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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第20回   ★☆評議会の意向☆★
 フレアはルジウェイ中央病院の駐車場に車を止めると、ドアを開け車から降りた。

 陽射しは真上から容赦なく地上を焼き尽くすように照らしている。

 救いなのは、駐車場の周りにも緑が多く配置されているため、太陽の直射日光から逃げる場所には困らないことだ。

 「昨日は見舞いに行けなかったから、父さんふて腐れていないかしら」

 フレアは自分の研究チームの作業が終わりに近づいているせいもあり、最終報告書の準備で多忙な毎日を送っていた。

 最近はコクトとも会っていない、それでも毎日病院にはバーンの様子を見に行くようにはしていたが昨日は深夜まで作業をしていたため、見舞いに行くことができなかった。

 フレアが病院の玄関のところにくると、黒塗りの車が止まっていた。

 「ビルが来ているのかしら?」

 フレアは病院の中に入り、直に受付の方へ行き顔見知りの事務員に挨拶をする。

 「こんちわー、ねぇケイ、誰か父の見舞いに来ているの?」

 「ああ、フレア」

 「ちょっと、待って、確か評議委員の方がみえてるわよ」

 事務員の少し年輩女性は、メモ帳をパラパラめくり、自分がメモした内容を確認した。

 「あった、あった」

 「評議委員のビル・アッカーマンさんがバーン博士の病室にいるはずよ」

 「ありがとうケイ」

 フレアは少し急ぎ足でエレベータの方に向かった。

 ビルが何しに来たか、大体の予測はついていた。鉱石の情報を提供するように説得しに来たのだろう。

 フレアはこれ以上知らん振りをするのも辛かった、ビルに全てを話し鉱石の重圧から開放されたいと、言うのが本音だった。

 フレアがバーンの病室に入ると、ビルが必死にバーンに話掛けていいた、しかしバーンはぶつぶつつぶやいているだけである。

 「おおー、フレア待っていたぞ」

 ビルはフレアに気付くと、椅子から立ち上がり、軽くフレアを抱擁した。

 「ビル、今日はどうしたの?」

 「まあ、フレア座りたまえ」

 ビルは近くにあった椅子をフレアの方へ置き、座るように促した。

 自分は先ほど座っていた椅子に腰掛けると、真剣なまなざしでフレアを見つめた。

 「バーンの容態は相変わらずのようだね」

 「ええ、・・・・」

 フレアは椅子をバーンのベット横に置くと、ゆっくりと腰を落ち着けた。

 「実はフレア、今日は評議委員会の意向を伝えに来たんだ」

 「!」

 「評議委員会の意向?」

 「ああ」

 「このままでは、マーメイプロジェクトの責任者であるコクトは更迭されそうなんだ」

 ビルの意外な言葉にフレアは驚いた。

 「どういうこと?」

 「コクトが何かしたの?コクトが適任だとルジウェイ最高評議委員会が決めたのでしょ」

 ビルは少し沈黙した、言葉を選んでいるようだ。

 「都市ルジウェイの根幹ともいえるマーメイプロジェクトの責任者としての彼の思想はあまり好ましいものではない、ルジウェイ上層部に対して協力的でないのだ」

 フレアはビルを睨みつけた。

 「ビル、はっきり分かるように説明して」

 フレアは少し声を大きくしてビルに説明を求める。

 ビルはフレアの視線を避けるように横を向いた、フレアが良く知っているやさしいビルおじさはそこには居なかった。

 「この際だはっきり言おう、ブラック・ダイヤのことだよ」

 「えっ!」

 「・・・・」

 フレアとビルの間に長い沈黙が漂う。

 「バーンが戻ってきて以来モルタニアは、我々がブラック・ダイヤを独り占めするのではないかと疑ってきたんだ、早く成果をよこせと言ってきた」

 「まだルジウェイ市民には公表されていないが、モルタニア軍がルジウェイ近郊で大規模な軍事演習を行おうとしている、彼等にしてみれば我々に圧力を掛けてるつもりなんだろう」

 「フレア、もうとぼけないでほしい、君とコクトがブラックダイヤのありかを知っているのは間違いのない事実だ」

 「それにルジウェイがモルタニア軍に占領されたら全てが水の泡になってしまうのだ、その前に何とかしなければならない」

 「君からもコクトに協力を頼んでくれ、協力してくれるなら君らの願いをいくらでもかなえてやる、金も、ルジウェイでの地位も、できるだけのことはする」


 「ブラック・ダイヤ、・・・・」

 フレアは小さくつぶやいて、ビルから目をそらし考え込むように目を閉じた。

 ビルはフレアの両肩を掴んだ。

 「レイモンが持っていた黒い鉱石のことだ!時間がないのだ分かってくれフレア」

 「ブラックダイヤだけでは意味がないことを知っている、君とコクトが持っているアクセスコードが必要なこともな」

 「手荒なまねはしたくない、人類の未来のためだ我々に協力してくれ」

 フレアはビルの手をゆっくりと自分の両肩から退けると、ビルの目を覗き込むように見つめた。

 「ビル、一つだけ教えて欲しいことがあるの」

 「なんだね?」


 「なぜ、あなた達はあの鉱石のことを世界中に公表しないの?公表すれば誰も独占しようなんて思わないし、たとえそう思っても世界中を敵に回すことになるから、誰も軍事力で奪おうなんて考えないはずよ」


