機と武装済みボーイ5機の離陸は全て順調に完了』
『20機の無人戦闘ヘリメイサも順調に飛行中』
『ダンプトラック部隊砲撃を受けましたが大破の車両は一台もありません、まもなく交戦します』
地下100メートルの作戦室に各オペレータから次々と状況が報告されて行く。
「クレイ」
『はい、なんでしょうか?』
「分散して配置している歩兵ロボットを全てアウトサークルへ東へ集結させろ」
「決着をつけるぞ」
『えっ!』
クレイが黙り込んだ。
口には出さないがクレイも同じことを考えていた。だがコクトには進言しなかった。
この一戦で全てを決めるなんてそんな冒険じみたことができるかと考えていたからだ。
しかしコクトは平気でそれを言ってのける。
この人は大戦略家か妄想家か、・・・・・。
「他にいい方法が?」
コクトは期待するようにクレイに尋ねる。
『いえ、いよいよかと、・・・』
クレイとコクトの考えていることは同じだった、補給物資の不足はヘタすれば自分達の方が深刻かもしれないのだ。
燃料は当面は大丈夫だが重火器について言えば今回の戦闘で使いきってしまう。
残る武器といったら歩兵ロボットの小銃と小型ロケット弾(RPG)だけだ。
それも一回の戦闘で使いきってしまったらもう補充はできない、ストックが無いのだ。
ルジウェイ警察の持っている銃器もあった、しかし軍隊相手に通用するとは思えない。
小出しに効率よく使い切るしかないと考えていたが、そんなことでいつまで持つか心細い限りだ。
「コクトこの戦闘でもし敗北したらどうするんだ?」
オニールがぼそっとつぶやく。
「すぐに和平交渉の準備をするさ」
コクトはオニールの質問にすぐに答えた。
オニールは自分の質問が愚問だとすぐに気がつく、コクトが無謀な選択をするわけ無いと。
「だな」とオニール。
しかしコクトの平静そうな表情の裏には、コクトしか知らない葛藤があった。
不安と重圧でコクトの心は今にも壊れてもおかしくないとコクト自信はそう思っていた、しかしそれを表に出すことはできない。
無責任なリーダの下で働いていたとき、そんなに大変なら人に振ればいいだろ!と言われたことがあった。
だ、誰に押しつければいいんだ!?、お前が責任者だろと思わず叫びたくなってしまった・・・・・。
ったく、こんな時にくだらない煩悩が頭をよぎるなんて、・・・・・、大丈夫か俺。
コクトは一人で苦笑いをする。
コクトは気がつかないがアミアンとアーリはそのコクトの心の透き間を垣間見た気がした。
「アーリ」
アミアンが心配そうにアーリを見る。
「・・・・・」
「大丈夫、彼なら何とかするわ」
「だって、私たちがついているもの」
「そうだね」
アーリとアミアンの視線がコクトの背中に向けられていた。
その敷地は背の低い石垣の上に土が盛られ芝生が敷き詰められてた。
広大な敷地の中にスペイン瓦の鮮やかな屋根で飾った平屋で質素だが威厳のある建物があった。
モルタニア共和国大統領官邸である。その執務室では、・・・。
「アメリカの動きはどうなっている?」
モルタニア初代大統領モハメドハーン、モルタニアでは少数派に属するアラブ系の大統領である。
「第六艦隊はまだ公海上にいますが特にそれといった動きはありません」
「そうか」
「情報によると、無人偵察機をルジウェイに向けて飛ばしていたらしいのですが、ルジウェイの戦闘機にあっけなく打ち落とされたらしく、かなり衝撃を受けているようです」
「あいつらもルジウェイを甘くみていた様だな」
側近は少し間を置いて大統領に尋ねた。
「ルジウェイとは一体なんです?」
大統領は答えた。
「人類史上最高の性能を誇るコンピュータシステム、マーメイに守られた要塞都市だ」
バーンの言ったとおりだ、マーメイを使いこなせる人物が現れた時、この都市は想像以上の力を発揮する、いずれブラックダイヤの謎も解き明かされるだろう、と。
モハメドは立ち上がり執務室の窓からルジウェイのある東の空を見ていた。
側近は再び大統領に尋ねた。
「閣下はワゲフ将軍の行為を追認するのですか?」
「表だってはそうするしかあるまい、私がワゲフを否定すればこの国は完全に分裂する」
「では、ワゲフからの補給物資の催促をお認めに?」
「・・・・」
「いいや、補給物資は送らない」
