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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第23回   ★☆ルジウェイ警察☆★
 ルナが運転するオープンカーはマーメイプロジェクトビルの正面玄関に近づいていたが、ルナはスピードを落とさなかった。それどころかアクセルを思いっきり踏んでいる。

 車の動力はモータのためエンジン音はしないが、路面を蹴るタイヤの音がだんだん大きくなってきているので猛スピードで近づいてくるのがはっきり分かる。

 「おい、何だあの車は」

 「突っ込んでくるぞ」

 「自爆テロか!?応援を呼べ」

 正面玄関にいる二人の警察官は、オープンカーが猛スピードで迫って来たため、腰の銃を抜いて銃の安全装置を解除し銃を構えた。

 「おい、ルナ、玄関に突っ込む気か?」

 「まさかー」

 ルナは笑っていた。

 「?まって」

 「えっ?」

 「ひぇっ!!」

 「キキキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」

 車のタイヤが路面との激しい摩擦で物凄い叫び声を上げた。

 ルナの運転する車は、玄関にぶつかる瞬間に一回転し、ピッタっと正面玄関に横付けすると、あたりはタイヤの焼ける匂いとその煙が充満していた。

 「ガチャ」

 ルナはサングラスを外しドアを開け車から降りると、辺りの煙が和らぐのを待った。

 正面玄関には最初に居た二人の警察官の応援要請で駆けつけてきた、8人の警察官も加わっていた。そして恐る恐る銃口を車に向けて構えていた。

 「両手を上げて後ろを向け、・・・・」

 「あれ?」

 タイヤを焦がした煙が収まると、ルナの顔がはっきりと確認できた。

 「ルナさん」

 一人の警察官が射撃の構えを解き銃の安全装置を入れ銃を腰に収めた。それを見た他の警察官達も安心したようだ、それぞれが銃を収める。

 「どうしたのですか、あんなに飛ばして」

 コクトも車のドアを開け、車から降りた。

 「コクトさんもご一緒で!!」

 「警備の方ご苦労さん」

 とりあえず無理やり作った笑顔でコクトは周りの警察官に気を使い謝る。

 「い、いえ」

 その場に居た警察官全員がコクトに対して敬礼をした。

 「お疲れ様です」

 ルナは警察官全員を一喝した。

 「あなた達の仕事にはコクトさんの身辺警護も含まれているんじゃなかったの!?」

 かわいそうに警察官全員がルナに圧倒されていた。

 「そ、そうですが、どうしたのですか?」

 近くにいる若い警察官が、おどおどしながらルナに尋ねた。

 そこへタイミング良く、ビルのフロアからオニールが眠たそうな顔をしてとぼとぼ現れると、若い警察官らは、ほっとし、安堵の表情を浮かべた。

 「どうしたんだ?」

 「それが警部補、・・・」

 「オニール警部補殿!!」

 ルナは大きな声を出して、オニールを呼びつける。

 「は、はい」

 オニールの眠気はルナの一声で吹っ飛んだようだった。

 「総務局より治安局に、マーメイプロジェクトビルの警備とその責任者であるコクトさんの護衛の依頼があったと思いますが」

 「そ、そうだが、だから俺達はここにこうしているんだが、どうしたの?」

 「今日は、警護はお休みだったのですか?」

 「結局、私が迎えにいかなければ、コクトさんは総務局から一人でここまで歩いてくる羽目になっていたのですよ」

 「警察の体制はいったいどうなっているのです?」

 オニールはルナに詰め寄られオロオロしながら、周りの若い警察官らに助けを求めるように視線を送るが、彼らは逃げるように目をそらした。

 「ご、御免なさい!」

 オニールは訳が分からないままルナに謝る。そしてコクトに恐る恐る近付くと、小声で確認した。

 「コクト、ほんとか?」

 「あ、ああ」

 コクトは顔を赤らめ頭を数回掻くと短めに返事をする。ルナもそうむきになって怒らなくてもよさそうなのにと、思った。

 「おかしいな、言い訳に聞こえるかも知れないが、・・・」

 オニールが顔に似合わずに考え込んだ。

 「コクト実は、今朝早く上の方から今日はコクトは総務局にいくから、迎えは要らないと連絡があって、それで俺は直接ここに来たんだ。それとジョブズ警部も急にマーメイプロジェクトから外されてしまってるんだ」

