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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第42回   ★☆議会棟☆★
 議会棟の職員に案内されコクト、オニール、フレア、ルナの4人が議事堂に入ると、18人は座れる円卓の席には5人の委員が座っていた。

 「驚くことこもあるまい、君らのプロジェクトが告発したメンバーはここにはおらんよ、一応まだ委員特権は剥奪されていない連中ばかりだ」

 一人の精悍そうな初老の人物が立ち上がってコクトらの疑問に答える。

 彼の名はビル・アッカーマン、バーンの恩師でもありフレアにとっては頼りになるおじさんであった。

 「フレア、お父さんは?」

 ビルの質問に対してフレアは無言で頭を横に振りうつむく、ビル察したようそれ以上の問い掛けをフレアにしなかった、そして今度はルナの方に視線を向けた。

 「何故君がいるんだ?」

 ビルはルナのことは知っていたが、単なるモンヘの優秀な秘書としてしの認識しかなかった。

 「バーン博士の名代です、彼は戻られました」

 ルナの一言に他の委員らが「どういうことだ?」「また消えたのか」とざわつき始める。

 「ビル、座りたまえ」

 「は、はい」

 「君達も、空いている席に掛けなさい」

 5人の委員の中で最も年齢を重ねている老齢の委員が、その場の雰囲気をなだめるように気を使ってくれた。

 コクトらが5人の委員と対面する形で席に座るとその老人が語り始めた。

 「わしはの名はモセコ・ミユーラー、中には砂漠に魅せられた妖怪と言うやつもいるぐらい、長年ここに住み着いている自称ここの影の実力者だ」

 「ふぉふぉふぉっ」と老人は自分で自分の台詞に笑いで反応する。

 コクトは言い得てると思った、確かに遠くからはそのしわくちゃな顔からは目が開いているのか閉じているのは判断できない、車椅子に座ってる姿は華奢に見えるが異様な存在感がる、まさに妖怪だ。

 「とは言っても一応ここの18人居る最高評議委員会の名簿の端に名を連ねている、名前ぐらいは聞いたことはあるじゃろう」

 「ええ」

 フレアがゆっくりとうなずく。

 遠くの方で微かに銃弾の飛び交う音が聞こえてくると、老人は少し耳を傾け気にする様子を見せるが、直に視線をコクトら5人に向けた。

 コクトとオニールはその視線に思わず身を強張らせる。

 「確認するがこのクーデターの首謀者は誰かね」

 老人は少し語気を強め威圧する様に4人に尋ねた、するとコクト以外のオニール、フレア、ルナがコクトを指差した。

 「こ、こいつです」とオニールがしどろもどろで答える。

 コクトも思わず自分を指差して「しゅ、首謀者?」とつぶやいてしまう。

 完全に評議委員側のペースに乗せられていると思ったルナが立ち上がろうとした時、フレアが意を決して立ち上がり大きな声で叫んだ。

 「委員のみなさん、今は貴方方の説教を聞いているヒマはありません」

 「私達をここに招集した目的は何です、単刀直入に要件を述べて下さい」

 「特に無いのなら、直にシェルターに避難してください、ここは危険です」

 「分かってますか!?」

 フレアはそう言い放つと大きく溜息を漏らし椅子に座った、それから誰にも見えないようにコクトの脇腹を小突く。

 もう、しっかりしてよ、わ、わかった、わかってるよ。とふたりの無言の会話が聞こえてきそうだ。

 オニールは目をぱちくりさせて驚いていたが、ルナは頭を抱え誰にも悟られないように苦笑いを隠していた。

 ったく、この子は。

 対面に座っている5人の委員達も驚いて背筋を伸ばす。

 「んんー」

 老人は一度咳き込んで、テーブルの上で両手を握り締め改めてコクトらの方を向いた、その時の視線からは若者達を威圧する様子は感じられない、どこにでもいるような老人のごく普通の表情である。

 「まったく、その通りだ」

 「すまない」

 フレアは少し顔を赤らめ下をうつむいた。

 「すみません、言い過ぎました」

 と小声でつぶやく。

 「我がルジウェイ最高評議委員会は君らを追及するためにここに招集したのではない、君らの行為は少し強引だが、正当性があることは認めよう」

 「では単刀直入に質問する」

 「ブラックダイヤ、今どこに有り、どういう状態になっているのかを知りたい、レイモンの件依頼、我々は存在を見失っているのだ、モルタニアのワゲフは我々が意図的に隠していると疑って、まさに今力ずくで奪い取ろうと直そこまで機甲師団を引き連れてきている始末だ」

