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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第41回   ★☆空の攻防☆★

 「放て!」

 前方にルジウェイ空港の管制塔が薄っすらと見えてくると、そのパイロットは無線で全機に命令を出した。

 すると20機の戦闘機からは計40発の巡航ミサイルが次々と放たれた。

 巡航ミサイルは戦闘機との一定の距離を確保すると、ジェットエンジンを点火させ速度を上げルジウェイコアサークルを目指した。

 隊長機は無事全機がミサイルを放ったことを確認すると無線で指示を出す。

 「全機、基地に戻るぞ」

 『カチカチ』『カチカチ』『カチカチ』

 隊長機の命令に対して各機から無線機の切替音が返ってきた「了解」の意味である。

 パイロット間ではありきたりの返信は無線の切替音で済ます場合が多かった。

 ミサイルを放った戦闘機の編隊はアウトサークル内に入るのを避けるように左右に旋回して行く。

 その中で南側に旋廻した編隊の1機の戦闘機のパイロットがルジウェイアウトサークの端に隠れるように待機しているダンプトラックの1団を見つけると。

 「なんじゃありゃ!?」

 若いパイロットは無線機のスイッチを切り替える。

 「ルジウェイアウトサークルの南端に巨大車両群発見」

 「確認してきます」

 若いパイロットは上官の命令を待つことなく機首をアウトサークル南に向けた。

 『勝手な行動は慎め、編隊に戻るんだ』

 「カチカチ」

 若いパイロットは切替スイッチで返事を返すが戻る気は無いらしい。

 「やっぱり、こいつらで機甲師団の横っ腹を突くつもりで待機しているんだ」

 「そうはさせんぞ」

 パイロットは無線機でこのことを知らせようとしたが、敵ミサイルにロックされた時の警告音が機内に鳴り響いた。

 『ビービービー、警告、敵機後方より接近』

 『ビービービー、警告、敵機後方より接近』

 「何!」

 パイロットが後ろを振り向くと1機の小型の戦闘機がピタッと後ろにへばりついていた、その戦闘機には操縦席らしきものは無く胴体の下には2機の空対空ミサイルが取り付けられていた。

 ルジウェイの無人戦闘機である。

 「しまった!いつの間に」

 パイロットは必死に機首を上下左右に向け、無人戦闘機を振り払おうとするが、ルジウェイの無人戦闘機は徐々に距離を詰めてくる、射程可能距離まであと数秒のところまで迫った来た。

