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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第44回   ☆★アウトサークルの攻防(前編)☆★
☆★第44章 アウトサークルの攻防(前編)☆★

 『ジャン・フィデル・コクトが参りました』

 地下100メートルにある作戦室全体にマーメイからのアナウンスが鳴り響く。

 するとゲスト区画に入る分厚いドアが開きコクト、オニール、アーリ、アミアンの4人が入ってきた。

 作戦室全体の照明は暗く落とされていたため4人の姿は後のフロアの明かりで輪郭だけが映し出され神々しく見えた。

 「コクトさん」

 「ボス、・・・」

 責任者のクレイとその補佐役セティが立ち上りゲスト区画の方を振り向く、コクトは二人に「ご苦労さん」と一言声を掛けた。

 「紹介する、こちらの二人はアーリとアミアン、アーリは広報としてこちらの状況を世界に発信するために常駐してもらう、アミアンは僕に技術的なアドバイスをしてもらうためにきてもらった」

 「アーリ、アミアン、彼がこのチームの責任者クレイ、そして補佐役のセティだ」

 「よろしくね」「よろしく」

 アーリは愛想良く笑顔で、アミアンはクレイとセティに手を振る。

 「それからオニールを治安局長官としてルジウェイの治安を預かる責任者として働いてもらうことにした」

 「よろしくお願いします長官」

 クレイはオニールに敬意を示す。

 しかしクレイの顔色がよくない、それにセティもいつものたくましさが見えなかった。

 「すみません、通信塔を全て破壊されルジウェイの防空システムは壊滅しました、一つ間違えば議会棟も破壊されコクトさんらの生命まで危うくなるところでした、こうなったのは全て自分の判断ミスです」

 クレイはコクトより責められても仕方が無いと思っていた。

 「いえ」

 「ギリギリまで敵戦闘機を引き付けてから迎え撃つ様に進言したのは私です」

 「クレイを責めないでください、責めるなら私を」

 セティも自分も同罪だと思っている様だった。

 コクトは大きく溜息を漏らし、クレイとセティに向かってゆっくりとした口調で話し始める。

 「状況は把握している、40発の巡航ミサイルから無傷でいられる都市なんてどこにも無いよ」

 「誰が君らを責めることが出来ると思っているんだ、そんな奴がいたらお前がやってみろと言ってやるさ」

 コクトは作戦室にいる全員へ聞こえる様に語った。

 「たしかにこちらの監視能力もレベルダウンしたが、敵の航空戦力も大きな損害を受けている、もはや空から攻撃はヘリだけだ」

 「まだこれからだ、・・・・・」

 「落ち込んでいるヒマは無いぞ」

 クレイとセティの目頭が少し赤くなっていた。

 「イエッサ!」

 クレイはいつものきりっとした敬礼をコクトに返してきた、今度はセティも一緒だった。

 「オニール、ルジウェイの防衛を担ういい人材が二人も確保できた、よかったな」

 「た、確かに」

 「で、俺は机に座って偉そうにしてばいいのか?」

 「ははは、それは無理だろう」

 「お前のことだ、何かあったら現場に行きたがってうずうずするんじゃないか」

 「・・・たぶん、そうなる」とオニール。

 オニールは自分が机にふんぞり返って偉そうにしている姿が想像できなかった、常に現場で体を張っている方が自分に似合っていると思っている、しかしコクトに最低でもこの騒ぎが収まるまでは治安局長官として自分をバックアップして欲しいと頼まれ、不本意ではあるがそれらしく振舞っているのだ。

 コクトはコクトで頼りにしていたジョブズに裏切られた今、オニール以外に治安局幹部職員を責任者にすることは考えられなかった、そのためオニールに局長級のマーメイの使用権を与えていた。

 でも自分にそんな権限があるのかと自問自答はするが、ルジウェイの殆どの幹部クラスは自分らの告発で更迭してしまった、いまさら彼らに頼ることはできない。

 部下に指示を出すたびに何度も心に引っ掛かる物があったが、次々と決断を迫られる場面を逃げずに処理して行ったら、いつの間にかルジウェイの全権を握っている自分に気がつき戸惑っていると言うのが正直なところだ。

 かって自分が下っ端だった時、中途半端な指示を出し、いざ決断し実行しなければならない時に、責任を取りたくないがため意図的に曖昧にした上、問題になった時は自分ら下っ端のせいにする、そんな上の連中を多く見てきたせいもある。

 自分が上の立場になったらこいつらと逆のことをしてやる、と常日頃から思っていたこのひねくれた性格が災いしてこの様な立場に自分からなってしまったのか。

 ルナ・・・・、自分が不安そうになった時、隣にいて冷たく冷静に励ましてくれた、・・・・、いやいや、良く考えたら煽ってくれたと言った方がいいな、ははは、・・・でも彼女が隣にいてくれたらこんな気持ちにはならなかっただろうな。

