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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第43回   ★☆シェルター☆★
 ルジウェイの地下には巨大なシェルターが存在する、そこはルジウェイ建設に掛かった費用の半分以上がつぎ込まれシェルターとは名ばかりで正確には地下都市の様相である。

 シェルターはコアサークルに沿って東西南北に4箇所の中心となる巨大なドーム型シェルターとセンターサークル沿いにある8箇所のシェルター群で構成され各シェルターはリニアで結ばれていた。

 地上にあるルジウェイの幹線道路の下には平行してリニアの線路網が敷かれており地下交通網の中心的役割を果たす仕組になっている、それに地上にある主要な建物のエレベータには地下のリニアの駅まで降りることができ本格的な運用がはじまれば半数以上の市民は車通勤は不要である。

 そしてルジウェイが誇る世界最大の大型加速器の素粒子加速用のパイプもセンターサークルを取り囲むように掘られたリニアのトンネルに平行して設置されている。もちろん建設費用を効率良く使うためである。ルジウェイの多くのトンネルは共同溝としての役目を持っている。

 但し地下系が作られて10年以上も放置され多くの人々の記憶から遠ざかっていた、今まで一部のリニア関連の技術者や素粒子研究者、それと数百台のメンテナンス用ロボットらによって細々と維持されている状態であったが、第二次マーメイプロジェクトの発足によって徐々に陽の目をみるようになり、モルタニア軍の進行により一晩で全ルジウェイ市民の認知する所となった。

