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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第19回   ★☆更迭☆★
 ジョブズは朝から不愉快な気分だった、今日は朝早くにマーメイプロジェクトビルに着いたのだが、車から降りようとしたタイミングで電話が鳴り、警察本部に呼び戻されたのだ。

 「ジョブズ君、マーメイプロジェクトに行くのはやめたまえ」

 「?」

 ジョブズはてっきりモルタニア軍の状況を質問されると思っていたので、少し拍子抜けした。

 「長官、どう言うことですか?」

 「今、モルタニア軍の状況を把握できるところは、マーメイプロジェクトのシュミレーションルームしかありませんよ」

 初老の少しやせたルジウェイ警察のソロス長官はめんどくさそうな顔をした。

 「モルタニアの件は大丈夫だ」

 「ただの軍事演習だそうだ、我々警察がとやかく言う問題ではない」

 「それに、総務局外務部からクレームが上がっているんだよ、モルタニアを刺激するような行動は控えて欲しいと」

 どう言うことだ、モルタニア軍の監視は総務局からの依頼ではなかったのか!?

 ジョブズは、また始まったか、と思った。レイモンの時もそうだったが上層部は全てのことに関してことなかれ主義だった。

 まぁこいつらは何年かしたら本国戻ってそれなりのポストが用意されているから、ここでがんばる必要もないときている。

 「それにシステムの受け入れは、クレイ君達ががんばっているそうじゃないか、君は元の部署に戻りたまえ」

 「しかし長官!」

 「聞こえなかったのか、命令だ」

 「っく」

 ジョブズは黙って拳を握り締めた、納得がいかなかった。

 「以上だ!」

 ジョブズはソロスをにらみつけた。ぶん殴りたかったが、それはできるはずもないことは重々承知している。

 「わかりました、長官!元の部署に戻ります」

 ジョブズは大声で叫び、敬礼をすると、後ろを振り向き長官室を出て行こうとした。

 「あっ、ちょっと待てジョブズ君」

 「!?」

 「何ですか?」

 「君はコクトから、リストを受け取らなかったか?」

 「いいえ、何のリストですか?」

 「いや、何でもない、気にしないでくれたまえ」

 ソロスは罰の悪そうな顔をしていた。

 「は、はい、・・・」

 ジョブズは頭を少しひねりながら長官室を後にする。

 「まったく、仕事熱心もほどほどにしてくれるといいんだが、・・・」

 ソロスはうんざりした顔で、机の上の受話器を取り、誰かと話し始めた。

 「局長、そちらの希望通りにいたしましたので、・・・それと例の件はよろしくお願いします」

 『・・・・・』

 ソロスは短めの会話が終わると受話器を降ろす。

 「マーメイプロジェクトか、まったく諸刃の刃だな」

 ソロスは外の景色を見ながらボソッとつぶやいた。

 長官室を出たジョブズはブツブツ言いながら、廊下を歩いていた。

 「コクトからリスト?、・・・・」

 「気になるな」

 ジョブズは、レイモンの事件のことを思い出していた。

 レイモン事件では、ほんの半日程度で武装集団がルジウェイの主要箇所を制圧したばかりか、上の命令とはいえルジウェイ警察は彼らの手先となってコクトとオニールを捉えようとしていた。

 あの時は、ジミーの操る無人ヘリに囲まれたあげく、ジミーに説教されたからな、ははは

 ・・・・

 ジョブズはエレベータに乗り込むと地下10階のボタンを押した、ここの地下には本物の作戦室があると聞いていたからである。

 何度か耳が圧迫されるたびに、通常はダイビングで行う耳抜きをした、鼻を指で挟み口を閉じ息を耳の方へ向けて吐き出すように圧力を加えると、耳の圧迫感は無くなった。

 エレベータを降りると薄暗い廊下が伸びていた、しばらく歩くと作戦室の分厚いドアの前にたどり着いた。

 長官にマーメイプロジェクトには関わるなと言われたが、一度は本物の作戦室を見ておきたかったのだ。

 そこはルジウェイの防衛及び警備のための作戦室で、現在マーメイプロジェクトでテストしているシュミレーションシステムが完成次第、防衛及び警備に関するシステムは全てこのここにある作戦システムに移行されることになっている。

 「今、マーメイプロジェクトでがんばっているクレイらは、やがてここで仕事をすることになるのか、たのもしい連中だ」

 作戦室の分厚いドアの横に、認証用のカメラが備え付けられていた、カメラの下のLEDランプはゆっくりと点滅している、認証システムは生きているようだった。

 「ジョブズだ、私がここに入れる権限を持っているんなら、空けてくれ」

 LEDライトの点滅が少し激しくなった、そして数秒後に元のゆっくりとした点滅に戻る。

 『はい、ジョブズ警部、初めての入室なので認証が少し遅れました、どうぞお入りください』

 洗練された女性の合成されたマーメイの声であった、分厚い作戦室の扉がゆっくりと油圧音を出しながら開いていく。

 「あらら、言ってみるもんだな、まさか入れるとは」

 ジョブズ警部が作戦室に入ると、分厚いドアがゆっくりと閉じていく。真っ暗な部屋のなかは無数の機器のLEDライトが激しく点滅していた。

 「なんだ、この部屋はもう使えるのか」

 電源の入っていない新品の機器類が置かれているだけと思っていたジョブズは驚いてつぶやく。

 『はい、若干のシステムの更新は必要ですが熟練された人材さえいれば直にでも使用できます、現在マーメイプロジェクトではシステムの最終テストの段階に入っています』

 「うっ」

 独り言を言ったつもりだが、マーメイが返事を返してきたので思わずビックっとしてしまった。

 「マ、マーメイ、聞いていいか?」

 『はい、何でしょうか?』

 ジョブズは何度かマーメイを使って仕事をしたことはあるが、正直マーメイの人工知能がどの程度のレベルかは知らなかった。まぁ興味が無かったと言った方かいい。

 「コクトのリストって何だ?」

 『・・・・』

 マーメイの目と言える、作戦室の天井に設置されているCCDカメラがジョブズ警部を捕らえたまま微動だにしない、まるでじーっとジョブズを見つめているみたいだった。

 『質問の内容が特定できません、また、そのような質問にはセキュリティ上お答えできかねます』

 「ふっ、そうだよな」

 「悪いマーメイ、言ってみただけだ」

 むろん自分の質問に対し、マーメイが答えてくれるとは思っていなかった、マーメイの反応が見たかっただけだった。

 ジョブズは一通り作戦室を見渡すと、大きくため息をついて部屋を後にしようと、出入り口の方に歩き始めた。

 『ジョブズ警部』

 「!」

 「何だ?」

 ジョブズはマーメイから呼び止められ少し驚く。

 『モルタニア軍が動きが活発になっています、至急シュミレーションルームへ戻ることをお勧めします』

 「驚いた、いまどきの人工知能は人様にアドバイスもするのか?」

 「分かった、そうする」

 『・・・・』

 ジョブズは緊張した顔で作戦室を後にした、ルジウェイで内部で何か妙なことが起っている、自分がマーメイプロジェクトから手を引くように言われたことに対しても、腑に落ちない、なんだこの違和感は。

 マーメイは俺がマーメイプロジェクトから外されているってことは知らないのか?

 しかし、・・・

 コクトお前は誰と戦っているんだ?


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