 多分、フレアとの出会いそしてマーメイからのメッセージ、ルナの出現、これは僕の宿命かもしれない。たぶんそのために僕はルジウェイにきたんだろう。

 っく、まったく今はそんな妄想に浸っている時じゃないだろう、コクト!。

 コクトは頭に溜まった邪念を振り払う様に首を強く振った。

 「クレイ、戦闘機を1機借りるぞ」

 「は、はぁ?」

 クレイが首をかしげる。

 「直接この目で確認したいことがあるんだ」

 「コクトお前、操縦できるのか?、って言うよりどこにあるんだよ、その戦闘機って」

 「仮想コックピットだよ、オニールお前だって昔10回ぐらい死んだことがあるだろ」

 「・・・・」

 「あっ、あれか、正確には11回と半分だ」

 「半分って?」

 アミアンがオニールの隣で首をかしげる。

 「アミアン、あまり追求しないでくれよ」

 オニールはこれ以上この話をするのを嫌がっていた。

 「仮想とは言っても実機と直接リンクしているから、墜落しても死なないだけで、本物の戦闘機に乗っている様な物さ、モルタニア軍の展開状況を直接この目で見てくる」

 コクトはゲスト区画から飛び降りると颯爽とコックピットに向かう。

 ところがコクトは数歩歩いたとこるで立ち止まった。

 そして物欲しそうにこちらを見ているアミアンに声を掛けた。

 「アミアン、一緒にくるか?」

 「はい!行きます」

 アミアンは即答すると直にゲスト区画の仕切りを飛び越えてコクトのところへ走っていく。

 その後ろでオニールが片手で目を抑えているが指の間からしっかりとアミアンを見ていた。

 パンツ丸見えだったぞ、・・・・。

 「スケベ」

 アーリがオニールの横っ腹を小突く。

 「どこです、その仮想コックピットって」

 「ほら、こいつだよ」

 コクトはゲスト区画左に奥に設置されている20機分のユニットを指差す、そこには大人一人が横になれそうなぐらいの長方形のユニットがずらりと並んでいた。

 「コックピットを空けてくれ」

 コクトは後ろを振り向き近くにいるオペレータに指示をだすと、オペレータは慌てて操作パネルをさがし始めていた。

 「あ、あった、これだ」

 オペレータがパネルを操作すると、プッシューと空気圧が漏れる音がし、ユニットの蓋が上に持ち上がると本物のコックピットが現れた。

 蓋の大半がスクリーンパネルで覆われている、そこに映像が映し出されるのだろうと想像は容易についた。

 「コクトさん、現時点で直に発進可能な機は10機、但し武装可能な機は5機しかありません、準備には10分ぐらいはかかりそうです、どうします?」

 クレイが尋ねてきた。

 「武装無しでいい、偵察するだけだ」

 「イエッサ!」

 コクトはアミアンの方を向くと

 「さぁ後ろの席に乗って、僕は前に乗るから」

 「は、はい」

 アミアンは身軽にひょぃと後部座席、ナビゲータ要員の席にオープンカーにでも乗るように飛び乗る、コクトはオペレータから二人分のヘルメットを受け取ると、一つを物珍しそうにコックピットを眺めているアミアンに被せる。

 「むぎゅ・・・・」

 急にヘルメットを被せられたアミアンは苦虫を噛み潰した様な声を出した。

 「クレイ、僕が連絡するまで他の戦闘機と戦闘ヘリは温存して置いてくれ」

 「イエッサ!」

 「オニール、後を頼んだぞ」

 「お、おう」

 って言われても、俺は何をすればいいんだ?

 「アーリ後は頼んだぞ!!」

 アミアンがコクトの口調でアーリに向かって手を振った。

 「あいよ」

 アーリは引きつった笑顔で手を振って答えてくれた。

 コクトがコックピットに乗り込むとヘルメットのベルトを固定する、同時にゆっくりと上部に上がっていたユニットの蓋がシューっと油圧音を出しながら下がり「ガッシャン」と音を立てて閉じた。

 一瞬コックピット内が暗くなるが直に外の景色がスクリーンに映し出された、まるで森の中にポツンと戦闘機が置かれているようだがまったく違和感はなかった、本当にここが地下100メートルにある操縦席の中とは思えないぐらいリアルな映像がコクトとアミアンの周りに広がっていた。

 「本物みたい、・・・」

 アミアンがつぶやく。

 「本物さ」とコクト。

 「このヘルメットって必要なの?」

 アミアンは「コンコン」数回自分のヘルメットを叩く。

 「ははは、そのうち判るよ」

 コクトとアミアンの周りに映し出されている景色がゆっくりと動き始める、それと同時に振動も座席から伝わってくる。

 アミアンは驚いて狭いコックピットのスペースから身を乗り出すように周りをキョロキョロ見渡す。

 「凄いリアル」

 「あれ、でもこの戦闘機は何かに乗っているの?、自力で動いていないよ」

 「ああ、今はトレーラの上に乗っているのさ、この木々を抜けたら幹線道路にでるはずだ、出たら道路を滑走路代わりに飛び立つぞ」

 「ふぇー、森の中に隠して置いてあったんだ、賢い」

 アミアンは関心した口調でつぶやく。

 トレーラが木々の間を抜け幹線道路に出ると視界が明るくなった、そしてトレーラに装備されているクレーンがゆっくりと機体を持ち上げると、真っ直ぐに伸びた幹線道路の真ん中に機体を下ろした。

 むろん道路には車は一台も走っていない、あるのは専用のトレーラと無人戦闘機だけだた。

 「戦闘機君、君の識別番号は?」

 『ボーイ233ゴウキデス』

 「では、233号エンジン始動」

 『リョウカイ』

 コクトの言葉でコックピットの周りの計器類が激しく点滅し言葉に反応して動き始めた。

 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。

 エンジン音が段々大きくなり機体がブルブル震え始める、まるで飛び立とうとしているのを誰かに押さえつけられている様である。

 『ゼンシステム、イジョウナシ』

 「では、速やかに離陸」

 『リョウカイ』

 「最初はコクトさんが戦闘機の操縦ができると思って驚いたけれど、無人戦闘機自体がロボットなんだ、それだったら私でも操縦できそう」

 「!」

 「あっ、すみません、・・・」

 「まったく一応傷つたけどそのとおり、こいつに全て任せれば誰でも飛ぶことができるよ」

 コクトは自慢そうに操縦桿を叩いた。

 「は、はい」

 『ハッシン!』

 ゴーーーーーーーーーーーーン

 「うわっ」「キャッ」

 全長4メートル横幅3メートル1機のジェットエンジンとコンパクトなボディの無人戦闘機、通称ボーイは幹線道路をわずか50メートルの滑走で離陸し空に舞い上がった。

 コクトとアミアンはまるで本当にコックピットに座っているかのような重力を体に受け座席にへばりつく。

 「本当に仮想ですかぁ?、何で体が重力を感じるの!?」

 「ははは、気のせいだよ」

 「うっ、でも少しきついな」

 コクトらを乗せた無人戦闘機ボーイは高度1000メートルまで上がると、エンジン出力を弱め機首を垂直に安定させた。

 「ボーイ、メインディスプレイにモルタニア軍の展開状況を表示してくれ」

 『リョウカイ』

 コクトの目の前にある15インチのディスプレイにモルタニア軍の車両の位置がぽつ、ぽつ、と鈍い速度で表示される、明らかにルジウェイ全体の情報収集能力が落ちているのが実感できた。