「では、・・・・・」
「悪いがワゲフはルジウェイで死んでもらう」
「しかし・・・・」
「自業自得だ、奴はブラックダイヤの力を手に入れれば世界が自分にひれ伏すと思い込んでいるのだ」
「それではご子息が」
ワゲフめ大事な息子をそそのかしよって。
モハメドの拳が強く握りしめられていた。
そのころ世界へ向けてアフリカ大陸をカバーする衛生テレビアイルアウリカーナによってワゲフ将軍の声明が読み上げられていた。
『ルジウェイは速やかに抵抗をやめモルタニア軍の駐留を受け入れるべきだ、我がモルタニア軍は自国の利益のために軍を差し向けたのではない』
『これはルジウェイ内部に蔓延る腐敗体質を一掃し、真の意味でルジウェイが人類の発展の為に運用できる環境を構築するための行動である』
『ルジウェイに広大な領土を提供している我がモルタニアの責務と思っている』
ワゲフの声明はその後、数分間読み上げられた。
ルジウェイの地下100メートルにある作戦室ではノイズが激しいモニタで、その声明を聞いてい。
数人のオペレータが口々にワゲフの悪口を言い放っ。
空港とアウトサークルを隔てている水路ではモルタニア軍が組立式の浮力材を水路に浮かべその上に鉄板を敷きワイヤーで固定する方法で渡航用の桟橋を設置していた。
ワイヤーの一部は既に対岸に固定され橋はほぼ完成しつつあった。
20台の戦車は橋が完成次第すぐに渡れるように桟橋の付近に集結し始めていた。
そして桟橋を守るように高射砲部隊が砲身をルジウェイ上空へ向けていた。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォ・・・・・・・・ン
双眼鏡でルジウェイ上空を監視していた兵士がレーダーでは捉えにくい低空で接近してくる数機の機陰を確認した。
「ルジウェイの戦闘機です」
「真東よりかなり低空から接近してきます」
彼は無線で上官に報告する。
『了解』
彼の上官はすぐに高射砲部隊に指示を出した。
「打ち落とせー!」
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン
高射砲部隊は砲身をぎりぎりまで下に下げ迫ってくる無人戦闘機に対して砲撃を始めた。
そして桟橋の入り口付近では数人の兵士が携帯用の空対空ランチャーを担ぎ、無人戦闘機が射程距離に近づくのをまちかまえていた。
「放てーっ!」
シュー、シュー、シュー、シュー、シュー
ミサイルの発射音が連続して聞こえた。
対空砲火とミサイルにより3機の戦闘機が操縦不能になり地上に激突し爆発する。
しかし残り16機の戦闘機は上空を轟音と共に通過して行く。
ゴオォォォォォォォォォォォォーーーーーーン
「うわーっ!」
轟音と風圧が桟橋を守る将兵等を襲った。
しかしてっきり桟橋を攻撃してくると思い込んでいた彼らは拍子抜けする。 桟橋を守るために多くの対空兵器を集中して配備していたのに無人戦闘機は桟橋に目もくれないで通過して行ったからだ。
疲労でテントの中で横になっていたカービンは爆音が聞こえると飛び起きた。
「攻撃が始まったのか!?」
「ルジウェイの戦闘機です!」
テントの外で見張りについていたカービンの部下が報告してきた。
「きたか」
カービンはテントの外にでると上空では無人戦闘機ボーイが獲物を探して飛び回っていた。
彼らの獲物は燃料輸送用のトラックだ。
タンクローリーを見つけると容赦なく機銃掃射を加え破壊して行く。
機銃掃射を受けたタンクローリーは大爆発をすると周りの車両も誘爆をし黒煙を濛々と上げた。
1機の無人戦闘機ボーイが1台のタンクローリに照準を合わせた。
『モクヒョウホソク』
『ソウシャ』
ダダダダダダ、ダダダダダ
カン、カン、カン、カン、カン
タンクローリーに命中すが爆発はせず命中した穴から水が勢いよく漏れだした。
『ツギノターゲットニムカイマス』
燃料用と飲料水用のタンクローリの違いはボーイには無理な様だった。
地上を攻撃しているのは5機だけで残りは囮として対空砲を寄せ付けているだけか、・・・・。
やつらの台所事情も苦しいとみえる。
カービンがヘリの方を見ると、5機のヘリがまだ地上で待機していた。
ばかめ、なぜ直ぐに飛び立たたないんだ!?これではいい標的だ!
