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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第40回   ★☆進撃☆★
 夜明けと同時にモルタニア軍の全車両が唸りを上げ始めた、ルジウェイに向けての進撃が開始されのだ。

 治安局ビル地下100メートルにある作戦室では、クレイを中心に50人のスタッフがその動向を見守っていた。

 マーメイプロジェクトビルのシュミレーションルームとは違い、本物の作戦室は全ての作りで重厚感がある、核爆弾の直撃にも耐えられるような設計がされているらしかった。

 ルジウェイコアサークルにある4塔の通信塔の中の西側通信塔に設置されている赤外線カメラが西の空から近付いてくる熱源を捉えた。

 すると直に4塔の通信塔の高解像度の監視カメラがそこへ照準を合わせ、それぞれの画像を取得し画像解析を行い、作戦室のメインパネルにその情報を送った。

 それをいち早くセティが気がつく。

 「クレイ、空からも来たわ」

 「ヘリじゃないわね、フランス製のミラージュ戦闘機よ」

 「あらら、巡航ミサイルを2個ずつぶら下げてる、早めに対応した方が良さそう」

 「何機だ?」

 「見ればわかるでしょ20機よ、どうする?」

 20機か、まいったな、空軍まで繰り出してきやがったか、・・・・。

 「ク、クレイ、・・・・」

 「どうした?」

 「見て、センターサークルが点滅しだした」

 作戦室の全員が立ち上がってメインパネルの方向に視線を向けた、メインパネルに映し出されているルジウェイを中心に描かれている作戦図に今まで見たことが無いパターンが映し出されていた。

 作戦図のセンターサークルを表す記号が急に点滅し始め時計回りに回転し出したからだ。

 ピンコーン、ピンコーン、ピンコーン

 そして同時に警報も鳴り始める。

 『自律防空システムが起動しました』

 『自律防空システムが起動しました』

 クレイは大声で叫んだ。

 「マーメイ、説明を求む」

 「何だ、今のは!」

 ピンコーン、ピンコーン、ピンコーン

 『自律防空システムが起動しました』

 警報が鳴り止むと、マーメイの声が作戦室全体に響いた。

 『クレイ、現在こちらに向かっている航空機は危険です、危機回避のために備えて自律防空システムが起動しました』

 『このシステムは空からの脅威に対し危険と判断した場合、自動的に防衛体制を取ります、脅威が確実と判断すれば、排除する行動を取ります』

 『その間、人の関与が無くても無条件でプログラムどおりに対応します』

 『それから、・・・』

 『4つの通信塔の防衛にコアサークル内に配備されている歩兵ロボットの一部を当てることを提案します』

 「お、おう」

 「だが通信塔に何があるんだ?」

 『通信塔には通信機器の他にも各種センサーが設置されています、あの塔はルジウェイの目と同じです、あの塔が破壊されたら、監視システムの情報収集能力が半減するでしょう』

 『現在リアルタイムでモルタニア軍の状況が手に取る様に把握できるのは、あの通信塔のお陰なのです』

 「セ、センターサークルが光りだした理由は!?」

 『はい、それは自律防衛システムが使う陽子エネルギーの取得準備です』

 「????」

 クレイには何のことだがピントこない、だが隣のセティの口が信じられないと、ゆっくりと開き、そのまま固まってしまった。

 センターサークルの地下に平行して設置されている世界最大の大型加速器が動き出したのね、レーザー兵器のエネルギー源として加速器を利用しているとは・・・・、まったく、何でもあり?、・・・。

