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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第14回   ★☆アミアン☆★
 コクトは厚さ5センチのA4サイズのファイルに閉じられたリストの表紙を見ていた、表紙のタイトルには「電子認証偽装について」と印字されている。

 最初の数ページは目次として、ルジウェイの各局の部署及び各機関の名称があり右端にはそのページが印字されている。

 数ページの目次以降の内容は、部署毎に名前、所属、役職、そして最後に金額が1行単位に一覧表としてびっしり印字されていた。

 最初の一覧を時間をかけじっくり眺めた後、次のページは数秒見て直にめくり、それ以降のページはリストの端のパラパラ漫画を見る速度であっという間に最終ページまで見終わった。

 コクトはうんざりしていた、何でこんなリストが自分の目の前にあるんだ、俺にどうしろってか?、と言って見てしまった以上無視するこはできない、どうする、・・・・。

 コクトはファイルを閉じると机の上にゆっくりとファイルを置いた。

 「ランロッドさん、このリストを作成した人と話がしたいんですが、呼んでくれますか」

 コクトの机の前に立っているランロッドはスケジュール管理室のメンバーの方を振り向き「ベトラ」と、若い女の子に声を掛けた。

 その子はうなずくと、直に受話器を取り短縮ボタンを押し電話を掛ける、相手は直に出たようだった。

 「私にもリストを見せてもらっていですか?」

 ランロッドの横に立っていたルナがコクトに確認すると、コクトは無言でファイルをルナに渡す。

 「今度は内部の厄介ごとだ、・・・・・」

 コクトは立ち上げって、全員に声を掛けた。

 「みんな、自分の椅子を持ってこっちに集まってくれ、緊急ミーティングだ」

 「ランロッドさんもルナ立ちっ放しでは疲れるだろう、椅子に座るといい」

 「は、はい」

 ランロッドはこの若きリーダがこの事態にどう対応するのか、興味があった、当初この巨大プロジェクトの責任者が自分よりも若いと知って驚いた、よっぽど頭が切れるのだろうと思ったが、実際に接してみるとそうでもなさそうに思えたからだ。

 それなら凄いコネでもあるかとも色々回りに聞いてみたがそうでもないらしい、どうやってコクトがマーメイプロジェクトのトップになったのか興味があった。

 しかしコクトが嫌いではない、あたりまえのことをあたりまえにやっているように見えるからだ。但しそれが一番難しいことだともランロッドは知っている。

 ランロッドの席はコクトの席の目の前にあった、ランロッドは少し手を伸ばし自分の椅子を引き寄せると、コクト机の端に置いて座った。ルナの席もコクトの隣にある、ルナはランロッドとは反対の机の端に座る。

 コクトの机をテーブル代わりにして、コクト、ルナ、スケジュール管理のメンバー6人が取り囲むように座った。

 ルナは椅子に座り、コクトと同じ様に数分でリストの内容を確認すると、無言でコクトの机の上に戻した。

 全員がことの重要性を認識しているようだ、声を出す者はいなかった。

 執務室の扉を叩く音が聞こえた、執務室自体壁も扉もガラス張りのため、誰が来たか直に分かった、ドアの外には背の高い女性が立っていた、最初は一人かと思ったがその横には小さな女の子も一緒だった。

 セキュリティ上、執務室に入れるのはスケジュール管理室のメンバーとコクトとルナだけである、それ以外の人は付き添いが必要だ。

 「私が、」とルナが真っ先に立ち上り、ドアに向かった。

 ランロッドが隣に座っているベトラの耳元で「こういうのは下っ端がやれ」とささやく、ベトラは「行こうと思ったんだけど、先こされたの」とランロッドを睨む。

 「じゃ彼女らの椅子でも用意しろよ」

 「ふん」

 ベトラはふてくされながらも立ち上がり、小走りで部屋中を駆け回りふたり分の椅子を用意してきた。

 アーリはルナに案内され執務室に入ると、少し大きめ机を囲んでスケジュール管理室のメンバーがミーティングをしているように見えた。一番奥の一人が立ち上がると次々に全員が立ち上がり自分達が来るのを待っている。