 「いまさら知らないとは、言わせないぞ」

 ミユーラは老人とは思えない強い口調で迫ってきた、その視線はコクトに向けられたが、何故かコクトの視線は周りをキョロキョロと落ち着きがなくさまよっていた。

 「こ、こいつ」と老人の隣に座っているビルが怒りを顕にコクトを睨みつける。

 結局コクトの視線は目の前の円卓のテーブルで止まる、その先にはガラス張りの円卓の上に薄っすらとキーボードの記号が浮き出ていた。

 円卓のテーブルはそれ自体がコントロールパネルの役割も兼ねているらしく、会議で必要な情報を引き出せる様になっているらしかった。

 コクトは円卓に浮き出ているマーメイとの接続記号を軽く指で触れると、コクトの前の円卓のキーボートのマークがくっきりと浮かび上がった。

 コクトは椅子から立ち上がリ、さらに数箇所テーブルに映し出されている記号を指で触れ、おそるおそる小さな声でささやいた。

 「マーメイ、聞こえるか?」

 『はい、コクト、接続を確認しました』

 いつもの洗練された女性声で、マーメイの声が響き渡った。

 コクトは「ほっと」胸を撫で下ろす、先程までのおどおどした表情が嘘の様に消え去った自信を取り戻した表情に変わった。

 「こいつはマーメイがいると急に自信満々になるからなー」

 オニールはルナに耳打ちすると、ルナは肩を動かし「しょうがないですね、まったく」と小声でオニールにささやき返した。

 コクトはフレアと目を合わすと苦笑いする。

 「マーメイ鉱石の解析状況をここに映し出せるか?」

 『はい、ホログラムでよろしいでしょうか?』

 ホ、ホログラムって何だ?まぁいいか。

 「ああ、みんなが見れるように映し出してくれ」

 5人の委員全員が息を呑んだ、コクトとマーメイの短いやり取りだが、その会話のスムーズ差に驚愕していた、彼らも委員としての特権がありマーメイの使用権限は高い方だがこれ程までスムーズにマーメイと会話したことはなかったからだ。

 「まるで忠実な僕(しもべ)だな」と委員の一人がつぶやく。

 円卓の中央の床が開くと無数のレーザ発光器が姿を現し淡い光を滲ませると、円卓の数メートル上にコクトらがマーメイ本体のある場所で見た球状の揺らめく映像が現れ始めた。

 「おおー」

 ささやかなどよめきが起こった。

 「どうなっているんだ、昨日見たよりもだいぶ違うぞ」

 オニールは身を乗り出し目の前に映し出された球状の立体映像を眺めていた。

 自分らが昨日見た時よりも視覚化が進んでいるようでかなり質感を持ち始めていた。

 「なんてことだ、ここまで解析が進んでいるとは」

 老齢のミユーラも驚きを隠そうとはしなかった。

 「ホログラムの語源を知っているか?」

 ミユーラはおもむろにコクトらに向かって質問を投げ掛けた。

 コクトとオニールは首を横に振る。

 「ギリシャ語のホロス(完全な)とグラム(メッセージ)から来ているのだよ、皮肉にもこいつのことを表す最も最適な言葉だ、ホログラフィの技術が超スーパーコンピュータマーメイと結びつくことによって、誰でもこいつの真実に近い姿をまじかで見られるようになったのだ」

 「かっては凡人の能力を超越した能力の持ち主にしかその姿を見ることができなかったのが、マーメイによって万人がその姿を見れるようになるとは、まさにマーメイプロジェクト、いや、ルジウェイ建設の成果だ」