 「情報が取得し難いのか?」

 『ハイ、カソウコックピット、トノ、リンクニ、ツウシンタイイキヲ、カナリショウヒシテイマスノデ、ホカノツウシンニ、エイキョウガデテイマス』

 「なるほど、・・・・、しかたないか」

 シン早く通信塔を普及してくれよ、思っていたより影響が大きいぞ、・・・・。

 『ドコヘムカイマスカ?』

 「ルジウェイ空港に展開しているモルタニア軍の上空だ、そこへ着いたらセンサーでモルタニア軍の情報を収集するように」

 『リョウカイ』

 アミアンの座る席はレーダ係りの席である、アミアンの前のモニタにルジウェイ空港から高速で向かってくる光点が映し出されていた。このまま進めばやがて自分らの機と交差する位置だ。

 但し光点の高度は地上約50メートル超低空飛行のため直接ぶつかることは無い、しかし光点は明らかにルジウェイの重要施設に向かっていた。

 「コクトさん、こちらに向かっている光点があるけど大丈夫でしょうか?」

 「いや、全然大丈夫じゃない」

 「ボーイ、操縦桿を貸してくれ」

 『ハイ、マニュアルソウジュウヲ、ユウセンシマス』

 「但し、墜落しそうになったらフォローたのむぞ」

 『リョウカイ』

 コクトは操縦桿を握ると下降するように下にゆっくりと押し倒す、機体もそれに合わすように機首を下に向けた。

 コクトは操縦桿を握りながら無線機のスイッチを入れた


 「クレイ、コクトだ、聞こえるか」

 『はい、良く聞こえます』

 「気がついているとは思うが、東に向かっている飛行物体がある多分、モルタニアの戦闘ヘリだろう、直接この目で確かめてくる」

 『了解、気をつけてください』

 「多分そいつらの目標は発電所ではないかと思うんだ、モルタニアは我々を兵糧攻めにするつもりかも、発電所の守備はどうなっている?」

 『はい、なんせ広大な敷地に設置されている全ての太陽電池パネルを無傷で守りきることは不可能だと思います、変電所と蓄電施設に数台の歩兵ロボットを配置しています』

 『直に無人ヘリで迎え撃とうと思いますが、・・・』

 「ああ、その方がよさそうだな」

 『了解』

 コクトは無線機のスイッチを切るとアミアンに声を掛けた。

 「アミアン少し乱暴な操縦になるが我慢してくれ」

 「は、はい」

 コクトの操縦する無人戦闘機ボーイは猛スピードで上空からモルタニアの戦闘ヘリに急接近する。

 モルタニア軍の士官ムハメドカービンは15機の戦闘ヘリを率いてルジウェイアウトサークルに侵入していた。

 当初カービンはルジウェイ空港の前面に展開するルジウェイの装甲車部隊を叩くつもりだったが、ワゲフ将軍の命令で急遽ルジウェイのエネルギー源である発電所を叩くように命じられた。

 ワゲフの思惑は明快だった、ルジウェイの目というべき4本の通信塔は破壊した、あと残るはエネルギー源である発電所を叩けばルジウェイの戦闘意欲は極端に低下する。

 ルジウェイの市民が地下シェルターに避難するのは想定済みだったらしい、それと地上の建物をいくら破壊しても無意味であることも把握している様だ。

 そしてルジウェイアウトサークルの東の広大な敷地に設置されている殆ど無防備に近い太陽電池パネルを破壊すれば、ルジウェイはよく持って3日、地下にもぐっている連中も地上からの電力が断たれれば降伏するしか道はないはずだと。

 「少佐、人っ子一人いません、不気味な都市です」

 「まったくだ、昨夜のうちに全ての住民がシェルターに避難したんだろう、地上にいるのは恐らく無人の殺戮兵器だけだ、周りに気をつけろよ」

 「イエッサ」

 後部座席に座るカービンの目の前には広大なルジウェイの緑地帯と真っ直ぐに伸びた幹線道路、そして整然と配置された建築物群が広がっていた。

 高度50メートルの超低空を時速300キロで飛行しているため、ヘリのパイロットは緊張していた。

 少しでも操縦を誤ると即地上に激突し大破する高度だ、しかし熟練したモルタニアのパイロットで不平を言う者は無かった、この高度なら地上からの攻撃は殆ど不可能に近いことをみんな知っていたからだ。

 ロシアの戦闘ヘリ「KA-50U型ブラックシャーク」対ゲリラ戦でもっとも活躍し実績のあるヘリだ、歩兵用の携帯対空ミサイル、スティンガーミサイルの攻撃にも持ちこたえた実績がある、現時点で世界No1の戦闘ヘリだった。