 「誰か助けてくれー!!」

 『落ち着け!アフターバーナーを使って振り切るんだ!』

 隊長の指示は若いパイロットの耳には届かなかった。

 無人戦闘機はターゲットが射程内に入ると空対空ミサイルを発射、次の獲物に向け急旋回する。

 確実に仕留めたつもりなのか撃墜の確認をするつもりはない気だ。

 「ドドーーーーーーーン」

 数秒後に無人戦闘機の後方で爆発音がした。

 「くっそっ!」

 『隊長、ルジウェイから別の無人戦闘機の編隊です!!』

 『このままでは機甲師団が餌食にされます、我が隊でかたずけてきます』

 『第2戦闘飛行隊は俺に続けー!』

 『カチカチ』『カチカチ』『カチカチ』と同意を示す切替音が無線で聞こえてくる。

 「バカ!やめろ!引き返せ」

 この編隊の隊長はワゲフ将軍から絶対にルジウェイの無人戦闘機とドックファイトはするなと釘をさされていた。

 ルジウェイの無人戦闘機は速度と航続距離は貧弱だが、ドックファイトに関してだけは極端に最適化されているのだ。

 しかし仲間の機が目の前で打ち落とされて冷静でいられるパイロットは少なかった。

 第2戦闘飛行隊の4機の戦闘機が反転し後方から迫ってくるルジウェイの無人戦闘機に向かって勝負を挑んでいった。

 無人戦闘機の数は20機である、クレイは総力戦で挑むことを決断したようだった。

 あれほど将軍からドックファイトは避けろと命令されているとはいえ、彼らを見捨てることはできない、・・・・。

 「くっそ!」

 「全機ルジウェイ無人戦闘機の迎撃に向かえ!1機でも多く撃ち落すんだ!!」

 『カチカチ』『カチカチ』『カチカチ』と同意を示す切替音が聞こえてくる。

 上官の決断を待ちわびていた多くの機も反転し無人戦闘機との対決に挑んだ。


 同時刻ルジウェイコアサークルにある治安局地下100メートルの作戦室では、・・・。

 低空で向かってくるミサイルを打ち落とすなんて、不可能に近いことをクレイは知っていた。

 無人戦闘機は極端に作戦範囲が限られているため、敵が巡航ミサイルを発射する直前でドックファイトに持ち込もうと、無人戦闘機の発進をギリギリの線まで待って迎撃に向かわせていたのだ。

 逆にモルタニア側は無人戦闘機の作戦範囲ギリギリの外からミサイルを放った、ほんの数秒の差でクレイの思惑は挫折していた。しかし。

 人間は所詮感情の生き物だ・・・・、このまま引き返せば成果のみを引っさげて帰れるものを、わざわざ自ら墓穴に入り込むなんて・・・・・。

 無情にもモルタニア軍の放った40機の巡航ミサイルの航跡は無人戦闘機の上空を通り過ぎ、コアサークルへ向かって高速で飛行して行った。

 頼みは自律防衛システムか、・・・。だが彼らにも責任は取ってもらうぞ。

 「無人戦闘機班、モルタニア軍機を全て打ち落とせ!」

 クレイが座るコマンダー席左側には無人戦闘機に指令を送るコントロール席が設置されていた。そこには5人の作戦主任がクレイの命令を待っていた。

 「了解」

 「よし!全機にドックファイトの命令を送れ」

 「1機も逃がすなよ」

 「おう!」

 5人の作戦主任は各自の作戦用端末に向かうと、モニタに映しだされている自分が担当する機のアイコンにペンで触れ確定すると、次に向かってくるターゲットの機のアイコンに触れた、すると互いのアイコンが緑の線でつながり点滅する。

 その次にモニタ横に表示されているファイトと記されたボタンに触れると緑の線が赤に変わり「ファイト開始」のメッセージが表示された。

 その要領で全てのモルタニア軍機がターゲットとして割り当てられていく、もちろん他の作戦主任の割り当ても自分のモニタ上に映し出されるためターゲットが重複することはなかった。


