執務室でルナは誰かと話していた。
ルナの机の上のモニターにはモンヘ局長の顔が映し出されている。ルナは椅子に座り肘を机に乗せて両手を握り締めて、まばたきもせずにモニタに映し出されているモンヘ局長を見ていた。
モニタに付属のスピーカからモンヘの声が聞こえてくる。
『君をマーメイプロジェクトに行かせたのは正解だったな、正直あのリストが公表されたら、とんでもないことになるところだっだ、よくやったルナ』
モニタに映るモンヘはピストルタイプのライターの引き金を何回か引き、葉巻に火を付けようとしているが、相変わらず火の付きが悪く、なかなか葉巻に火が付かない。
『で、コクトは本気で告発する気なのか?』
ルナは笑みを浮かべた。
「はい、リストに上がっている以外にも不正な支出がないか調べさせています、それが済み次第告発するようです」
『・・・・』
『おっ、やっと付いた』
モンヘは葉巻をゆっくりと吸い込み、自分を映しだしているカメラに向かって煙を吐き出したようだ、ルナの見ているモニタがタバコの煙で曇り、モンヘの顔が煙で少し隠れた。
『正義の味方気取りか、・・・・』
『今、モルタニアの将軍をどうにか金でなだめようとしているんだが、マーメイプロジェクトのお陰で、金の工面がやりにくくてしょうがない』
『どこの経理担当者も、システムがマーメイに統合されると今までの偽装がばれるんじゃないかと、ビクビクしやがってなかなか金が集まらないのだ、まったく困ったもんだ』
「彼らの心配は的中したわけですね」
モニタのモンヘがルナを睨みつけた。
『・・・・』
『ああ、その通りだ、私もこんなに早くそれも事細かく、このようなリストが作られると想定外だ、これじゃ弁明の余地がまったくない、多くの協力者が強制送還されてしまうではないか』
モニタに映るモンヘの顔が段々険しくなってきた。
『コクトの奴つめ、私の推薦でマーメイプロジェクトの責任者にしてやったのに、私になびくどころか余計なことばっかりに力を注ぎよって、奴は恩を仇で返す気なのか?』
モンヘにして見れば、マーメイプロジェクトよりも、ブラック・ダイヤの行方の方が大事であった。しかしモンヘの気持ちを逆撫でしたのは、ルナがモンヘに見せた告発リストである。
モンヘはルジウェイでの自分の影響力を広げるため、ルジウェイ総務局長の立場を利用して、主要な立場の人々に経済的支援をしていたのだ。
もちろん、自分の金を配るようなバカなことはしない、ルジウェイの運用資金を巧みな方法で、流用していた、贈収賄に関わっている大半のメンバーの名前が告発リスト載っていたのだ。
「どちらにせよ、コクトとフレアに関しては、多少荒っぽい対応が必要になってきたと思います」
ルナは猫の瞳のような鋭い視線をモンヘに送る。
『・・・・』
『そうだな、その手でいくか』
モンヘは高級な革張りの椅子に深々と腰を沈め、ため息を漏らした。
「局長」
『何だ?』
「ルジウェイ警察のジョブズ警部がコクトの近くにいると、いろいろ不都合なことが多いのですが、どうにかなりませんか」
『じゃまなのか?』
「ええ、少し」
『わかった、別の人間に変える様に治安局の上の連中に相談してみる、なぁに奴らとは気心が知れた仲だ、直にでも変えてもらうさ』
「感謝します」
ルナはモニタの電源を切ると立ち上がり窓の外に目をやった。そこには深遠な闇の中に整然と並ぶ街灯に形どられた都市ルジウェイの夜景と、その上に広がる星屑の川が美しく調和していた。
ローマのガイウス・ユリウス・カエサルの言ったと知られる言葉に、賽は投げられた、とあったわね、コクトあなたは気付かないでしょうが、まさしく今夜がその時よ。
ルジウェイの新しい歴史が創造されるこの瞬間、そして私もやっと解放される、早く故郷へ帰りたい、・・・・・。
星空を眺めているルナの目には涙が溢れていた。
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