20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第32回   ★☆情報戦☆★
 シュミレーションルームの巨大なメインパネルに映し出されていた、ベトラの姿や報道陣の姿が消えると、そこにはルジウェイのロゴマークと演説用の縦長の机だけが映し出されていて、スピーカからは軽めのBGMが流れている。

 シュミレーションルームのメンバーはベトラの報道によって、初めてモルタニア軍が何故ルジウェイ近郊で大規模な軍事演習をしているかを察した。

 そうだ肝心なことを伝えるのを忘れるところだった、クレイはゲスト区画にいるコクトの方を振り向いた。

 「コクトさん、もう偵察ヘリは2機とも飛行限界時間を超えています、オーバーホール無しでこれ以上飛行させることはできません」

 コクトは腕を組んだ、しかしよくここまで持ったもんだ、前からヘリは部品の消耗が激しい上に保守に時間がかかる、まだまだ改良の余地が大有りか、・・・。

 「よしオーバーホールに回してくれ」

 「はい、・・・」

 「どうしたクレイ、ベトラの報道にショックを受けたのか?」

 ショックを受けなかったと言えば嘘になる、しかし与えられた命令を忠実に実行するように訓練を受けていたクレイにとっての気がかりは、別のところにあった。

 単純な疑問である、モルタニアの圧倒的な戦力にどう立ち向かうかである。

 「よっ、コクト、モルタニア軍の様子はどうだ?」

 オニールがコクトの肩を軽く叩く。

 「オ、オニールか」

 「何だよ、ルナが居ないと寂しいのか?」

 コクトは大きく肩を落として、溜息を漏らした。

 「寂しい」

 第二次マーメイプロジェクトが発足してまだ一ヶ月と数日しか過ぎていないが、その間常にルナはコクトの側に居て的確なアドバイスや各部署との面倒な調整をしてくれた、ルナさえ居ればどんなトラブルがあっても何とか解決できるんではないかと思っていたぐらいだ。

 多少疑う余地はあるが、今となっては自分にとっては無くてはならないパートナーだと思っていた。

 コクトは自分の胸に大きな穴が空いて居るような感じがしていた。

 オニールも同じ様な気持ちらしかった。

 「実は、俺も、・・・」


 「コクトさん、メインパネルの作戦地図を更新します」

 クレイがそう報告すると、記者会見室を映し出していた映像が消え、ルジウェイを中心に描かれた戦略用の作戦地図が映し出された。

 そこにはルジウェイ空港の西10キロ地点に、モルタニア軍の機甲師団が集結されている様子がはっきりと確認できた。

 それを迎え撃つ様に、ルジウェイ空港には10台の無人装甲車と40体の歩兵ロボットの記号が対峙して映し出されている。

 コクトとオニールは視線をメインパネルに向けていたが、頭の中はふたりともルナのことを考えていた。

 「コクト、監視システムでも見つけられないのか?」

 「ああ、今のところ総務局ビルの駐車場でルナの車を見つけてはいるんだが、それ以降はまったく手掛かりが無い」

 「ところでオニール、ジョブズ警部からルナに関する情報は?」

 オニールは両手を広げた。

 「さっぱりだ」

 「そうか」



 「ププププ、ププププ、ププププ」

 作戦システムから警報が鳴り響く、するとメインパネルには、ルジウェイ北西に急に光点が写しだされた。光点はゆっくりとモルタニア機甲師団の集結しているルジウェイに西10キロ地点を目指していた。

 シュミレーションルームは少し慌しくなった。

 「コクトさん!?」コマンダー席からクレイがコクトの方を振り向く。

 コクトは深くうなずく。

 「サブパネルに映像を映します」クレイがそう言うと、メインパネルの右上に設置されている64インチのパネルに妙な形をした飛行物体が映し出された。

 「なんじゃ、この頭でかっちは?」

 オニールが驚いたのには理由があった、一応主翼と尾翼があり飛行機の形はしているがやたら機首部分がやたら大きく膨らんでおりどう見てもバランスが悪い不恰好な形をしていたからだ。