 アーリはてっきり重々しい会議室に連れて行かれ、尋問されるのかと思っていたが、意外にそうでもなさそうなのでほっとした。が、横を見るとアミアンが両手を握り締め傍からでも分かるぐらいブルブル震えていた。

 「アミアン、落ち着いて」

 アミアンは見上げるように、アーリを見ると「む、無理よ、」とつぶやく。

 「どうぞ、少し雑ですが座ってください」

 ルナが二人に座るように進めると、コクトも自分の椅子に腰を落ち着かす、他のメンバーもそれに習って座った。

 「コクトさん彼女がこのリストを作った、アーリとアミアンです」

 ランロッドが二人を紹介する。

 「余計な話は省きます、このリストの信頼性は?、もし間違った情報を元に意図的に作った場合、それなりの処分は覚悟する必要があります」

 コクトは少し強い口調でアーリとアミアンへ尋ねた。

 気の強そうなアーリは、このボスは部下を信用していないのかと思い、口を真一文字にしコクトに強い視線を送った。コクトはアーリの視線を受け取ると、それをそらすようにゆっくりと視線をアミアンに向ける。

 小柄なアミアンは完全にコクトを怖がってうつむいたままブルブル震えていた。

 コクトは深くため息を漏らした。

 「しかし、これは意図的に作れるようなリストではありません、たとえ作っても、自分なら数秒で本物か偽者か分かります」

 うつむいていたアミアンはふっと頭を上げるてコクトを見るて不思議そうな顔をした。他の管理室のメンバーも少しざわつく。

 「どうやって確認するんですか?」アミアンは先程までの緊張を忘れたかのように、コクトに尋ねる。

 「あっ、すみません」

 アミアンは自分が余計な事を言い出したと思い、また下を向いた。

 コクトは隣のアーリと目が合うと苦笑いする。アーリも笑顔でそれに答えた、このときアーリは自分らのボスは信頼に値する人物ではないかと思った。

 「マーメイに確認させればいいんですよ、今ならデータ以降用に全ての経理情報が揃っているはずだから、偽装された認証に割り当てられている人物を探し出し、そいつが処理した取引情報を片っ端から洗い出してこのリストと突き合せれば、多分分かるかな、・・・・・」

 コクトは少しアミアンの反応を待った、しかしアミアンはコクトの言葉を頭の中で論理的に組み立てているようで頭の中は忙しそうだった。

 「ごめんアミアン、数秒は言い過ぎだ、数時間だな」

 「い、いえ」と、答えるとアミアンがもじもじし始めた。

 「で、このリストを作った経緯が知りたい、このルジウェイでこのような不正が日常茶飯事に行われているなんて信じられないんだ」

 コクトの言葉にアーリが答えた。

 「実際にこの偽装を発見しリストを作ったのは彼女ですが、見ての通り少し口下手なので代わりに私が説明します」

 コクトはうなずいた。

 アーリの説明によると、ある部局の経理システムとマーメイをテスト的に統合したら、マーメイから「電子認証が偽装されています」と警告を受け、システムの統合を拒否されたらしい、しかしそれだけではなかった。

 電子認証の偽装はたとえテストでも認められていないためその行為は犯罪に値すると、これ以上偽装された認証データを使うのなら告発の対象となります。と、脅されてしまった。

 それでもアミアンは自分の担当したところだけなのか確認しようとして、試しに他の部局のデータでも同じ様に確認したところ、やはりマーメイに再度警告を受けてしまったのだ。

 それでも何かの間違いではないかと疑ったアミアンは、偽装された電子認証で取引された処理の追跡プログラムを作って各部局のシステム調べてみると。偽装された電子認証を使ってある複数の特定の人物達へ多額の金額が送金されている事実が浮かび上がってきたらしかった。

 さらに正確さを出すために、取引を行った端末とログインIDを調べる機能をプログラムに追跡し、どこの誰が偽装された電子認証を使って誰に送金したかが明確になるようしてしまった。そして作成されたリストが今コクトの目の前に置かれていたのだ。

