ルジウェイ総務局地下駐車場、そのさらに地下にモンヘの私兵らがたむろするアジトがあった。そこは監視システムの監視が及ばない場所となっていた。但しそのことが逆にルナが拘束されている場所の特定を早める結果となった。
コクトらを乗せた地下通路専用バスは、総務局地下100メートルのバス停車位置で停止した。
コクト、ルナ、オニール、そしてマクロと20体の戦闘ロボットはバスから降りると上に上がるれベータに乗り込む。
「なるほど、プライベートエリア以外で監視システムから外れている場所を特定すれば良い訳か、賢いぞ、マクロ」
オニールは腰にぶら下げている銃を抜くと、弾倉に玉が込められていることを確認し安全装置を解除した。
『ルナさんが総務局の外に出た形跡はありません、間違いなくここにいます』
『情報によると、地下の部屋に入る通路は3箇所、今は禁止されていますがこのエレベータでも行けます』
『まずはビル管理システムにエレベータの使用を許可させ、対象となる階へ上がります』
『そして6体の親衛隊で3箇所の通路を確保、4体の親衛隊でこのエレベータを守ります、逃走ルートを塞いだ後に私と残りの親衛隊で突入し中を制圧いたします』
『そしたらルナさんをお願いします』
「わかった、マクロたのむぞ」
コクトはマクロの肩をに手を乗せた。
『はい』
「マクロ、警察の応援は必要ないの?」
フレアが気になってマクロに尋ねると。
『お願いします、私達に逮捕権はありませんから、それから念のため救急車も』
マクロはオニールの方へ視線を移した。
「わ、わかってるよ」とオニールは少し慌てる。
マクロは20体の武装ロボットに赤外線ランプを点滅させ、支持を送った。すると戦闘ロボットは電気ショック銃の安全装置を解除し、戦闘態勢に入った。
エレベータがゆっくりとルナが拘束されていると思われる階で停止した。
エレベータのドアが開くとマクロを先頭に戦闘ロボットが一斉に飛び出した。
エレベータ前のフロアには誰もいなかった、4体の戦闘ロボットはマクロの指示通りエレベータホールを守るように配置に着く、6体の戦闘ロボットは3箇所ある出入り口を確保するために散っていく。
そしてマクロと10体の戦闘ロボットは正面のドアの前で突入体制に入った。
コクトら3人もエレベータから降りマクロらの後ろに立った。
「いよいよ戦争もロボットがする時代になったって訳か」とオニールが銃を構えたままつぶやく。
「それより早く、応援の警察と救急車を手配を頼むよ」
コクトがオニールの胸を軽く叩いた。
「お、おう、そうだった」
そして部屋の中では、・・・・。
ルナの両手は縛られ天井から紐でぶら下げられていた、服はボロボロに引きちぎられて、地肌が所々から見え隠れする。
体中に青黒いアザと血が滲んだ跡が拷問の激しさを物語っていた。
顔も殴られた跡でこの女性が本当にあの洗練された美を誇っていたルナだとは思えないぐらいだった。
唯一均整の取れた体系がこの女性の美しさを保っている。
長身の男は疲れきった様に椅子に腰掛けウイスキーを瓶ごと口に付け喉に流し込んだ。
「ふーっ」
「まったく、この女人間か?」
部屋の中には、中央に両手を縄で縛り上げ吊り下げられているルナとその前で椅子に腰掛ウイスキーを飲んでいる長身の男、そしてドアの横のソファーに身を沈めて眠そうにしているしている二人の黒服の男。
部屋の片隅で机の上で薬を調合しているルジウェイ警察の制服を身にまとった男も一人いた。
ソファーに座っていた男が立ち上げリ大あくびをする。
「おい、今夜中に吐かせろとの局長の命令だぞ」
「お前はただ楽しんでいるだけじゃないのか?」
男はルナに近寄ると、
「こんな良い女を、・・もったいない」
とつぶやきながら。
ルナの体をいやらしい視線で舐め回す。
「うるさい!」
長身の男はウイスキーのビンを投げつける。
「ガシャーン」とウイスキーのビンはルナの足元で割れ、アルコールの匂いが部屋中に漂った。
