「マーメイ、真実が知りたい」
「ブラックダイヤと呼ばれている鉱石の正体は一体何なんだ、そして今はどのような状況になっているんだ?」
「それにバーン博士は何故急にあのような姿でルジウェイに戻ってきた」
「モルタニアの動きもだ、ルナに関してもそうだ」
「僕には全ての動きが仕組まれている様に思えるんだ」
「マーメイ君が知っていることを全て教えてくれ」
『・・・・』
コクトの言葉に対してマーメイの反応は鈍かった。
『おかしなことを聞きますね』
『あなた達二人は全てを知っているはずです』
『その証拠に既に気付いている、そして感じているのでしょう?』
『ただ、まだ心が納得できていないだけなのです』
オニールは慌ててコクトとフレアから遠ざかるように後退りをする。
「おおい、コクト、フレア、意味わかんねよーどうなってるんだ?」
コクトはオニールの方を振り向くと首を横に振った。
そして再び視線を不気味にゆらめく球体の方に戻した。
「ああ、何度か不思議な体験をした」
「ただ光の帯が頭の中を駆け巡っただけで、何一つ具体的な意味は分からないままだ」
「あれだけで全てを理解しろと言うのか」
フレアはコクトの手を握り締めるとコクトもそれに答える様に握り返す。
「マーメイ、私も同じよ」
「一体誰が、何を、私達に伝えたって言うの?」
フレアも少し語気を強めてマーメイに問いただす。
数秒の沈黙後マーメイが答えた。
『バーンです』
「何ッ!?」とコクト。
『確かに私はブラックダイヤと呼ばれる鉱石の解析に利用されました、しかし私の持つ暗号解読システムでもそれは不可能なのです、データとして抽出は出来ましたが、ではそのデータが何を意味する物なのか、機械には到底不可能なことなのです、人にしか理解するこができないのです』
『バーンはそれを貴方達に託したのです』
『コクト、フレア』
『目を閉じ心を沈め、そして静かにバーンからのメッセージを思い出してください』
『私も協力します』
「ここで瞑想でもしろと言うのか?」とコクトは床を指差す。
『・・・・、環境は全て整っています』
フレアは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「やってみましょう」
フレアはゆっくりとまぶたを閉じる。
コクトは大きく溜息を漏らすと、オニールの方を再び振り向く。
オニールはやってみろよっと両手を広げた。
コクトが目を閉じると、照明の光度が段々と落とされて行く、すると周囲が薄暗くなり少しひんやりとした空気が辺りを包んだ。
不思議に花の香りが漂ってくると同時に耳に心地のよい音楽が小さな音量で聞こえ。コンピュータに囲まれた部屋にいる割には、機械の騒音は一切聞こえない、音楽ホールにいる様だった。
「何だ何だ、フロアーの雰囲気が急に変わったぞ」
オニールは腕を組んで周りをキョロキョロ見渡す。
『人が最も集中し易い環境を、マーメイが作り出しているのです』
「マ、マクロ、いつの間に?」
『オニールさん、こちらへ』
「こ、こら」
マクロはオニールの服の袖を掴むと、通路横の小部屋へとオニールを案内する。
小部屋には複数のモニタと中央にテーブル、そして椅子が数脚用意されている、どうやら人間の保守員用に作られた部屋の様だ、しかしここ最近使用された形跡は無かった。
「俺はじゃまだったかな?」とオニールはマクロに声を掛け、椅子に腰掛けた。
マクロは慣れた手つきでコーヒーを入れていた。
『そんなことはありません』
『どうぞ、暖かいコーヒーでもどうぞ』
「あ、ありがとう」
オニールはカップに口を付けるがなかなか飲もうとしない、しきりに鼻で匂いを嗅いでいた。
さすがにロボットの入れた飲み物を直に飲むには抵抗がある、このコーヒー大丈夫か?・・・・・。
『失礼な人、これでもコーヒーコーディネータの資格を持っているのですよ』
『品質は保証します』
マクロは両手を腰に当て不満そうにオニールを見た。
オニールは恐る恐る一口口にする。
「ん、・・・」