 コクトがぞっとしたのは、送金を受けた人物たちの多くがルジウェイの上層部で占められていたことだ。その金額も半端ではなかった、ルジウェイの年間予算の1割近くが彼らの懐や海外に送金されていたのだ。

 「アミアンさん」

 「は、はい」

 ルナがアミアンに声を掛けると、アミアンは怒られると思ったのか、身を小さくする。

 「あなたの追跡プログラムは、巧妙に隠蔽された不正工作を見事に突き止めているようですね、驚きました」

 「えっ?」

 アミアンは逆に褒められたのであっけにとられたようだ。

 「はぁー、ルジウェイのトップの連中の総入れ替えが必要だな」

 コクトがため息混じりにつぶやいた。

 「でも不思議だ」

 「何がですか?」

 ルナがコクトの方を振り向いた。

 「そうそうたるリストの中に、モンヘ局長の名前が無かった、リストの一番上に載っても、よさそうなもんだが」

 「・・・・」

 「ごめんルナ、あやまる」

 コクトは失敗したと思った、つい考えたことをそのまま口に出してしまったからだ。たとえ、いやな上司でも、誰だって自分の上司の悪口を言われれば、いい気持ちはしない。

 「そうですよ、コクトさん、気をつけてください」

 「あともう一つ、モンヘ局長は元上司です、今はあなたが私のボスですから、それを忘れないでください」

 小さな笑いがところところで聞こえた。

 「んん」

 コクトは喉の胆を切るように咳き込む。

 「ところでこの件について、経理統合チームのリーダの判断はどうなっている?、本来ならリーダがここに来るべきだと思うのだが、理由があるのか?」

 「コクトさん、その件については私が」

 ランロッドが手を上げた。

 「うむ」

 「残念ながら経理統合チームの責任者は総務局から出向できた人物です、身内の不正の隠蔽に奔走中です」

 「前にもコクトさんに報告していましたが、各部局の担当者からシステムの統合を延期できないかとの要望は今回の件と絡んでいます」

 「彼女らから聞いたところによると、経理統合チームでは偽装された電子認証のデータをどうにか抹消できないか、または不正データを正常な取引として認識できないか検討しているようです」

 「彼女らはそれに真っ向から反対したため、チームで浮いた存在として疎まれているようです、まったく理不尽ですよ」

 ランロッドは呆れるように両手を広げた。

 「経理統合チームの名誉にかけて、捕捉します」

 アーリが立ち上がってコクトの方を向く。

 「大半のメンバーは声には出しませんが疑問に思っています、しかし殆どのリーダクラスは、各部局からの担当者が出向で来ているため、疑問に思っても従うしか選択支がないことを理解してください」

 アミアンがうつむいて泣いているのが分かった、肩が小刻みに震えている。

 気丈そうなアーリの目頭も少し赤く膨らんでいた、よっぽど酷い嫌がらせを受けたんだろうとコクトは思った。昔のバカ正直な自分と重ねてアーリとアミアンを見ていた。

 アーリは座ると、アミアンの背中をやさしくなでてささやく「もう、大丈夫よ」と。

 「コクトさん、自分の置かれている立場が分かりますか?」

 ルナの言葉は冷たく感じ取られた。コクトは横に座っているルナに対して疑うような視線を投げかける。

 「上司であるモンヘ局長の支持を仰げと、・・・」

 ルナは口を押さえて意味深げな笑いを抑えた。

 「まさか、そんなことをしたら、潰されるに決まっています」

 「何が言いたいんだ?」

 コクトは少し感情的になっている自分に驚いた。ルナは立ち上がり周りの一人一人に語りかけるように話し始めた。

 「この件に関して、どちらに転んでも全てコクトさんが悪者にされ全ての責任を負わされることになります、たぶん私たちも」

 「なんでよ!?」ベトラが反論しようとしたが、ルナがそれを手で制する。

 「まず何もしなかった場合、」

 「不正は闇に葬られ、経理システムの統合は大幅な延期か、最悪の場合凍結されます、プロジェクトの責任者であるコクトさんの処分は免れません」

 「次に、このリストで名前が上がっている人物達を告発した場合、見ての通り殆どがルジウェイの上層部です、あらゆる手段で圧力を加えてくると思います、恐らくコクトさんを犯罪者に仕立て上げることぐらい簡単でしょう」