 「アウトサークルを抜けます」

 「少佐、ここの橋も全て水没しています、我が機甲師団はどうやってルジウェイに入るんでしょうか?」

 「心配するな、そのぐらいは想定済みだ」

 「は、はい」

 15機のヘリがアウトサークルとセンターサークルの境にある水路の上を通り過ぎるた時、パイロットが上空から接近してくる物体を確認した。

 「ルジウェイの戦闘機です!、上空から接近してきます」

 「何機だ?」

 「い、一機です」

 「一機か、・・・・」

 カービンは無線機のスイッチを入れた。

 「カービンだ、ルジウェイの戦闘機だ、全機現在の高度を維持しろ、けして慌てるな」

 まったく、地上の敵に対しては圧倒的な力を発揮する戦闘ヘリだが、対戦闘機となるとまったく話しにならない、このまま低空で逃げ切るしかない。

 唯一の望みはルジウェイにミサイルや弾薬の備蓄はそう無いってことだ、・・・・。

 まぁ我々にも言えることだが。

 「体当たりする気か!?」

 キィーーーーーーーーーーーーーーーーン

 「うっ!」

 ルジウェイの無人戦闘機はヘリの編隊のど真ん中を猛スピードで通り抜けて行くと数機のヘリが戦闘機の巻き起こした乱気流で揺れた。

 戦闘機は急旋回するとヘリを観察すかのように近距離でヘリの周りを周回するコースに入った。

 「打ち落としますか?」

 「いや!、待て」

 こいつは無人じゃないぞ、我々を観察してやがる。

 戦闘機はヘリの編隊を一周すると、大胆にも速度を落とし、カービンの乗る戦闘ヘリの右横にピタリと張り付く。

 「し、少佐!!」

 ヘリのパイロットは半ばパニック気味で後部座席のカービンに指示を求めた。

 「お、落ち着け」

 操縦席の無い無機質な機体は不気味さを感じさせるには十分であった。

 「コクトさん、一緒に並んで飛行していますけど・・・」

 アミアンが引きつった顔でコクトに声を掛ける。

 「ははは、最初は敵の装備を確認するだけのつもりだったが、・・・」

 「成り行きだな」

 「そ、そんんなー」

 アミアンは不安そうな声を出した。

 「んんー」とコクトは喉を鳴らす。

 「マーメイ、ヘリのパイロットと交信したい周波数を合わろ、それと通訳もたのむ」

 『はい、言語はどうします、モルタニアの公用語はフランス語とモルタニア語の二つです』

 「モルタニア語で」

 『はい、しばらくお待ちください』

 「へぇ?」

 アミアンが首をかしげる。

 「通訳、ですか?」

 「そうだ、別に驚くことではないだろ、マーメイは国連加盟国の全ての公用語を通訳できるぞ、知らなかった?」

 「いいえ、全然」

 「宣伝不足だな、・・・・・」

 戦闘ヘリの後部座席のカービンの無線機のランプが激しく点滅し始める、カービンは無線機のスイッチを入れた、すると女性の声がスピーカから流れてきた。

 『ジャン・フィデル・コクトがヘリ部隊の責任者とコンタクトを求めています、応答願います』

 『繰り返します、ジャン・フィデル・コクトがヘリ部隊の責任者とコンタクトを求めています、応答願います』

 ジャン・フィデル・コクトだと!あのライエン大佐の部隊をたった二人で追い払った奴か!?

 カービンは無線の切替スイッチを押し、コクトからの呼びかけに応じた。

 「私がこのヘリ部隊の責任者だ」

 『ガチャ、ザー、ザー』

 ノイズと数回の切替音の後、スピーカから男の声が聞こえてきた。

 『コクトです』

 「カービンだ、要件は何だ?」

 『はい、お互いそう時間は限られているので単刀直入に言います』

 「そう願いたい」

 『拒否されとは思うが、直に戦闘行為をやめ引き上げて欲しいのですが、・・・』

 「ははは、確かに、はいそうですかとは、言えない要求だな」

 『そうですね』

 『我々も貴方方の侵略をだまって受け入れる訳には行きません、これから全力で阻止します』

 「あたりまえの行動だな」

 『しかし貴方方は圧倒的な戦力を保有していますが、ルジウェイを占領するなんてはっきり言って無謀なことだと思います、モルタニアの大統領がそんなことを本当に許可したのか疑問です』

 『貴方は納得してこの侵略戦争に加担しているのですか?』

 「・・・・・」

 なんだこいつ、大統領がこの侵略に反対しているのを知っているのか?