 『陽子ビーム発射5秒前』

 何の前振りもなく突然男性の太い声を合成した人工音声が作戦室内に響き渡った。

 そして同時にコアサークルに設置されている4本の通信塔の天辺では、三角形の屋根が二つに割れ直径1メートルの丸い球体をした陽子ビームの発射装置が現れた。

 球体の中間部分は平面に切り取られていてその中心に10センチの穴が空いていた、そこは限りなく光の速度までに加速された大量の陽子が放たれる場所である。

 『4,3、2,1』

 『陽子ビーム発射』

 一瞬4本の通信塔の天辺に設置されている陽子ビーム発射装置の中心点が光った。

 メインパネルに映し出されている40機の巡航ミサイルの光点のうち、4つの光点が消滅した。

 「め、命中したのか?」とクレイ。

 『第二波発射まで後10秒』

 自律防衛システムは人口音声で機械的に経過を告げ始めた。

 『9,8、7,6、・・・・』

 作戦室にいる全員が1秒1秒がこれ程長く感じられたことは無かった、全員がメインパネルのミサイルの光点を凝視していた。

 『クレイ、コアサークルに配備している歩兵ロボットの全ての火器を自律防衛システムの火器管制システムの配下に移します』

 『許可を』

 「わ、分かった、許可する」

 『了解』

 「クレイ、どういうこと?」とセティが尋ねる。

 「全てのミサイルは打ち落とせないってことだ、打ち落とし損ねたやつは歩兵ロボットの銃器とロケットランチャーに頼るしかないってことだ」

 「あ、あんなのでミサイルが打ち落とせるの?」

 「人間が撃つより数倍は精度がいいはずだ、ミサイルの速度を計算しミサイルの何メートル前に銃弾を放てば命中するか、コンピュータが計算するからな」

 「頼りないけど、凄いね」

 「まったくだ」


 『陽子ビーム発射5秒前』

 『4,3、2,1』

 『陽子ビーム発射』

 さらに4つの光点が消滅した。

 「100発100中じゃない!」

 クレイの横でセティが叫んだ。

 しかし残り32機にのミサイルは既にセンターサークルに入り込んでいた。

 『第三波発射まで後10秒』

 『9,8、7,6、・・・・』


 「クレイ、全てのミサイルが通信塔目指していると決め付けていいの?」

 「それは、マーメイが、・・・」

 「し、しまった!」

 「直に議会棟を守っているルジウェイ警察にこのことを知らせるんだ」

 なんてことだ、俺としたことが、肝心なことを見落とすなんて。

 「マーメイミサイルの攻撃目標が分かるか?」

 『現在のところ通信塔を目指していると思われますが、現時点で目標を特定することは不可能です』

 カウントは機械的に行われていた。

 『陽子ビーム発射5秒前』

 『4,3、2,1』

 『陽子ビーム発射』

 4つの光点が消滅した。

 残り28機、センターサークルからコアサークル手前まで迫ってくる。

 『第四波発射まで後10秒』

 『9,8、7,6、・・・・』


 通信塔の下で待機している歩兵ロボットの銃口と背負っているロケットランチャーが一斉に西の空に向けられた。

 本来は対戦車用の兵器だが、対ミサイル用に使用される世界で始めての事例になるだろう。

 『陽子ビーム発射5秒前』

 『4,3、2,1』

 『陽子ビーム発射』

 再び4つの光点が消滅した。

 残り24機、ついにミサイルはセンターサークル抜けた。


 「議会棟のルジウェイ警察には連絡は!?」

 クレイは右のコマンダー(司令官)をサポートする席に座っているセティに尋ねる。

 「クレイ彼らは全て銃器を全て西の空に向けミサイル攻撃に備えているそうよ」

 「ここと同じ情報を見ているらしいわ」

 セティがそう報告するとクレイは自分の席に深く座り込んだ。

 「そ、そうか」


 『第五波発射まで後10秒、これが最後です』

 『9,8、7,6、・・・・』

 『ミサイルが進路を変えました』

 『陽子ビーム発射5秒前』

 『4,3、2,1』

 『陽子ビーム発射』

 再び4つの光点が消滅した。

 残り20機、ミサイルはコアサークルに入るといくつかのグループに別れ方向を変え意思を持った獣の様に自分の獲物に向かって群れで襲い始めた。

 『陽子ビームでの撃墜は不可能になりました、自律防衛システムの資源を全て歩兵ロボットの制御に回します』

 自律防衛システムのメッセージが作戦室内に響き渡る。

 『ミサイル4機は治安局へ』

 『ミサイル12機は各通信塔へ』

 『ミサイル残り4機は議会棟へ』


 「くっそ!、やはり議会棟もターゲットになっていたか」

 クレイは手を強く握り締め自分の太ももを強く叩いた。

 そのころ議会棟の近くの広場では、マクロは近くにいる2機の歩兵ロボットの背中からロケットランチャーを取り外すと、両手で2機のロケットランチャーを持ち、議会棟の中に走って行く。

 非常階段を一気に駆け上がり議会棟の屋上に出ると、そこには既に武装警察が配置され銃口を西の方向に向けていた。

 突然のマクロの出現に驚く警察官を無視し、巡航ミサイルが来る方向に向かって両手に持っているロケットランチャーを向けた。

 体を張ってでも打ち落とそうとしている様だ。

 「お嬢さん、勇ましいねー、名前は?」

 ロボットとはいえ、こんな小さな女お子が体を張ってこの議会棟を守ろうとしている姿はいやでも周りの警察官達の気持ちを震えた足せた。

 『マクロ』

 『マーメイ親衛隊の隊長よ』

 「へぇーすげぇー」

 『来ましたよ!』

 『私はみんなが打ち落とせなかった最後のミサイルを担当します、私がロケットを発射したら直に伏せてください、破壊されたミサイルの破片が飛んできますから』

 「わかった、頼りにしてるぞ親衛隊長」

 議会棟の西側の広場に6台の装甲車が二手に分かれて配置されていた、20ミリ機関砲の銃口はミサイルが来るであろう西の空に向けられている、但し全ての車両の砲塔にはマーメイ親衛隊の歩兵ロボットが機銃を握り閉めて座っている、マクロがそうさせていた様だ。

