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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第2回   ★☆ダンプトラック☆★
 そのころ、コクトはルジウェイから300キロ西にある大西洋に面した港町にいた。町の名はティオリス、人口は2000人程度の小さな港町ではあるが町には不釣合いな1本の巨大な桟橋が海に向かって伸びていた。

 大型貨物船が3隻程度なら十分に横付けできる長さとコンテナ用の大型クレーンが3機設置されている。

 今はあまり利用されていないが、ルジウェイ建設当初の資材の大半はここから陸揚げされていた。

 太陽は大西洋の西の海に沈みかけようとしている、巨大桟橋の上には巨大なクレーンとは別に3階建ての建物が10棟建っているようなシルエットが映し出されていた。

 10棟の建物に明かりが灯り始める、しかし建物にしては明かりの配置がおかしい、おまけに建物には巨大なタイヤが付いていた。

 建物に見えていたのは幅8.69メートル、高さ7.32メートル、長さ15.32メートルの超巨大なダンプトラックであった。

 桟橋の先端に止まっている巨大ダンプトラックの運転席にコクトは座っていた、ここまで巨大だと運転席というより、まるで貨物船の操縦室である。

 「ジャン・フィデル・コクト」彼は、ルジウェイを武装集団から守った英雄であるはずだが、ルジウェイ最高評議委員会はコクトをどう扱っていいか戸惑っていた。

 謎の黒い鉱石の存在、レイモンの越権行為など、委員のだれもが今公表されては都合が悪かった。

 委員の何人かはレイモンに協力していたし、謎の黒い鉱石に関してはルジウェイに巨額の資金を出資している国家や組織はまだ一般には伏せたままにして置きたかった。

 コクトの方も、フレアとマイケルの解放の条件にレイモンの陰謀を公表しないとライエン大佐と約束していたため、律儀にそれを守っていた。

 レイモン事件はルジウェイでは闇に葬られようとしていた。

 しかしほとんどのルジウェイ市民は、事件のことを人伝いに聞いていて知っていた、公然の秘密と言ったところだ。

 それに誰一人として事件を追及しようとする人はいなかった。

 だがコクトの名はみんなが知っていた。一番知らないのはコクト本人だろう、自分の名がこれほどまでにルジウェイに知れ渡っていると知らない人は。

 コクトは総務局より、マーメイプロジェクト再開への準備作業を依頼されていた。

 それはコクトがルジウェイに来たころから従事していたプロジェクトでもあり、コクトもプロジェクト再開を喜んだが、まさか準備作業を任されるとは予想外であった。

 他に適任者もいなく、元のプロジェクト主要メンバーは殆ど契約が終了し本国に帰国していたためコクトは引き受けることにしたのであった。

 コクトは知らないが、コクト以外に何人かの候補者がいた、しかし彼らは皆プロジェクトに関わることを辞退していた、理由は不明である。

 「フレア、お父さんの様子はどう?」

 コクトが見ている運転席のモニタには、フレアが映し出されていた、フレアの後ろにはバーンらしき老人が映っている。

 『ええ、最初に保護された時の状態とまったく変わらないわ』

 『お医者さんもお手上げよ』

 フレアの声が少し涙声になっていた、しかしそれよりもコクトが不思議に思ったのは、フレアの後ろに映っている老人の姿がなんかおかしい。

 コクトは自分の目をこすり、もう一度老人を確認するように見つめた、やっぱり変だ。

 「フレア、お父さんを良く見せてくれないか」

 『ちょっと待って』

 フレアはカメラをバーンの方へ向ける。すると、モニタにはズームアップしたバーンの姿が大きく映し出された。

 「モニタのせいか?」

 『どうしたの?コクト』

 「いや、何でもない、やっぱりフレア君の方がいいや、カメラを戻してくれ」

 『ばかっ』

 フレアはカメラを指で「コッン」とはねた。

 「いたっ」とコクトは自分のおでこを抑えて痛い振りをした。

 「少しは元気でた?」

 『知らない、明日はルジウェイに戻ってくるんでしょ?ちゃんと見舞いにきてね!』

 フレアによって強制的に通信回線が切られた、コクトの目の前にあるモニタ画面は通信がまったく無い状態のブルー画面になっていた。

 「あら、切られた、怒らせてしまったか!?」

 「照れてるんですよ、ボス」

 コクトの後ろからまだ10代半ばに見える少年が笑いながら声を掛けてきた。

 「そうかな?」

 少年の名は「シン・ツカヤマ」最近ルジウェイに来たばっかりの少年だ、少しやせているが目は大きく輝いている、小さいころからルジウェイにあこがれていたらしく、毎年ルジウェイの公募に応募していたらしい。