 「マーメイ、あの世界最大の大型加速器は学者連中のおもちゃじゃないって訳?」

 セティはクレイに代わってマーメイに問う。

 『対ミサイル用の防空兵器のエネルギー源としても流用されます、マーメイプロジェクトのシステム統合で現在利用可能となっています』

 「と、言うことはレーザの発射台もあの通信塔にあるわけ?」

 『・・・・』

 マーメイはセティの質問に答えるつもりはないらしかった。セティは特に気にする素振りも見せずにクレイの方を向くと、クレイに進言する。

 「クレイ、直に通信塔に歩兵ロボットを差し向けましょう」

 「た、確かに」

 クレイはマイクを口元に近づける。

 「歩兵ロボット操作班、コアサークルに配備している歩兵ロボットの半数を全て通信塔の守りに回せ、急げ」

 「了解!」

 コマンダー席の右前方に陣取る歩兵ロボットをコントロールする席から返事が帰ってきた。

 20機のミラージュは砂漠の背景に溶け込む様に薄茶色にペイントされていて、地上から1キロ上空をルジウェイに向けてマッハ0.7の巡航速度で飛行でしていた。

 先頭を飛行している編隊のパイロットが無線機のスイッチを入れた。

 「こちらジャッカル、ロングシャーク応答願います」

 「こちらジャッカル、ロングシャーク応答願います」

 『ザー、ザー』

 『ロングシャークだ、ザー、ザー、っていたぞ、よくきた』

 パイロットの呼びかけに、雑音交じりで、太い男の声が返ってきた。

 「後2分程で狩場に着きます、狐はいますか?」

 『もちろんだ、ザー、ザー』

 『予定通り犬を放ったら直に引き返せ、くれぐれも狐の穴に入らないように』

 「ははは、了解しました」

 「ご心配はいりません、ご主人様にばれないうちに直に引き返します」

 『君らの協力に感謝する』

 「光栄です将軍!」

 パイロットは無線を切ると、左右に展開して飛行している各編隊に見えるように人差し指を上げ、ルジウェイ方向へ向け指差した。

 作戦開始の合図である。

 ワゲフ将軍は部隊の先頭を走るT型戦車の戦車長の席に上半身を外に出して座っていた、そこは戦車砲を操作する席でもある。

 ワゲフは戦闘機部隊との交信を切ると、全部隊へ向けての交信に使用する周波数に無線を合わせた。

 「全軍に告ぐ、ワゲフだ、空からの支援も予定通りに行われる、後は諸君らの働き次第だ、検討を祈る」

 「全師団作戦通り展開しろ、作戦行動開始だ!!」

 そう全軍に伝えると部隊の進行方向とは逆の上空を見上げ、戦闘機がルジウェイに接近するのを確認する。そしてそこへ向かって敬礼をすると、上半身を砲塔の中に沈めハッチを閉めた。

 戦車内はお世辞にも快適とは言えなかったが、戦車長、照準手、操縦手、無線手の席が効率良く配置されていた、砲弾の装填は自動化されているため、装填手は居ないがその分のスペースには作戦指揮用のモニタと電子機器が備え付けられていた。

 「さてと、ルジウェイの連中はどう出迎えてくれるのかな、・・・・」

 ワゲフは作戦図の表示されているモニタを戦車の外に設置されているカメラの映像に切り替える、そこには遠くに見えるルジウェイ空港の管制塔がかろうじて映し出されていた。およそ5〜6キロ先だと思われる距離だ。

 ワゲフの率いる機甲師団は、80両の戦車部隊を先頭に、自走式高射砲部隊10両、装甲車部隊190両、軽装甲車両部隊200両、自走砲部隊10両、輸送用トラック200台の順で進軍していた。

 カービンの率いるヘリ部隊はまだ離陸していなかった、カービンは時々腕時計を見ては出撃する時間が来るのを待っていた。その上空を20機のミラージュ戦闘機がルジウェイ方向へ向け通り過ぎていく。

 「まさか、空軍もワゲフ将軍に同調してくれたのか、・・・」

 いまさらながら、叔父であるワゲフ将軍に対するモルタニア軍内での人気には感服したした、もしかしたら大統領以上に信頼されているのでは無いかと、叔父が本気になればこの国だって手に入れることができそうだと思うと、背筋がぞっとするのを感じた。

