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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第28回   ★☆謎 後編☆★
 エレベータで地下100メートル降りたところに、ルジウェイの誇る巨大加速器の監視室と、その眼下に加速器を制御する加速器コントロールルームがあり、そこには電子機器群が整然と配置されていた。

 ジョブズらは監視室の窓から加速器コントロールルームを見ていた。

 「半年前になるがここの所長レイモンが、武装集団を使ってある情報をここから持ち出そうとしたことがある、しかしそれはコクトによって阻止された」

 「コクトさんが?」

 アミアンはジョブズを見上げた。

 「ああ、恥ずかしながら、ルジウェイ警察は何の役にも立たないどころか、逆に武装集団に協力していたんだ、・・・」

 「まぁ、この辺の話は割愛させてもらうよ」

 ジョブズは少し咳き込んでから、話を続けた。

 「その時レイモンも含めここのスタッフ全員も国外退去処分となって依頼このありさまだ。聞くところによると、世界最大の大型加速器らしい」

 「もう使えないの?」

 アミアンは視線を眼下のコントロール室へ視線を移した。

 「そんなことはない、研究所の概観は銃撃戦でぼろぼろだが、見ての通り中の機械類は無傷だ、ただし新しいスタッフやら学者連中を集めないと無理と思うが」

 「それに今は、評議委員会の命令で、使用が凍結されている、小国の国家予算並みの費用が掛かっているんだが、もったいない」

 「ふーん」

 アミアンはジョブズが何を意図してこんな話をするのかまだピントこなかった。

 「マーメイプロジェクトのメンバーである君には、釈迦に説法かもしれないが、マーメイと連動しているセキュリティシステムには、使う人の属性、つまり何処の誰で、所属はどこで、どこまでの権限が許されているか、と、もう一つ、場所だ。ここでしか利用できない情報も存在するらしい。」

 「私も自分なりに合法、非合法のあらゆる手段を使って、調べているのだが、現在同時平行に起こっている物事を突き詰めて調べていくと、どうも一つの場所に行き着いてしまったんだ。高エネルギー研究所、ここにね」

 ジョブズはモルタニア軍がルジウェイに迫ってきている事実と、その目的について簡単にアミアンに説明する。

 「モルタニア軍はルジウェイに蔓延している不正行為をやめさせるのが目的らしい」

 「その不正行為の裏付けとなる資料を作成したのが、・・・」

 ジョブズはアミアンにじろっと視線を向ける。

 アミアンは驚いて自分を指差した。

 「えっ?、何で?、モルタニア軍?」

 ジョブズは無言でアミアンの肩に手を乗せる。

 「君の作ったリストは今や、ルジウェイ上層部全員の恐怖の対象だ、不思議なことにそのリストがモルタニア側に漏れてルジウェイ占領のいい口実となってしまっている」

 アミアンの顔が真っ青になり、みるみる血の気が引いて行った。ジョブズはアミアンの肩に乗せた手で、アミアンの肩を軽く叩いた。

 「言っておくが、君を責めている訳ではないぞ」

 アミアンの耳にはジョブズの言葉は聞こえていないようだった。

 「私のせいで、ルジウェイが戦争に巻き込まれてしまうの、・・・・」

 「アミアン!」

 ジョブズはアミアンの耳元で語気を強めて叫んだ。

 「は、はい」

 アミアンはうろたえた目線でジョブズと目を合わす。

 「話はこれからだ、よく聞いてくれ」

 アミアンは無言でうなずく。

 「リストはあくまでも口実だ、モルタニアの狙いは、半年前にレイモンが持ち出そうとした情報だ、私が知りたいのがそれが何なのかだ!」

 「コードネームはブラック・ダイヤ」

 アミアンは今にも泣き出しそうになった。

 「そ、そんなの私知らない」

 ジョブズはアミアンの視線の位置まで腰を降ろし、アミアンの頬を両手でやさしく触れ自分の方に向けた、そしてやさしく微笑んだ。

 「もちろん君が知ってるはずがない、その辺は十分かってる」

 「一緒に調べて欲しいんだ」

 アミアンは不思議そうな表情をしジョブズを見つめた。

 「君のことは調べさせてもらった、まったく誰だって君の外見には騙されてしまうよ、MITを主席で卒業し、多くの有名企業や研究機関からの誘いを断って、わざわざこんな砂漠のど真ん中までくるなんて、ここの何処が魅力なんだ?」