「おっと、こいつ酔っ払ってやがら」
薬を調合していたルジウェイ警察の服装をまとった男が注射器を持ってルナに近付く。 「モンヘももっと役に立つ部下を回りに置くべきだな」
「やぁ、ルナまだ生きてるか?」
男は注射器の針を上に向け注射器を数回叩き中の空気を抜いた。針からは数滴の液体が流れ出していた。
ルナは殴られて青く膨れあがった目をかろうじて細く空けて男の姿を確認すると
「あら、ジョブズ警部、ワゲフ将軍を裏切って、モンヘと手を組んだの」
「それともワゲフとモンヘが手を組んだのかしら?」
ルナはか細い声でささやくように話す。
「ちっ」
「知っていたのか、何でも見通しってか、謎の多い女だ、・・・・」
ジョブズはルナの腕を掴むと注射器をその腕に刺そうと構える。
「いくらお前が訓練されたスパイでも、こいつには逆らえないだろう」
「全て白状してもらうぞ」
フナは「ふっ」と鼻で笑うと静かに目を閉じた。
「こ、こいつ、・・・」
ジョブズは注射器をルナの腕に刺し込もうとした瞬間に「ドーーーン」とドアが破られる大きな音がした。
『全員両手を頭の上に乗せなさい!!』
『抵抗すると痛い目に逢いますよ』
マクロを先頭に10体の戦闘ロボットが部屋になだれ込むと銃を男達に向けた。
「な、何だ!?」
部屋にいる4人の男達は一瞬驚くが、ジョブズを除く3人の男達は入り込んで来たのが子供の背丈ぐらいのロボットであったため、逆に怒り出した。
「ふ、ふざけるな、たががロボットの分際で人間様に命令する気かーー!!」
長身の男は自分が腰掛けていた椅子をマクロに投げつけると、銃を取り出し、マクロに向かって乱射する。
「ちぃ、しょうがない」とルナをいやらしい目で見ていた男もマクロ達に向かって銃を打ちまくった。
ソファーに深々と座っていた男も、自動小銃を取り出すと武装ロボットに向かって乱射し始めた。
武装ロボットはマクロを銃弾の雨から守る様に取り囲む。
「キン、キン、キン」と銃弾が跳ね返る音と「ダダダダダダダダ」と自動小銃の発射音で辺りは騒然となった。
先頭でまともに銃弾を浴びていた数台のロボットの頭や銃を持つ手が飛散した、いくら戦闘用ロボットとは言っても重量の制限等で、装甲はそう厚くは無かった。
『大人しくする気は無いようですね、しかたありません』
『全員へ、銃撃を許可します』
マクロは赤外線を強く光らせ、戦闘ロボットに攻撃命令を出した。
戦闘ロボットは電気ショック銃を3人の男達に向け連射し、電気を帯びた銃弾を容赦なく浴びせた。
「ダダダダダダダ」「ダダダダダダダ」「ダダダダダダダ」「ダダダダダダダ」
電気ショック銃の銃弾の雨が光の帯を引いて男達に襲い掛かった。
「うわっ」
「ぎゃーーーー!」
「うわわわわわーーーっ」
マクロが手を上げると、武装ロボット達は銃撃をぴたっと止めた。
3人の男達はブルブルと震えたまま床に倒れこんでいた、かなりの電気を帯びた銃弾を浴びているため、「バチ、バチ」と電気が鳴る音が男達の体からまだ聞こえていた。
「ルナ大丈夫か!?」
コクト、オニール、フレアが部屋の中に入ると、ルナの姿のあまりにも酷さに声を失う。
「ル、ルナ」
コクトはルナの顔を両手で優しく撫でるように掴むと涙目でルナを見つめた。
「ひ・ど・い、助けに来るのが少し遅すぎるんじゃないですか、・・・」
ルナは微笑みながらそう言うと気を失い、ぐったりとした。
「ご、ごめん、もっと早く助けに来るべきだった」
とコクトは泣きそうな声でささやく。
「!」
オニールがルナの背後で一人の男が立っているのに気が付く。
「誰だ!抵抗すると撃つぞ」
オニールは銃をその男に向ける。薄明かりの中でその男の顔が照らし出されると思わず息を呑んだ。
「ジョブズ警部」
「何故あなたがここに!?」
ジョブズの手には銃が握られていた。
「まったく君らには驚いたよ、ロボットを使って救出にくるとは、・・・・」