カービンは急いでヘリのところへ走っていく。
残存している5機の戦闘ヘリは離陸の準備を既に整えていた、カービンがくるのを待っている様だった。
しかしクレイもそう甘い男ではない、特殊部隊出身の彼はペーパークラフトの強さを知っていた。
1機の地対空ミサイルを装備した無人戦闘機ボーイがモルタニア軍が誇る5機の戦闘ヘリペーパークラフトに向かって照準を合わせた。
『モクヒョウカクニン』
『チタイクウミサイルハッシャ』
シュー、シュー、シュー、シュー
4発のミサイルが放たれた。
ドドーーーーーン
ドドーーーーーン
ドドーーーーーン
ドドーーーーーン
カービンの目の前で大爆発が起こった。
「っく!」
カービンもその爆風で数メートル後ろへ吹き飛ばされる。
ドドドドドドドドドド・・・・・・・・・・・
無人戦闘ヘリの編隊が轟音と共にモルタニア軍が設置した桟橋に近づいてきた。
先頭のヘリが桟橋の周りに展開する高射砲部隊に対して先にミサイル攻撃を開始した。
シュー、シュー、シュー、シュー、シュー、シュー
広範囲の敵を破壊する数十発のロケット弾が放たれた。
無人戦闘機ボーイに気を取られて対応が少し遅れた高射砲部隊は反撃の機会を失った。
ドドーーーーーーーーーーン
ドドーーーーーーーーーーン
ドドーーーーーーーーーーン
ドドーーーーーーーーーーン
桟橋周辺のモルタニア軍はロケット弾による攻撃でパニック状態だ。
その上空を無人先頭ヘリの編隊が通過して行く。
数台の戦車からは20ミリ機関銃で戦闘ヘリに反撃を試みるが無駄に終わった、戦闘ヘリはそれを無視し飛び去って行った。
彼らのターゲットも桟橋でも戦車でもなかった。
一方ワゲフ率いる戦車軍団は・・・・・。
風は一段と強くなり砂嵐の様相を示してきた、モルタニア戦車軍団の誰もがそう感じていた。
「これじゃ、何も見えない、白兵戦どころじゃないぞ」
砲手がダンプトラックに照準を合わそうとするが、砂埃で何も見えなかった。
赤外線センサーの感度を最大にすると真っ赤な大きな固まりが迫ってくるのがモニアに映し出された。
「し、しまった!」
一瞬外が暗くなる。
ドン!と戦車に衝撃が走った。
「うわっ」
メリメリメリ・・・・・。
戦車の上に巨大なダンプトラックのタイヤが乗り上がった。
ダンプトラックは小高い砂丘を登り、降る勢いで砂丘の下を通過しようとしていた戦車に乗りかかった。
メリメリメリ・・・・バギッ、バギッ、バギッ。
砲塔がゆっくりと押しつぶされていく。
「戦車長!危険です、こちらに降りてください」
「う、うむ」
「し、沈んでいます、砂の中に沈んでいきます。」
ズズズズズズズズズ・・・・・・・。
「くっそ!」
戦車長は無線器を口元に近づけた。
「メーデー」
「メーデー」
「こちら34号車、敵のダンプトラックに押しつぶされ身動きができない」
「救助を求む!」
「戦車長!」
「どうした?」
操縦士が指さした方向には戦車砲の砲弾がぎっしりと並べられていた。
そこへ上から押しつけられてはみ出してきた砲塔の一部の鉄板が今にも突き刺さろうとしていたのだ。
ダンプトラックの前のタイヤが戦車から降りると今度は後ろのタイヤが乗りかかった。
ゴットン
一段と戦車が砂の中に押しつけられた。
「もう、だめだ」
戦車長がつぶやくと同時に閃光が走った。
ピカーーーーーーーッ!
ドッカーーーーーーン!
ダンプトラックに押しつぶされた戦車は大爆発を興し粉々に吹っ飛んだ。
その戦車を踏みつぶしたダンプトラックの巨大な車輪も吹き飛ぶが、残った3つの巨大な車輪で次のターゲットに向かって巨体をゆらしながら向かって行った。
ワゲフの見ている照準器のモニタにゆらめく巨大な赤い物体が迫ってくる、その距離約50メートル。
「まったく、機械相手に戦う羽目になるとは・・」
カチッ
ドドーン
戦車全体に砲弾発射による衝撃が伝わる。
「うっ」
戦車の角でモンヘとパイロットが身を屈める。
ドッカーーーーーン
爆発音が帰ってきた、砲弾は命中した様だ。
「右へハンドルを切れ!急げ」
ワゲフが叫んだ!