 アミアンは目元に少し滲んでい涙を手で拭うと、はっきりとした口調でジョブズの質問に答えた。

 「世界最大の人工知能マーメイに合うためよ」

 ジョブズはアミアンの両肩を力強く握り締めた。

 「心強い、そのマーメイを使って、ルジウェイの謎を解き明かしてくれ」

 ジョブズは立ち上げると、その場にいた3人の部下に向かって命令する。

 「お前たちはここの監視システムを立ち上げ、ビル全体をくまなく警戒してくれ、私は彼女とこの下のコントロールルームに降りて必要な情報の収集作業を行う」

 「分かりました、警部」

 監視室からコントロールルームへ降りるエレベータの中でアミアンがジョブズに尋ねた。

 「何で私なの?マーメイだったら誰だって使えるじゃない、おまわりさんだったら一般の私達が聞けない情報でも聞きだせるんじゃないの?」

 ジョブズは胆を切るように咳払いをした。

 「今まで話したまでが限界だ、後は八方塞」

 「それに、君はコクトによってだいぶマーメイの使用権限が上げられているようなんだ、もしかしたら君ならと思って、ね」

 「でも、なぜ直接コクトさんに聞かないの?」

 ジョブズは溜息を漏らした。

 「それは、・・・・、ルナの存在だ」

 「ルナさん?」

 「ルナ・ルーニック、元総局局長の秘書、現在、コクトの右腕としてマーメイプロジェクトに深く関わってる」

 「常にコクトの側に寄り添い、コクトを監視、誘導しているふうに見えるんだ、彼女が単なるモンヘのスパイなのかそれとも別の目的があるのか、今のところまったく検討が付かない」

 「コクトさんはルナさんのこと信頼しているみたいですけど、もしかして騙されているの?」

 ジョブズは首を横に振った。

 「わからん」


 ジョブズとアミアンがエレベータから降り、加速器コントロールルームに足を踏み入れると、直に不自然さを感じた。

 加速器に関する機器とは思えない脳波読取装置とそのシートが数台あり、加速器を制御する機器類と無数のケーブルで接続されていたからだ。

 そして最も目立つのは天井に設置されている巨大なパネルであった。

 加速器には陽子を磁力の力で光の速さまで加速するためのパイプがあるが、そのパイプから枝分かれするように長く伸びたパイプが、家庭用の冷蔵庫ぐらいの大きさの真空発生装置に繋がっていた。

 真空発生装置には小窓があり、その奥くには小石が置けそうなぐらいの小さな台があった。

 ジョブズは小窓から中を眺めながら独り言のようにつぶやく。

 「素人の俺が言うのも何だが、どうみても素粒子の研究に使われているとは思えんな」
 アミアンは一通りコントロールルームを歩き回った後、分厚い扉の前で立ち止まった、そして背伸びをするようにして、ドアの窓から中を覗き込もうとするが背が低いため、なかなか思うように行かないようだった。

 ジョブズがそれに気づき、近くに合った椅子を引きずりながらアミアンのところに行くと、アミアンを持ち上げ、椅子の上に立たせた。

 「はいよ」

 「あ、ありがとう」

 ジョブズもアミアンと一緒に分厚い扉の窓から中を覗き込んだ。

 「ほ、ほうー、凄いもんだ、これが世界一を誇る加速器の心臓部分か」

 「ビックリ、昔、セルン(ヨーロッパ合同原子力核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)の写真を見たことがあるけど、それと全然スケールが違し、あまりごちゃごちゃしていないね、モジュール単位に組み立てられていて、まるで芸術作品みたいに綺麗」