「だが、ここまでだ」
「オニール銃を降ろせ、私の銃はそこの綺麗なお嬢さんの頭に向けられている」
「そこのロボット連中もだ!!」
「この距離では確実に命中するぞ」
ジョブズの銃はフレアに向けられていた。
「き、きたねぇー」とオニールは銃を構えている手を震えさせた。
「ジョブズ警部どう言うことです、あなたは我々の味方ではなかったのですか?」
コクトはジョブズの注意を逸らそうと話し掛けるが、ジョブズの銃は確実にフレアを捉えて隙を見せる気配が無かった。
「コクト、君も持っている銃も床に置きたまえ」
「・・・・・」
「わ、わかった」
コクトはマクロから渡された電気ショック銃を床に置いた。
圧倒的にこちらの方が有利な立場のはずだが今は完全にジョブズに押されていた。確実にフレアが殺されると思うと従うしかコクトには選択の余地が無かった。
「オニール君もだ!!」とジョブズが語気を強める。
「わかったよ」
オニールも銃をゆっくりと床に置いた。
と同時に「パン!」と単発の乾いた銃声が鳴った。
「!」
コクト、オニール、フレアの3人は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
3人がジョブズの方に目をやると。
ジョブズ警部の額に電気ショック銃の銃弾が刺さっていた、その銃弾からは発せられる電気がジョブズ警部の全身を震えさせ麻痺させている。
ジョブズの体は震えながらも微妙なバランスで立ち尽くしていた、恐らく本人は何も起こったのか分からなかったであろう。
コクトとフレアの後ろには銃を構えたまま立っているマクロがいた。運良くジョブズの視界からはずれていたようだった。
『まったく、卑劣な人間です』
フレアは緊張が抜け床に座り込んだ。そして大きく溜息を吐いた。
「ふーっ」
「生きた心地がしなかったわ」
「バタン」と音を立ててジョブズがバランスを崩し倒れる。
「頼りにしていたのに、・・・・」
コクトは倒れたジョブズの方を見て肩を落とした。
コクトは腰が抜けたように座り込んでいるフレアを抱き起こす。
オニールはナイフでルナを縛り上げている紐を切り、崩れる様に倒れそうになるルナを両手で抱きかかえた。
『みなさん、救急車と応援の警察が来たようです』
マクロはそう言うと、赤外線ランプを点滅させ武装ロボットに指示を出した。すると戦闘ロボットらは電気ショック銃の安全装置を入れ、破壊された自分らの仲間の残骸を片付け始めた。
「オニール警部補、大丈夫ですか?」
武装した警察官数十人が警戒しながら部屋の中に入ってきた、その後ろから救急隊員も担架を担いで部屋の中に入ってくる。
「怪我人は?」
「彼女を頼む、急いで病院へ連れて行ってくれ」
「はっ」
救急隊員らはオニールに抱きかかえられているルナを優しく担架に乗せた。
「彼らは?」
救急隊員が倒れている3人の黒服の男とジョブズを見てオニールに尋ねた。
「こいつらは警察でなんとかする、とにかく今は急いでルナを病院へ」
「わかりました」
救急隊員らはルナが乗せられた担架を持ち上げ急ぎ足で部屋を後にする。
一人の警察官が倒れているジョブズの顔を確認すると、驚いてオニールへ尋ねた。
「オニール警部補、この方はジョブズ警部じゃないですか?」
「ああ、残念ながら彼はルジウェイを裏切った」
「この男らと一緒にぶち込んでおけ」
「は、はっ」
オニールも信頼するジョブズに裏切られたことにショックを隠せないようだった、複雑な表情で倒れているジョブズを一瞥する。
「オニール、僕らも病院へ向かおうか」
コクトがオニールに声を掛る、しかしオニールは手を上げて断るそぶりをする。
「わりい、コクト」
「俺は署に戻るわ」
「頼りにしていたジョブズ警部がこれじゃ、ルジウェイ警察内部の動揺も相当なもだ」
「これから戻り警察内部を固めてくる」
「とは言っても、こう深夜じゃ起きている連中も少ないだろうけどな」
「コクト」