 「どうも、腑に落ちないことが立て続けに起こってる」

 「コクト、総務局で何かあったのか?」

 コクトはルナの方を見るが、ルナは小さく頭を横に振る。

 「いや、・・・・」

 コクトはモンヘとのやり取りは後でオニールに話そうと思った。しかしジョブズ警部には今日にでも告発リストの件について相談したかったったのだが、それが出来ないとなると、どうするかと。力が抜けたように肩を少し落とした。

 「オニール警部補!!」

 ルナの声にオニールは又怒られるのかと思ったのか、傍から見るとこっけいなぐらい体を膠着させ直立不動になった。

 「は、はい」

 「今後、どうします」

 「どうします、って?」

 「中途半端な警備や護衛をするぐらいなら、ルジウェイ警察がここにいる意味はありません、帰ってもらって結構ですが」

 「うっ、こ、怖い」

 オニールはルナのキツイ言葉に思わずたじろく。

 「だろ」

 コクトも少しオニールに同情する。

 「おい!お前らも聞け」

 「は、はい」

 「俺達の今の仕事はマーメイプロジェクトビルの警備と、ジャン・フィデル・コクトの警護だ」

 「今後、ジョブズ警部の後任がくるまでは、俺の許可無く任務をかってに放棄することが無いように、たとえ本部からの命令でもだ!」

 オニールはその場にいる警察官全員に向かって、念を押すように命令する。

 「はっ」

 警察官全員がオニールに向かって敬礼する。

 彼らは皆若く、最近ルジウェイ警察へ赴任して来たばかりの人が殆どだ。彼らから見ればオニールは尊敬に値するいい先輩ってところだろう。

 「ルナ、これで勘弁してくれるか?」

 「ええ、頼りにしてますわ、オニール警部補、殿」

 ルナの怒った顔もいいが、笑顔のルナの方がやぱり可愛いとコクトは思った、それにしてもオニールも貫禄が付いてきたのには関心した。が、やはりオニールである。

 「えへへ」

 直に地がでる。

 「おっと!そうだコクトシュミレーションルームに来てくれ、モルタニア軍とちょとした問題が起こっているんだ」

 「うむ」

 コクトらは早歩きでシュミレーションルームに向かった。

 コクト、ルナ、オニールがシュミレーションルームに戻ると、オペレータの全員がほっとした様な表情をした。

 クレイはコクトが来たのに気付くと、邪気を払うために両手で自分の顔を二回ほど叩いた。

 コクトはシュミレーションルームが一望できるゲスト用の区画から正面のメインパネルに映し出されている、モルタニア軍の配置に目を向ける。

 「皆さん、これを」

 クレイの指示を受けた若いオペレータがマイクとイヤホンが一体となっている通信用の装置を手渡そうとした。

 「僕は持ってるからいい」

 コクトは若いオペレータにオニールとルナを指差す、二人に渡してくれ。

 「は、はい」

 オニールとルナは装置を受け取ると耳に装着した。

 クレイはコクトを見ると、自分が右の耳に装着している通信装置を人差し指で数回叩く、コクトに対しての、通信装置は正常かの確認である。

 コクトも右の耳に通信装置を装着するとクレイにオーケーサインを送った。

 『コクトさん、メインパネルを見てください』

 クレイが無線を通して語りかけてきた。

 「・・・・」

 「ヘリが増えてるな」

 「そうなんだよコクト、どうやら昨日新たに加わったみたいなんだ」

 オニールが捕捉するように説明する。

 「クレイ、オニール警部補から問題があると聞いているんだが、状況はどうなっている」

 『はい』

 『モルタニア軍を監視するために、彼らの後方に偵察ヘリを2機配置しているんですが、モルタニア軍も警戒しているらしく、いずれも発見され銃撃を受けているのです』

 「・・・・」

 「監視はどのようにしているんだ?」

 『はい、砂丘の後ろにヘリを着陸させモルタニア軍から見えないようにし、それから潜望鏡を可能なだけ伸ばし監視するようにしています』

 『しかし、直に発見されてしまい、そのつど場所を移動し監視するようにしているのですが、・・・』

 『すみません、もし他に方法があれば教えていただけませんか?、・・・』

 「ぷっ、・・・」

 コクトは急に笑い出したくなった。

 「何だコクト、もっといい方法があったのか?」

 オニールが不満そうにコクトに尋ねた。

 「い、いや、そうじゃない、俺もその方法が一番いいと思う、だ、だが、・・・」

 「もったいぶるなよ、なんだよ」

 コクトは胆を切るように咳き込んで、喉の調子を整えると、オニールの耳元で小声でささやいた。

 「モルタニア軍にとっては、追い払っても、追い払っても、場所を代え監視されると、不気味に思われているだろうなーと、思うと、少し同情してしまったんだ、誰にも言うなよ」