 そこには巨大な円形状の測定器群であった、測定器群の中心には光の速さまで加速した陽子を粒子と衝突させる筒状の装置があり、それが円形状に配置された測定器群と接続されていた。

 アミアンは椅子から降りると、室内の方へ振り向き、加速器コントロールルームに設置されている不自然な機器類を一つずつ、指差した。

 脳波を測定するような装置、入れたものを解析するような装置、加速器を制御する装置、そして天井に設置された巨大なパネル・・・・・・・・・・。

 そして最後に全てをコントロールするマーメイの端末。

 アミアンがマーメイに興味を持ったのは、まだ小学生の時にマーメイについて子供向けの科学雑誌でたまた読んだことがあるからだった。

 その概要は、第一次、第二次世界大戦で使用された暗号から現在のインターネットでよく使われる暗号、そして最も解析困難な軍事用に使われる暗号の分析及び解読技術を、なんと人間の言葉の解析に応用すると言う、ユニークなこころみが載っていたからだ、著者はフィンレード・アーモンド・バーン博士。

 バーン博士は、もしどの言語でもいい、一つでもそれが可能になったら、地球上より言葉の壁が完全に取り払うことができると断言していた。

 そして未だに解析されていない古代の言語にも応用できるし、文字をもたない一部の限られた部族でしか使用されていない言葉とさえもコミニュケーションが可能になると、最後に締めくくっていた。

 アミアンはその応用範囲を、人間以外の動物やもしかしたら異星人とさえもコミニュケーションができるんじゃないかと夢を膨らませていた。

 本音は友達がいなく、人との付き合いがあまりうまくなかったアミアンは、自分の飼ってた子犬とお話がしたかっただけなのだが、バーンの子供向けの論文は小さな少女の進むべき道にすくなからず影響を与えたようだった。

 アミアンはマーメイの端末の前に立つと電源を入れた、ジョブズもそれに気づきアミアンの所へ歩み寄り、じゃまにならないように後ろに立った。

 数秒後端末のモニタにはマーメイのロゴマークが映し出された。

 アミアンは後ろに立っているジョブズの方へ振り向いた。ジョブズは無言でうなずく。
 「マーメイ、聞こえる?アミアンよ」

 モニタの上部中央にあるCCDカメラのLEDが点滅し始めた。

 『はい、正常に認識されました』

 アミアンは深く深呼吸をしてからモニアに向き直った。

 「この高エネルギー研究所では何が行われていたの?、ごめんマーメイ、少し言葉を変えるわ、どのような研究が行われていたの?」

 『はい、陽子を光の速さまで加速させ、粒子に衝突させ、衝突された粒子からどのような物質が飛び出してくるか、さまざまな測定器で観測し、記録する、研究と言ってよいか迷うところですが、そのような作業が行われていました』