 コクトはマーメイプロジェクトを立ち上げるための助手を探すために応募者一覧を眺めていたら、浅黒い顔だがやたら目が輝いているシンに目が止まった、が気にせず次の応募者リストを次々に見て行く、ところがシンの目の輝きが頭の隅にこびりついてしまったらしく、もう考えるのが面倒になって彼を採用することにしたのだった。

 採用=ルジウェイの市民権を得たことになる、「シン」はコクトに恩を感じていた。そのためかいつもコクトのことを「ボス、ボス」とコクトが恥ずかしくなるくらい慕ってくる。コクトの方もまるで弟ができたような気がしてまんざらでもなかった。

 「でもボス、どうしたんです?モニタを見て不思議そうな顔をしてましたけど?」

 「それがな、・・・」

 コクトは次の言葉が考えつかなかった。

 「それよりも、準備は終わったのか!?」

 「やることはたくさんあるはずだぞ!」

 「いえ!まだですボス!」

 シンは手持ちのボードに挟んであるチェックリストを脇に挟んで、小走りに運転席から外へ出て行った。

 コクトはシンに10台の巨大ダンプトラックの状態をチェックするように指示を出していた。

 状態のチェックは全て自動でできるのだが、コクトはシンに本物の感覚を早く身につけてほしくてあえて面倒な作業をやらせていた。かって自分がそうされたように。

 「マーメイ、聞こえるか?」

 『はい、コクトよく聞こえます』

 スピーカからは人工音声発生装置で生成された女性の声でマーメイが答えた、マーメイとはルジウェイが誇る会話型コンピュータシステムの名前である。マーメイの本体はルジウェイデータセンターにあるスーパーコンピュータの中にあるらしかったが、コクトはまだ見たことは無かった。

 コクトの乗っているダンプトラックもマーメイと接続されていて自動操縦が可能になっている、もちろん10台のダンプトラック全てもだ。

 「モニタからバーンの姿を見ていると、バーンが薄く感じたんだ、表現が変なのはわかるが、別な言い方をすると存在感がなかったんだ、見えるのにだぞ!」

 「マーメイ変な質問をするが、病院にいるバーンは本当にいるのか?」

 『・・・・』

 数秒だがマーメイの反応が止まった。

 『コクト、病院にいる人物はバーン本人です、そして確かに存在しています。変な質問をしますねコクト』

 「まあ、気にするなマーメイ、今のは忘れてくれ」

 『はい、コクト』

 「それとマーメイ、コンテナの状態はどうだ?明日朝、直ぐに出発できそうか?」

 『はい、異常はありません』

 10台の巨大ダンプトラックには積載量きっちりにコンテナが積まれていた、コクトとシンは朝から次々に接岸される貨物船から3機の大型クレーンをフル稼働させ、10台のダンプトラックにコンテナを下ろす作業を行っていて、つい1時間前に全ての作業が終わったばっかりであった。

 とはいっても作業の殆どが自動化されているため、コクトとシンは作業の監視と、貨物船の作業員との簡単な書類上の確認だけであった。

 小さな港町には大勢の乗組員が寛ぐ場所もなく、船の燃料を補給できるような施設もないため貨物船はコンテナを下ろすと直ぐに桟橋を離れては次の貨物船が接岸すると言う具合に、作業は進んで行った、今は深夜の桟橋にコンテナを満載したダンプトラックが10台、取り残された状態となっていた。

 直ぐに出発しても問題は無いのだが、コクトは念のため深夜の移動は避け夜が明けてからルジウェイに戻ることにした。

 自動化されているとは言え1年ぶりにこのダンプトラックを動かしているのだ、本来は無人でも可能なのだがコクトはシンと二人で、無人システムが正常に問題なく動くかの確認も兼ねて、1台のダンプトラックに乗り込んでいたのだった。