 ここはもう一つのルジウェイである、いやもしかするとここが本当の意味でのルジウェイの新の姿かもしれない。



 物語は議会塔での委員らとの話し合い後から続く。



 ミューラーを含む5人の委員が二人の武装警察官に付き添われ地下シェルターに降りるエレベータに乗り込むと、ミユーラは車椅子を押しているビルに顎で指示を送った。

 「し、しかしご老体、・・・」

 「かまわん!」

 「は、はい」

 ビルがコクトの方へ向かって歩き出すと、護衛の二人がピクッと反応するがオニールに目で制止させられた。

 ビルはしぶしぶホールで見送るために立っているコクトに近寄ると、コクトに小さなバッチをを差し出す。

 その形状は普通のバッチ同じだが良く見ると電子機器が詰まっていた。

 「ご老体が常に身に着けていた、マーメイ端末だ」

 「これはルジウェイの最高責任者が身に着けるものだ、大事にしろよ」

 ビルはコクトの襟に無理やりそれを取り付けると、コクトの耳元でささやいた。

 「万が一君が私利私欲に走った場合は私が許さないからな」

 すると後ろのエレベータに乗っている老人が甲高い声で笑い出す。

 「はっ、ははははははははははははははははは」

 「露骨に私利私欲のためにこの巨大都市を作った我々が言える台詞か!」

 「ははははははははははははははははは」

 ビルは顔を赤らめ自分でもその台詞がおかしく思えたのか、頭を掻きながらご老体の待つエレベータに戻った。

 まったく、ご老体の地獄耳には参るよ。

 「フレア、先に行っているぞ」ビルがフレアに向かってそう言うと、エレベータのドアが閉まり、ゆっくりと地下に向かって降下し始めた。

 「オニール、外の連中も・・・・」とコクトがそう言うと。

 「そうだな」

 オニールは肩の無線機のスイッチに手を掛け、外で議会棟を守っている武装警察官らに指示を出し始めた。

 「議会棟の警備は終了だ全員議会棟中央ホールに集合しろ、シェルターにもぐるぞ」

 『はっ、しかし、ザー、ザー、装甲車両はどうします!?、ザー、ザー』

 オニールはコクトを見るとコクトは首を軽く横に振った。

 「そんなのほっとけ!、モルタニアの砲弾が降ってくる前に急いでここに集まれ!」

 『ザー、ザー、了解!』

 コクトとオニールの少し後ろでは、ルナがフレアに近付くとフレアの耳元で悪戯っぽくささやく

 「コクトとは最後まで行ったの?」

 フレアはムッとし表情をこわばらせる、この様な状況の時になんてことを聞くのかと思った、それに多少なりともルナもコクトに気があると疑ってもいた。

 「き、気になるの?」

 ルナは口元を押さえ笑いを堪えると、フレアが聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でささやく

 「娘のボーイフレンドことですものあたりまえでしょ」

 「え、えっ、何っ????」

 フレアはルナの言葉を消化できないまま目を点にする。

 「じゃ私はまだ大事な用事が残っているからここで失礼するわ」

 ルナがそう言うと、ルナの体が薄っすらと光り、その光は体と伴に徐々に薄れて行く。

 「ルナ!待って」

 「どういう意味、説明して!!」

 フレアは必死で消えかかったルナの体を掴もうとするがまったく手ごたえが無い、フレアの両手は空をさまよった。

 異変に気が付いたコクトとオニールは急いで二人に近付く。

 「フレア離れるんだ」

 コクトは後ろからフレアの肩を掴みルナから引き離す。

 「じゃね、フレア」

 ルナはフレアに声を掛けた後、コクトの方へ視線を移し、コクトへ笑顔を見せた、それから数秒後にルナの体は消え去ってしまった。

 「行ってしまった、・・・」とオニールがつぶやく。



 そうこうしている間に次々と議会棟を守っていた警察官が集まり始めた。

 オニールは何回かに分け集まった警察官らを地下シェルターに送り込む。

 「長官!これで最後です」

 そう言った隊長の両手にはマクロの頭部の破片が大切そうに抱えていた。その後ろにはマクロが指揮していた18体のロボットも整列している。

 「そ、それは、・・・」

 コクト、オニール、フレアは言葉を失った。

 「議会棟に突っ込んでくる最後のミサイルを打ち落とした小さなロボットです」

 「我々の命の恩人です」

 フレアはコクトの肩に頭を付けゆっくりと目を閉じる。

 「隊長、その破片を渡してくれないか、大事な友人だったんだ」

 コクトはかろうじてマクロと分かるその頭部の破片を受け取ると、胸に付け強く抱きしめた。

 「マクロ、・・・・・。」


 『ワレワレノニンムハシュウリョウシマシタ、ホンライノニンムにモドリマス』

 18体のロボットの先頭の1体がぎこちない言葉でそう告げると、コクトに向かってマクロの破片を返してくれと言っている様に手を差し出す。

 「こ、これを渡せと言うのか」

 『ハイ、ナカマノブヒンハ、カノウナカギリ、モチカエラナケレバ、イケマセン』

 「わ、わかった、まかせるよ」

 『シツレイシマス、マスター』

 18体のロボットは一斉に敬礼をすると、議会棟の外へ出て行った。

 「彼らはどこへ行くんですかねぇ?」

 マクロの頭部の破片を持ってきた武装警察の隊長が目をぱちくりしながらオニールに尋ねた。

 「彼らはマーメイ親衛隊だ、別ルートでマーメイの所へ戻るんだろう」

 「へぇー、すげぇ」


 遠くの方から爆発音が聞こえてくる。

 「長官、我々も移動しましょう」

 護衛の一人がエレベータホールの天井を気にしながら、オニールに耳打ちする。

 「そうだな」とオニール。

 「コクト、行こうか」

 「了解」

 コクトはそう言ってフレアの背中へ手を回し、地下へ降りる最後のエレベータに乗り込んだ、その後を二人の護衛と武装警察の隊長、そして最後にオニールが乗り込みエレベータのドアが閉られた。