「イエッサ!」
操縦士は慌ててワゲフの言うとおりにハンドルを切った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・。
戦車の上を巨大なダンプトラックが通り過ぎていく音が聞こえてきた。
「局長、命中したはずでは?」
モンヘと共に捕らえられワゲフの戦車の角で震えていたヘリのパイロットがつぶやいた。
「わ、わからん」
モンヘはそう言うと戦車砲の照準器に顔を埋めているワゲフを見上げた。
ワゲフは次なる獲物を探すように戦車の砲塔を左右に動かしながら思案していた。
ど真ん中に命中させてもだめか・・・、コントロール部分を破壊しても別の車両が肩代わりで操縦するし、動力源 は巨大な4つのタイヤに直接独立した形でモータとバッテリー取り付けられている。
完全にモジュール化された作りだ。
と、なるとこいつを止めるにはタイヤのホイル部分に直接砲弾をぶち込み、最低でもふたつのタイヤモジュールを吹っ飛ばさないととだめか、・・・・。
ワゲフは無線機を取ると全軍に伝わる周波数に切り替えた。
「誇り高きモルタニア戦車軍団の諸君ワゲフだ、奴らの弱点はタイヤホイルだ!そこえ砲弾をぶち込め、そうすれば奴らは沈黙する」
「同士討ちを避けるためにライトを照らせ!そしてライトの点いている車両は砲撃するな!」
『ラジャ』
『ワゲフ将軍万歳!』
無線機からは多くの返信が帰ってきた、しかしワゲフの命令は理にかなっているが、そうすぐ実践できるようなことではなかった。
モルタニアの戦車はまずダンプトラックの横に移動し砲塔を横に向けダンプトラックのタイヤホイルを打ち抜かなければななないのだ。
向かい合って交差する状態でどうすればそう言うことができるのだろうか?神業的な戦車の操縦技術が要求される命令である。
ルジウェイコアサークルの地下100メートルの作戦室では・・・・・・。
セティのモニタには次々とダンプトラックに踏みつぶされ、行動不能になるモルタニアの戦車が映し出されていた。
中には踏みつぶされた衝撃で誘爆を興し大破する戦車もあった。
全てのダンプトラックに取り付けられているカメラと各種センサーから詳細な情報が次々と送られてきていたのだ。
セティも含め殆どのオペレータ達も予想以上の戦果に高揚するが、・・・・。
セティの表情が少し冷静になってくるとコクトの方を振り向いた。
『コクトさん、予想以上の戦果です、しかしこのままでは、・・・・・』
セティがインターフォンでコクトに指示を求めてきた。
「何を言っている!これは戦争だぞ」
クレイがすぐにセティに言い放った。
「わ、分かってるわよ、私だって、・・・」
『二人ともやめろ!』
『今はそれどころじゃない、自分の仕事に集中するんだ』
「イ、イエッサ!」
クレイはすぐに気持ちを切り替える様に無人ヘリと無人戦闘機ボーイのオペレータ達へ指示し始める。
「は、はい」
セティも渋々と返事を返す。
『ザー、ザー』
『セティ、一旦攻撃をやめモルタニア戦車軍団を包囲し降伏を促してみよう』
コクトはセティのイヤホンに直接話しかけてきた。
「えっ?」
『無傷の戦車を手に入れたいんだ』
「わ、わかりました」
『がんばってくれ』
セティはコクトも自分と同じ気持ちなんだと分かると少し気持ちが楽になった。
クレイもなんとなくそれを察しコクトの方を振り向く、するとコクトは軽く敬礼を返した。
まったく、あなたって人は、・・・・。
クレイもセティに気づかれないように敬礼を返した。
コクトはゲスト区画にいるオニール、アーリ、アミアンを確認する様に見ると、わざとらしくせき込んだ。
「な、なんだよ?」
「頼みごとがあるなら早く言ってくれ」
オニールは腕を組み何でも言ってくれとコクトの言葉を待ちかまえる。
アーリとアミアンは目を合わせると苦笑いした。
「ア、アーリ」
コクトは最初にアーリの名を呼んだ。
「は、はい」
アーリは最初はオニールに声が掛かると思っていたため驚く。
「病院、消防、警察、他に利用できそうな連中をかき集め、モルタニア軍兵士の受け入れ体制を作ってくれ、見てのとおり負傷している兵士も大勢いる、大変な作業だが責任者としてやってもらいたい」