 「少佐、そろそろ我々も出撃する時間です」

 若い将校が声を掛けてきた。

 「よし、分かった」

 「全員に伝えろ、出撃だ!」

 「イエッサ!」

 カービンはヘリの副操縦席に乗り込むみドアを閉め、シートベルトをすると後会話用のヘッドホンを装着する、そしてパイロットの肩を軽く叩いた。出撃の合図である。

 「ドドドドドドドドドドドドドドド」

 「ドドドドドドドドドドドドドドド」

 「ドドドドドドドドドドドドドドド」

 15機の戦闘ヘリが砂埃を上げ次々と飛び立った、もちろん目標はルジウェイである。


 時はモルタニア軍が動き始める夜明け前まで遡る。場所はセンターサークル内の居住区画にあるフレアのアパート、周りの住民は既に地下シェルターに避難しているらしく人の気配がまったく無かった。

 アパートの前の道路には装甲車が1台停車しており、その周りでは武装したロボットが警戒に当たっていた。

 殺伐とした歩兵ロボットの中に混じって1台の白く丸みを帯びた筐体をした女性型のロボットがあった。マクロである。

 マクロは他のロボットと同じく身動きはしなかったが、周りの状況を探るセンサーは休むことなく周りの状況を監視しているらしく、LEDは一定の間隔で点滅している。その筐体は朝露で濡れていた。

 マクロの頭部がゆっくりと動きフレアの部屋の窓を見つめた。それから全身を震わせ、朝露を払う、それは犬が毛にまとわり着いた水滴を払うような仕草と同じに見えた、人が見ていたら間違いなく笑ってしまいそうな仕草だ。

 『マスター、そろそろ時間ですよ』

 その部屋の中では、・・・・。

 コクトはベットの上で上半身を起して座っている、横を見るとフレアがコクトに背中を向けスヤスヤと寝息を立てていた。コクトはフレアの細く長い髪に手をやり少し持ち上げる、すると髪の毛はさらさらとコクトの掌から流れる様に滑り落ちる。

 いい香りだ、・・・・

 フレアは寝返りをしコクト胸に顔を埋めると、再び気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 コクトは急に思い出し笑いをすると、自分の頭を小突く。

 フレアの部屋に入って、最初フレア、その次にコクトと熱いシャワーを浴びた後、コクトは遠慮してソファーで眠ろうとしたがフレアに「女の子に恥をかかせる気」と怒られ、ベットを指差された。

