ルジウェイ西100キロの砂漠地帯、そこにはモルタニア軍の機甲師団が大規模な軍事演習のため集結していた。新たにカービン少佐率いる10機の大型戦闘ヘリを加え戦力は以下のようになる。
・戦車 80両( 80両) ・装甲車 190両(190両) ・軽装甲車両 200台(200台) ・自走砲 10両( 30両) ・輸送用トラック 200台(200台) ・自走式高射砲 10台(200台) ・戦闘ヘリ 15機( 15機) ・兵員 ※※※※4,100人以上
キャンプの中央には20〜30人は軽く入れそうな大きな司令部のテントがあった。その中ではカービン少佐とワゲフ将軍の二人がテーブルに広げられたルジウェイを中心として描かれている作戦地図を見ながらルジウェイ占領に向け作戦を練っていようだった。
子供がいないワゲフには甥のカービンが自分の子供のようにかわいかった、軍に入ることを進めたのもワゲフである。
「ルジウェイを占領するなんて、冗談かと思いましたが、本気みたいですね」
「もちろん本気さ」
「どうだ、この機甲師団とルジウェイさえあれば、我々に怖いものは無いと思わんか」
「おじ・・・いや、将軍」
カービンは大統領の息子ではあるが、教養も有り多くの部下からも慕われていた、今は軍人だが、フランスへの留学経験もあり国際的なバランス感覚は優れていた。
「気になるのは国連の安保理の動きです、やつらがおとなしく黙ってるとは思えません、大丈夫でしょうか?」
「私がそこまで考えずに行動していると思うか?」
「いえ!将軍のことですからそんなことは無いと思っております」
ワゲフはカービンの反応に満足そうに微笑んだ。
「勘違いしている人が多いが、ルジウェイは国連の機関ではない、多くの国も参加はしているが、あくまでも民間企業が主体となって出資して作られた都市だ、それに我が国も広大な国土を提供してる」
「安保理がどうのこうの言う問題ではない」
「だが一応、ある常任理事国の支持は取り付けている、それに世界中の世論が私に味方するための大義名分もあるのだよ」
「大儀名分ですか、・・・・」
「今やルジウェイを支配している評議委員会はもはや機能していない、金の亡者どもが好き勝手に支配している状態だ」
「我々の行動はルジウェイの腐敗を一掃するための行動でもあるのだ」
カービンは叔父のワゲフが暴走しているのではないか心配していた、ルジウェイの取り扱いについて自分の親父と意見が合わないことも知っていたからだ。
「と、言うと?」
ワゲフは引き出しの中から数枚のリストを取り出した。
「このリストを見ろ」
ワゲフ将軍の手には、モンヘが持っているのと同じアミアンらが作ったリストが握られていた。
「何のリストですか?」
「ほれ嗅いでみろ、綺麗に着飾ったルジウェイのスーツ連中の腹の中の腐敗臭がするだろう」
「ルジウェイ上層部は各企業や各国から集めた出資金の一部をちゃっかり自分の懐にいれていたんだ、そいつらが私腹を肥やしている証拠と名前が乗っているリストだよ」
「ど、どこからそんな物を?」
「ふふふ」
「かなり前からやつらは私腹を肥やしていたらしいが、なかなかハッキリした証拠が掴めなかった、だがようやく今日の朝早くルジウェイにいる私のエージェントから送られてきた」
「ルジウェイ上層部の連中どもは、我々が広大な国土を提供してるのにも関わらず、わずかな見返りしか与えようとしかしない、自分らは巨万の富を独占しようとしているくせに」
「おまけにお前のおやじ、我が国の大統領さえ、金で手なずけてしまいよった、このままでは、昔の植民地支配と同じとは思わないか?」
カービンは黙ってワゲフの言葉を聴いていたが、腐敗をなくすためにルジウェイを占領するなんて、あまりにも軽率でリスクが大きすぎる、占領後を考えるとモルタニアにとってやっかいなお荷物を抱えるだけではないかと思っていた。
ワゲフはカービンの表情から彼がまだ納得していないことを察すると、なぜか安心したように微笑んだ、たったこれだけの理由で軍を動かすなんて、賢いカービンが納得するはずがないと予測していたからだ。
「カービン」
「はい」
ワゲフは一度咳払いをした。
「ルジウェイには一般には知られていない隠された秘密がある、この際お前も知っておく必要がある」
「秘密ですか?」
ワゲフはカービンの反応を確かめるように、ゆっくりと話し始めた。
「ルジウェイにあるブラック・ダイヤの存在だよ」
「えっ、それが大量にあるのですか!!?」
「ふっ」
「カービンお前の思い描いているただのブラック・ダイヤじゃない」