「え、えぇ、でも、・・・・」
アーリは言葉が出ない。
あれ?、自分はベトラにこちらの状況を知らせるためにきたんじゃ、・・・・。
アーリは頭の中でコクトの言葉を自分なりに整理する、この状況でどうやるんですか?とコクトに聞いても無駄だと思った、いや誰に聞いても答えてくれる人はでこにもいない、・・・・・・。
しょうがないか、ここ最近はやったことのない仕事ばっかりだし、誰かがやらなくっちゃ。
アーリは冷静な表情に戻りコクトを見つめた。
「わかりました、直ぐに準備します」
「うむ、たのむ」
コクトの反応は事務的だ。
アミアンがポカーンとアーリを見上げていた。
「オニール」
「お、おう」
オニールはコクトの言葉に身構えた。
「アーリの支援と、・・・」
「支援と?」
オニールはコクトの言葉を反芻する。
「モルタニア戦車軍団への降伏勧告と武装解除をたのむ」
「武装解除?」
オニールはコクトの言葉を再び反芻する。
「武装したモルタニア軍兵士をルジウェイに入れる分けには行かないだろ」
「たしかに!」
「俺にピッタリの仕事だ!任せろ」
相変わらず深く考えないオニールだった、この辺はコクトとオニールの性格は似ている。とアミアンは思った。
「そしてアミアン」
「は、はい」
アミアンは緊張し生唾を呑み込む。
「これから確保する予定の、モルタニア軍の戦車の操縦方法を調べあげ、ロボットに教え込んでくれ」
「確保する予定って?」
コクトは作戦室前面にある巨大パネルを指さす。
パネルにはセティのコントロールするダンプトラック群が、徐々にモルタニアの戦車軍団を取り囲もうと円を描く様に走行していた。
「モルタニア戦車軍団が降伏すれば、10台以上の戦車が手には入る、これを利用しない手はないだろ」
「・・・・・」
「よ、欲張り、・・・・」
アミアンはぼそっとつぶやいてしまった。
「再利用と言ってくれよ」
コクトは困った様に人差し指で頭をポリポリと掻いた。
ルジウエィの無人戦闘機ボーイは殆どの弾薬を使い果たしていた。
その役割は攻撃から無人戦闘ヘリメイサの攻撃目標の探索と援護に切り替わっていた。
1機のボーイが荷台に大きな幌を被った大型トラック数台を捕らえる。
ボーイのカメラはトラックのタイヤにポイントを合わせその沈み具合を確認する。
ボーイは無線ではなく翼の端の警告灯を点滅させ、メイサに情報を送った。
ゴォーーーーーーン
トラックの上空をボーイが飛び去る。
その様子をモルタニアの若い兵士が見ていた。
「なんだ、攻撃しないのか?」
「ばか!はやくトラックから離れるんだ!」
「えっ!?」
ダダダダ、ダダダダ、ダダダダ、ダダダダ
ドッカーーーーン!
ドドーーン
ドドーーン
大型のトラックを大爆発を起こし周りの車両もその爆発に巻き込まれ誘爆を起す。
燃料ではなく弾薬が積まれているトラックだった。
バタバタバタバタバタバタバタバタバタ・・・・・
巨大なキノコ雲の中から3機の無人ヘリメイサが現れた。
ボーイが提供してくれたターゲットの情報を確実に捕らえ破壊したのだった。
「クレイ、これで最後の弾薬も使い切った、後は特攻ぐらいしか残されていないぞ、どうする?」
「ついでに言うと、燃料も無い」
メイサのオペレータとボーイのオペレータから報告が上がってきた。
「よし」
「全機引き上げだ」
「了解!」
クレイはコクトの性格からして特攻はないと判断した。コクトもゲスト区画から何も言ってこなかった。
「歩兵ロボットの集結状況は?」
クレイが歩兵ロボットのオペレータに訪ねる。
「現在110体が集結しています、後95体が移動中です」
「戦闘可能な歩兵ロボットは205体です」
歩兵ロボットのオペレータが答えた。
1000体あった歩兵ロボットの半数以上がやられたのか、・・・・・。
こいつらが持っている弾薬とRPGを使い果たしたらジ・エンドか、・・・・・。
クレイは頭の中でモルタニアの残存戦力と自分らの戦力差を計算していた。
渡航されたら終わりだな・・・・。
そ、そうだ、セティは?