 コクトはいよいよかと、覚悟を決めフレアの待つベットに潜り込み一戦交えるつもりだったのだが、・・・・。

 フレアはコクトがベットに入ると、大あくびをし、そのまま眠り込んでしまった。

 一人残されたコクトはポカンと呆気にとられたたまま、ベットに取り残された、こんなの有りかよ!どうすればいいんだ?眠れないじゃないか!!と心の中で叫びまくった。

 「眠れた?」

 フレアが半開きの目でコクトを見つめ声を掛けてきた、コクトは少し驚く。

 「め、目が覚めたの?」

 「今ね」

 フレアは眠たそうに目を擦ると、再びコクトの胸に顔を沈める。

 「誰かさんのお陰で、緊張して全然眠れなかったよ!」

 コクトは大いに不満を漏らす。するとフレアはコクトの胸に顔を沈めたまま声を抑えて笑い出した。

 「その割には、いびきがうるさかったわよ」

 「お陰で、私は寝不足」

 コクトは顔を真っ赤にし、頭をボリボリかいた。

 「ご、ごめんなさい、・・・」

 外から何台かの車の音がしてきた、どうやらアパートの前に停車した様だ。

 前後を警察の装甲車両に守られているVIP用の黒塗りの車両の後部座席のドアが開くとオニールが出てきた。

 運転席と助手席からは体格の良い二人の黒いスーツの男が車から降りる、一人はオニールに従うように後ろから付いてくる。もう一人は車の周りを警戒していた。

 VIP用の車両を警護するために前後に停車している装甲車の砲塔には上半身を外に出している武装警察官が20ミリ機関銃の銃口を上空に向け空からの攻撃に備えていた。

 「よっ!マクロ元気か?」

 『おはようございます、長官』

 「俺のことか?」

 オニールは激しく瞬きをすると、自分を指差した。

 『そうです、まだ自覚が足りないようですね、今は実質的にそうなっています』

 「そ、そうか、・・・」

 「で、コクトは?」

 マクロはアパートの方を振り向く。

 『マスターとミセスはそろそろ出てくると思います』

 二人で同じ部屋に一晩か・・・、いいねー。

 オニールは腕を組んでアパートを見上げながらニヤニヤしていた。

 今までバラバラでアパートの周りを警備していた歩兵ロボット達がアパートの玄関の前に集まり整列し始めた。

 『マスターが出てきます』とマクロ

 「お前等は超能力者か?」オニールはマクロに向かって冗談交じりに話す。

 アパートのドアがタイミング良く開くとコクトとフレアが出てきた。珍しくコクトはスーツで正装している、が、安物のスーツらしくあまり見栄えがしない。

 フレアは紺の女性用ビジネススーツで身を固めプラチナブロンドの長い髪はコンパクトに頭の後ろで丸く束ねられている。周りに品格の良さを漂わせていた。

 「マクロ、コクトの服装に関して専用のコーディネータを付ける必要がありそうだな」

 『す、すみません、私の配慮が足りませんでした』

 オニールはコクトに聞こえないようにそうマクロにささやくと、マクロは本当に申し訳なそうに胸のLEDを点滅させた。

 「おはよう、物々しいな」

 コクトは手を軽く上げて上げてオニールに挨拶をするとフレアも笑顔で挨拶する。

 「お、お、おはよう、フレア」

 オニールは慌てて返事を返す。

 『人の奥さんに鼻の下を伸ばさないでください』とマクロはオニールに釘を刺す。

 「わ、分かってるよ!」

 オニールは慌てながらも自分の体制を整えると、コクトとフレアにピシッと敬礼をする。

 「閣下、お迎えに参りました」

 「僕を調子に乗せると有頂天になり直に何か大失敗をしでかすぞ、分かってるだろ」

 コクトが顔を赤らめてそう言うと「?」とフレアがオニールに問いかける。

 それに対しオニールは真顔で答えた。

 「謙遜ですよ、ジャン・フィデル・コクトはそんなちゃっちい器じゃないです」

 オニールは一呼吸置くと続けて話し出す。

 「我がルジウェイ警察にSP部隊を創設しました、今後彼らが常時お二人をお守りします、今日迎えに来ているのは武装警察と二人のSPですが、SPは二人以外にもあと8名の10人体制を敷いていますのでよろしくお願いします」

 オニールはそう言って二人のSPの方を指差すと、二人のSPはコクトとフレアに向かって敬礼をする。

 「マクロ、今までご苦労さん助かったよ、もう本来の任務に戻っていいぞ」

 オニールは労いの意味も込めて、マクロに向かってそう言うとマクロは不満そうにLEDを激しく点滅させた。

 『モルタニア軍を追い払ったらそうします、マーメイと直結している私が率いる親衛隊が居ると、マスターも安心でしょ』

 マクロは子供がおねだりするような仕草でコクトの顔を上目遣いで見る、そんなことはあり得ないが、オニールにはそう見えた。

 オニールはコクトとフレアの方を向くと、いつもの笑顔に戻っていた。

 フレアは腰を低くしマクロの視線の位置まで腰を降ろす。

 「マクロ、是非そうしてくれる」

 『はい、ミセスフレア』

 うれしそうに胸のLEDを点滅させるマクロ。

 コクトとフレア、そしてオニールは車に乗り込み、議会棟へ向け出発する、先頭に武装警察の装甲車2台、その次にコクトらの乗った車、しんがりはマクロ率いる歩兵ロボットの乗り込んだ装甲車、その装甲車の砲台にはマクロが上半身を出して周りを警戒していた。