「このカプチーノ、確かにうまい!!」
『でしょ』とマクロ。
オニールはコーヒーを口にしながら、モニタに映し出されているコクトとフレアを眺めていた。
「コクトとフレアはどうも重要な使命を背負っているみたいだが、俺は?」
「俺は一体なんなんだ?」
「何でここに居るんだ?、ここはルジウェイでも最も警備が厳しいところなんだろ、俺なんかが入っていいんか?」
オニールは少し寂しさを感じていた。
「おい、マクロ、何とか言えよ」
オニールは少しふて腐れた様にマクロに尋ねる。するとマクロは姿勢を正しオニールに向き直った。
『私の仕事がマーメイを守るのと一緒です』
『マスターコクトとフレアを守るのが貴方の使命です』
マクロは人がまばたきする様にCCDカメラを数回動かす。
「使命?」
『でもこのことは二人には内緒ですよ、あくまでも目立たないように二人を守らなければなりません、もちろん私も全面的に協力するように命令されています』
「誰にだよ?」
『マーメイにです』
「お、おい、マーメイは単なるコンピュータシステムだろ」
「お、お前も、・・・」とオニールはマクロを指差す。
『もちろんそうですけど、その存在には目的を持っています』
『ルジウェイはこれから訪れるであろう未曾有の危機に立ち向かわなければなりません、その中心となるのがマーメイに選ばれたマスターコクトとフレアなのです』
『そして二人を守るために選ばれた戦士がオニールさん、あなたです』
「ごっほ、ごっほ」とオニールは咳き込んだ。
「せ、戦士かよ、・・・・」
『ご不満ですか?』
オニールは首を横に振った。
「いいや、俺にぴったりの仕事だ」
「マクロ、君のお陰でなんかもやもやしていた物が吹っ飛んだよ」
そう言うとオニールはカプチーノを一気に飲み干す。
「しかし、気になるんだが、・・・」
「未曾有の危機って言ったって、コクトはモルタニ軍をちっとも恐れていない様だぞ、大丈夫なのか?」
マクロは首を横に傾け考える仕草をする、人とのコミニュケーションを円滑にするための行動パターンなのかはオニールには検討も付かない。
『・・・・・』
『危機とはモルタニア軍のことでは無いようです、もっと別なことらしいのですが、私もそれ以上の情報は持ち合わせていません』
『多分、マーメイも具体的な情報は持っていないと思います』
オニールはモニタに映し出されているコクトとフレアへ視線を移した。
「コクト、フレア、モルタニア軍の進行以上にまだとんでもないことが起こるらしいぞ、・・・・・・・」
僕の名はジャン・フィデル・コクト、会話型システムマーメイに促されフレアと伴に心を静め僕らが受け取ったと言われるメッセージを聞いている、いや聞いていると言うより感じている。
マーメイの言うように不思議とバーン博士の思念がイメージとして心の底から湧いてい来るように伝わってくる。
レイモンが失敗したのは、全てのシステムがマーメイに統合されていなかったことと、最後まで終わりのアクセスコードを持つ人物を特定できなかったためだった。
そして今回、マーメイプロジェクトによって全てのシステムが統合されつつある、それは鉱石のもつ情報を利用できる環境が整ったことを意味する。
会話型システムマーメイと都市ルジウェイそのものが鉱石の情報を利用するために作られたインフラなのだ。
但し、レイモンは完全に失敗していた訳ではなかった。
実は既にレイモンによって鉱石のエネルギーは解放されていたのだ、目の前にある球状のエネルギー体がそれだ。
今はマーメイが配下の暗号解析用のスーパーコンピュータ数十台をフル回転させ視覚化作業を行っている途中だ、球体が不完全状態で揺らめいているのはそのためらしい。
悪いことに鉱石の一部のエネルギーは別の場所に飛散してしまっていた。
このましいことではない、どのような影響がでるか検討も付かない、早くこのエネルギー体を本来の場所に戻す必要がある。
それが出来るのが終わりのアクセスコードを持つ、ジャン・フィデル・コクト、僕だけらしい。
でもどうやって?