クレイは一人でダンプトラックに指示を出しているセティの方を振り向く。
セティはモニタに集中しクレイには気がつかない、クレイは作戦室前面にあるメインパネルに目をやった。
メインパネルに映し出されている作戦図の南西方向の戦力の配置図を見るとモルタニア戦車軍団は60台のダンプトラックによって包囲されていた。
しかしその周りでは40台のダンプトラックが黒い記号で表示され停止している。モルタニア軍の戦車砲によって沈黙させられた様だ。
ただしモルタニア軍の戦車部隊は壊滅状態だった。
無傷な車両はたった16台、残りは押し潰され爆発を起こして無惨な残骸をさらしているか、車体の半分以上が砂に埋まり身動きできない状態になっているかのいずれかだった。
ダンプトラックの動きが止まってしばらくすると砂埃も収まり、視界が開けてきた。
砂に埋もれた戦車から辛うじて脱出した戦車兵らがひとり、もうひとりと無傷な16台の戦車の周りにあつまってくる、彼らにはもう戦う気力はなかった。
視界の効かない砂埃の中で目前に迫ってくるダンプトラックの恐怖をまだ引きずっていた。
ワゲフは戦車から降りると彼らを16台の戦車で作った円陣の中に迎え入れた。
「将軍すみません、思うように奴らを撃破することはできませんでした」
足を負傷し肩を担がれている一人の戦車兵がワゲフに謝る。
「うむ、少し休んで次の攻撃に備えろ」
「イ、イエッサ」
肩を貸していた兵士が「この状況でまだ戦う気かよ」とつぶやくと「黙れ、将軍に失礼だぞ」と負傷した兵士が小さな声で怒った。
ワゲフが搭乗している戦車の戦車長がワゲフの隣にくるとワゲフに訪ねた。
「将軍やつらは我々を取り囲むように停車していますが、何を待っているんでしょう?」
ワゲフは無言で双眼鏡で取り囲んでいるダンプトラックを一通り確認すると双眼鏡を降ろした。
「わからん」とワゲフは首を横に振る。
「ひでぇもんだ、全滅じゃないか」
戦車の砲塔のハッチから顔を出したモンヘが破壊された戦車の残骸を見てあきれるように大きな声でそう言うと、周りの兵士達がモンヘを睨みつけた。
「き、局長、声が大きすぎます」
慌ててモンヘと共にモルタニア軍に投降したヘリのパイロットがモンヘを諭す。
「ん、んんーっ」
モンヘもすぐに周りの雰囲気に気づき少しせき込んだ 。
ワゲフは鼻で一瞥すると少し遠くに人影が近づいてくるのに気づいた。
「し、将軍!」
「お、女です」
戦車長が驚いてふるえる指で近づいてくる女を指さした。
「わかっておる!」
ワゲフは女を確認するとニヤリと不気味な笑いをした。
モンヘもハッチから砲塔の上に立つと女の方を細目で確認する。
ヘリのパイロットが別のハッチから外に顔を出したところで、モンヘの口が開いたままブルブルふるえだした。
「どうしました局長?」
モンヘの口がゆっくりと動いた。
「ル、ルナ・・・・・」
砂漠の真ん中から紺のビジネススーツを着こなしたモデル顔負けなスタイルのいい女性がこちらへ向かって歩いてくる、ハイヒールでうまく歩けないはずなのだが、・・・・。
「将軍久しぶりです」
「かなりやられましたね」
ルナはワゲフの前で立ち止まると爽やかな笑顔で声を掛けた。
「お、お前か」
「何しにきた?」
ワゲフは無表情で答えると、腰のピストルを抜き安全ロックを解除しルナに向けた。
「し、将軍・・・・?」
戦車長がルナとワゲフを交互に見てオロオロする。
「何しにきたって、判ってるでしょ」
ルナはワゲフの後ろで戦車の砲塔から顔を出しているモンヘに視線を向けた。
「おべっかさんはワゲフにも取り入ったの?」
「うわつ!」
ドッスン!
モンヘは足を踏み外し戦車の下に落ちた。
な、なんでルナがここにいるんだ?・・・。
ルナは再びワゲフに視線を向けた。
「将軍、そろそろ戻りましょうか?」
ワゲフは無表情な顔で引き金を数回引いた。
パン!
パン!
パン!
弾丸は全てルナに命中するが、ルナの体を通り抜けていく。
「くっそ!」
パン!
パン!
パン!