 「コクトさん、こいつはプレデターです」とクレイはサブパネルを見ながら報告する。

 クレイの横の席に座っている女性オペレータは自分目の前に表示されている飛行データを確認しながらクレイの言葉を補足するように説明し始めた。

 「国籍を示すマークも消されている上に識別信号も出していませんが、現れた方向から推測するとエジプトより発進したアメリカ空軍の無人偵察機に間違いありません」

 「一応偵察機と言いましたが、主翼の下にサイドワインダーミサイルをぶら下げています、攻撃能力も備えているようです」

 かってアフガンでこいつにいやというほどお世話になっているんだ、私の目は誤魔化されないわよ。女性オペレータは誰にも聞こえない様に小さな声でささやく。

 「クレイ、もう一つのサブパネルにモルタニア軍の陣地の映像を映し出してくれ、彼らの反応が見たい」


 「イエッサ!」


 コクトがそう言うと、クレイは直に数箇所のパネルの切替スイッチを操作する。そして数秒後に無人偵察機の映し出されているパネルの下にあるサブパネルにモルタニア軍の陣地の様子が映し出された。

 モルタニア軍の陣地がある方向からは車両のライトの光が時々見え隠れするのと、多少砂埃が確認できるぐらいで、無人偵察機には気づいていない様子だった。

 「この暗さだと、肉眼での確認は無理だと思います、それによっぽど性能のいいレーダシステムが無いと見つけるのは難しいですよ」

 クレイの隣の女性オペレータが再度説明してくれた。

 「と言うことは、俺達のレーダシステムは性能がいいってことか?」

 オニールが関心するようにコクトに話し掛けてきた。

 「い、いや、こいつは監視システムのカメラが捉えた映像をシュミレーションシステムが画像解析して、偵察機として判断したんだ、レーダで見つけた訳じゃない」

 「ふぇ?」

 「夜なのにか?」

 「そうだ、暗視カメラに切り替えてな」

 「どこにこんなを映すことができるカメラがあるんだよ?」

 「特定はできんが、コアサークルに立っている4つの通信塔に設置されている監視カメラだと思う」

 「じゃ雨とか、砂嵐の時は使えないっと言うことか?」

 「そうなるな、まぁここは砂漠のど真ん中だ、雨のことはあまり心配しなくていいだろう」

 「そ、そうかぁ」

 オニールは腕を組んで考え込んでいた、何かもう一つ心に掛かるものがあるようだ。

 そうこうしているうちに、メインパネルに映し出されている、無人偵察機はモルタニア軍の真上にさしかかろうとしていた。

 「クレイ、戦闘機の発進準備だ」

 「えっ」

 「お、おい、コクトあいつを打ち落とすのか?」オニールが慌てて聞きなおす。

 「コクトさん、アメリカを敵に回すことになりませんか?」

 クレイも内心驚く。

 クレイの横に座っている女性オペレータが視線をクレイに向けた。

 「クレイあいつはわざと国籍を隠してこっちの様子をさぐりにきているんだ、遠慮することはないよ」

 「セ、セティ」とクレイは彼女の方を振り向く。

 女性オペレータの名はセティ、皮膚の色は浅黒く大きな目のは黒く深く輝いていた、セティはアフガニスタン出身の才女で、クレイと伴にシュミレーションシステムのサブリーダとして活躍している。

 「クレイ、私に任せて」

 セティは立ち上がり、コクトとオニールが居るゲスト区画を見上げた。

 「ボス、プレデターを打ち落としていいんですね?」

 「その前に、えーっと、・・」コクトは女性オペレータの名前が思い出せなかった。

 「セティです」

 「んんー」コクトは威厳を保つように無理やり咳払いをする。

 「セティ、プレデターを打ち落とすには何機必要だ?」

 「1機で十分です」

 「うむ」コクトは深くうなずく。

 「では、クレイ」コクトはセティからクレイに視線を移す。

 「はっ」

 「空港格納庫にある20機の戦闘機のうち19機を専用トレーラでセンターサークル内の各位置に何時でも発進できる状態で分散配置し、そして残りの1機は直にでも発進できる状態で、滑走路で待機だ」