 老人は皺で覆われている小さな眼光を目の前のホログラムに向けていた。

 「で、コンタクトはとれたのか?」

 「いえ、それはまだ」とコクトは即答する。

 「そ、そうか、まだか、・・・・・・・」

 ミユーラは何故かほっとした表情をみせた。

 「コクト君、マーメイとの接続を切ってもらえるかね」

 コクトは言葉には出さなかったが疑問の目をミユーラに向けるとミユーラは鋭い視線で睨み返してきた。

 「は、はい」

 コクトはミユーラに威圧される形でマーメイとの接続を切ると、円卓の上に映し出されていたホログラムも消えた。

 「今から話すことはマーメイには聞かれたくないのだ、我々の身の保身のためでもあるが、もちろん君らのためでもある」

 「できればそこの女性にもここを出て行ってもらいたいが、・・・・」

 「それは無理そうだな」

 コクトは椅子に座ると腕を組んでミユーラに対して視線でうなずく。

 ルナは足を組み直すとミユーラに向かって大きく溜息を漏らすと、怪しげな視線を送った。

 「まったく、しばらく逢わないとこうも冷たくなるのですか」

 「ご老体、まさか私をお忘れで?」

 ミユーラは片目を大きく見開いてルナをしばらく直視する、すると体がブルブルと震え始めた。

 「まさか、お前は、・・・・・」

 「なんてことだ」

 「相変わらず、若く、美しい、信じられない」

 「まさに神か悪魔のなせる業だ」

 コクト、オニール、フレアは何のことか理解できずにミユーラとルナを見比べた。

 「あら、あまり気にしないで、彼とは昔色々あった中なの」

 とルナは軽くコクトらの視線をかわす。

 「何がしばらくだ、もう軽く30年は過ぎているぞ」

 ミユーラが怒っている、それに30年前ってルナは一体何歳だよ!とコクトは声には出さないが頭の中で叫ぶ、多分フレアもオニールも同じことを思っているに違いない。

 老齢のミユーラは昔を懐かしむように語り始めた。

 「私が組織の中で頭角を現し始めたころ、有能なビルに出会い育て、ビルはバーンを見出した、私にとって二人は息子と孫の様な存在だ。しばらくするとバーンが私、いや組織の前に例の物を披露すると全てが一変した」

 「それは異星人の残した技術又は超古代の技術が凝縮されたと物質と言われれば誰だって信じてしまう程の異様な輝きを放っていた」

 「我々はをれをブラックダイヤと名称を付け、組織の総力を挙げ解析に挑んでいた、しかし知れば知るほど謎は深まり、これ以上の解析は今の科学力では不可能との結論に至った頃、その女が現れた」

 「今思えば全てが仕組まれている様に感じられる、全てが、・・・・」

 ミユーラは突然我に返った様に鋭い視線をルナに向けた。

 「我々はバーンの提案を受け入れ、ルジウェイを作った、そして全てをバーンに託した、だがバーンの横には常にお前が居た!!」

 老人は息を荒げさらに語りだした、今まで押さえていた物が押さえきれなくなってあふれ出した様だ。

 「恥ずかしながら、ワシもビルもお前に惚れていたんだ」

 「ご老体!」

 ビルは慌てて、ミユーラのこれ以上の台詞を遮ろうとするが、ミユーラは片手を挙げ軽くそれをかわした。

 「ビルに命じてお前のことをいろいろ調べさせてもらったよ」

 「ビルからお前の正体を知らされた時は、腰を抜かしたという表現がピッタリだった、暫く立ち上がれなかったからのう」

 ルナは口元を押さえ軽く笑った、そしてミユーラに優しく質問を投げ掛けた。

 「それで、私は?」

 ミユーラはフレアをコクト、オニールと視線をゆっくりと移していく。3人は老人の次の言葉を待った。

 「ビルはワシが想像もつかないところから、お前の正体をつきとめたのだ、組織の倉庫に数多く残る年代すら特定できていない古い古い古文書の中に記述されていた、古代の言葉で、・・・」

 「ブラックダイヤと名付けた鉱石のことも記述されていた、・・・・」

 老人は急に黙り込んだ。

 「・・・・・・」

 「す、すまないビル、ワシはしゃべりすぎたようじゃ」

 「ご老体の気持ちは察します」

 ビルはしゃべりすぎた老人にコップに水を入れ差し出した。

 「うむ」

 ミユーラはコップの水を一飲みにすると、邪気を払うように咳き込んだ。

 「私が一番知りたいのは」

 「君とフレアはブラックダイヤを消し去ろうとしたそうだが、いったいどれほどの価値があるか認識しているのか?」

 「数十万年にも及ぶ人類の英知が失われることになるかもしれないのだ、その行為は歴史上数万いや数百万の人々を虐殺した指導者の行為よりも罪深きことだとは思わないのか」

 ビルは驚いた自分はそのことは知らなかったからである。

 ルナも驚いてコクトとフレアの方を向く。

 コクトとフレアも二人しか知らないはずの事が、なぜこの目の前の老人が知っているのかと驚く。しかしコクトはそのことを悟られないように、老人に対峙する。

 「古代ローマのネロもそうですが、一般に語り継がれている残忍な話を鵜呑みにする気にはなりません、事実歴史は時の権力とそれを支える人々が自分らの都合の良い様に作り変えられるものですから、・・・・」

 「かって、あいつの力を利用して人々を支配していた連中はどうやって、その力を引き出していたか知っていますか?」

 コクトがそう言うと、5人の委員らは互いの顔を確認し合う様に目を合わせ、頭を横に振る、それが分かるぐらいならブラックダイヤの解析ごときにこんな大規模な都市など作る必要は無いよと、呆れる表情をする。

 その様子を確認するとコクトは話を続けた。

 「日本の政治家で人一人の命は地球よりも重いと言った人がいました、実際はテロリストの要求に答えるしか選択枝が無かっただけへの苦し紛れの言い訳だったかもしれません、実は僕はその言葉の持つ意味が分かるような気がします」