カチャ、カチャ
ワゲフは弾丸を打ち尽くすと銃をルナに投げつけた、ルナは軽くそれをよけるとワゲフに近づく。
ワゲフの顔はゆがみ、ルナからできるだけ離れようと必死に逃げた。
「く、くるなー!」
ワゲフは16台の戦車で作った円陣の中に逃げ込む、そこには多くの負傷した兵士がいたが、ワゲフはおかまいなく彼らを押し退けルナから必死で逃げる。
「どけ!どくんだ!」
モンヘをはじめ多くの兵士がワゲフ将軍が気が狂ったように逃げ迷う姿を見て呆気に取られていた。
後ろから追ってくるルナの姿が光りだした、そして火の玉になり宙に上がると猛スピードでワゲフの体を貫いた。
「ぎゃーーーーーーーー!」
断末魔の叫び声が聞こえ、体は地面に叩きつけられた。
数分の沈黙後、大勢の兵士が倒れたワゲフの周りに恐る恐る集まってきた。
不思議なことにワゲフの体には傷一つなかった、そしてルナの姿もそこには無かった。
バタバタバタバタバタバタ・・・・・・・・。
空から1機のヘリが近づいてくる、ヘリは白くペイントされ赤の十字マークがよく目立っていた。
ヘリの横にはルジウェイの文字と救急の文字。
ヘリに向かって銃を向ける兵士は一人もいなかった、へたに攻撃すれば周りを取り囲んでいるダンプトラックに踏み潰されると思っているからだ。
ヘリは様子を伺いながら近づく、モルタニアの兵士が攻撃する様子を見せないことを確認するとさらに近づく。
『責任者と話がしたい』
『繰り返す、責任者と話がしたい』
ヘリは拡声器を使ってモルタニア語で呼びかけてきた。
「ロボットの化け物ではなさそうだ」
戦車長がつぶやく
ワゲフが搭乗していた年輩の戦車長は、周りを見渡すと自分より階級が上の将校を何人か確認するが、誰一人率先して前に出ようとしないことにいらつく。
まったく!
戦車長は円陣から数メートル離れた目立つ場所に進み出ると帽子を脱ぎ、ヘリに向かって大きく帽子を振った。
すると若い将校らが戦車長の周りに集まり始めた。ワゲフに代わる新しい指導者として決めた様だった。
「長官、彼らは降伏を受け入れる様です」
救急ヘリのパイロットがヘッドホンとマイクが一体になった機内専用の通信機器で後部座席に座っているオニールに話掛けてきた。
オニールはヘリの側面の窓から外の様子を伺っていたが窓から離れると拡声器のスイッチを切り、座席に落ち着いた。
「よし、着陸してくれ」
「了解!」
ふぅー、攻撃されるとは思わないがさすがに緊張した、コクトの言うように無人ヘリで呼びかければよかった。
ヘリは円陣より少し離れた場所に着陸した。
ヘリから降りたのはオニール一人だった。
そしてオニールを迎えたのは年輩の戦車長と数人の将校だった。
『ルジウエィ警察のオニールだ、責任者はだれだ?』
「こ、この部隊の責任者は負傷している、私が代理だ」
体格のいい年輩の戦車長が一歩前に出た。
『これ以上の戦闘は誰がみても不要だ、直ぐに降伏し、我々の支援を受け入れてくれ』
オニールの声はモルタニア語でポケットの小さなスピーカから聞こえていた。
もちろんオニールはモルタニア語は話せない、マーメイの同時通訳を利用して話していた。
そのため余分な言葉はなく単刀直入な会話になってしまう。
戦車長は周りの将校の顔色を伺う、誰もこれ以上の戦闘を望んでいないのが直ぐにわかった。
「わ、わかった、降伏する」
オニールはほっとする、そしてがっしりとした体格のモルタニアの戦車長と握手を交わす。
『では直ぐに負傷者の搬送準備にとり取りかかってくれ、重傷な者から救急ヘリで搬送する、それから諸君等の武器弾薬を全て没収する』
『まだ車内に閉じこめられたまま助けを待っている連中もいるはずだ、直ぐに応援の人員と重機を手配するが』
『動ける者は武装解除後、我々の指示に従い救助作業にあたる様に』
翻訳器から聞こえるオニールの口調は機械的で威圧的だが、モルタニアの将校らには分かりやすく確実に伝わった。
「ルジウェイの配慮に感謝します」
戦車長はオニールに敬意を示す様に敬礼した。
オニールは救急ヘリの方を向き合図を送ると、ヘリから担架と救急箱を持参した看護師が降り負傷した兵士のところに向かって行って走って行く。
そしてオニールは翻訳器のマイクのスイッチを切ると、無線機を取り出し口元に近づけた。
「セティ聞こえるか?オニールだ」
『ザーザー、はい良く聞こえます長官』