 「ところで委員さん達の方は大丈夫なのか?」

 オニールは右手で拳を作り口元に近付け咳払いをする。

 「んんーっ」

 「他の委員の迎えには別の連中が行っているよ、大丈夫だ」

 「そうか、それは良かった」

 「ふうーっ」とオニールは大きな溜息を漏らす。それから腕を組んで黙り込むと目を閉じる、それから頭を横に振った。

 「分からん」と一言。

 「?」コクトはオニールの方に視線を向ける。

 「何故いまさら委員の連中と話をしなければならないんだ、もうルジウェイの全権は掌握しているんだ、評議会なんて無視してもいいんじゃないか」

 コクトは少し黙ってフレアの方を向いた。

 フレアはコクトと目が合うと首を横にする。

 「確かにそうだが、彼らは僕らがまだ知らない何かを知っている気がする、それを確認しに行く」

 「それにルナも同席する予定なんだ」

 オニールは大きく口を開けてコクトの方を見ると

 「ル、ルナは動けるのか?」

 コクトはゆっくりとうなずく。

 「完全に回復している・・・・、ルナは別の世界から来た人かも知れない」

 「バーン博士と同じ様に、・・・・」

 オニールは固唾を呑み込むと頭を数回横に振った。

 「謎めいた女は魅力的だからなー」

 「惚れてるのか?」

 「お前だって、いつも側にいてそうまんざらではなかっただろう」

 「あら?」とフレア。

 「うっ」「いや、その」

 コクトは少し狼狽する。

 コクトらの一向がセンターサークルとコアサークルを結ぶ橋に差しかかると、2体の歩兵ロボットが橋の入り口を塞ぐように立っていた。

 2体のロボットは状況を把握しているらしく両脇に移動し道を空けた。

 その横を順番にルジウェイ警察の装甲車両2台、コクト、オニール、フレアを乗せた黒塗りの高級車両、しんがりにマクロが指揮するマーメイ親衛隊の乗る装甲車が橋を渡り始めた。

 全ての車両が橋を渡り切ると、コアサークルとセンターサークルを結ぶ橋が地鳴りを上げてゆっくりと水泡を立てて沈み始めた。

 2体の歩兵ロボットは再び橋の入り口の中央に陣取り、装備している小型ロケットランチャーで回りに睨みを効かせていた。

 治安局の地下100メートルにある作戦室で無人戦闘システムをコントロールしているクレイは水路に掛けられている全ての橋に歩兵ロボットを配置し警備に当たらせている様だった。

 議会棟はルジウェイ警察が入居している治安局ビルよりさらに奥の方にあった、そこからは500メートルの高さの巨大な4本の通信塔が良く見える、オリベスクの様にその存在感をあたりに誇示していた。

 コクトら一向は治安局ビルを通り過ぎ、議会棟の近くまでくると、先頭を走ってた2台の警察の装甲車は左右に別れコクトらの乗った車両に道を譲る、その間を黒塗りの高級車と歩兵ロボットが乗った装甲車が通過して行った。