 「言った本人すらその言葉の持つ意味の深遠なる奥深さを本当に知っていたかは疑問ですけど」

 「分かるように説明してくれ」

 ビル・アッカーマンは怒りを滲ませコクトに説明を求めた。

 「誰であろうと、もう、生贄はごめんだ、と言う事です」

 「み、短い」

 オニールが思わずつぶやく。

 「僕とフレアは同メッセージをバーン博士より受け取りました、実際のところまだそのメッセージを消化しきれないでいます」

 「貴方方は知っているのでしょ、あいつの力を利用するには、生贄が必要なことを!生きた人間の生体エネルギーが必要なことを」

 コクトは逆にミユーラを始めとする5人の委員らに向かって迫った、ほとんどの委員らはそれを知っているのか、コクトから視線をそらす。

 数秒の沈黙の後、重い口を開いたのはやはり老齢のミユーラだった。

 「我々は何十年も掛けてブラックダイヤの解析のためにこのルジウェイを作り上げたのだぞ、それを知っていながら、抹消しようと言うのか」

 「・・・・」

 「君はそれを許すのか?」

 ミユーラはルナに尋ねた。

 「君はブラックダイヤの意志を我々に伝えるために存在する巫女ではなかったのか?、我々の古文書には神の意志を伝える巫女が同時に現れる旨の表現が記述されていたぞ」

 ルナは大きく溜息を漏らし一言つぶやく。

 「たぶん、・・・」

 「た、たぶんだとぉ」とミューラ。

 「私も今、全てが理解できたよな気がします」

 「うまくバーンに嵌められたようですよ、彼は命がけで私たちを欺いたのです、全ての因縁を断ち切るために」

 「レイモン教授もまた一役買っていたことになりますね」

 フレアの視線がルナを一瞬捉える。

 ミユーラはテーブルの上に肘を付け両手を絡ませて、ルナに語った。

 「コクトが終わりのアクセスコードを使えば、君の存在自体も消えるのかもしれないのだぞ」


 「ええ、楽しみです」


 「ふーっ、まったく」

 「今までの苦労は一体なんだったのだ、・・・・・」

 老人は背中を車椅子の背もたれに深く沈め下をうつむく。

 「まだ気づきませんか?」

 「何をだ!?」

 「このルジウェイを見て、その可能性を、・・・・」

 「古代の遺物に頼らなくても十分やって行けると思いません?、次なる試練を乗り越えた後の新しい世界に生まれてこれたらと思うと、ワクワクします」

 「そ、そんなもんか、昔なら国王ですらひれ伏す絶大な影響力を持っていた巫女が言う台詞か」

 「だめだった場合はどうするんじゃ?」

 「それはそれで一興かと、・・・・・」

 「滅びるべき者が悪戯に生き残っては、次に控えてるもの達が迷惑です」


 18席しかない広々とした議事堂に緊張感の無い静けさが暫く続くと、老人がそれをゆっくりと破った。

 「ふっ」

 「・・・・・・・・」

 「あっはははははははは」「あっはははははははは」

 「一興か、おもしろい」

 老人は甲高い声を出して部屋中に響き渡るように笑った。

 「よかろう」

 「君らの好きにしたまえ」

 「ルジウェイ最高評議委員会は、ルジウェイの全権をジャン・フィデル・コクトが持つことを容認する、ブラックダイヤも好きにすればいい」

 「よろしいかな?」

 ミユーラは自分を両隣に座っているいる委員らに同意を求めた。

 「ご老体!」と、ビルが慌てて立ち上がると、ミユーラに迫った。

 「コクトに全ての成果を消されてはそれでは我々の立場が危うくなるます、それに今までの成果を全て無駄にするつもりですか!?」

 ビル・アッカーマンは自分の仕えるご老体が歳のせいで錯乱したのではないかと思った。先程ブラックダイヤの解析結果をホログラムで見て、もう少し、あとほんの少しで古代の知識が手に入ると思っていたからだ。

 「ビルよ、自分らは影で世界を動かしていると思っている連中にこれ以上付き合うこともなかろう」

 「世界は案外広い、実際のところ何も思い通りになっていないことに気が付くいい機会だ」

 「まぁ、私もそのセコイ連中の一人だが、・・・・」

 「世界は変わるぞ」

 「問題はマーメイだ」

 「大人しく、・・・」

 ご老体がそう言い掛けた瞬間棲さまし爆発音と衝撃が部屋中を襲った。


 「ドドーーーーーーーーーーーン」


 2回の爆発音が連続して起こり議会棟が大きく揺さぶられた。マクロが最後のミサイルを打ち落とした瞬間のである。

 マクロ、・・・・コクトの脳裏にマクロの姿が映った。


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