 「うーーーん」

 アミアンは腕を組んで思索する、マーメイはアミアンに分かりやすく簡潔に回答を返してくれたが、それは一般的な内容で、ジョブズとアミアンが聞きたい内容にはほ遠かった。

 アミアン何かを思いついたように手を叩いた。

 「今度は具体的に聞くけど、あの真空発生装置には小窓があって何かが置ける台があるけど、何が置かれていたの?」

 『秘密事項となっています』

 アミアンは苦虫を噛んだような表情になった。

 「じゃ、ここには脳波を測定すると思われる装置が何台かあるけど、なんに使っていたの?」

 『それも秘密事項となっています』

 ジョブズはアミアンが少しイライラしているのに気がつく。

 「じゃ、じゃ、マーメイ、この研究所での貴方の役割は何?」

 『アミアンここでの研究についての情報は全て秘密事項となっております』

 アミアンは目に涙を浮かべて、後ろに立っているジョブズを見上げた。

 「ジョブズさん、ごめんなさい、私、力になれそうもない」

 ジョブズはやさしくアミアンの肩をよしよしと数回叩く。

 「んんー」

 ジョブズは一度咳き込んでからマーメイに尋ねた。

 「マーメイ、ルジウェイ警察のジョブズだが、私が同じ質問をしてもだめなのか?」

 『はい、申し訳ありません』

 「それならマーメイ、ブラック・ダイヤとは何か知っているか?」

 『ジョブズ警部、あなたが一般的な宝石の情報を求めているとは思えません、一般的な回答しかできませんが、よろしいですか?』

 「いや、やめとく」

 『はい』

 「では、マーメイ、ここでの研究成果を知りたい場合は、誰の許可を得ればいいのか?、まさかこれまで秘密事項ではないだろう」

 『ルジウェイ最高評議委員会の全委員の承諾と、フィンレード・アーモンド・バーン博士が認めたエンジニアだけです』

 「では、フィンレード・アーモンド・バーン博士が認めたエンジニアは今ルジウェイに何人いる?」

 『全員強制退去され現在誰もいません』

 ジョブズの頭の中には、レイモンと一緒に強制退去された技術者達のことを思い浮かべた。

 「現在バーン博士はしゃべることもできないそうだ、もし、評議委員会の全員が更迭された場合は、永久にここの情報は誰も知ることはできないってことか?」

 『いえ、その場合は代理権限として、総務局局長の許可があれば知ることができます、この辺の順位は危機管理手順に記述されている通りとなっています』

 「例外は、無いのか?」

 『セキュリティシステムの機能上、例外はありません』

 「セキュリティシステムを無視することは出来ないのか?」

 『ありえません』

 「ジャン・フィデル・コクト、彼でもここの情報を知ることはできないのか?、マーメイプロジェクトの責任者だぞ」

 『その質問にはお答えできません』

 そうか、マーメイは嘘をつくことができない、それをうまく使えば真実に近付くことができるかもしれない、質問の仕方を考えるんだ。

 ジョブズはマーメイとの会話のコツを掴み掛けた気がしてきた、そして少し間を置いてから、再度マーメイに尋ねる。

 「マーメイ、ルジウェイ警察の俺でもここに入れなかったのに、何故、アミアンだとここに入れたのか?」

 『ジャン・フィデル・コクトが許可しました』

 「なっ、なに?」

 ジョブズは、マーメイの言葉に一瞬言葉に詰まった、アミアンは自分の胸元を強く握り締める。

 ジョブズの肩に掛けられている無線機が振動し始めた。ジョブズは無線機を取ると口元に近づけた。

 「ジュブズだ、電波が悪いな、聞こえるか、どうした?」

 『ザー、ザー、警・!大変・す、直・玄関、ザー、ザー、・でくだ・い、囲まれ・した』

 「よく聞こえない、もう一度、言ってくれ」

 『ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー』

 「くっそ!」

 ジョブズはアミアンを見ると

 「何か問題が発生したらしい、ここを出るぞ」

 「は、はい」

 アミアンはマーメイの端末の電源を切ろうとスイッチに手を掛けた。