 「私を説得しようと?」

 『いえ、こちらは無人の兵器を多数保有しています、たとえ破壊されても人命が失われることはありません、しかしそちらは違います、多くの兵士の命がかかっています』

 『この戦いは誰が見ても理不尽です、大儀名分がありません』

 「どちらにとってだ?」

 『もちろん、貴方方にとってです』

 「・・・・」

 「長年世界を騙しておいて自分達に正義があると思っているのか?」

 『・・・・、例の厄介な物の事を知っているみたいですね』

 「この無線はたぶんいろんな連中に傍受されている、いいのかこんなところで話しても」

 『ははは、・・・・』

 『では、決着が付いた後でゆっくりと語り合いたいものです』

 「機会があったらな」

 『少し話がそれましたけど、もう直ぐ我々の戦闘ヘリ部隊が貴方方を迎え撃ちます』

 『検討を祈ります』

 「ああ」

 『ガチャ、ザー、ザー』

 カービンは無線のスイッチを切ると、横の無人戦闘機に視線を向けた。

 ジャン・フィデル・コクト、まるであの無人戦闘機に載っているみたいだ。

 コクトはブラックダイヤのことを厄介な物と言っていたが、・・・・。

 ゴォーーーーーーーーーン

 無人戦闘機ボーイはエンジン出力を全開にし急上昇するとヘリの編隊の進行方向とは逆方向へ飛び去って行った。

 「少佐、一体なんだったんでしょう」

 「宣戦布告のつもりだ、くるぞ」

 「イ、イエッサ」

 カービンは無線機の周波数を切り替えた。

 「全機に告ぐ、ルジウェイの戦闘ヘリがもう直我々の前に立ちはばかる、目標までV字フォーメーションで行くぞ」

 カービンが全ヘリに向かって命令を出すと、15機の戦闘ヘリが二手に別れ、分かれたグループが今度は上下に別れた。

 上に上がったグループが下のグループに重ならない様に横方向にスライドする。

 編隊全体が広い角度のV字型の編隊に成っていた。


 コクトの操縦する無人戦闘機は西に機首を向けていた。

 「クレイ、聞こえるか?」

 『はい、感度良好です』

 「モルタニア軍の戦闘ヘリの情報は取得できたか?」

 『はい、コクトさんの操縦する戦闘機から詳細な映像情報が取れましたので、武装状況は把握できました』

 『ありがとうございます』

 「後はたのんだぞ」

 『イエッサ!』

 コクトの後ろではアミアンが腕を組み「ふんーっ」と荒い鼻息を出す。

 あ、呆れた、この人、戦闘ヘリの隊長を説得すと見せかけてちゃっかり、搭載している兵器の情報収集をしていたんだ、それにクレイさんもそれを判っているかの様にコクトさんのやろうとしていることを理解していたなんて、なんて人達。

 アミアンはコクトが外見からは感じ取れるお人よしのリーダでは無いと思った、その行動には常に意味があることを。

 この人は一石二鳥どころか三鳥も四鳥も狙う、超欲張り者だ。

 「アミアン、何か言いたいことでも?」

 アミアンはコクトの急な質問に少し慌てる。

 「い、いえ」

 「ただ、驚いてしまいました」

 「?」とコクトはアミアンに疑問符を投げる。

 「すみません、何にと、言われても、・・・」

 「そ、そうか」

 「では今度は、モルタニア機甲師団本体のところに行くぞ!、空対空ミサイルを避けるため低空で接近するからスピード感は凄いぞ、心の準備はいいか?」

 「は、はい」

 キィーーーーーーーーーン


 カービン率いる戦闘ヘリの部隊は殆ど抵抗を受けることなくセンターサークルを抜けコアサークルへ入った。

 カービンは破壊された巨大な通信塔を横目で見ながらさらに東を目指す。

 「少佐、ルジウェイのヘリ部隊です!」

 「前方に横一列に並んでいます」

 「ほう、真正面からくるとはいい度胸だな、・・・・」

 「とは言っても無人か」

 ヘリのパイロットのモニタに前方後方そして左右から近付いてくる飛行物体が映し出された、その速度からは同じ戦闘ヘリと思われた。

 「ちっ!」

 「少佐、囲まれています」

 何の抵抗も無かったのは我々をここにおびき寄せるためだったのか、まったくルジウェイの連中も一応頭を使ってきやがる、ど素人の集まりだと思って油断すると痛い目にあいそうだな。

 しかしこの世界一の性能を誇る戦闘ヘリKA-50Uペーパークラフトに勝てると思っているのか。

 カービンは無線機のスイッチを入れた。

 「第一戦闘部隊は前方の敵を、第ニ戦闘部隊は後方の敵を、第三戦闘部隊は左の敵を、第四戦闘部隊は右の敵を、各部隊展開し戦闘開始だ!一機も打ち漏らすな!」

 『第ニ戦闘部隊後方へ展開します』

 『第三戦闘部隊左へ展開します』

 『第四戦闘部隊右へ展開します』

 「よし、第一戦闘部隊は俺に続け、蹴散らすぞ」

 『イエッサ』

 モルタニアのヘリ部隊のV字編隊が崩れると各ヘリが前後左右に散り始めた、まるで獲物を追い駆ける狼の様に、ルジウェイの無人ヘリに向かって襲い掛かって行く。

 「クレイ、敵さんが撒き餌に誘われてきたわよ」

 「よーし、戦闘ヘリ班はうまく敵の空対空ミサイルにやられない様にそれらしく振舞え、歩兵ロボット班は敵が射程内に入ったらロケット弾を浴びせるんだ」

 「歩兵ロボット班、了解しました」

 「戦闘ヘリ班、了解しました」

 クレイの座るコマンダー席の前方左には戦闘ヘリ班の5人の作戦主任、その右隣には歩兵ロボット班の同じく5人の作戦主任が無人の殺戮兵器に指令を送る席に座っていた。

 彼らは目の前のモニタに映し出されているアイコンを操作し自分の担当する無人兵器に攻撃目標と攻撃モードを次々と割り当てて行く、後は無人戦闘システムが最適な攻撃パターンを選択し命令を忠実に実行してくれるのだ。

 「オニール長官、いったいどのような作戦なんです?」

 「判ります?」

 ゲスト区画にいるアーリが隣で腕組みをしているオニールに尋ねた。

 「おっほん」

 「まぁ作戦と言えば作戦か、・・・・」

 「鼻ッから正面切って戦うつもりなく、できるだけ敵の弾薬と燃料を消耗させる作戦だな、昔コクトがシュミレーションで連戦連勝した時よく使っていた手法だ」

 「但し同じ相手には二度と通用しなかったけどな、2回目は良く負けていた」

 「シュミレーションってゲームのシュミレーションですか?」

 「まぁゲーム見たいなもんか」

 「マーメイプロジェクトビルにあったシュミレーション室で、調度こんな感じだ」

 オニールは作戦室の機器やそれを操作しているメンバーを指差した。

 「もちろん、実機は接続せずに仮想モードでな」

 「へ、へぇー」

 カービン率いる第一戦闘部隊は4機の戦闘ヘリで構成されていた、その前方には5機のルジウェイの無人戦闘ヘリが一列に並んで迫ってくる、・・・・。

 いやその距離は何故かなかなか狭まらない、カービンは背筋に寒気がした。

 「罠か?!」

 カービンの部隊がコアサークルの境界である水路の上空に達すると、四方八方から無数のロケットが一斉に放たれヘリ部隊に襲い掛かった。

 「RPGだ全機回避行動を取れ!」

 「少佐!!来ます」

 ドッカーーーーーーーーーーーーーーン

 「うわっ!」

 カービンの乗る戦闘ヘリを衝撃が襲った、至近距離でロケット弾が炸裂したのだ。

 ヘリは大きく揺れたが直に体制を整える。

 「被害は?」

 「大丈夫です!」

 『2号機後尾に破損、緊急着陸します』

 「何!?」

 カービンが隣を確認すると、ゆっくり回転しながら降下していく2号機が確認できた。

 「くっそ!」

 「少佐、見てください、ルジウェイの歩兵ロボットです、やつら木々の間に隠れ我々が水路の上に出てくるのを待ち伏せていたようです」

 カービンは無線機を口元に近づけた。

 「各機、状況を直ちに報告しろ」

 直に各機から応答が帰ってくる。

 『3号機、攻撃は受けていますが被害はありません』

 『4号機、こちらも同じです』

 カン!カン!カン!カン!