 残りの歩兵ロボットはロケットランチャーを2機両手に抱え装甲車の前に立ち、ルジウェイ警察の武装警察は装甲車の両脇から自動小銃の銃口を西の空に向けて構えていた。

 ミサイルが来る方向、高度、速度も把握している、後は正確にミサイルの手前に向け十字砲火を浴びせればかなりの確率で打ち落とせるはずだが、実例は何処にもない、全てが初めてのことである。

 「来たぞ、方向と銃撃タイミングは近くの歩兵ロボットに合わせろ」

 武装警察の隊長が無線で配備に付いてる部下に指示をだしているのが聞こえる。

 議会棟より先に巡航ミサイルの攻撃を受けることになる治安局ビルでは、4機の巡航ミサイルが火の帯を噴きながら襲い掛かる、ミサイルは次々とビルに命中すると巨大な火柱と伴に爆発音を上げた。

 衝撃波が周りの木々を吹き飛ばし、同時に巨大なきのこ雲が濛々と空に向かって湧き出す様に舞い上がって行く。

 ルジウェイ警察は武装警察を全て議会棟に振り向けていたため、治安局は無防備状態だった、オニールは全ての武装警察の戦力を議会棟に振り向けていた。

 「おおーっ」

 「治安局がやられたぞ、・・・」

 「大丈夫かここも」

 地下シェルターに避難していた多くの市民はマーメイプロジェクト広報が流す外の生の映像を見ていた。各国の報道陣も同じ映像を見ている。彼らを通して映像ソースは直に全世界へ配信されていた。

 ランロッドは検閲無しで多くの外の映像を公開するようにしていた、検閲する人も時間も無いのが実際のところだった。


 議会棟の西の上空から4つの火の玉が猛スピードで迫ってくる、全ての装甲車の砲塔が微調整を行うと、一斉に銃弾が放たれた。

 「ダンダンダンダンダンダンダンダン」

 「ダンダンダンダンダンダンダンダン」

 重く鈍い発射音が連続して周りの空気を切り裂く。

 マーメイ親衛隊の18体の歩兵ロボットの銃口からも銃弾が放たれる。

 「ダダダダダダダダダダダダダダダダ」

 「ダダダダダダダダダダダダダダダダ」

 武装警察の自動小銃も巡航ミサイルに向かって撃ち込まれた。

 4機の巡航ミサイルに向かって大小無数の火の塊が迎え撃った。

 マーメイ親衛隊の歩兵ロボットは数秒で弾倉の銃弾を撃ちつくすと、背中のロケットランチャーを巡航ミサイルの進行方向手前に向け、ロケットを放つ。

 数十発のロケット弾が発射数秒で火を噴き巡航ミサイルに向けて飛んで行く。

 4機の巡航ミサイルは数千発の銃弾の雨の中を平然と猛スピードで突き進んでくる。

 ちっ!無理か!?