 「マーメイ、いろいろありがとう、無理言ってごめんね」

 『いえ、こちらこそお役に立てなくて申し訳ありません』

 「じゃね」

 アミアンはスイッチを切ると小走りでジュブズの後を追いかけて行った。

 ジュブズとアミアンが監視室に上がると、そこに居る3人の警察官が監視用のモニタを見て青ざめて立っていた。

 「け、警部」

 「どうした?」

 「これを見てください、このビルが囲まれています」

 監視室の数台のモニタには歩兵ロボットが映し出されていた。

 そして玄関先の広場を映し出されているモニタには、数台の装甲車が停車して機関銃の砲塔を玄関に向けている。

 ゲートの入り口の鍵の掛かった鉄パイプの扉は、その装甲車に踏む潰されていた。突き破ったようだ。

 「何か言ってきたか?」

 「いえ、まだ何も、・・・」

 「よし、お前たちも来い、全員上に上がるぞ」

 「警部、大丈夫ですかね、・・・」

 「大丈夫も何も、あんなのとやりあって勝てるわけないだろ、両手を上げて降参しに行くんだよ」

 「は、はいっ」

 3人の警察官らは少しほっとしたように敬礼を返した。

 ジョブズらが玄関に出ると、4人の警察官が玄関前の広場に停車している10台の装甲車と前面に展開している歩兵ロボットに対し銃を構えていた。

 「こらっ、銃を仕舞え」

 ジョブズは銃を構えている一人の警察官の頭を小突いた。

 「け、警部」

 「銃撃戦でもやるつもりか?」

 「お前たちはここで待機しろ、俺の方で交渉してみる」

 ジュブズは一人で玄関を出て整然と並んで整列している歩兵ロボットと10台の装甲車の方に歩きだした。

 歩兵ロボットまであと10メートルの距離に近付くとジュブズは両手を上げる。

 「この部隊を指揮しているのはクレイか?、見ての通り降参だ」

 すると歩兵ロボットが隊列を崩さずに両側に移動し、真ん中に道を空けると、そこにはコクトとオニールが立っていた。

 「このような場面前もあったな」とオニールはそう言うと呆れる様に笑った。

 「たしかに」とコクトも笑う。


 「えっ、あそこにいるのはコクトさん」

 アミアンは目を凝らして、コクトとオニールを確認すると、うれしさを抑えきれなくなったようで、大きな声で手を振りながら叫んだ。

 「コクトさーーーーーーん!」

 コクトも玄関先に立っているアミアンを見つけると大きな声で叫んだ。

 「アミアン、無事かぁーー!」

 アミアンはコクトが自分のことを助けに来てくれたと知って、目に涙を滲ませ感動していた。

 アミアンの頭の中では、白馬の王子様が騎士を従え自分を助けにきてくれた、と思った様だ。

 「コクトさぁ・・・キャッ」

 アミアンはコクトの方へ向かって走り出そうとしたが、途中で転んでしまった。

 「むぎゅ」

 コクトとオニールは手で目を塞ぐように、それを見ないようにする。

 「痛そう」

 オニールが思わずつぶやいた。

 「コクト行ってやれよ」

 「すまんジョブズ警部の方をたのむ」

 コクトは小走りで、ジュブズのところまでくると

 「すみません、ジョブズ警部、アミアンの様子を見てきます」

 と、言葉を投げかけてアミアンの方へ走って行った。

 オニールはジュブズの前までくると「警部探しましたよ、お迎えに参りました」と、敬礼した。

 ジュブズは笑いだそうになるのを押さえなが「ご苦労」とオニールに言葉を返す。


 「立てるか?」

 「うう、ごめんなさい、コクトさん」

 アミアンはコクトに支えられ立ち上がろうとしたが、どうやら足首を捻挫してているようだった。

 「痛っ」

 「しょうがないな、ほら」

 コクトはしゃがんで背中をアミアンの方へ向けた。

 「いいんですかぁ?」

 「いつまでこのかっこうさせるつもりだ」

 「は、はい、すみません」

 コクトはアミアンを背中に乗せると立ち上がり、ジョブズとオニールの方を見る、オニールがそれに気づきコクトに向かってOKサインをする。

 コクトはうなずくと、ポケットから小型の通信端末を取り出し耳に取り付けると、マイクを口元に近づけた。

 「クレイ、ここはもういい、予定通り装甲車と歩兵ロボットは空港へ向かわしてくれ」