 金属弾が激しく当たる衝撃音がカービンの乗る戦闘ヘリに鳴り響く。

 「少佐!、機銃掃射を受けています」

 「ええい、うっとしい、片付けろ」

 「イエッサ!」

 パイロットは対岸の木々の間から銃撃してくる歩兵ロボットに照準を合わせ、安全装置を解除し機銃のトリガーを引いた。

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

 物凄い勢いで銃弾が発射され、対岸の木々が木っ端微塵に吹き飛んだ、歩兵ロボットの破片もそれらに混じって飛び散っていく。

 カン!カン!カン!カン!

 今度は後ろから銃撃を受けると

 「3号機、後方の敵を一掃しろ」

 『了解!』

 「4号機は、2号機の不時着する近くにいる歩兵ロボットを一掃しパイロットを救助しろ」

 『了解!』

 3号機は機首を反転させると、木々の間から攻撃してくる、歩兵ロボットに照準を合わせ、ミサイルの照準を精度を無視して広範囲の敵を一掃するモードに切り替えた。

 「あばよロボットども」

 「カチャ」

 プシュー!プシュー!プシュー!プシュー!プシュー!プシュー!

 連続で対地ミサイルが放たれた、ミサイルは横に広がりコアサークル側の水路の対岸、木々の間にいる兵ロボットらに遅い掛かかる。

 ドカーン
 ドカーン
 ドカーン
 ドカーン
 ドカーン

 棲さましい爆発音が鳴り響いた、衝撃波はカービンの乗る戦闘ヘリも大きく揺さぶった。

 一瞬で広範囲の木々と伴に後方コアサークル側の歩兵ロボット軍は破壊した。

 2号機は水路上空からかろうじて対岸のセンターサークルの木々の中に不時着する、すると4号機はその周りを機銃掃射し、潜伏してしる歩兵ロボット軍団を一掃した、それはまるで地獄図だった。

 木々は木っ端微塵に破壊され、近くにいた歩兵ロボットは銃弾を浴びると手足が飛び散った。

 これがもし人間だったらまさしく地獄絵だ。

 かってモルタニア軍は敵対するゲリラや反政府組織をこの様に圧倒的な火力で排除していたのだ。

 カービンの乗る1号機は少し高度を上げ、遠くにこちらの様子を伺っている、ルジウェイの無人ヘリに照準を合わせ攻撃に備えていた。

 「空対空ミサイルでやつらを片付けますか?」

 「いや、この距離では遠すぎる」

 「!」

 「少佐、歩兵ロボットがまだいます」

 「どこだ?」

 「2号機が不時着したところに向かっています」

 「念の為に赤外線センサーで辺りを調べろ」

 「イエッサ」

 パイロットの正面メインパネには地形が映し出されそれに被さる様に赤い光点がうごめいていた、しかし周りの木々も銃撃による火災で燃えているため、精度は極端に悪かった。

 「少なくとも、30固体の歩兵ロボットらしき映像を確認、うち8固体が2号機の不時着したところへ向かっている様です」

 「くっそ」

 「4号機救出を急げ、歩兵ロボットがそちらに向かっている」

 『了解』

 「大尉、ピンポイントで歩兵ロボットの破壊できないか?」

 「いえ、無理です、炎と煙でターゲットが絞れません、それにやつらは木々の間を隠れるように移動していますからピンポイントでの破壊は不可能です」

 パイロットのモニタには赤々として燃える木々が放つゆらめく赤い炎と小さな光点がところどころにうごめいていた。

 「くっそ」

 「ありったけのロケット弾をぶち込み、一掃しろ」

 「了解」

 パイロットは安全ロックを解除しトリガーを引く。

 プシュー!プシュー!プシュー!プシュー!プシュー!プシュー!

 ドカーン
 ドカーン
 ドカーン
 ドカーン
 ドカーン

 ロケット弾の照準は広範囲に合わされていた、放たれたロケット弾は横に水平に広がり、まるで絨毯爆撃の様にルジウェイの美しい森を、歩兵ロボットもろとも破壊しつくしていった。

 噴煙と猛火で視界が極端に悪くなってくると、パイロットがしきりに周りを確認する。

 「少佐!これではルジウェイの無人ヘリが確認できません!」

 「くるぞ」

 この時を待っていた様に、濛々と立ちある煙の中から突如4機の無人ヘリが姿を現した。

 2機は不時着した2号機と、そのパイロットを救出するためにその隣に着陸した4号機に襲い掛かった。

 「間に合わない!、ヘリから離れろ」

 タイミングが悪かった、2号機のパイロット二人が4号機の数メートル前まで来たところだった、4号機の二人もヘリから飛び降り、近くの木の下に逃げ込む、2号のパイロットも同じ様に木の後ろに隠れた。

 戦闘ヘリにとって地上の戦車や装甲車に対し圧倒的な力を発揮するが、地上にある戦闘ヘリは無力に近かった、2機の無人ヘリは4号機に対し機銃掃射を浴びせた。

 いくら分厚い装甲に守られていようと集中砲火を浴びせられたら、装甲がもつはずも無かった。装備しているロケット弾に被弾し大爆発を起した。

 カービンの乗るヘリにはもう1機の無人ヘリが急接近してきた。

 「打ち落とせ!」

 「だめです、弾丸がありません、空対空ミサイルは近すぎて使用できません」

 ルジウェイの無人ヘリは無情にも銃口の照準をカービンの乗る戦闘ヘリに合わせ、弾丸を放ちならが迫ってきた。

 カン!カン!カン!カン!カン!カン!