 「私もそうしたいが、それは無理だ」

 「奇麗事だけでは通らないのだ、分かってくれフレア」

 フレアは椅子から立ち上げって、ビルから離れるように窓の方に歩いていく、そして外の景色を眺めるそぶりをするが、横目でビルの様子を確認する。

 「ビル、コクトと相談させて」

 「・・・・」

 ビルは少し眉間にしわを寄せて考え込むが、フレアの返事は想定内の反応だったようだ。

 「わかった」

 「しかし時間は限られている、急いでくれ、悪いようにはしない」

 ビルは椅子から立ち上がり、病室のドアまでゆっくりと歩いて行く、そしてドアに手を掛けるが、立ち止まりフレアの方を振り向く。

 「フレア、言い忘れたことが一つある、これはルジウェイ最高評議委員会の総意だ」

 「近いうち君とコクトは、評議会に呼ばれることになるはずだ、その時は、いい返事をくれることを祈っているよ」

 「ええ、・・・」


 「ビル、待って!」

 フレアは病室から出ようとしたビルを呼び止めた。そしてポケットから携帯電話を取り出しビルの方へ向けた。

 「なんだね?」

 「もし盗聴しているのならやめてほしいの」

 ビルは一瞬動揺するが、直に平静を装う。

 「私はそんな姑息なことはしない、だが何があってもおかしくない状況だ、確認してみる、万が一そう言うことが行われているなら、直にやめさせる」

 「私を信じてくれ」

 フレアはビルを疑った自分を恥ずかしく思った、いくらなんでも父の親友で幼いころから自分をかわいがってくれた人を疑るなんて、最低。

 「ごめんなさい、ビル」

 「ビルおじさんがそんなことするはずないもんね、許して」

 ビルはうなずくと病室を出て行った。

 フレアは病室ドアのが閉まると、ベットに座っているバーンの方へ行くとバーンの膝元にしゃがみこんで泣き出すようにバーンに話しかけた。

 「父さん、みんなあの鉱石を欲しがってる」

 「でも、鉱石がどのような物か誰も知らないのよ」

 「それでもなぜ、こうまでして、みんな欲しがるの!?」

 フレアはバーンの膝元で泣きじゃくっていた、あんなに信頼していたビルさえも信じられなくなった自分がいやになってきた、フレアはバーンに返事をしてくれるように促すが、バーンは表情のない顔でフレアを見つめているだけであった。



 ビルは病院の玄関に止めてある自分の車の後部座席に座ると、運転席と後部座席を仕切るクリアパネルのスイッチを押した。

 クリアパネルが運転席と後部座席を完全に分離したのを確認すると、携帯を取り出し誰かに電話を掛ける。

 「私だ」

 『おお、委員お待ちしておりました、モンヘです』

 「フレアの電話を盗聴しているのか?」

 『えっ!』

 『あ、いえ、それは、・・・・』

 「直にやめたまえ、フレアは私の大事な友人の娘なんだぞ!」

 『わ、わかりました委員、まことに申し訳ありません』

 「うむ」

 「それと鉱石の件だが、フレアの方は大丈夫だ、我々に協力してくれるだろう」

 「問題は、コクトだ」

 「そっちの方は大丈夫なんだろうな?」

 『ええ、委員心配いりません、もうすぐ我々の言うことを聞くようになりますから』

 『少し脅したら、ひぃひぃ涙を流して泣いていましたよ』

 ビルの顔色が少し曇った、まさかモンヘのやつ暴力でコクトを従わせようとしたのかと思った、暴力沙汰が表面化すれば、それを利用し今まで押さえつけていた連中がどう反撃してくるか分からないからだ。

 「暴力を使ったのか?」

 『委員に迷惑がかかるようなことはありませんのでご心配なく』

 「まったく、慎重にたのむぞ、こちらは評議会のメンバー全員の協力をやっと取り付けたばっかりだ、弱みを見せればいつ誰が裏切るとも分からん」

 『・・・・』

 『分かっています、委員』

 『しかし万が一、コクトとフレアが協力を拒んだ場合はいかがいたしましょう?』

 ビルはゆっくりと目閉じると、深いため息をした。

 「その時は評議委員会の総意の元に、合法的に協力させるまでだ」

 『なるほど、合法的にですね』

 モンヘの笑い声が受話器から漏れているのが聞こえた。

 「で、リストの方は大丈夫か?」

 『私の方で抑えておきましたので問題ありません、陽の目を見ることはないでしょう』

 「ふう、よかった」

 「まさか我々が工作に使った金の流れが全て暴かれるなんて、夢にも思わなかったぞ、個人的にはブラックダイヤよりもこっちの方が大問題だ、マーメイプロジェクトも考え物だな」

 『はい、金に関するシステムの統合は当分延期します』

 「うむ、そうしてくれ」

 「ワゲフとの交渉はどうなっている?」

 『はい、金で解決する方向で話は進んでいます』

 「ふぅー」

 ビルは安堵の表情を浮かべた。

 「それは良かった、君の大手柄だな」

 『ありがとうございます』

 ビルは携帯を切ると、運転席との連絡に使う備え付けの受話器を耳にあてる。

 「議会へ向かってくれ」

 『分かりました、委員』

 受話器を元の位置に戻すと、どっぷりと後部座席のシートに身をゆだねる。ビルを乗せた車両はゆっくりと走り出し病院を後にする。

 「少しずつだが全ての歯車が絡まってきた」

 「我々の長年の夢がかなう時がもうすぐそこまで来ているのだバーン、ルジウェイを中心とした世界秩序の始まりが、・・・・」


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