 『イエッサ!』

 『しかしコクトさん、どうやて戻ってきます?』

 「地下鉄で帰るよ」

 『地下鉄、・・・・?』

 『イ、イエッサ、ではお気をつけて下さい』

 コクトは無線機をポケットに仕舞いこんで、アミアンをおぶったままジュブズとオニールの方へ向かって歩き始めた。

 「コクトさん、どうして私がここにいるって分かったんですか?」

 「まったく、普通警備ロボットに対して、自分は何様だから入れろって言うか?」

 「えっ、そ、それは、なんか入れそうな気がしたんです」

 「それに、入れましたけど」

 コクトは体勢を整えるように「よいしょ」と、背中をゆらす。

 「うっ」

 モンヘの部下に殴られて青あざになったところにアミアンの体重が掛かったため、痛みがコクトを襲う、コクトは顔を歪め痛みを我慢する、しまった背中におぶるのはやめとけばよかった、抱っこにすればよかった、・・・・。

 「ぼ、僕が、マーメイに頼んで入れてあげたの、君を助けに行く時間を稼ぐためにね」

 コクトはアミアンの小さな胸の感触が背中に伝わると、うれしいような痛いような、複雑な表情になる。

 「そ、そうだったんですかぁ、・・・」

 「でもジョブズ警部が協力してくれそうだから良かったよ」

 「協力的じゃなかったらどうするつもりだったんだ?」

 ジョブズにも話は聞こえていたようだった。

 「そりゃ、警部、こいつらが怒涛のごとく襲い掛かってきたでしょう」

 オニールが隊列を作って装甲車に乗り込む歩兵ロボット達を指差す、ジュブズは大きく肩を落とした。

 「それは、考えただけでも恐ろしいことだ」

 「あれっ?」

 「なんでジョブズさんが協力的って分かったんですか?」

 アミアンは肝心なことを聞き漏らすところだったと思った。

 「監視システムを使ったのか?」

 ジョブズがコクトに尋ねると、コクトは無言でうなづいた。

 「アミアンが行方不明になったと分かってからは、自分も生きたここちがしませんでした、考え付く限りのあらゆる手段を使いました」

 「それよりジョブズさん、僕達を近くの地下鉄の駅まで送ってくれませんか?足が無いんです、それに直射日光もきつくなって来ました」

 ジュブズは辺りを見渡すと、確かに、コクトらが乗ってきた装甲車は歩兵ロボットを乗せると次々に出発して行き、残りの一台も最後の歩兵ロボットを積み込み終わるところだった。それに緊張していて気づかなかったが確かに直射日光はきつかった。


 高エネルギー研究所の玄関前の広場には既に10台の装甲車は無く、ゲートの外では2台の警察車両が動き始めたところだった。

 「なんかいやらしいぞ」

 「しょうがないだろ、狭いんだから」

 先頭の車両の後部座席には、ジュブズ、コクト、アミアン、オニールの4人が座っていた、ところが4人が並んで座るには無理があるため、アミアンはコクトの膝の上にちょこんと座っている。

 「オニールさん、の膝の上に移ります?」

 アミアンが笑顔でオニールに尋ねるが

 「いや、遠慮しておく、ルナだったら大歓迎なんだがなー」

 「んんーー」

 ジョブズが咳払いをした。

 「コクト、聞きたいことが山ほどあるんだが、優先順位からすると、モルタニア軍の動向だな」

 「動き出したのか?」

 「ええ、今朝早くここに向かって進軍が開始されました、今、僕の代わりにルナが評議会と総務局に報告に行っています」

 「評議会は、あの10台の装甲車で迎え撃てと言っているのか?」

 「いいえ、あれは、・・」

 「警部、自分の指示でルジウェイ空港の防衛の為に差し向けました」

 コクトの言葉を遮ってオニールが答える。

 「この状況で何の指示もないのか?」

 コクトとオニールは無言でうなずく。

 「まったく、行政が機能していないのか」

 ジョブズははき捨てるように言い放った。

 「コクト、オニールもだ、聞いてくれ」

 「今の私は、マーメイプロジェクトから更迭された身で、マーメイプロジェクトに関しては何の権限もないが、私にできることがあったら言ってくれ、出来るだけ協力するつもりだ」