どうやら分散されたエネルギー体はこちらへ向かっている。
モルタニア軍と伴にルジウェイに向かっている。
早くモルタニア軍よりエネルギー体を引き剥がし、自分らのコントロール下に置かなければならない。
それと悲しい事実も知る。
バーン博士は自らの生命と引き換えに得た情報を僕らにメッセージとして伝えたと言う事だ、どうやら謎の黒い鉱石と取引をしたのだ、自分の全てを捧げる代わりに何故、黒い鉱石が存在し自分らの前に現れてたのか、そしてその目的は?。
バーン博士からのイメージは想像を絶する恐ろしいものだった、今それを言葉にすることは難しい、僕もフレアまだ十分にバーン博士の送ってきたイメージを消化できていないでいる。
ただ、言葉に出来る範囲で簡潔に述べると。
この謎の鉱石は与えもするが奪いもする、と。
今までこの鉱石が実体化したことが過去に2回あった、いづれも文明末期だ。
その後地球規模な大変動が起き人々の記憶に微かに文明の痕跡を残し滅び去った。
そして今回が3回目だ。
今病院にるバーン博士はバーンの記憶をもつエネルギー体らしい、実体化しているがいずれ生命エネルギーが無くなり消え去るだろう、どうやら僕らの為に実体化して現れたようだが、生命エネルギーが十分でないため、常に朦朧とした存在のままだ。
ルナの位置付けもはっきりしてきた、ルナは謎の鉱石のエージェントだ、ある目的を果たすために鉱石の一部のエネルギーがバーンと同じ様に実体化しルナを形作っている。
ある目的とは、マーメイプロジェクトを完成させることだ。
ブラックダイヤと呼ばれる謎の鉱石は、与えもするが奪いもすると言ったが。マーメイに統合された全ての情報を奪うつもりなのか、それともマーメイを媒体として人類に英知を授けてくれるのか?、今の時点では判らない。
バーン博士はそれについてのイメージを提供してくれなかったが、恐ろしい光景を僕とフレアに見せてくれた。
その光景とは、・・・・・・・。
今の文明とは違った異なる進化を成し遂げてた文明社会の光景だ、その文明とは神を中心に構築されていた。
それもかなり成熟している文明だ、ブラックダイヤと呼ばれている謎の鉱石が神殿に置かれ異様な輝きを放っていた。
その周りを神官らしき人物らが囲み、鉱石の情報エネルギーをうまく利用しているようだった。
だが現在の我々には受け入れ難い光景も見えてくる。
鉱石は生贄を要求していた、数多くの生贄となる人々の姿がそこにあった。
不思議に自分とフレアもその中に居るような気がした。
どのような形にせよ彼らは鉱石を手に入れ利用している、今の自分達の文明よりある意味進化していた。
若い男女が不気味な輝きを放つ鉱石の前に立たされた、どうやら最初の生贄に選ばれたた様だ。
数人の下級の神官が二人を鉱石の下に深く掘られている穴の中に落とそうとすると、二人は身を翻し逆に下級神官数人を穴の中に突き落とした。
穴に落ちた神官の叫び声は徐々に小さくなり、最後の断末魔が聞こえた後、辺りは静まり返った。
深い穴の底には溶岩のような赤く鈍く光る液体がうごめいていた、そこに落ちた下級神官の姿は既に無かった、まるで生贄となった人を消化している様である。
その上では鉱石が赤みを帯び満足そうに輝いていた。
男は隠し持ってた剣を高々と上げ叫んだ、生贄にされるはずの人々も隠し持っていた剣を取り出すと、神官達に襲い掛かかる。
それを阻止しようと大勢の兵士がなだれ込んで来た、神殿の中は大混乱になった。
若い男女二人は周りの混乱とは別に、一つの剣を二人で握り持ち上げ、不気味な輝きを放つ鉱石に対して剣を振り下ろす。
閃光と同時に叫び声の様な甲高い声が神殿中に鳴り響いた。
神殿の外では大地が鈍い唸り声を上げていた。
次の瞬間大地震と巨大な津波が文明を襲う。
場面が変わると文明の姿はそこには無く、黒く重い雲に覆われた空から白く汚れた雪が降り注いでいる、地上は草木1本も生えていない不毛の大地となって永遠と広がっていた。
全ての人が大地震と巨大な津波で全滅したと思われたが、小高い丘の上に数千人の人々が滅びた文明の跡を眺めている、その中心には先程鉱石に剣を振り下ろした男女の姿があった。