 エレベータは直に鈍いワイヤーの回転音を響かせながら地下に降下して行く。

 ある人は途中何度も唾を呑み込み耳の違和感を解消させる、中には鼻を摘み息を吹き込みダイビングでよく行うような耳抜きを行う人もいた。

 コクトは襟元のビルに付けてもらったバッチ、実際はマーメイ端末へ口元を近付け小さな声でささやく。

 「マーメイ、モルタニア軍との戦闘状況はどうなっている?」

 『はい、その声はコクトですね』

 マーメイの洗練された声が直に返ってきた、コクトにははっきりと聞こえるが、周りの人達には途切れ途切れにマーメイの声が聞き取れる位の音量である。

 『モルタニア空軍のミサイル攻撃により4本の通信塔は破壊されました、同じくミサイル攻撃により治安局ビルは大破、それに対して無人戦闘機によりモルタニアの戦闘機12機を撃墜、無人戦闘機の損害は0、現在ルジウェイ空港近辺での陸上での戦闘が開始されようとしています』

 「通信塔破壊による影響は?」

 『モルタニア軍への監視能力が50%失われました、それと外のとの通信機能が90%失われ、現在ルジウェイ空港にある通信機器でかろうじて10%が維持できている状態です』

 コクトの厳しい表情を見てオニールが尋ねる。

 「厳しのか?」

 コクトは無言でうなずいた、そして重い口を開いた。

 「モルタニアはこちらの弱点を知り尽くしている様だ」

 コクトは再び襟元のマーメイ端末に向かって話し始めた。

 「マーメイ直に作戦室に直行する迎えの車をたのむ、それとシン・ツカヤマを至急呼び出してくれ」

 『了解しました』

 フレアがコクトの袖を軽く引っ張った。

 「コクト、私はもう一度ビルやあのおじいさん達に逢ってくる、ルナと私の父とビルとの詳しい関係や、それに彼らはまだ私達に多くを伝えたがっているような気がするの、いでしょ?」

 「でも、・・・」

 コクトは躊躇する今はできるだけフレアと離れたくなかった、こんな状況では何が起こるか予測ができないからだ。フレアもそれを分かっているようでオニールの方に目をやる。

 「心配しないで、ボディーガードが守ってくれるんでしょ、ねぇ長官?」

 コクトとフレアの後ろで腕を組んで黙り込んでいたオニールが、急に話を振られたので少し狼狽する。

 「んんー、も、もちろん」とオニールが咳き込みながら慌てて答える。

 コクトは言い難そうな表情をする。

 「何よ?」

 コクトは他の人に聞かれないようにフレアの耳に手を当て小さな声でささやく。

 「ル、ルナみたいに消えないでくれよ、・・・・」

 フレアは少し顔を赤らめてコクトに小声で返事を返す。

 「心配しないで、私は幽霊じゃないわ」


 エレベータの視界が急に広がった、議会塔のエレベータは4つの中核となるシェルターの内のひとつ、西側のシェルターに直接降りることができた、上から見下ろす広大なシェルターの空間は圧巻である。

 ドーム上のシェルターの中心にはリニアの駅が配置されていて、その駅の広場は中心に放射状に道路が延びていた、道路の両側は一面芝生が敷き詰められ地下特有の圧迫感が全くなかった、道路は芝生が敷き詰められた面より深く掘り下げられ、その道路の両側に人々が暮らす居住空間があった、地下の地下である。

 芝生と同じ面にある建物はどれも公共用の施設で駅を取り囲む様に広々と配置されている。そこえ地上から集光器で集められた太陽光が光ファイバーでドームのあちかことらから照らしていた。

 エレベータはシェルターの端にある連絡用にビルの中吸い込まれるように入っていくと目的の階で止まった。

 ゆっくりと分厚い扉が開くと目の前のホールには大勢の人々が詰め掛けていた。

 ルジウェイに派遣されている各国の特派員達だ、だが彼ら以外にも大勢のルジウェイ市民がコクトらが降りてくるのを待ち構えていた。

 もちろん警察官によりどうにか秩序は守られていたが誰もが現在の最高責任者であるコクトの口から現状の説明が聞きたがっていた。

 深夜に叩き起こされ、見たことも聞いた事も無いシェルターに連れてこられて誰もが情報に飢えていた、各国の特派員も本国との通信が急に出来なくなり苛立っている様だ。

 外の断片的な映像情報は流されていたが、それに対する説明が極端に少ないため市民の不安もかなり溜まっている様だ。


 「じゃ」とフレアは大勢の群集の注目を浴びる前にそーっと逃げる様に去っていく、オニールは二人の護衛にフレアを追う様に視線で指示を出すと、二人の護衛は慌ててフレアを追い駆けて行く。

