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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第33回   ★☆もうひとつの鉱石☆★
 テントの中の簡易ベットでワゲフは何回も寝返りをしていた。浅い眠りに入ったと思ったら、異様な違和感で目がさめるといったことを繰り返していた。

 「まったく」

 「わしともあろうものが、緊張しているのか」

 「まったく」

 ワゲフはベットから起き上がり座ったまま、朦朧と前を見ていた。

 しばらくすると、段々まぶたが重たくなってくる、再び浅い眠りがワゲフを襲う。

 ワゲフの目の前に異様な空間が現れ始めた、なんだ、こいつは、・・・ワゲフはこれは夢なのかそれとも現実なのかと、朦朧ととした頭で必死に考えようとするが、もはや思考する力はワゲフにはなかった。

 空間はゆらめきながら30センチ四方の大きさまで膨れ上がった、良く見ると空間の中心に黒い物体が徐々に現れ、物質化し始める。

 ワゲフは無意識に手を伸ばし、空間の中に手を入れ黒い物質を掴もうとするが、空間の中の自分手が溶けるようにゆらめき思うように掴めない。

 その間にも空間の中の黒い物質は完全に物質化し、ブラック・ダイヤの様な光沢を放ち始めた。

 くっそ、なぜ掴めないんだ、こいつ、こいつ!とワゲフは夢か現実か考える間もなく必死で自分の手を動かしていた。


 「将軍、カービン少佐です」

 見張りの兵士がテントの外から声を掛けてきた。

 「将軍!」

 なかなか返事が返ってこないため、見張りの兵士がテントのドア部分を開けると

 「うわっ」

 見張りの兵士は腰を抜かし地べたに座り込んでしまった。口は何かを言いたそうに動いてはいるが言葉にはなっていない。

 「どうした?」

 「どけ」

 カービンが腰を抜かした兵士をテントの入り口から退け中を覗くと、思わず目を見開い。

 「どうした、カービン?寝付けないのか」

 「い、いえ」

 「し、将軍のことが心配で様子を見に来たのです」

 「おう、そうか、それはありがたい」

 「心配するな、見ての通り私はすこぶる元気だ、明日が待ちどおしいぐらいだ」

 「もう遅い、カービンお前もそろそろ眠りなさい、明日の為に英気を蓄えておくんだ」

 「イ、イエッサ!」

 カービンは慌てテントの外に出ると、極度に乱れた呼吸を必死になって整えた。額には冷や汗がべっとりと付いていた。

 「少佐!、どうしました?」

 「な、なんでもない!」

 「はぁ?」

 カービンは腰を抜かしてへたり込んでいる兵士の襟元を掴むと

 「このことは他言無用だぞ!」

 「いいな」

 襟元を掴まれた兵士は首を縦に振って意思を示した、まだ言葉が出せないようだった。

 「おい、引き上げるぞ」

 「はっ」

 カービンに連れ添ってきた二人の兵士は、何も理解できないままカービンの後についてワゲフのテントを後にした。

 カービンも理解できなかった、一体叔父さんに何が起こったと言うのだ、ベットに座っていた叔父さんの体全体が薄っすらと光に包まれていた。

 それに対しカービンの本能がこれ以上ここに留まるなと、激しく叫んでいた。

 人知を超えた何かが叔父さんの体と一体化している様に感じたのだ。

 カービンはルジウェイに存在すると言う、ブラック・ダイヤのことを思い出していた、あれと関係あるのだろうか、・・・・・。

 それから歩きながら自分の行動を確認していた、何故自分はあの場所から直にでも逃げ出したかったんだろう・・・・、明日の攻撃を思い止めさせようと叔父さんを説得するつもりだったが、あの場所にいたら自分も取り込まれそうな恐怖を感じた、確かに感じた、なんなんだいったい!?。

 叔父さんはまるで聖者のように落ち着いてベットに座っていたが、もう迷いは無いと言うのか、これも神の御心と言うことなのか。



 そのころコクトは、マーメイプロジェクトビルの地下にある地下通路のホームでモンヘからの連絡を受けていた。

 『君とは、色々話し合いたいことはあるが、もはや私の役割はもう限られているんで余計な事は言わないことにするよ』

 『ルジウェイ最高評議委員会からの連絡だ、明日朝9:00に議会棟で評議会が行われる、君とガールフレンドのフレア、そしてバーン博士の3人も出席させろとの通達が来た、絶対に参加するように、いいね』