 「そして、プレデターがモルタニア軍上空から、もしこちらに向かってくるようなら、・・・・」

 「セティ、まかせる」

 セティはコクトの視線を受けると口元を一文字にかみ締め、深くうなずく。そして拳は強く握り締められていた。

 コクトはシュミレーションルームにいる全員に向かって語りかけた。

 「今日の記者会見でベトラ述べたように、外部からのいかなる国家及び組織の現時点での介入を拒否する、今回の問題はルジウェイ市民自らの手で解決して見せる、と、そのことを世界に向かって今示さなければ、今度は別の国がちょっかいをだしてくるぞ」

 シュミレーションルームは静まり返ったままだった。

 「クレイ、早速行動に移ってくれ」

 「はい」

 「コクトさん、ルジウェイ警察の格納庫にある戦闘ヘリも分散配置する必要があると思いますが、いかがいたしましょう」

 「もちろんだ」

 「イエッサ!」

 今度は一際大な声で敬礼をコクトに返してきた。

 「分散配置って?」オニールがコクトに不思議そうに尋ねてきた。

 コクトはオニールを横目で見た。

 「一箇所に置いてあると、1発の爆弾で全てがパーになってしまうだろ、それを防ぐためだよ」

 「なるほど・・・、でもよ、ヘリは分かるけど、戦闘機はどうやって飛び立つんだ?、たしかうちの戦闘機は垂直離着陸はできないはずだぞ」

 「んんー」

 コクトは咳払いをした。

 「道路を滑走路代わりに使うのさ」

 「あっ、そうか」オニールは目から鱗が落ちたように手をポンっと叩く。

 そのやり取りを聞いていたクレイとセティは顔を見合わせ苦笑いをしていた。



 プレデターはモルタニア軍上空を数回旋廻すると予定していたようにルジウェイに機首を向けた。

 「少佐、高射砲部隊は今到着したばかりで攻撃にはあと15分ほど掛かかるそうです」

 「ふっ」カービンは呆れるように鼻で笑った。

 「高射砲部隊に伝えろ、目標は去った、時間を掛けてゆっくり確実に明日の攻撃に向け準備するようにと」

 「えっ」

 カービンは暗視装置付きの双眼鏡を目から離すと、ポケットからタバコを取り出し口元に咥えた。伝令できた兵士がライターに火を付けカービンの目の前に差し出した。

 「どうぞ、少佐」

 「うむ」

 カービンはタバコに火を点けると、深く吸い込み、そして煙を空に向かってゆっくりと吐き出す。星空の中に自分の吐き出したタバコの煙がゆっくりと漂っていた。

 ふと視線を下げ、ルジウェイ方向を見ると、ルジウェイ空港のから1機の戦闘機と思われる機体が離陸するのが見えた。

 戦闘機の機体は見えないがジェット機の噴射口から吹き出すジェット機特有の火柱が10キロ離れたカービンのところからも確認できたのだ。そして数秒後にジェット機のエンジン音も聞こえてきた。

 「少佐、こっちに向かってくるのでは?」

 「いや」

 「我々が打ち落とし損ねた目標をご丁寧にも片付けてくれるようだ」

 ルジウェイめ、我が軍に一番不足している航空戦力を見せ付ける気だな。

 しかし、あの数時間前の記者会見で、ルジウェイは世界の注目を浴びている、それによって我々の大儀名分もだいぶ薄れてしまったが、それでも将軍は作戦を強行するのだろうか。




 ルジウェイ空港管制塔には責任者とその部下が残っていた、二人は管制塔の窓から無人戦闘機が離陸するのを眺めていた。

 「チーフ、モルタニア軍に対して夜間爆撃でも加えるんですかねー」

 「そうかもな」

 「あれ?」

 「チーフ見てください、残りの無人戦闘機を乗せたトレーラが格納庫から出てきましたよ、ここから避難するみたいですよ」

 「ああ、その様だな」

 滑走路沿いに並んで待機している、装甲車とその前に展開している歩兵ロボットとそれから無人戦闘機、マーメイプロジェクトの連中は本気で外部からの侵入を実力で阻止するつもりなんだ、あの記者会見で言ったことは脅しじゃないってことか。