 「ミスターコクト、外の状況はどうなっているのですか!?」

 「モルタニア軍との詳しい戦闘状況は!!?」

 「先程委員らも降りてきましたけど、委員会との話は決着ついたのですか?」

 大勢の報道陣がコクトに次から次えと質問を浴びせかけてくる、が、彼らはコクトに返事をさせる気は無いらしい、傍から見ると言いたいことをわめき散らしている様にしか見えなかった。

 しかしコクトが報道陣の前に姿を見せたのはこの時が初めてだった、コクトの映像が初めてマスコミのカメラに捉えられた瞬間である。

 「映像は撮れたか?」

 「ばっちりだ!」

 「よし、外との通信が完全に出来なくなってしまう前に直に本社に送れ」

 「おう、まかせとけ」

 一人のカメラマンがコクトらを取り囲む人ごみの中から抜け出し、近くのベンチに腰掛けると持っていたカメラからスティクメモリを取り出しノートパソコンのコネクタに差し込む、それからPCを操作し公開されている無線LANの接続ポイントサーチすると、数箇所のアクセスポイントが現れた。

 ラッキー、まだ使えるアクセスポイントが残っていたぞ。

 へへへ、・・・、地下シェルターって言うからせまっくるしいところと思ったが、まったくとんでもない都市だぜここは、・・・。

 よし、繋がったぞ。

 さぁフィデルの映像だ受け取れ。

 ん!?

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・・

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・・

 な、なんだよこいつは??

 カメラマンの目の前を白く塗装された2両編成の車両が横切る、その前後は流線型の形をしており、空気の抵抗を可能な限り押さえ高速で走行することを前提で作られている様だ。

 だがここには線路は無い、白く光り輝く金属の物体は滑るようにコクトらに近付いて行く、いきなり巨大な乗り物がゆっくりと背後から迫ってくるのに気付いた多くの人々が慌ててその物体を避けるように左右に散らばっていった。

 「リニアが何でこんなところまでこれるんだよ!?」

 リニア中央の側面のドアが降りると地面にピタリと付くと、中から浅黒い顔の若者が顔を出して叫んだ。

 「ボスーーーー!」

 「こっちです、迎えに来ました」

 コクトに汎用ロボットを急遽戦闘仕様に変更するように依頼され、みごとやり遂げたツカヤマ・シンの姿がそこにあった。

 シンのやつ派手な出迎えだな、コクトは苦笑いをするとオニールに合図を送った、オニールはコクトと一緒に早歩きでリニアに向かうが、何人かのマスコミがそうはさせじと警備の警察官らの間からすり抜けコクトとオニールに迫ってくる。

 「コクトさーーーん、一言でもコメントをーーー!!」

 コクトとオニールが滑り込むようにリニアの中に入ると、リニアのドアがすーーと持ち上がり、ドアと車体のボディの境目がはっきりしないぐらいピタリと車体に張り付いた、数人の特派員らがそのドアの前で立ち往生する姿がリニアの窓から見えた。

 コクトとオニールは10人程度なら余裕で座れそうなソファーが両側に備え付けられており軽いミーティングなら出来そうな部屋にが案内された。派手な装飾はないがシンプルなレイアウトには品格が感じられる作りになっていた。

 そこにはシンの他にランロッド、ベトラ、アミアン、アーリ、フジエダ、アッシュ、チャーム、フレーバと主なメンバーが揃って待っていた、みんなコクトの姿をみてほっとした表情をしている。