 コクトはオニールに視線を投げると、オニールは安堵の表情でうなずいた。

 「ジョブズさん、アミアンの作ったリストに関しては?」

 コクトはジョブズのに尋ねた。

 「おおよその検討は付いている、この子の身が危険になるほどの内容ってことがな」

 コクトは少し沈黙した、そして小さな声でジュブズに礼を言う。

 「す、すみません、本当にありがとうございました」

 何故コクトが礼を言うのか、ジョブズは不思議そうに、片方の眉毛を上に上げた。

 「自分の考えの甘さから、アミアンを危険な目に合わせてしまいました、警部がいなかったら取り返しのつかないことになるところでした、・・・・」

 「もう二度とこのようなことが無いように最新の注意を払うつもりです」

 アミアンが目を細めてうつむく。

 ジョブズは狭い後部座席ではあったが、コクトの肩に手を乗せた。

 「お前はあの大軍を引き連れて彼女を助けにきてくれたじゃないか、十分過ぎるほどやることはやってるよ、なぁ、アミアン」

 「コクトさんの顔を見たときは感激しました」

 オニールがアミアンの腕を突付いて自分を指差した。

 「すみません、オニールさんもです」

 「よろしい」

 ジョブズは腕を組んで大きく溜息を漏らした。

 「しかし、いくらなんでもあれはやりすぎだ、ルジウェイ警察が保有する無人装甲車と歩兵ロボットを差し向けるなんてむちゃくちゃだ、誰だってチビってしまうぞ」

 「私も少しちびりました」

 車を運転している警察官も、ジョブズに同意するように話しかけてきた。

 全員が吹き出すように笑い出した、しばらくし笑いが納まりかけたところで、コクトは隣のジョブズに、これからのことを話し始めた。

 コクトはアミアンの作った不正リストに載っている全ての人をルジウェイ警察に告発する、それと同時に対象となった人々の全てのシステムの使用権を停止し、一切システム関与させないようにして隠蔽工作とルジウェイからの逃亡を未然に防ぐ。

 だが単純そうすると都市機能自体が停止する可能性があるため、まだマーメイに統合されていない全てのシステムをマーメイに統合する、それにより都市機能はマーメイによって維持させる。

 それと暫定的にマーメイプロジェクトでルジウェイの行政も含め全てを管理すると。

 ジョブズは協力するとは言ったものの、ここまでか、と、唖然とした。

 一番驚いたのは、事の一部始終を全てのルジウェイの市民及び、全世界に公開し推し進める。

 それによって世界中のマスメディアの注目を集め、モルタニア軍の進行を牽制できるかもしれないと。


 「ジョブズさん、これにはルジウェイ警察の全面的な協力が必要なんです」

 ジョブズは自分額に手を当てた。

 「コ、コクト、・・・・」

 「何も聞かなかったことにしたいが、・・・・」

 「ルジウェイ警察はルジウェイ市民の生命と財産を守るために存在するってことを改めて証明したい、決して一部の連中の利益の為に存在するのでは無いことはをな」

 「これでレイモン事件でのルジウェイ警察の汚名を返上と、してくれるか?」

 「よろこんで」

 「よし、警察は俺に任せろ、何とかまとめてやる」

 「お願いします」

 ジョブズとコクトは狭い後部座席の中で、どうにかかろうじて握手をした、アミアンが少し躊躇して、その上に自分の小さな手を乗せた。オニールも手を伸ばそうとするが位置的に無理そうだった。