 武装警察の一人が銃弾を放ちながら強くつぶやく。

 先頭の巡航ミサイルが急にコントロールを失い、地上に激突、その後のミサイルは空中で爆発した。

 残り2機の手前で、歩兵ロボットの放ったロケット弾が一斉に爆発した、発射直前に炸裂モードにしていたようだ、ロケット弾の破片が巡航ミサイルを切り裂いていく。

 弾幕を抜けた1機のミサイルがコントロールを失い、空中を煙を吐き出しながら飛び回ると、急に重力に引き寄せられるように地上に激突した。

 「やった!」

 「まだ一匹生き残っているぞ!!」

 「だめだ!間に合わない!」

 議会棟の西の広場に配備されている武装警察の一人が叫んだ。

 「銃撃止!!、これまでだ、後は議会棟の連中にまかせろ」

 巡航ミサイルは獲物に向かって大きな口を開く様に迫り無数の鋭く鋭利な牙が議会棟を襲い掛かった。

 ミサイルの先端にペイントされたサメの鋭い歯と獲物を捕らえる冷酷な目がはっきりと見えた。

 議会棟の屋上で勇敢にも、自動小銃で向かってくるミサイルに銃弾を浴びせている警察官に対して、マクロが大声で叫ぶ。

 『伏せて!後は私が対応するから』

 マクロは胸のLEDを発光させ周りの人たちに自分の意志を示す、爆発音と銃弾の発射音で声だけでは無理と判断したからだ。

 「伏せろ!」

 「ひぃっ!」

 屋上に配備されていた全員がその場に伏せる、ミサイルはもう数百メートル先に迫っていた。

 マクロは両手に持った2機のロケットランチャーの照準を迫り来るミサイルに合わせ微調整する、左手のロケット弾は直撃モードに設定、右手のロケット弾は炸裂モードに設定された。

 『うるさい子達、黙りなさい!』

 マクロはランチャーのトリガーを引いた。

 「プッシュー」「プッシュー」と2回の発射音が聞こえた。

 マクロが放った2発のロケット弾の推進用火薬が点火したと同時に大爆発が起こった、棲ざましい大爆発が議会棟手前で起こった。

 マクロはコンマ数千万分の1のタイミングでロケット弾を放っていたのだった。

 ミサイルの破片と爆風が議会棟を襲い表面の窓ガラスや外壁を吹き飛ばす、マクロの小さな筐体もそれを真正面から受け吹き飛ばされた。

 マクロの小さな筐体をミサイルの破片と爆風が容赦なく吹き飛ばした。

 4機の巡航ミサイルが目視されてから数秒間の出来事であった、その場にいた人にとっては数時間に思える様な出来事が実際には数秒間で終わっていた。


 4つの通信塔に向かっていた12機の巡航ミサイルは歩兵ロボットが放つ銃弾とロケット攻撃の中を生き延びた数機が確実にターゲットに命中していた。

 3つの通信塔が無残にも崩れ落ち、かろうじて姿を保っている東側の通信塔もその機能は殆ど失われ傾いていた。

 ルジウェイの監視システムの50%機能が失われ、ルジウェイ外部との通信は90%以上がストップした。

 由一外部との通信手段はルジウェイ空港にある通信塔だけとなった。

 地下100メートルにある作戦室でも地上にある治安局ビルが崩れ落ちる振動が感じられた、その場にいる全員が天井を見上げていた。

 「ま、まだ終わっていないぞ」

 「戦闘機班、通信塔破壊による影響は?」

 「クレイ大丈夫だ、アウトサークル沿いに設置されている監視塔で電波は拾える、コントロールに支障は無い」

 「そうか、よかった」

 「セティ、議会棟はどうなってる?」

 「4発の巡航ミサイル全て打ち落とした見たいよ、信じられる?」

 クレイは首を横に振った、そんなことがありえる分けないと。

 「クレイ、メインパネルを見て、確実に情報の更新タイミングが鈍ってるのが分かるわ、通信塔を破壊された影響は免れそうは無いわね」

 「た、確かに」


 戦場はルジウェイアウトサークル東の上空へと移る、そこではモルタニア空軍の戦闘機とルジウェイの無人戦闘機が乱立していた。


 「捉えた!いただき」

 「うっ!?」

 「うわっ、ぶつかる!」

 無人戦闘機をロックしたが無人戦闘機はロックされたことが分かると急にエンジンを逆噴射しその場にとどまった。猛スピードで追撃していたモルタニアの戦闘機と空中衝突寸になった。