 「・・・・」

 「なるほど、それは不気味だ」

 オニールも同感だと思った。

 『すみません、コクトさん聞こえてます』

 クレイが罰が悪そうな顔をして、ゲスト区画にいるコクトとオニールを見ていた。

 「んんーっ」「ごほん」

 コクトとオニール同時に咳き込んで、何も無かったそぶりをする。

 『コクトさん、これではまるで我々が挑発している様で、後で問題にならないかと心配なのです』

 コクトも少し冷静に考えるとクレイの言うとおりだと思った。

 「確かに、クレイの言うとおり挑発していると思われても仕方ないか、・・・」

 コクトは腕を組んで目を閉じて考え込む。

 「よし!、偵察ヘリを引き上げよう」

 「早っ」

 「コクトお前考えてるか?感で決めてるだろ!」

 オニールはコクトの決断の早さについ突っ込みたくなった。

 「否定はしない」

 コクトは直に答えた。

 「クレイ、2機の偵察ヘリは引き上げさせよう」

 『イエッサ』

 「但し、引き上げる場合は最短コースで引き上げる、モルタニア軍の陣地の上空を可能な限り低空で、そして最高速度で飛行し、ルジウェイまで戻ってくるんだ」

 『ええっ!!!?』

 「コクト!それって、完全な挑発行為じゃないか」

 オニールが大声で叫んだ。

 「オニール、これはルジウェイの意志表示だ、くるならこい!但し、こちらが大人しくしてると思うなよ、ってところかな」

 コクトの口調は軽そうに感じるが、本人はいたってまじめに考えていた。この行動はモルタニア軍に強烈なメッセージとして伝わるだろうと考えている。

 「ったく、モルタニア軍がかわいそう、・・・」

 ルナが独り言の様につぶやくが、その声はシュミレーションルームのみんなが聞いていた。

 唖然としているのはクレイだった、はっきり言って、この戦力差でモルタニア軍に勝てるとは思っていない、それをあえて挑発するなんてどう考えても理解できない。

 自分は軍に所属していたこともあり他のメンバーよりは軍事的な知識はあると自負している、少なくとも自分の上司とは言え、単なる民間人であるコクトよりはこのような場合どう行動すればいいか分かっているつもりだった。だが、自分の結論は「絶対に勝てない」だった。

 ところがコクトは勝てると思っている。そしてコクトの後ろでコクトの存在に厚みをもたす様にしているルナも同様にそう思っているらしい。自分はまだルジウェイの戦闘システムを理解できていないだけなのかと、自問自答していた。

 「クレイ」

 クレイの近くに座っていた女性のオペレータがクレイの肩を叩いた。

 「何、ぼけっとしてるの、早くしないとまた、見つけられ銃撃されるわよ」

 「分かってる?、あんたのちゃっちい挑発行為も、これで帳消しになったわよ、やさしいとこあるじゃん、うちの隊長」

 「大胆、好きになりそう」

 女性オペレータはウインクをクレイに返した。

 「お、おう」

 クレイは、まさか自分ためにあえて大胆な行動をさせている?、いや、まさか、クレイはかなり間を置いて、コクトに向かって敬礼をした。

 『イエッサ!』


 「コクト、モルタニア軍の監視は諦めるのか?」

 「いや」

 「ほう、まだ隠しコマンドがあるらしいな?」

 オニールはコクトが答える前に口を出した。

 「わかった!」

 「お前のことだ、マーメイを使ってどっかの国の偵察衛星をハッキングし、それで監視しようとしているだろう、どうだ、ビンゴか!」

 『うっ』

 クレイは驚いてコクトの方を振り向く。

 「で、できるわけないだろ、・・・」

 コクトはゲストは区画の手すりを両手で掴んだまま、ぶすっとふて腐れた顔でオニールを睨みつける。

 だが、オニールはむちゃくちゃ言ってるようだが、できそうな気がしてきた。マーメイの隠された本来の目的は未知なる鉱石の解析だ、既知の暗号システムの解読ぐらい簡単に出来るんじゃないかと思った。そうなると偵察衛星のシステムにハッキングを掛ければ乗っ取れかも。