 そしてリニアは本来あるべき線路に向かってゆっくりと移動し始めた。

 「お待ちしていました、コクトさん」

 「勝手ですがあなたがここに降りると聞いて、全員で迎えた方が良いと思い集合してもらいました」

 「ご迷惑だったでしょうか?」

 「いや、ランロッドさん、ありがとう手間が省けたよ」

 「しかしこれは?」

 コクトの視線は周りキョロキョロ見渡していた。

 「ボス、アメリカのエアホースワンみたいなリニアですよ、マーメイにVIP専用の乗り物は無いかって聞いたらこいつが来ました、僕もびっくりです」

 コクトの質問にシンが自慢げに答えてくれた。

 「そ、そうか」

 「何だコクト、知らなかったのか」とオニール。

 「ああ、僕だってここの全てを把握している訳ではないよ」

 「へぇー、意外なもんだ」

 『コクト、作戦室までは2分程で着きます』

 リニアの天井のスピーカからマーメイの音声が聞こえた。

 「ああ、わかった」

 「とりあえずみんな座ろうか」

 「ところでランロッドさんシェルター内の状況は?」

 「は、はい」

 「貴方に指示されて10万人の市民をどうやって非難させようかとマーメイに問い合わせたら、核攻撃に備えた緊急避難マニュアルを用意してくれました。私はマニュアルに沿ってマーメイプロジェクトのメンバーを配置し、各機関へ支持をだしただけなんです、特に警察と都市管理局の連中にはがんばってもらいました」

 「正直こんな大掛かりな非難が訓練も無しでこうスムーズに行くなんて奇跡に近いことだと思います」

 「もちろん多少の混乱はありましたけれど、はっきり言ってこの大掛かりな非難ではトラブルの内に入りません」

 「市民の殆どは主要4箇所の地下シェルターに避難しています、ただ現時点では一時避難のための幾つかの大ホールに収容していますが、長期化するようでしたら個別の居住区画を割り当てる必要がありますが、・・・・・」

 「長期化させるつもりは無いが、念のためそうしてくれ」

 「は、はい、では都市管理局の連中と相談します」

 しかし何でこんなマニュアルがそれも驚くほど具体的に書かれた避難マニュアルが存在するのだろうか?一体この都市を計画した連中の思惑を考えると背筋がぞっとする、もっと不可思議なのはコクトはこのマニュアルの存在をまったく疑問に思っていない当然あるべきだと考えている節がある、・・・・・。まったく考えたら切が無い。

 ランロッドは邪気を払う様に頭を軽く横に振った。

 「シン、お前には直に取り掛かって欲しいことがある」

 「はい、ボス!」

 「モルタニアのミサイル攻撃により4つの通信塔が破壊された、このままではルジウェイが孤立してしまう恐れがある」

 「早急に通信塔の復旧作業に入ってくれ、今日中には外部との通信を50%までには復旧させるんだ、情報の不足はみんなの不安を大きくする上にそれに付け込んでよからぬことを考える連中もいるから最優先事項だ」

 「しかし、ボス、・・・・」

 「あっ、分かった!」

 シンはどうやって通信塔の普及をするのかコクトに尋ねようとしたが、その答えを自分で見つけた様だった。

 「はしご車のはしごの上にパラボラアンテナや通信機器取り付けて臨時の通信塔を作れば何とかなります」

 「それと必要な技術や機器類はマーメイに聞けば何とかなるんでしょ?」

 「それが終ったら本格的な復旧作業に入る準備ってところかなぁー」

 コクトは口元を手で隠すようにすると小さな咳払いをする。

 「んんー」

 「そ、そうだ、ただし人間は一切シェルターの外に出てはならない、外での作業は全てリモートかロボットにさせるんだ」

 「戦闘はまだ続いているからな」


 「ええーーーっ!?」

 「・・・・・」

 シンは黙り込んでしまった。

 「できそうか?」

 「ボスなら出来るんでしょ?」

 「もちろん」

 実はコクトにも具体的にどうやるか判らないがマーメイを利用すればできそうな気がしている、必要な資材や組立て方法等の必要情報は全てマーメイを利用すれば手に入るはずだ、そしてシンなら多分できるはずだと思っていた。