 「おい、そろそろ俺達もここから引き上げるぞ、ここが一番最初に戦闘に巻き込まれるところだって、ランロッドとか言うやつも言ってたぞ」

 「はい、チーフ」

 「あれっ、とこれでチーフ待合室で、飛行機を出せって陣取ってる連中はどうします?、みたところお偉いさんが結構いましたよ」

 「もう直ルジウェイ警察が迎えにくるそうだ、それに俺らがパイロットと客室乗務員を連れて引き上げれば、やつらも諦めるだろうよ」

 「ははは、そりゃそうですね」



 「指令、ルジウェイの戦闘機が1機プレデターに接近してきます」

 「プレデターが奴のレーダ波を受けています、攻撃してくる模様です」

 モタニア近海の大西洋に浮かぶアメリカ第六艦隊旗艦マウント・ホイットニーの作戦室が慌しくなってきた。モルタニア機甲師団とルジウェイの偵察のために送り込んだ無人偵察機がモルタニア軍ではなく、ルジウェイによって発見され攻撃を受けようとしていた。

 「ルジウェイの若造どもめ、一人前に空中戦を挑むつもりか」

 「プレデターに迎撃させろ」

 「イエッサ!」

 プレデターのオペレータは、キーボードを慌しく叩き空中戦用の命令をプレデターに送信し始めた。

 「さてと、世界初の無人戦闘機同士の空中戦だぞ、・・・・・」

 「プレデターからの映像は取れるか?」

 「はい、3番のモニターに表示します」

 モニタに映し出された映像はぶれが酷く、映画鑑賞と同じレベルの画像は無理だが、前方にルジウェイの戦闘機と思われる炎の塊が猛スピードで迫ったくるのが確認できた。

 「おっ、消えたぞ」

 「どうなっているオペレータ!?」と司令官が大声で怒鳴った。

 「互いに猛スピードで交差しただけです、早すぎてミサイルのロックが間に合わなかった様です」

 「これから互いに旋回して、先に相手のケツを捉えた方の勝ちです」

 モニタの映像は、暗闇を写しているかと思えば、急にルジウェイの街灯と思われる光の帯を映し出す、今度は地上の砂漠を一瞬写したが、直に暗闇を激しくぶれながら映し出していた。

 プレデターの暗視カメラが捉えている映像だが、はっきり言って見ている人には何が起こっているか理解するには無理だと思われた。

 そして無人戦闘機同士のドックファイトは数分で終了した。

 「あっ!」

 モニタの画面の映像が急にノイズだけになった、プレデターからの信号が途切れたようだった。

 「ミサイルを一発も発射せずに、やられたのか?」

 「・・・・」

 「完敗です、・・・・」とオペレータは小さな声でささやいた。

 「くっそ!、おい、偵察衛星からの情報は後どれくらいで取れる?」

 「指令、4時間後です」

 いくら高性能の偵察衛星があっても、衛星は常に地球上空を周回しているため一箇所に留まることができない、それを補うための無人偵察機なのだが、たった今まそれを失ってしまった。

 「空軍にF-117AXの手配を依頼しろ」

 「指令、撃墜されたプレデターもステルス機能は施されいました、F-117AXを派遣しても恐らくルジウェイに直見つかってしまいます、しかも今度は有人機ですよパイロットの生命を危険にさらすことになりますが良いのですか?」

 「ステルス機が役に立たないのか?」

 「はい」

 「ルジウェイには空港管制用のレーダがあるだけで軍事用のレーダは無いはずです、しかし高性能な監視カメラが常時ルジウェイ上空を監視していると聞いています、ステルス機能など役に立たないことが今さっき証明されたばかりです」