 ・・・・いや、それはやめとこ。

 「おっ!」

 「今やろうとして、思いとどまっただろう」

 コクトは笑って誤魔化すことにした、オニールとは長い付き合いだ、自分の行動パターンを把握してやがる、こいつめ。

 「はははは、それこそ国際問題だ、できるわけないだろ」

 「そ、そうか、いい考えだと思ったんだがなー」

 コクトは気になってルナを見ると、ルナは掌を広げて、私は知りません、どうぞお好きに、っと言ってるようだった。

 『すみません、どのような方法でモルタニア軍の動きを監視するのですか』

 やはり気になって、コマンダー席のクレイが尋ねてきた。

 コクトはクレイの方を向くと、マイクを口元に近付けた。

 「モルタニアの戦力は把握しているし、これ以上常時監視する必要も無いだろう、モルタニアがルジウェイに近付けばルジウェイの監視システムでも確認できるからな」

 「二機の偵察ヘリが戻ったら、至急整備にまわして何時でも飛び立てるようにしておくんだ」

 「そして不定期にアウトサークル上空6キロの高高度まで上昇させ、そこでホバーリングさせて、遠距離から監視させる」

 「多少画像は悪くなるが、画像解析システムを調整すれば何とか移動する物体ぐらいは認識できるだろう」

 「それにルジウェイの領空内だ、誰も文句は言われないさ」

 「クレイ、偵察ヘリを同じ位置でホバーリングさせた場合の滞空時間は?」

 『はい、正確には後で確認します、たしか1〜2時間程度と思います』

 「やっぱり常時監視はきついな」

 『モルタニアの動きがあった場合のみ飛ばしましょうか?』

 「うむ、そうしてくれ」

 クレイはコクトが時間を置かずに何故、即効で対応を指示できるのが不思議に思えてきた。実は士官学校で専門の教育を受けてきたんではないかと疑ってしまう。

 『コクトさん、これがだめなら、こう、あれがだめなら、ああ、と、なぜ次から次へ対策が出てくるのですか?、すみません、コツを教えていただけませんか?』

 「えっ?」

 『たいへん失礼な質問だと思いますが、いずれ自分達だけでこのシステムを運用していかなければなりません、後学のために是非教えていただきたいのです』

 「教えてやれよ」

 オニールがコクトの横っ腹を突付く。

 「うっ、」

 オニールが突付いたところは、今朝モンヘのボディーガードに殴られた場所だった、コクトは叫びそうになったが、どうにか苦痛を押さえた。

 「ど、どうした」

 「い、いや、なんでもない」

 しかしクレイの質問には少し困った、最初にシュミレーションシステムの雛形を作った時に、テストと称してチーム全員で徹夜してシュミレーションゲームに明け暮れていた、なんて口が裂けても言えない。そんなこと言ったら威厳がたもてないからな。

 「おっほん!」コクトはわざとらっしく咳き込む。

 「俺は、何年このシステムに関わっていると思ってるんだ、もちろん実戦の経験は無いが、使用できる兵器の特性や、無人戦闘システムの優越性、そして負の部分など、あらゆる場面を想定して、この巨大な無人戦闘システムを設計から運用にまでもってきたんだ、ここの中にあらゆるパターンに対応できる対策がここに詰まっているのさ」

 コクトは自分の頭を指差した。

 「まぁ、簡単に言うと経験値がそれだけあるってこと」

 「お前たちだって、ここに配属された時と今の自分を比べてみればわかるだろ、短期間でよくここまでこれたもんだよ、もう実機を操っているんだぞ」

 『は、はい』

 クレイはコクトの言葉に少し納得したような、物足りないような、妙な気持ちだった。

 『ありがとうございました』


 「ほう、ほう、そうなのか、俺はまた、マーメイの入れ知恵かと思った」

 オニールは腕を組んで関心していた。

 「否定はしない」

 コクトは通信装置の電源を切って、オニールに耳打ちした。

 「オニールさんのマイクは電源が入っていますので、みなさんに聞こえてますよ」

 ルナがコクトに指摘してあげた。

 「んんー」コクトは咳き込んで誤魔化す。

 「で、オニール、ジョブズ警部の後任は何時ここにくるんだ?、色々、相談したいことがあるんだが」

 オニールは首を横に曲げて、「さぁー、聞いてないな」と、そっけなく答えた。

 「ふぅ」

 コクトは溜息を漏らす、内なる問題の電子認証の偽装にからむ告発にはルジウェイ警察の協力が不可欠だと思っている、いや、協力ではなく、ルジウェイ警察がやるべきだと。ただし上層部は除いて。