 視点を少し離すと議会棟を取り囲むようにルジウェイ警察の3台装甲車と軽武装のバス10台が配置されている。

 装甲車の砲塔の20ミリ機関砲の銃口は空からの攻撃に備えていた。

 ルジウェイの武装警察の全はここに配置されている様だった。

 コクトらを乗せた車が議会棟正面玄関の前で停車すると、その後のマクロが率いるマーメイ親衛隊の乗った装甲車も停車する。

 車を運転していたSPと助手席のSP二人は素早く降りると辺りを警戒しながら、一人が後部座席のドアを開けた。

 ルジウェイで最も権威のある議会棟、ルジウェイには珍しく3階建てのゴシック様式の重厚な作りの建物であった、コクトは初めてそこに足を踏み入れることになる。

 マクロは装甲車から降りると、コクトらの方に一人で近付いてくる、マクロが乗っていた装甲車はバックし議会棟の正面玄関前の広場に移動して行った。

 『マスタ、私もお供します』

 「それはありがたい、君がいるとマーメイに守られている様で心強い」

 コクトがそう言うと、マクロはうれしそうにLEDを点滅させる。

 「お待ちしておりました、ミスターコクト、何人かの委員は既にこられていますが、後数人の委員がまだです、部屋を用意してありますのでそこでお待ちになってください」

 警備服を着た年輩の議会棟の職員がコクトらを玄関先まで迎えに来ていた、彼も多くの武装警察官と同じ様に地下シェルターへは避難せずに、自分の仕事を最後まで全うするためにここに残っていた。