 「オニールさんは私の右手と握手しましょう、間接的に繋がってますから」

 「わりいな」

 2台の警察車両が地下鉄の駅の入り口で停車した、しかし入り口はシャッターではなく分厚い鉄の扉で厳重に塞がれている。

 「着きましたが、地下鉄はまだまだ運用してなかったんじゃ?、この車でマーメイプロジェクトビルまで行きましょうか?」

 運転席の警察官が後部座席の方を振り返り尋ねてきた。

 「ははは、大丈夫です今から運用しますから」

 「はぁ?」

 「オニール、降りよう」

 「お、おう」



 「ちょっと待て、コクト」

 ジョブズは降りようとするコクトの肩を掴んだ。アミアンはオニールの後に続いて既に車から降りたばっかりだった。

 「高エネルギー研究所の件はどう説明するつもりなのか?」

 「どう説明していいか、いまだに自分でも分からないことだらけです、でも、あそこはルジウェイ誕生の本当の意味が隠されているところです、絶対に一部の連中の秘密ごっこのネタにはさせません、どのような形であれ全世界に公表してやるつもりです」

 「わ、わかった、もう一つ、ルナを信用しているのか?」

 コクトは自分の心の弱みを突かれたような気がした、ルナに対しては本当に信用していいか自信がなかった、いままであえて考えないように逃げていた自分がそこにあった。

 「すみません、わかりません」

 「でも、ルナは今の僕には必要なんです」

 ジョブズは不思議にコクトの言葉にほっとした、もしコクトが信用していると答えたら、警告し諌めるつもりだったし、逆に信用していないと答えようものなら、コクトの資質に疑問を持っただろう。

 しかし、コクトは正直すぎる、純粋だ、そして迷いが無い・・・・、そうか、だからマーメイプロジェクトの連中はコクトに心酔しているんだ。


 「では我々ルジウェイ警察も君に必要と言う事でいいかな」

 ジョブズはコクトに敬礼を返した。

 「よろしくお願いします」


 コクトが車から降りると、2台の警察車両はコクトらを後に走り去って行った。

 コクトは地下鉄の入り口の天井に設置されている監視カメラを見上げて、監視カメラに向かって叫ぶ。

 「マーメイ、ここを空けてくれ!」

 『ガッチャン、・・・・』

 鉄のドアの奥から鈍い機械音がすると、分厚い鉄の扉がゆっくりと地面に沈んで行った。

 「しかし、なんて分厚い扉なんだ」

 オニールが感心してつぶやく。

 「地下鉄はシェルターの役割も兼ねているからだよ」

 「アミアン、足は大丈夫?」

 「はい、もう痛みはありません」

 コクトは首を横にし、アミアンの足元に目をやった。アミアンの姿勢は捻挫している足をかばうように重心が傾いていた。

 「しょうがないか」

 「どれ」

 コクトは「よいしょ」と、声を出し、お姫様だっこでアミアンを持ち上げた。

 「だ、大丈夫です、・・・」

 「うそつけ、足が痛がってるじゃないか」

 「す、すみません」

 「オニール、行こう」

 「おう」

 3人が駅の入り口に入り2、3歩で直に地下に向かって降りるエスカレータに乗った。降りていくエスカレータの中は暗かったが、徐々にライトが点き始め、降りていく先を照らし始めた。

 「ひぇー、先が見えないじゃないか、一体何処まで降りるんだ」

 ライトはエスカレータの先まで全て照らしていたが、それでも終着点は見えない、オニールは不安そうにコクトに尋ねる。

 「僕も初めてだ」

 「洞窟の中にみたい、下からの風が冷たいよ」

 アミアンはコクトに抱っこされ、風を顔に受けて気持ちよさそうだった。

 コクトはアミアンを抱きかかえている自分に不自然さを感じた、エスカレータに乗っている間は、アミアンを抱っこする必要は無いか。

 「アミアン、降ろすぞ」

 「は、はい」

 オニールがニヤニヤしてコクトを見つめる。

 「俺が、突っ込む前に、気づいたか、このスケベ」

 コクトは顔を赤らめて、ぼりぼりと頭を掻いた。

 「申し訳ない」


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