 また陸ではなく桟橋の上で待機させているのにも理由はある、桟橋の入り口に警備を集中させておけば、最小の労力で警備が可能だ。

 桟橋の入り口は警備用ロボット4台を常駐させ、6台の警備ロボットは不定期に桟橋を巡回させている。

 威力を弱めた電気ショック銃を装備した10体の警備用ロボットで24時間体制で警備させていた。


 「ウー、寒い」

 体を震わせながら、シンがダンプトラックの運転席まで続く階段を掛け上げって行く。

 「ボス、確認作業終了しました!」

 「あれ、もう眠ってる」

 「ちぇ、聞きたいことがいっぱいあったのに、しようがないな俺も寝よ」

 シンもコクトの隣の座席に座り運転席の室内ライトの電源を切り、背もたれを倒して寝始めた、疲れていたのか直ぐにぐたっと体中の力が抜けたように深い眠りに入ったようだ。

 体は小柄だが、いびきは大人とそう大して変わらない、りっぱだ。


 港町の安宿の窓からダンプトラックの様子を伺っている人影があった。

 ダンプトラックの運転席のライトが消えるのを確認すると無線機を取り出し、誰かに報告している。

 コクトとシンの乗っているダンプトラックの上部に取り付けてある半円形の監視カメラがその人物を捕らえていた。

 「マーメイ、誰か分かるか?」

 コクトはシンを起さないように小さな声で話す。

 ダンプトラックの監視システムがその人物を捕らえたのは、シンがチェック作業に出た時だった、望遠レンズのついたカメラを持ち、どこからみても地元の人間ではなさそうな不審な人物がいた。

 コクトはマーメイに依頼し、その人物が何者か照会させていたのだ。

 『いいえ、監視カメラの解像度が悪く、はっきりと特定できません』

 「じゃ、候補は何人かいるのか?」

 『はい、ルジウェイの人事データベースに一人だけ候補者がいます』

 「誰だ?」

 『・・・・、コクトあくまでも候補者です、100%確定ではありませんが、ルナ・ルーニックです、総務局局長ア・モンヘ・ダイムラーの女性秘書官です』

 「っく、モンヘか、・・・」

 ア・モンヘ・ダイムラー、ルジウェイ最高評議委員会の意向を受けコクトにマーメイプロジェクト再会を直接指示した人物である。

 コクトは上目線で話すモンヘは好きでなかった、しかしマーメイを中心とした各システム群を連結し、効率よく都市機能を維持管理するマーメイプロジェクトの可能性についてはコクトとモンヘは共通の認識を持っていた。

 数日前、モンヘはコクトを自分の執務室へ呼び出し、自分はどこそこの貴族の血を引く身分で時が時なら一国の王になっていたかもしれないなどと散々自慢話をした挙句、自分に協力すればそれなりの地位を約束するし、万が一自分の敵になるようなことがあれば容赦なく叩き潰す。

 と、はっきりとは言わないがそういった内容のニアンスを含んだ話をコクトにした。

 まぁ、飴とムチでコクトをどうにか取り込もうとしていたのだ。

 コクトから見るとモンヘはルジウェイを支配し王様になりたがっているちゃっちい野心家に見えてしまった。

 だが仮にも総務局局長にまでなった人物であるそれなりの人脈と実力はあるし頭の回転は速かった。

 コクトはマーメイプロジェクトの再会については感謝しながらも、モンヘの手下となって働くことに関しては曖昧に答えを濁してその場を逃れていた。

 モンヘはそれがいたく気に入らなかった。

 コクトの様な大した地位も無い人間が自分の申し出をなぜうれしく思わないのか、理解できないようだった。

 だが、武装集団に占拠された時は自分すら狼狽して武装集団の言うがままに協力したのに、コクトらはたった数人でマーメイを使って武装集団を追い出してしまった。

 モンヘはどうしてもコクトを取り込むか、コクトが持っているマーメイに関するノウハウは押さえて置きたかった様だ。

 もちろん、所在が分からなくなった「黒い鉱石」の情報も、である。

 「仕事以外であまり頭を使いたくないもんだ」

 コクトは両腕を頭の後ろで組んでそのまま目を閉じた、もう考えるのもめんどくさい、と思った。そしてそのまま眠り込んだ。


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