「その存在を知っている人々はブラック・ダイヤと呼んでいるだけだ、未知なる鉱石だ、但し中身は超古代の知識が凝縮されたコンピュータだとも言われている」
カービンにとっては初耳だった、たいがいの重要な国家機密は自分の耳にも入ってくるのだが、超古代のコンピュータなどと、まさか一国家の将軍の口からオカルトじみた話を聞くとは想像すらできなかった。
「そんな物が存在するんですか?」
「もちろん、確かに存在している」
「どうも、最近ブラック・ダイヤの解析が終了したらしい」
「そ、それで?」
「それっきり情報も入ってこなくなった、我々はどうも蚊帳の外に置かれた様だ」
「父上、いえ大統領もそれを知っているのですか?」
「いいや」
「ブラックダイヤの存在は知っているが、解析が終了したことについては、おそらく知らないだろう」
「エージェントからの報告だと、その件はルジウェイ内部でも少数の人間しか知らないらしい、どうやら一部の連中が独占しようとしているようなのだ」
「誰だか検討はついているがな」
カービンは叔父が単に暴走しているだけなら諌めるつもりだったが、事はそう単純ではなさそうだった。
「信じられない」
「それで独占しようとしている連中とは誰なんですか?」
「・・・・」
「テルベ社の連中だよ」
「あの多国籍企業が、・・・・」
「最近やつらは、ルジウェイの防衛力強化を急ぎ始めている、ついこの間も大量の資材がルジウェイに運び込まれたばかりだ」
「このままルジウェイが最新兵器で武装してしまったら、我々は手出しできなくなってしまう、今この時を逃したら我が国はルジウェイに対する権益を失いかねないのだ」
「くやしいのは、おまえのおやじだ!、個人的にいくらもらっているが知らんがやつらの言いなりになりやがって、クッソ」
ワゲフは自分が少し感情的になっていることに気がつく。
「す、すまんカービン、気を悪くしないでくれ」
「い、いえ」
「しかしあのルジウェイにそんな秘密があったなんて、・・・」
ワゲフは怒りを顕にする様に叫んだ。
「何が人類の英知を集結させた未来都市を砂漠のど真ん中に作り、人類の科学技術の発展に貢献しよう、だ!、やつらは自分らに都合のいい治外法権の土地がほしかっただけだったんだ!」
「だがそうはさせん、我々がルジウェイとブラック・ダイヤを手に入れれば、モルタニアどころか世界をモルタニアの前にひれ伏せることさえ夢ではない」
「近い将来我が国が、唯一のスーパーパワーとして世界に君臨する可能性だってあるのだ」
カービンはワゲフの言う超古代のコンピュータについてはまだ半信半疑だが、もしそれが真実なら、手に入れた者は巨大な力をもつことになる。
下手すればモルタニアにとって脅威になる可能性だって否定できない、いや間違いなく脅威になるだろう。
是が非でも自国の安全保障のために、その巨大な力は自国の影響力の及ぶ範囲に置いて置かなければならないと思った。
「カービン、私に協力してくれるか?」
カービンは腕を組んでしばらく考え込んでいた、ワゲフの言葉を素直に信じるなと自分の理性が訴えている。
「将軍、ルジウェイに送り込んでいるエージェントの情報は信頼に値するものですか?、我々を陥れようとして意図的に偽情報を流している可能性は?」
ワゲフは大きな声を出して笑い始めた。
「わっははははははははははは」
「んん」
「もちろん、その可能性はある、だが実質的にルジウェイを占領してしまえば、そんなのはどうでもいいことだ」
「占領は、ルジウェイの腐敗を一掃するため正義に沿った行動だと言い張るまでだ」
「それにカービン、私も一国の将軍だ、一つの情報ソースだけを鵜呑みにすることはしない、常に複数のチャンネルで情報の信頼性を確認しているつもりだ」
カービンは大きく溜息を漏らした。
「わかりました、できるだけルジウェイを無傷で手に入れる必要がありそうですね」
「ブラック・ダイヤにも興味が湧いてきました、本当にそんなものが存在するなら、この目で是非、確かめたいものです」
ワゲフは安堵の表情を浮かべる。
「頼りにしているぞ、ルジウェイを占領したら、お前の様な若い優秀な連中の頭脳が絶対に必要になってくるからな」
この時、ワゲフは内密に交渉している軍事援助に関してはまだカービンには話していなかった。まだ若く、正義感の強いカービンには話さない方が良いと判断していた。
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