 オペレータにそう指摘され、司令官の顔が真っ青になってきた。

 「それでは海兵隊をルジウェイに送り込むなんて、とんでも無いことではないか」

 「ええ、無謀です」

 「ルジウェイの同意が必要と思われます」


 一方マーメイプロジェクトビルのシュミレーションルームでは、ささやかな歓声に包まれていた。しかしコクトは歓声に浸ることなくアーリに明日に向けて指示を出していた。

 「アーリ明日朝ルジウェイ全土に非常事態宣言を行う、残念だがモルタニア軍はもう目の前に集結しつつある、いつ何時こちらに攻めてきても良い位の距離だ」

 「ベトラが非常事態宣言を行ったと同時に、マーメイがルジウェイの緊急マニュアルに沿って都市機能をコントロールすることになるから、君もベトラも一通り緊急マニュアルに目を通しておいてくれ」

 『は、はい』

 「それと、たった今国籍不明の偵察機を撃墜した、映像を送るから明日の非常事態宣言の後に発表してくれ、映像は全て公開してかまわない」

 『えっ、今ですか?』

 「ああ、事態は刻一刻と進んでいる、まったく気が抜けないよ」

 「そうだ、映像は事前にプレスセンターに残っている報道陣に配るといい、その方がいち早く世界に向け公開できるからな」

 「詳細はマーメイにも記録されている、ベトラにも伝えてくれ、悪いがここ数日が勝負だ、がんばってくれと」

 『わ、わかりました、こちらは大丈夫です』


 『ランロッドさんが伝えたいことがあるそうです、今大丈夫ですか?』

 「ランロッドさんから、・・・」

 「ああ、かまわない代わってくれ」

 「カチッ」と電話機の切替スイッチが押された音がコクトの耳に届いた。

 『コクトさん、ランロッドです』

 「お疲れさん、どうした?」

 『ルナさんの件で情報がありました』

 「ルナ!?」一瞬大声で叫ぶが、口元のマイクを掌で隠すようにランロッドに聞きなおした。オニールはコクトの近くにより聞き耳を立てた。

 「見つかったのか?」

 『いえ、ただ、総務局局長モンヘの秘書官から私宛に連絡がありました、局長室から毛布にくるまれた女性がモンヘの部下によってどこかに連れ去られたらしいと、おそらくルナさんだと言ってました、どうします』

 「・・・・」

 そうか、モンヘか、・・・・

 『ありがとう、後は自分の方で何とかする』

 コクトはスケジュール管理室との通信を切ると、オニールへ視線を向けた。

 「ルナが見つかったのか?」

 「ああ、どうやらモンヘに拘束されているらしい」

 「オニールちょっと付き合ってくれるか?」

 「おおう」

 オニールも早くルナを助けに行きたくてうずうずしていた。

 「その前に、クレイにも重要なことを伝えないとね」

 コクトはゲスト区画からコマンダー席に座っているクレイに向かって声を掛けた。

 「クレイ」

 「は、はい」

 セティと握手をしていたクレイはセティとともにコクトの方に振り向いた。

 「明日朝、タイミングを見てルジウェイ全土に非常事態宣言を行う」

 「いよいよですか?」クレイが目を輝かせていた。

 「ああ」

 「その前に君らシュミレーションチームは全員、今夜中にルジウェイ警察地下にある作戦室に移ってくれ、その時の移動は地下通路を使ってできるだけ隠密行動でな」

 「地下通路?」とセティがクレイを横目で見るが、クレイは首を横に振る。

 「マーメイに道案内を頼むといい、最短コースで人知れず連れて行ってくれるはずだ」
 「心配するな、エレベータで地下に降りれば、ルジウェイ全土に張り巡らされた地下通路がある、マーメイが直に迎えのバスをよこしてくれるさ」