 「ジョブズ警部の変わりは、ここにいるじゃありませんか」

 ルナはオニールを指差した。

 「えっ、俺?」

 ルナは意地悪そうな笑顔でオニールを睨みつける。

 「だってさっき玄関で、はっきり言ってましたよ、ジョブズ警部の後任がくるまでは、俺の許可無く任務を放棄するなって、ってことはジョブズ警部の代理はオニール警部補でしょ」

 コクトも声には出さなかったが、そうだオニールだ、と思った。

 「確かに言ってた」

 コクトはルナに同意する。

 「ええーーー!!」

 「俺かよ?」

 オニールはコクトとルナから1歩後ずさりする。

 「で、なんだよ」

 「ルナ、場所を代えよう」

 ルナはうなずいた。

 「オニール、一緒に来てくれ」

 「お、おう」

 「おっと、その前に」

 コクトはオニールとルナから通信器を取ると、ゲスト区画を仕切るパイプに掛けて、クレイの方を向いた。

 「クレイ、これはここに掛けとくぞ、それと自分らは会議室に居る、問題が発生したら連絡してくれ」

 『イエッサ!』

 相変わらずクレイは軍隊でのクセが抜けないようだった、それに周りもだんだんなれてきて違和感が無くなってくるのは不思議だった。

 「さぁ、オニール急ごう」

 「わ、わかった、押すなよ」

 マーメイプロジェクトビルの外からは、渡り廊下を早歩きで渡るコクト、オニール、ルナの三人の姿があった。

 上空に目をやると大空に一つの星が輝いていた、この時期の一番星は恐らく金星だと思われる。星はまばたきもせずに安定した輝きを放っていた。空はまだかろうじて明るさを保っている。

 視線を上空から下へ移すと、遥かかなたにモルタニア軍の大規模な陣地が展開されているのが、はっきり確認できた。整然と碁盤目上にキャンプの明かりが灯っていたからだ。

 「・・・・・・・・ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド」

 「何の音だ?」

 カービンは急いでテントの外に出ると、サーチライトをガンガンに照らしながら猛スピードで近付いてくる二つの飛行物体があった。

 カービンは近くでうろたえている兵士を捕まえた。

 「何だあれは!?」

 「し、知りません!、こっちに来ます、うわっ」

 まじかに接近してきたため、カービンと兵士は地面に伏せて、頭を押さえた。

 二機の飛行物体は二人の頭の真上を猛スピードで通り過ぎて行く。

 「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・」

 カービンは伏せたまま、通り過ぎていった飛行物体の後ろ姿を確認すると、怒りを顕にして地面を叩いた。

 「くっそっ!ルジウェイの偵察ヘリだ」

 二機のヘリは、司令部のテントの上空に近付いていた、テントの近くでは、大勢の兵士が何事かと近付いてくるヘリの方を眺めていると、一人の兵士が大声で叫んだ。

 「逃げろ!突っ込んでくるぞ!!!!」

 「敵襲だ!」

 「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・」

 ヘリは逃げ惑う、大勢の兵士の頭上を猛スピードで通過すると、高度を上げルジウェイの方向へ飛び去っていった。

 何事かと、ワゲフ将軍がテントの外に出てみると、逃げ惑う兵士や伏せて震えている兵士と多くの兵士がパニック状態に陥っていた。

 「こらっ、落ち着け、何があったんだ!?」

 「将軍、あ、あれを、・・・」

 動揺する兵士が指差した方向を見ると、二つの光が遠ざかって行くのが確認できた。

 「どこの部隊のヘリだ?、司令部のテント上空を低空で飛行するなんて許せん」

 「わ、わかりません、いきなり現れては、猛スピードで通り過ぎていきましたから」

 「しっかりせんか、それでもモルタニア軍の兵士か!!」

 ワゲフはうろたえている兵士を見ると情けなくなって、おもわず叫んでしまった。

 「直に調べて、報告しろ」

 「イエッサ!」

 まったく、どこのだれだ、ただじゃおかんぞ、軍法会議にかけてやる。・・・・、ま、さかルジウェイのヘリか?

 ワゲフはテントの中に戻ろうとしたが、立ち止まって、ヘリが去っていった方向を確認した。

 もし、そうだとしたらゆるせん、覚悟していろ。


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