「何だ?」
「俺に治安に関する全ての権限を与えてくれないか、頼れる人のいなくなった今、俺は本腰を入れてお前のサポートを行いたいんだ」
オニールがまじめな顔でそう言うとコクトはオニールから目を逸らし照れる様に頭を掻いた。
「な、なんだよ、だめなのか!?」
「い、いや」
「お前には既に治安に関するシステムの使用権限は最高レベルに上げている、監視システムでも防衛システムでも、自由に使ってくれ」
オニールは「まったく」と、呆れるように腕を組み溜息を漏らした。
「マクロ、俺の代わりにコクトに付き添ってくれるか?」
マクロは胸のLEDを数回点滅させる。
『了解しました、オニールさん』
マクロはコクトとフレアをの方を向くと。
『マスターコクト、フレアさん、行きましょう』
『車より地下通路の方が早く着きます』
「そ、そうだな」
コクトはオニールに近付き握手を求めた、オニールは一瞬躊躇するが直にコクトの求めに応じてコクトの手を握った。
「ほら、こいつはお前にやるよ」
コクトはヘッドホンとマイクが一体になったマーメイ専用の通信端末をオニールに手渡した。
「コクトお前はどうするんだ、これがないと困るだろ」
コクトはにっこりと笑顔を作るとマクロを指差した。
「マーメイと直結しているマクロがいるから大丈夫だ」
「!」
「そ、そうか」とオニール。
それからとコクトはオニールの耳元に口を近づけささやく。
「僕はルナの件で物凄く後悔している、自分の行動の遅れで被害者が増えることはもうごめんだ」
「今夜中にルジウェイ市民全員を地下シェルターに非難させる」
「マーメイプロジェクトを通してルジウェイ警察に協力依頼をするつもりだ、オニール、ルジウェイ警察の総動員をお願いしたい」
オニールは左眉毛を上げ呆れたような驚きの顔をするが、直に笑った。
「確かに、モルタニアの攻撃が始まってから避難したんじゃ遅いな」
「了解した、全員叩き起こして待機させとく」
「しかし、お前明日は評議会に呼び出されているんじゃ、・・・・」
コクトは大きく溜息を漏らす。
コクトは握手していた手を離すと両手を広げて、しょうがないさと。
「モルタニア軍が評議会棟に砲弾を打ち込まないことを祈ってくれ」
オニールは苦笑する。
「わかった、明日は俺も評議会ビルへ駆けつけるよ」
オニールはコクトとフレアを守る為にすることはまず、早めに自分がルジウェイ警察全体を掌握することだと、それとルナをあんな酷い目に逢わせたモンヘをそのままにしておくつもりも無かった、絶対に自分の手で捕まえてやると心に強く誓った。
フレアはオニールに近付くと軽くオニールを抱きしめる。
「気をつけてね、オニール」
オニールは顔を少し赤らめる。
「わ、わかてる」
マクロは首を横にしその様子をCCDカメラでじーっと見ていた。
「は、はやく行けよ!」とオニールはマクロに手を振り、急かす。
『了解!』とマクロはオニールに敬礼を返した。
コクトとフレアはオニールを後にしエレベータに向う、その後ろをマクロと武装ロボットが付いて行く。
応援に来た武装警察官らは目を丸くしその様子を見ていた、子供の背丈ほどの武装したロボット軍団が女性型の小柄なロボットの指揮の元一糸乱れぬ行動を取っているのが物珍し様だ。
「さて、署に戻る前にモンヘの野郎をとっ捕まえるか」
「隊長、こいつらの親玉を捕らえに行くぞ」
オニールは親指を立て上を指差した。
「えっ?、だ、誰ですか」
武装警察官を指揮している隊長がキョトンとする。
「総務局局長のモンヘだよ」
「は、はっ」
隊長は驚いたがオニールに敬礼を返す。
組織の上層部の殆どが拘束され指揮系統が混乱しているルジウェイ警察では、実質的にルジウェイを掌握しているマーメイプロジェクトに一番近い位置にいるオニールの命令に重みがあった。
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