 「わ、分かりました」とクレイは若干不安そうに答えた。

 「それからもうしばらくすると、新たなる戦力が加わることになっている」

 「えっ、援軍でもくるんですか?」クレイが驚いて聞き直してきた。

 「そうだ」

 クレイとセティは信じられないと言った様に顔を合わせた。

 「汎用ロボット組立て工場で新たに組み立てられた歩兵ロボット約1000体と、・・・」

 「んん」とコクトは一度咳き込んで間を取った。

 「ダンプトラック100台が加わる予定だ」

 クレイが口を大きく開けたまま、固まってしまった。

 「ダンプトラック?」

 「凄い!」

 「ボス、ダンプトラックでモルタニア軍のやつらを踏み潰す気ですね」

 セティは直にコクトの考えを理解した様だった。逆にコクトの方が少し身を引くような仕草をする。

 普通ダンプトラックでどうやって戦車と戦うんだと、疑問に思うはずだが、セティはダンプトラックの特性を知っていると言うことか、と。

 「踏む潰すって?」

 クレイがセティに小声で尋ねた。

 「まったく、あんたは優秀な指揮官だけど、頭が固いねー」

 「うっ」とクレイが反応する、コクトの隣に立っているオニールは一人で苦笑いをしていた。

 「ここのダンプトラックはテロや盗賊対策用に主要箇所は鉄板で覆われているから巨大な装甲車と同じなんだよ、それに戦車砲だって、エンジンでも直撃しない限り、2、3発くらっても平気さ」

 「そうでしょうボス!」セティがコクトに同意を求めてきた。

 「ああ」コクトは無理やり作った笑顔で答える。

 「そ、そうか!!」とセティがまた何かに気づいた。

 「今度はなんだよ」

 クレイが少しむっとしてセティに尋ねが、セティはそれを無視する様に再びコクトに怪しげな笑顔を向けた。

 「モルタニア軍より風上からダンプトラックを向かわせれば、モルタニア軍は砂埃で視界が効かなくなり、・・・・・・・」

 セティはモルタニアの戦車が踏み潰される様子が頭に浮かんでしまったのだろう、身震いして言葉を途中で止めた。

 「少し残酷すぎません?」

 クレイはセティとコクトの二人の顔を交互に見比べた、どこからこんな発想が浮かんで来るんだよと無言で目を丸くしていた。

 「だから、さんざん警告しているんだ!」

 コクトはセティに向かって掌をを広げた。

 そう言うこと、・・・セティもコクトがわざと挑発しているのでは、と少し疑っていたが、たった今全てが理解できたような気がしてきた。

 「セティ」

 コクトが落ち着いた声で、セティを呼んだ。

 「は、はい」

 「ダンプトラックを襲撃したことがあるのか?」とコクトは声の調子を変え、いたずらぽっく尋ねた。

 「ま、まぁさかー!」とセティは隣のクレイの頭を叩く。

 「何で私を叩くんだ!」クレイが怒ってセティに詰め寄った。

 「冗談だよ」

 とコクトは笑ってどうにかその場を収める。

 内心セティはドキッとした、たしかに自分の知り合いが、テロリストと関係ありそうな連中に誘われてダンプトラックを襲撃した話を何回か聞かされてことがあった。

 だいぶ誇張されていた話だけど、その人曰くあまりにも巨大な大きさにまったく手出しができなかったらしい。

 セティはそっと胸を撫で下ろした。


 「コ、コクトさん、無人戦闘システムでどうやってダンプトラックの操作を、・・・・・・・、あっ、そうか」

 「すみません、ダンプトラックを無人装甲車として新たに登録すればいいのですね」

 クレイはコクトに疑問に思ったことを話しているうちに、自分で解決策を見つけてしまった、そのため途中で疑問を確認に変えてきた。

 「段々頭が柔らかくなってきたじゃない」

 セティがクレイの横っ腹を少し小突いた。

 「ああ、その通りだ」

 「今ダンプトラックと歩兵ロボットの準備をシン・ツカヤマのチームが行っている、準備が出来次第、運行管理システムからデータが送られてくるはずだ、そしたらメインパネルに戦力として記号が表示されることになっている」