 コクトは時計を確認すると「まだ約束の時間には早いが、もう来ている委員も居るのか?」と尋ねる。

 「はい、後もう一人女性の方が貴方方が来るのをお待ちしています」

 コクトとオニールは顔を見合わせる。

 「ルナだ」

 コクトがそう言うと、オニールは目を丸くして、急ごうと、顎を前に突き出す仕草をする。

 「案内してくれ」とコクト。

 「こちらです」と年輩の職員はコクトらを議会棟の中へ招き入れた。

 議会棟の廊下の両側の壁には大きな額縁の絵画が等間隔で飾られていた、廊下自体も白と黄金色を基調にした装飾で飾られており、天井もかなり高い位置にあった。

 外見の武骨なゴシック様式からは想像もつかないぐらいの豪華な作りをしていた。

 「こちらの部屋でお待ちください、委員が揃い次第お呼びに参ります」

 年輩の男はそう言って深くお辞儀をすると、先程の玄関の方へと去っていった。

 「お前たち二人はここに居ろ、中には俺が付いていくから大丈夫だ」

 「はっ」

 オニールはSPの二人にそう命令すると、コクトとフレアの肩を押すように部屋に入る、その後を子供の背丈ぐらいのマクロはちょこちょこと付いて行く。

 分厚い扉を開け部屋の中に入ると、大きなテーブルとそれを囲むように木製の椅子が配置されている、テーブルも椅子も頑丈そうで品格のある作りをしていた。

 そして前方には窓から差し込む太陽の光を遮る様に女性の人影があった。その人影がゆっくりと振り向くと。

 「あらっ、かわいいロボットさんね、その格好だと女の子、名前は?」

 マクロの胸のLEDは点滅を通り越して真っ赤に光っていた、マクロは自分の持つセンサーをフル稼働させ、ルナを調べていた。

 『マクロです、ルナ・ルーニックさま』

 「こちらこそ」

 ルナが窓から離れると、太陽の影でよく見え無かったルナの表情がはっきりと確認できるようになってくる。

 「ル、ルナ、大丈夫なのか?」

 オニールは恐る恐るルナに声を掛けると、ルナは笑みを浮かべた。

 「まだ委員さん達が揃うまで時間があるそうよ、コーヒーでも飲まない?」

 「議会棟専属の給仕さん達はみんなシェルターに避難してしまっているから、私が作ったの、少し薄めだけどどう?」

 「頂こうか、・・・」

 コクトは控え室の椅子に腰掛けると両腕をテーブルに載せ、大きなあくびをした。

 「まったく、緊張感のない奴だな」とオニールもコクト横に腰掛ける。

 「ルナ、手伝うわ」

 フレアはテーブルの横にある食器棚から人数分のコーヒーカップを取り出し、テーブルに広げる。

 オニールは手持ち無沙汰に立っているマクロを見ると

 「残念だ、お前の作ったコーヒーも飲みたかったのに」

 『まったくです、タイミングを逃しました』

 マクロはLEDを複雑に点滅させる。

 ふしぎな緊張感のまったく無い、ゆったりとした時間がそこにはあった。


 「知っています?、1994年に木星に彗星が衝突したことを」

 ルナがコーヒーカップを口元に近付け唇の数ミリ手前で止めると、コクトの方をみて話し始めた。

 「ああ、何かの本で読んだことがる」

 「ほんの数名の天文学者は薄々気が付いているみたいだけど、衝突前の木星と衝突後の木星では完全に環境は変わった、木星は光を出すのをやめたの」

 「光?」

 「知らなかった?、木星は太陽の様に光を放出していたのよ、再び光を放つ様になるにはまた数億年の歳月が必要でしょうね」

 オニールとフレアはコーヒーをすすりながら無言でルナの話しに耳を傾けていた。

 「当時多くの人々は幸運な天文ショーに遭遇したと喜んでいたけど、実態はそんな生易しいものではないってこと」

 「・・・」

 「同じことが地球にも起こると?」

 コクトの質問にルナは答えるつもりはないらしく話を続ける。

 「やっかいなことに、これは自然現象ではないの」

 「ははは、宇宙人の仕業とでも言うのか?」

 オニールが冗談交じりにそう言うと。

 「その方が、まだましね」

 「うっ」

 おもわずオニールは身を引く。

 「うまく言えないけど、太陽系規模の世代交代を促すメッセージとでも言った方がいいかしら」

 「世代交代?」

 フレアも気になりだし話しに入ってきた、ルナはフレアに対して深くうなずく。

 「大きな意味でのね」

 「過去の2回は、種としての人類は生き残れたけど、今度のは規模が違う、木星はその巨大さでどうにか崩壊は免れたけど、今度の規模では、・・・・」

 「もう薄々気が付いているいるでしょうけど」

 「あの鉱石の正体は、地球の記憶、人類の種としての記憶と言った方が良いのかしら、次なる試練のための唯一の武器となる可能性を秘めている物よ、どう利用するかは貴方次第、但し利用するにはそれなりの見返りが必要」

 「生贄か?」

 コクトはルナに視線を合わせ何故こんな話をするのか真意を確かめようと、ルナの薄く青く澄み切った瞳の奥を覗き込もうとする。

 「それは昔の話、・・・・、でも無いか、・・・・」

 ルナはいたずらっぽく笑う。

 「次の主役が、また人類だといいですね」

 「地球自体が残っていれば、だけど、・・・・」


 ドアを叩く音がすると分厚い扉が開けられ先程の年輩の議会棟職員が顔を出した。

 「委員が揃いました、議事堂へお願いします」

 コクトが時計を見ると約束の時間ピッタリであった。

 「行こうか、・・・」

 部屋に居る全員が席を立つ、ところがコクトはうつむきながらも胸のLEDを激しく点滅させているマクロに気が付いた。

 「マクロ、どうした、気分でも悪いのか?」

 コクトの問いにマクロの反応が数秒遅れたような感じがした。

 『いえマスター大丈夫です』

 マクロは頭を上げコクトの方を見上げると。

 『マスターすみません、ずーっと付き添っていたかったのですが、私も議会棟の防衛に回る必要があるようです』

 コクトは少し溜息を漏らした。

 「わかった、お前とマーメイのことだ、その方が間違いないってことだろう」

 『すみません』

 マクロはオニール隣に寄り添うとオニールに手招きをする「なんだよ」とめんどくさそうにオニールがしゃがみこんでマクロの口元らしきところに耳を傾けると、マクロは内緒話をするような仕草でオニールの耳元でささやいた。

 『マスターとミセスフレアのことは頼みましたよ、それと外にいる警察官の何人かを使わせてもらいます、いいですね?』

 「わ、わかった連絡しておく」

 オニールはコクトとフレアに向かって大丈夫だ何でもないよと合図を送る。

 年輩の議会棟職員はコクトらを急かす様に咳き込んだ。

 「んんーっ」

 「さぁ早く行きましょう、評議会の委員さん達がお待ちです」


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