 「ああ、もちろん断る理由なんて無い」

 『いいことだ、但し歩兵ロボットで議会棟を取り囲むなんて野蛮なことはやめてくれよ』

 「それは、貴方達次第だ」

 『強気だな、・・・』

 『まぁ、そう言うことだ、明日楽しみにまってるよ』

 「ま、待て!、モンヘ」

 『呼び捨てか』

 「ルナは何処に居る、お前らが拉致していることは分かっているぞ、ルナを返してもらいたい」

 『・・・、あの女狐か』

 『さっきのお前の言葉をそのまま返そう、それはお前次第だ、さっきも言った様に私の役割はもう限られているんだ、明日委員さんらと、お話しすればいい』

 「プッツ」とコクトへの通信が強制的に切られた。

 「モンヘ!」

 コクトは大声で叫ぶが、もはやモンヘには届いていなかった。

 「コクト、ルナの居場所は?」

 オニールがそう尋ねてくると、コクトは首を横に振った。

 「モンヘが明日の評議会にフレアとバーン博士と僕の3人で参加するように言ってきた」

 「さ、3人でか?」

 「危険すぎる、俺が仲間の警察官を引き連れて付いて行ってやるよ」

 コクトはオニールを見ると引きつった笑いを見せた。

 「どうした?いやなのか?」

 「いいや、歩兵ロボットとどっちがいいか考えたら、おかしくなってきた」

 「おまえーーー」

 オニールが怒り出そうするが、地下通路の南方向から3連結のバスがやってきた、今度のバスは完全に密閉型でデザインも丸みを帯びた流線型をしており最初にコクト、オニール、アミアンの3人乗ったオープン型ではなかった、ちゃんとした乗客専用に作られていた。

 バスはホームの横で音も無く停車する。

 短い電子音のBGMが流れて出してきた。

 『ピン、コン、カン、オマタセシマシタ』

 ロボットの運転手の首がくるっと周りコクトとオニールの方向でピタッと止まると、オニールは少し身を引いた。

 運転ロボットがハンドルの横にある操作版にあるスイッチを押す。するとバスとホームの出入口が結合しドアが開いた。

 地下通路の真ん中には人々が乗り降りするホームがあり、その中央にマーメイプロジェクトビルから降りてくるエレベータが配置されていた。

 ホームと地下通路は分厚いアクリル壁で完全に隔離されており、バスの出入口とホームの出入口が結合することにより乗り降りできる構造になっている。

 これは安全性を考慮したリニアを始め地下を結ぶ全ての公共交通機関に共通する構造である。

 「うっ、やっぱこの運転手デザイン考えた方がいいぞ」

 「そうかなー、いいと思うんだが」

 コクトとオニールはバスの最前列、運転手の直後ろの席に腰掛けた。

 「運転手さん、脳科学研究所を経由してマーメイ本体まで連れて行ってくれ」

 『・・・・・?』

 「脳科学研究所経由でマーメイ本体までだー!?」

 「おい、コクト、ルナを助けに行くんじゃなかったのか?」

 「ああ、そうだよ」

 コクトは不思議そうな顔をしているオニールに対して当たり前の様に答えた。

 「途中でフレアを拾ってから、マーメイと対面する」

 「対面って、ルナの救出とどう繋がるんだよ!?」

 コクトは横目でオニールに視線を向ける。

 「ルナを助ける前に、マーメイにルナの正体を確認するんだ」

 「ルナの正体?」

 「・・・・」

 「ルナがどこかの組織のスパイなのか?」

 コクトは首を横に振った。

 「判らない、おそらくマーメイは全てを知っているはずだ」

 オニールは額に手を宛てる。

 「まったく、ルジウェイは謎だらけだ、・・・・」

 「あれぇ、こいつ固まってしまったぞ」

 オニールが運転ロボットの頭を数回叩く。


 「マーメイ、僕に合うのがいやなのか?」


 コクトは運転ロボットを通して、マーメイに話し掛ける。

 『・・・・・』

 『ハッシャシマス』

 運転ロボットが声を出すと、バスがゆっくりとゴムタイヤを軋ませて走り出した。

 「マーメイもお前に逢いたいとさ」

 オニールがそうコクトに話し掛けると「よかった」とコクトは笑顔で返事を返す。

 コクトとオニールが厳重なセキュリティに守られたマーメイ本体を見るのはもちろん初めてである。

 不思議にマーメイ本体の写真すら公開されてはいないのだ。


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