二人の姿に僕とフレアが重なっていた。
人々の顔には疲労はあったが、希望は消えていないようだった。
そして次は、先程とはまったく違った文明の姿が映し出される、人々はツバメの様に洗練された乗り物で大空を縦横無尽に飛び回っていた。
その背後には巨大な浮遊都市が空に浮いていた。
巨大な浮遊都市はそれだけでは無かった、数キロ毎に同じ様な浮遊都市があった。
その中でもひときは大きな浮遊都市の中心にある建物の中に謎の鉱石が置かれていた。
そこえ数人の武装集団が鉱石を奪おうとして、警備の兵士と銃撃戦を行う。武装集団は鉱石を奪うと、数台のツバメの様な乗り物に乗り込み逃走を計るが、あえなく取り囲まれ集中砲火を浴び全滅した。
いや、二人の男女が隙を見て鉱石を持って取り囲んでいる兵士らの乗り物を奪って逃走する。
しかしやがて二人は巨大な空飛ぶ戦艦に追い詰められる。
若い男女は互いに覚悟を決めたよう体を寄せ合うと、巨大な空飛ぶ戦艦に向かって猛スピードでぶつかって行く、すると男の手にある鉱石がすさまじい閃光を放った。
巨大な閃光が光の帯をなびかせながら戦艦にぶつかると大爆発が起こった、若い男女は戦艦もろとも消滅した。
しばらくすると巨大な竜巻が発生し、空に浮かぶ巨大な都市を次々と飲み込んで行った。後にはどす黒い鉛の様な雲と、荒れ狂う荒海の姿があるだけだった、そこには人々の姿は既に無かった。
コクトとフレアはゆっくりと床に腰をおろし、手を繋いだまま床に仰向けになった。
「まるで壮大な人類の創世記とは逆の終末物語を見ていたの?、・・・・・・」
「だけど私は確かにそこにいたし、コクトあなたも」
フレアは手で涙を拭った。
「歴史を繰り返してはいけない、・・・」
「因縁は今回で断ち切ってやる」
とコクトは強く思った。
二人は天井に広がる無数のLEDを眺めていた。そこはまるでプラネタリウムように星々が輝いている。
コクトはフレアに視線を向ける、それに気付いたフレアもコクトの方へ視線を移した。
「フレア、行こうか」
「まずはルナを救出し、そしてバーン博士に逢いに行こう」
「バーン博士が消える前に、・・・・」
「ええ」とフレアはうなずく。
コンピュータルームの明かりが灯ると、コクトとフレアはゆっくりと起き上がった。
「よっ!」
「二人ともいい顔しているぞ」
オニールとマクロが近付いてきた。
『マスターコクト、準備は出来ています』
とマクロが言うと、オニールがマクロの方を振り向く。
「何の?」とオニール。
コクトはフレアと顔をあわせると、呆れるように両手を肩の高さまで上げ、「マーメイは僕らの次の行動を予測していたみたいだ」と、つぶやいた。
それに対しフレアはにこっと微笑を返す。
「マーメイ、君の親衛隊を借りるぞ」
コクトは少し視線を上の方へ向けマーメイに話しかけた。
『はい、マクロが彼らの指揮を取ります』
『マスターコクト急ぎましょう』とマクロはコクトを急かす。
「ああ」
コクトらがコンピュータルームから通路に出ると、そこには武装した20体の戦闘ロボットが両端に整列していた。
その姿形はマクロの丸みを帯びた筐体とは異なり完全に戦闘用にカスタマイズされた筐体をまとっていた。そして彼らの手には電気ショック銃が握られていた。
マクロは近くのロボット兵から電気ショック銃を受け取るとコクトとフレアに渡す、オニールにも手渡そうとすると、オニールは自分の腰の銃を指差し、要らないと断る。
『この銃は電気を帯びた銃弾を100メートル先まで飛ばすことができます、1つの弾倉の弾数は40発で、もちろん連射も可能です』
「殺傷力は?」とフレアがマクロに尋ねる。
『調整できますが、・・・』
マクロはコクトの方を向くと、コクトは首を横に振った。
『了解しました、マスターコクト』
オニールは腰にぶら下げている自分の銃を手で触れ確認する。
「ルナを助けに行くんだろう?」とオニール。
「ああ」
「よっしや、待ってろルナ今助けに行くぞ!」
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