 装甲版が弾丸を跳ね返す音が激しくなってきた。

 「ぶつかる!!」

 ゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 モルタニアの戦闘ヘリとルジウェイの戦闘ヘリが至近距離で交差した、互いに相手のヘリの風圧ですれ違ったあとも暫くは飛行が安定しなかった。

 「反転しやつのケツを捕らえます」

 「うむ」

 戦闘ヘリは反転し、まだ反転途中の無人ヘリの後方にピタリと付いた、運動能力は明らかにモルタニアの戦闘ヘリの方が優れていた。

 パイロットは無人ヘリに照準がロックされるとトリガーを引いた。

 プシュー

 ミサイルが放たれ無人ヘリに襲い掛かる。

 ドッカーーーーーーーーン

 無人ヘリは地上50メートル上空で大爆発を起した。

 「ざまーみろ」

 カービンは炎と煙で視界が悪くなった周りをしきりに確認する。

 「3号機応答せよ、状況は!?」

 『ルジウェイの無人ヘリと交戦中です、囲まれています』

 『うわっ!』

 『メーデー、メーデー!』

 カービンが周りを見渡し3号機を視線で捕らえると、3機の無人ヘリが3号機にまとわり付いて銃弾を浴びせていた。

 3号機のエンジン部分から煙が噴出した、煙は蛇の様にうねりながら3号機の後を追って行く。

 「くっそ!これまでか」

 「引き返すぞ」

 「えっ?」

 「退却だ!体制を整えないと我がヘリ部隊は全滅だ」

 「イエッサ!」

 「3号機、戦線を離脱せよ」

 『ザー、ザー、ザー』

 応答は無かった。

 「くっ」

 「カービンだ、モルタニア戦闘ヘリ部隊に告ぐ、退却する」

 「各部隊の被害状況を報告しろ」

 『ザー、ザー、ザー』

 ま、まさか他の部隊は全滅か?

 『ザー、ザー、ザー、こちら第二戦闘部隊』

 『敵の地上からの待ち伏せ攻撃及び無人ヘリとの戦闘で現在無事なの本機のみです、隊長機もやられました』

 「わ、わかった、お前たちだけでもここから離脱するんだ」

 『了解!』

 『こちら第四戦闘部隊、1機やられました、残りの機も殆ど弾薬とミサイルは使い切ってこれ以上作戦行動はとれません』

 「十分だ、引き返せ」

 『了解』

 「第三戦闘部隊はどうした!?、応答せよ!