 すると無人戦闘機はくるっと旋回しモルタニアの戦闘機の視界から消えた。

 「???」

 「消えた!?」

 パイロットが慌てて周りを見渡すが完全に自分のターゲットを見失っていた。

 『バカ!後ろに付かれてるぞ、直に回避行動を取れ』

 「えっ!?」

 一瞬の躊躇が命取りになってしまった、無人戦闘機の火器管制レーダに捕捉されたことを示す警告音が鳴り響いた。

 『ミサイル接近!回避してください』

 『ミサイル接近!回避してください』

 電子警告メッセージが数回鳴った後に戦闘機の後方で大爆発が起こった。

 「うわっ!」

 戦闘機はコントロールを失い黒い煙を引きずりながら地上に向かって落ちていった。

 「このやろう」「このやろう」

 撃墜されたパイロットに警告を送っていたパイロットは完全にロックされていない状態で無人戦闘機に向かって機銃掃射を行う。パイロットは冷静さを失っていた。

 が無人戦闘機は木の葉の様にモルタニアの戦闘機の放つ銃弾を軽くかわす、まるで早く当てて見ろよとからかうように。

 「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ」

 「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ」

 通常ありえないことだが、偶然にも数初の銃弾が無人戦闘機に命中した、無人戦闘機はコントロールを失い激しく回転しながら地上に落ちていった。

 「ダダダダ、・・・カチカチカチカチ」

 「へへ、やったぞ」

 「ちっ、弾も切れか」


 パイロットの背筋に悪寒が走った。

 『ピィーピィーピィーピィー、ミサイル接近!回避してください』

 警告音と同時に後方で爆発が起こった、パイロットの目の前が一瞬、真っ白になるそして無が訪れる。戦闘機は空中で大爆発を起し木っ端微塵になった。


 戦車の砲塔から上半身を外に出し上空で繰り広がれている空中戦の方を見ているワゲフ将軍の右手には無線機が握られていた。

 「第一戦闘航空団の諸君」

 「ご苦労だった、諸君らの作戦は見事成功した、これ以上の犠牲はモルタニア空軍にとっては大きな損失になる」

 「全機、戦闘空域から離脱しろ、後は地上部隊にまかせろ」


 隊長機のパイロットはワゲフ将軍の無線を聞くと、冷静に周りを見渡して友軍機の数を確認した。

 くっ、だいぶやられたか、・・・・。


 「全機、戦闘空域より離脱せよ」

 「繰り返す、全機、戦闘空域より離脱せよ」



 「将軍、もうしわけありません直に体制を整え直し応援に来ます」

 『いいや、空からの支援はもういい、これで十分だ』

 「イ、イエッサ」

 編隊を指揮していたパイロットも無人戦闘機の運動能力には驚かされていた、確かに無人戦闘機とのドックファイトは避けるべきだったと、改めて自分の判断力の甘さに後悔していた。

 モルタニアの戦闘機が次々と戦闘空域を離脱していく、ルジウェイの無人戦闘機がそれを追撃する様子は無かった。

 「生き残ったのはたった8機か、・・・・」

 「いったい我々は何機の無人戦闘機に損害を与えたのだろうか?」


 地上の建物が完全に破壊された治安局の地下100メートル、作戦室では、ささやかな歓声があちらこちらで起こっていた。

 「だいぶやられたけど、私も飛び跳ねて喜びたいぐらいだわ」

 クレイの横でセティが椅子に深く座り込んだ。

 「同感だ」とクレイそして直に次の指示を出す。

 「戦闘機班は機を収容し直に次の出撃に備えろ」

 「クレイ、燃料はどうにかなるがミサイルも弾薬も、5機分ぐらいしか残っていないぞ、なんせテスト用の備蓄しかしていなかったからな」

 無人戦闘機を制御する班の席からそう返事が返ってきた。

 「分かってる、5機だけでも出撃準備をしておいてくれ」

 「了解」

 今度クレイは前方に陣取る無人戦闘ヘリ班に指示を出す。

 「ヘリ部隊出動だ」

 「了解!全機発進します」

 「ルジウェイ空港に配置している装甲車部隊も出撃しろ」

 「ダンプトラック部隊もだ」

 「モルタニア機甲師団を迎え撃つぞ」

 「おおー!」

 コマンダー席の右に陣取る無人装甲車制御する班からも返事が返ってくる。

 いよいよ地上戦の開始である。

 史上初の有人戦闘機と無人戦闘機の戦いは無人戦闘機の圧勝で終了した。

 いくらドックファイトに特化して作られたルジウェイの無人戦闘機とはいえ、この出来事は世界の戦闘機市場に衝撃を与えることになった。

 それとは逆に数で高速で迫ってくるミサイル攻撃に対して未だに有効な対応策が無いことも再認識することになった。


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