「彼らは降伏した、こちらは俺らに任せろ、空港の方もよろしくたのんだぞ」
『了解!』
「アーリ、聞いてるか?」
「大勢の負傷兵を送り込むぞ、準備はいいかー!?」
『カチャ、カチャ』
『準備は順調よ、早くよこしてちょうだい』
多くのルジウェイ市民が協力してくれている様子が伺えた、オニールは満足そうに無線に向かって叫んだ。
「わかったー!」
『カチャ、ザー、ザー』
バタバタバタバタバタバタバタバタ・・・・
オニールが無線を切ると同時にルジウェイ警察のロゴの付いたヘリ2機が上空を旋回後、救急ヘリの隣に砂埃をあげ着陸する。
ヘリのドアが横にスライドするように開くと大勢の武装警察官が飛び降り駆け足でオニールとモルタニアの将校の周りに集まった。
「長官、ご無事で!?」
「ああ、問題ない」
「直ぐに作業に当たってくれ」
「了解!」
武装警察官の隊長は敬礼すると、16台の戦車で作った円陣の中にいる大勢のモルタニア軍兵士に向かって拡声器を向けた。
『これより諸君等の武装解除を行う、一列に並び検閲を受けるように、所持している銃器はその時に引き渡すこと』
『負傷して動けない者こちらから出向く、その場を動かないように』
人数から言えば圧倒的にモルタニア兵士の数が多い、どの警察官も緊張していた、銃を強く握り震えている者も何人かいた。
オニールと一緒の救急ヘリから降りていた救急隊員が担架に一目で将軍クラスだとわかる人物を乗せオニールと将校らの前で立ち止まった。
「長官、モルタニアの兵士連中がこの人物を早く助けてくれと、せがむものですから先に搬送しようと思います」
オニールは戦車長の方を向いた。
「彼は機甲師団の最高責任者ワゲフ将軍です、できれば将軍を早く助けてやってください」
オニールは無言でうなずく。
「わかった、早く搬送してくれ」
「了解!」
救急隊員らはヘリに向かって走って行った。
バタバタバタバタバタバタバタバタ
ドドドドドドドドド・・・・・・・
救急ヘリが離陸すると、入れ替わるように大型のヘリが着陸してくる。
ヘリの横にはルジゥエイ消防のロゴがはっきりと見えた。
まるでルジウェイにある全てのヘリが動員されている様に入れ替わり立ち替わり着陸するヘリと離陸するヘリが交差し逢っている。
消防の大型ヘリから降りてきたのは48体のロボットだった、ただし武装はしていない全員手ぶらだ。
子供の背丈ぐらいのロボットは、お世辞にも威厳らしきのは感じられない、ちゃきちゃきとがに股で歩き、どうにかオニールの後ろに整列した。
しかしモルタニアの将校等にとっては不気味に映っていた様だ、誰一人瞬きをする者はいなかった。
オニールは戦車長に目を合わせ、それから後ろに整列しているロボットを横目で確認した。
『んんーっ』
『戦車は彼らが操縦する、もし車内に誰か残っているようなら出してくれ』
「わ、わかった、しかし、・・・・」
戦車長はこれ以上言葉がでなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・。
モルタニア戦車軍団を囲んでいた60台ダンプトラックが包囲を解除しルジウェイ西の空港方面へ向け移動し始めた。
ロボットの操縦する16台の戦車もその後につづいた。
最初は急発信、急停車したり、砂山に突っ込んだりと到底操縦できるとは思えなかったが、徐々に動きがスムーズになり、ついさっきまでの操縦が嘘の様に隊列を組んで、いつの間にダンプトラック軍の先頭を走っていた。
「空港の連中は大丈夫か?」
一人の将校が誰にと特定せずにつぶやく。
「・・・・、むりだろう」
「あんな分厚い鉄板に覆われたダンプトラックを阻止することは無理だ」
年輩の戦車長がそれに答えた。
「じゃどうすれば、・・・・」
「わからん」
「とりあえず、我々が降伏したことを伝えなくては」
「そうだな」
没収したモルタニアの戦車には3体のロボットがそれぞれ戦車長、操縦手、砲手として乗り込んでいた。
どのロボットも今まで農業用、工業用、清掃用と戦闘とは無縁の仕事をこなしてきた連中だが、急遽アミアンによってプログラムが入れ替えられ、ロボット戦車兵として送り込まれたロボット達であった。
次回「終戦」へ続く。
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