 「それ以降は、お前たちシュミレーションチームの仕事だ、ちゃんと戦力として取り込んでくれよ」

 「は、はい」クレイとセティが声をそろえて返事をする。

 「僕とオニールはここを離れるが、この通信端末は持っていく、僕の判断が必要な時は何時でも連絡をくれ、・・・・」

 「おっと、忘れるところだった、セティ」

 「はい」

 「ダンプトラックの配置は、明日の天気図を見て、クレイと相談して決める様に」

 コクトは少し微笑を浮かべた。

 「は、はい」

 セティも笑顔で軽く敬礼を返す。

 「では、クレイ、僕が居ない時の判断は君に任す、モルタニア軍も含め、いかなる外部勢力もルジウェイに入れてはならない」

 「後、移動は万が一に備え何人かに分け、警戒の空白時間を作らないようにたのむ」

 「では、次会う時は作戦室だ」

 コクトはシュミレーションルームの全員に向かって敬礼した。

 「イエッサ!」

 クレイは納得したようだ、いつもの切れのいい敬礼で答えてくれた。

 「オニール行くぞ」

 「お、おう」

 コクトは通信端末をポケットに入れると、オニールの腕を掴み急かすようにシュミレーションルームを後にした。


 モルタニア軍はルジウェイ空港西10キロ地点に集結を終了させていた。カービンの指示で全ての車両には擬装用の網が被せられているため、どれだけの戦力が潜んでいるのかわ目視では分からないようになっていた。そして新月の夜の闇がそれを手助けしている。
 野営陣地での明かりの使用は極力避けるようにしているようだが、所々で車両の整備と燃料補給のための明かりが灯っていた。

 カービンは自分のテントの薄明かりの中で分厚いアンテナの付いた携帯電話を片手に誰かと話していた。

 『カービンお前だけでも引き返せ、ワゲフはルジウェイの挑発にまんまと乗せられているだけだ』

 「お父さん、いえ大統領」

 「大勢の兵士を見捨てろと言うのですか?」

 「それにもう明日朝にはルジウェイ占領に向けた作戦は実行されます」

 「大統領お願いです、空軍の支援をお願いします。負けるとは思っていませんが空軍の支援が無ければ我々の被害も尋常ではありません」

 「大統領!」

 携帯電話の向こう側には、カービンの父親でもありモルタニアの大統領でもあるムハメド・ハーンがいた。

 ハーンは少し黙り込んだ。

 『カービン』

 『たとえ空軍の支援があったとしても、無駄だ、いたずらに貴重な戦闘機を消耗させるだけだ』

 カービンの脳裏にアメリカの無人偵察機プレデターがルジウェイの戦闘機に数分で打ち落とされていく様子が蘇ってきた。

 両無人機が互いに交差すると、ルジウェイの無人戦闘機は直に旋回し、あっという間にプレデターの後ろにピタッと付いた、慌てて逃げ惑うプレデターをいとも簡単に一発のミサイルで打ち落としてしまった。

 まるで第一次大戦で活躍した複葉機と、現在の最新ジェット戦闘機の戦いを見ている様だった。

 「アフリカ一の機甲師団でも、ルジウェイには勝てないと言うのですか?」

 『そうだ』

 『たとえ一時的に占領できたとしても、ルジウェイをどう維持できると言うのだ?』

 『直に行き詰ってしまうだろう、カービン良く考えろ』

 『それとも、ワゲフが頼りにしているブラック・ダイヤなどと、オカルトじみた話など信じるつもりか?』

 『・・・・』

 『そ、そうか、カービンお前は既に分かっているのだ、だから空軍の支援を要求してきたんだろ、違うか?』

 「うっ」カービンの胸に父親の言葉が鋭く突き刺さった。

 『昔からおまえは優しい子だった、叔父のワゲフと大勢の兵士を見捨てるなんてお前にはできるはずもない、よく分かっているよ』

 『しかしカービン、決断しろ、ワゲフを殺してでも作戦を中止させるか、それが出来なければお前一人でも引き返せ、これは恥でも何でもない』

 「・・・・」

 「空軍の支援は無いのですね?」

 『す、すまんカービン、モルタニアの最高責任者としてそれはできん、今回の件は軍の一部隊の暴走として処理する』

 『カービン、命は大切にしろよ』

 「はい」

 「忠告ありがとうございました、大統領」

 カービンは携帯の通話を切った。それから拳銃を取り出し弾倉に弾が入っているか確認すると、胸のケースに銃を収める。そしてテントの外に出た。

 「少佐、いかかがなされました?」

 「二人とも、私について来い」

 「はっ」

 カービンはテントの外で警備をしていた二人の兵士を連れ、薄暗い陣中を司令官用のテントに向かって歩いて行く。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 9563