 『ザー、ザー、ザー、ガチャ、ガチャ、ザー、ザー』

 無線機がやられているのか、切替音のみの応答だった。

 『分かった、もしこの通信が聞こえているのなら、戦闘空域より離脱しろ』

 『幸運を祈る』

 『ザー、ザー、ザー』

 しかし今度は応答が無かった。

 フィデルめこの借りは必ず返すぞ。

 カービンの乗る戦闘ヘリは旋回し引き返す。ルジウェイの無人ヘリがその後を追跡する気配は無かった。


 そのころコクトとアミアンが乗る無人戦闘機ボーイはルジウェイ空港上空に来ていた、ルジウェイ空港は攻撃を受けた形跡は無く無傷の状態を保っている。

 空港とアウトサークルを結ぶ水没した橋の手前に多くの車両が集結しているのも確認できた。

 その前方でモルタニア軍の進行を阻止せんと、展開していた10台の装甲車と歩兵ロボット軍団は、モルタニア機甲師団によって既に壊滅していた。

 モルタニア機甲師団に対し全く歯が立たなかった様だ。

 20両のモルタニア軍の戦車が残存している歩兵ロボットを次々と踏み潰していた、歩兵ロボットのロケット弾はモルタニアの戦車に対して全く無力だった。

 アミアンはその様子を上空から見ると、両手で目を被った。

 「いくらロボットだからと言っても酷すぎる」

 「・・・・」

 コクトも吐き気を抑えきれないでいた。

 「マーメイ、モルタニア機甲師団の全部体がここにいるのか?」

 『いいえ、一部は南へ向かっている模様です、しかし現時点の精度では全体の展開状況が把握できません』

 「わかった」

 「高度を上げるぞ」

 「マーメイ、これより高度上げる、この飛行機のセンサーで情報を収集をしてくれ、それから収集したデータは直に作戦室にも送ってくれ」

 『了解』

 『対空砲火に気をつけてください』

 「オーケー」

 コクトは操縦桿を思いっきり引くと無人戦闘機の機首が上を向きどんどん高度を上げて行く。

 すると直にモルタニア軍の高射砲が一斉に火を噴いた。

 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン

 鈍い心臓に響く高射砲の発射音が鳴り響いた。

 すると数秒後に対空砲火の弾幕がコクトの操縦する無人戦闘機の周りで炸裂し空を被った。

 「キャッ」

 機体に対空砲火の破片がぶつかる音とその衝撃がコクトとアミアンを襲った。

 「っく、たった1機にやりすぎだぞ、弾薬がもったいないと思わないのかこいつら」

 コクトは高度2千メートルまで一気に上昇すると機体を水平に保った。無人戦闘機のセンサー群が激しく動き始め地上の情報を収集し始めた。

 赤外線センサー、高解像度のカメラによる映像データに収集、電波による移動する物体の情報収集と多義に及んだ、しかしその間も対空砲の攻撃は止まなかった。

 ガガンと異音と伴に警報が鳴った。

 ビィービィービィービィー

 『後尾翼に被弾』

 「飛行に支障は?」

 『主翼で補います、その代わり運動能力が30%ダウンします』

 「コクトさん、このままでは撃墜されます」

 「分かった」

 「マーメイ、情報は取れたか?」

 『はい』

 「よし」

 「アミアン、掴まってろ、急降下するぞ」

 「は、はぃーーーっ、キャーーーーーーッ」

 ゴォーーーーーーーン

 コクトは降下しながらモルタニア軍の展開状況を確認していた、モルタニア機甲師団の一部は確かに南に向かっていた、それは目視でも砂埃で直に確認できた。

 降下すれば降下するほどモルタニア軍の対空放火が収まってきた、コクトは高度100メートルで急降下をやめ無理やり水平飛行に切り替えると、コクトとアミアンはかなりきつい重力を体で感じた。

 「うう、気持ち悪い」とアミアンがつぶやく。

 「南に移動中のモルタニア軍の上空を飛んだら引き上げる、もう少しの我慢だ」

 「はい」


 ワゲフ将軍が戦車の砲塔から上半身を出し双眼鏡で微かに見えるダンプトラック軍団を確認していると。

 後方からゴゴゴゴ・・・と何かが近付いてくる気配を感じた。

 「ん!」

 ゴォーーーーーーーーーーーーーーーーン

 後ろを振り向くと後ろから轟音と伴にルジウェイの無人戦闘機が超低空で迫り飛び去って行く、そしてそのあとから風圧と砂埃が一緒になって襲ってきた。

 ゴォーーーーーーーーーーーーーーーーン

 ほんの一瞬のことだった。

 「ごほっ、ごほっ」

 「くっそ、無人戦闘機か!」

 戦車の操縦士が驚いて車内無線で慌ててワゲフに尋ねてきた。

 『将軍、敵の攻撃ですか!?』

 「心配するな、偵察機だ」

 『は、はい』

 「それより、客人に顔を出すように伝えてくれ」

 『イエッサ!』

 しばらくすると隣のハッチが開き中年の小太の男が顔を出した。

 ルジウェイ総務局局長のモンヘ・ダイムラーだ。

 「戦車の中は窮屈だろう、外の空気に当たるといい」

 「ありがとうございます将軍、ところで今の揺れは?」

 ワゲフはモンヘの質問に答えることなくフンと鼻で笑い双眼鏡をモンヘに渡した。

 「あそこを見ろ」

 「・・・・・」

 「ダ、ダンプトラックですね」

 「それは判っている、あれでどうするつもりなんだ」

 「どうするって?」

 「・・・・・・・」

 「ははは、まさかあれでこの戦車軍団に対抗しようと思っているんじゃ、・・・」

 モンヘは笑いながら答えると急に黙り込んだ。

 そしてボソッとつぶやく。

 やつら、本気か?

 「やはり何かあるのか?」

 「は、はい将軍」

 「何だ?」

 モンヘは双眼鏡を両目から離し遠くのダンプトラックを目を細めて見ていた。

 「あのダンプトラックはルジウェイ建設に必要な資材を港から建設現場まで運ぶために作られた専用の車です」

 「それは分かっている」

 「建設資材の輸送は24時間体制で、それも無人行われていました」

 「だから?」

 モンヘは少し間を置いてから、ワゲフに答えた。

 「対テロリスト用に分厚い鉄板で覆われているのです、多少の銃火器の攻撃ではびくともしません」

 「戦車砲でもか?」

 「そ、それは、・・・・、判りません」

 あれが我々に対抗する切り札か、私としたことが全く想定外だ。

 「モンヘよ、やつらはあれでどうやって我が戦車軍団を攻撃するのだ、対戦車砲でも装備されているのか?」

 「ま、まさか、そんなことはありえません」

 「せいぜい、近くまで来て体当たりするぐらいが精一杯でしょう」

 モンヘはダンプトラックで戦車軍団に勝てるとは全く思っていなかった、しかしワゲフは違った、なるほどそれはいい作戦だと思った。

 「お前を追い出したコクトとか言う小僧は只者ではないな、何でそんな奴が今まで表に出てこなかったのだ?」

 モンヘは不満そうな顔をする。

 「奴は単にマーメイをハッキングして乗っ取ったせいで、少し図に乗っているだけです」

 「フン」

 ワゲフは鼻息でモンヘを一瞥した。

 おべっかを使うことだけ局長にまでなっただけのことはある、こいつの周りにも同じレベルのおべっか野郎しかいないと見える。

 有能な奴ほどこいつからは逃げていくだろう。

 まぁ、そのお陰でルジウェイに付け入るスキができたから私にとってはありがたいバカ者だがルジウェイにとっては災難だな。

 ふっふふふふふ。

 ワゲフは車内無線を全戦車部隊の周波数に切替た。

 「全車両一列縦隊に展開しろ、前方のダンプトラック軍を蹴散らすぞ」

 ワゲフの命令で60両の戦車が横一列に展開し始めた、物凄い砂埃が戦車軍団の進行方向とは逆の方向に巻き上がる、まるで砂嵐でも起こった様だった。

 「ワゲフだ自走砲部隊に告ぐ、今から送る座標位置にありったけの砲弾を撃ち込め」

 『ザー、ザー、了解』

 あのトラック軍団さえ片付ければルジウェイに反撃する程の戦力は残らないだろう、まぁ奇想天外な発想だけは褒めてやる。

 ルジウェイ空港とアウトサークルの水路の間に待機している榴弾砲を装備した10台の車両の砲身が一斉に南西方向にむけられる。

 それから数秒後に凄まじい爆音と伴に榴弾砲が次々と発射された。

 ドドーーン

 ドドーーン

 ドドーーン

 ドドーーン


※次回「アウトサークルの攻防(後編)へ続く。


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