 「了解しましたボス!」

 「何とかやってみます」

 「たのむぞ」

 コクトはシンに一と通りの指示を出し終えると、小柄なアミアンと長身のアーリのを向いた。

 「アーリ、アミアン」

 「はい」

 「二人は一緒に作戦室に来てくれ」

 「アーリには作戦室に常駐し戦況をベトラに逐一報告する役目をして欲しい、何を報告するかはまかす、ただし真実を客観的に現在ここで何が起こっているかを伝えるんだ」

 「フジエダ、アッシュ、ベトラはプレスセンターを立ち上げ、そこを拠点にこちら側の情報を世界に発信するんだ、これは世界中の人々をルジウェイの味方にするための情報戦だぞ、そしてこの戦闘が終った後の交渉がこちらに有利になるように考えて発信してくれ」

 「はい、リーダ」

 フジエダ、アッシュ、ベトラ、アーリはハッキリした口調で了解するが、アミアンが不安そうに上目使いでコクトを見上げる。

 「アミアン、現場で説明するよそう不安がるな」

 「は、はい、・・・・」

 「ランロッドさん、チャーム、フレーバ」

 「いくら広いシェルターと言っても10万人の人がいきなりシェルターに押し込まれているんだ、さっき言っていた個別の居住場所やら食料、医療等市民サービスの普及に各機関と協力し進めてくれ、問題が発生し意見が対立した場合は、・・・」

 「ランロッドさん、あなたが即決してくれ」

 「わ、私がですか?、い、いんですか?」

 「多分僕よりはましな判断はするだろう」

 コクト以外のみんなが苦笑いを隠しきれずにいた。コクトは少し受けたことに満足した様だ、そして全員に向かって語り掛けた。

 「すまんが、落ち着くまでは独断的な指示をだすと思うが、がまんしてくれ」

 「本当はもっと色々事細かく説明したいんだが、自分のここにそんな余裕が無いんだ、ゆるしてくれ」

 コクトは自分の頭を軽く叩いて今の自分の素直な気持ちを伝えると。

 「大丈夫です、少なくてもここにいる連中はあなたを信じています」

 「なぁ、みんな」とランロッドが気を利かせてくれた。

 その場の全員がうなずく。


 「一ついいですか?」

 ベトラだった。

 ベトラは言いにくそうにコクトに視線を送ったかと思うとうつむき、暫く考えては口を硬く閉じ必死に言葉を選んでいる様だった。

 「どうした?」とコクトはやさしくベトラに声を掛ける。

 「せ、世界に向けて、コクトさんのことを何て報道しましょう」

 「宰相、首相、総統、大統領、閣下、・・・エトセトラ、・・・」

 「どれもしっくりきません」

 その場の全員の思考が一瞬停止した様に静まり返った。

 「確かに、・・・」

 オニールはそう言うと腕を組んで目を閉じる。

 「今はマーメイプロジェクトのプロジェクトリーダでいいじゃないか、俺達はコクトさんの下で一つの大きなプロジェクトを実施している最中だ、今のコクトさんにはその方が合っている気がする、・・・・・」

 陽気な小太りのアッシュが沈黙を破った。

 「あれ、やっぱりおかしいか」

 「・・・・」

 「決まりですね、コクトさん」

 ランロッドがコクトに同意を求めた、フジエダはアッシュの肩を軽く叩く。

 「アッシュ、たまにはいい意見も言うな」

 「そ、そうかなぁー」

 「へへへ、・・・・」

 タイミングよくリニアがゆっくりと停車する、どうやら目的の所についたらしかった。天井のスピーカからプツプツと電子音がすると直にマーメイの声が流れてきた。

 『コクト、治安局地下100メートルの作戦室に一番近いホームに着きました』


 「まぁ、その辺は適当に呼んでくれ」

 「では、解散!」

 「はい!」

 コクトがソファーから立ち上がると、他のメンバー全員も立ち上がり威勢良くコクトに返事を返す、しかしオニールだけはまだ頭の切替が済んでない様だった。

 「しかしこれは大問題だ、コクトの称号か、・・・・」

 「オニール!」

 「おっとすまんすまん、今行くよ」


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