 「真実を明らかにしようとする人は、確実に処分されます」

 「殺されるのか?」細長のチャームがぼそっと声を漏らす。

 「その可能性もあります」

 その場にいた全員が沈黙した、ここにいる全員が当事者なのだ、もはや逃げることはできない事態に巻き込まれてしまっていると感じていた。

 「分かったルナ、もういい」

 コクトはルナが何故こようなことをあえてここにるメンバーの前で言うのか意図が分かっていた、皆に話しているようだが実はコクトに皆の前で決断を迫っているのだ。都市ルジウェイを奪えと、それ以外に選択の余地はあり得ないと。

 「知ってしまった以上、僕らがやるべきことは明確だ、協力してくれるか?」

 コクトは一人一人をゆっくりと見渡した。やはり動揺は隠せない、多くのメンバーは決めかねているようだった。コクトとルナ意外は殆どが最近ルジウェイ市民になったばかりだ、無理も無いとコクトは思った。

 「ボス、やぼなことは聞かないでくださいよ、ここにいるメンバーの返事は決まっています、指示をください」

 ランロッドが重い口を開いた、他のメンバーもうなずく。

 コクトはポケットから小型通信を取り出し片方の耳に装着すると電源ボタンONにすると、マイクを口に近づけた。

 「マーメイ、聞こえるか」

 『はい、コクト何でしょうか?』

 「アーリとアミアンに経理関連の全システムのアクセスと人事データベースへのアクセス権限を付与してくれ、同様にスケジュール管理室のメンバー全員にも同じ権限をたのむ、権限の期間は、マーメイプロジェクトが終了するまでだ」

 『確認ですコクト』

 「何だ?」

 『アーリとアミアンの所属を確認します、二人ともマーメイプロジェクト経理統合チームのメンバーでしょうか?』

 「そうだ、問題あるのか?」

 『はい、コクトあなたの命令は、セキュリティシステムにて拒否される可能性が100%です』

 「無視しろ」

 『・・・・・』

 「マーメイ、拒否するのか?、セキュリティホールを塞いでくれと指示しても、君は受け付けてくれなかったじゃないか」

 コクトの声は全員が聞き取れるが、通信機器のイヤホンから漏れてくるマーメイの声は、途切れ途切れにしか聞こえないが、少し滑稽だが傍から見るとコクトとマーメイが喧嘩しているように見えてしまう。

 ベトラがランロッドの横腹を突付いた、「うちのボス、マーメイにとんでもない指示をだしている上に拒否されて、怒っている様に見えるけど大丈夫なの?」と小声でランロッドにささやく。

 アーリとアミアンは不思議そうに顔を見合わせた。他のメンバーもざわざわし始める。

 「ふーっ、まったく最近のマーメイは少し反抗的だ」

 コクトは小型の通信機器の電源をきると、ポケットに仕舞い込んだ。コクトが周りをみると皆が不思議そうな顔つきでコクトを見ていた。

 「んんーっ」と咳き込んで、立ち上がった。

 「マーメイとは話がついた、聞いての通り必要な使用権は確保した」

 そんなバカなと、ベトラが声を出そうとするのを、ランロッドがベトラの口を手で押さえて防ぐ。

 「アーリ、アミアン」

 「は、はい」

 アーリとアミアンは思わず立ち上がった。

 「今回の電子認証の偽装も含めて、疑わしい取引を全て洗い出してくれ、そして最新のリストとその証拠となる取引リストを作るんだ、今度はマーメイも全面的に協力してくれるはずだから少しは楽にできると思う」

 「そして内々に統合チーム内で信用できる仲間をできるだけ集めるんだ、仲間は多ければ多いほどいい」

 「そして、ランロッドさん」

 「はい、ボス」

 ランロッドもアーリとアミアンにつられて直立不動の姿勢をとった、ランロッドは自分の行動がおかしく思えたが、とんでもないことしようとしているのが分かるが、こんなに心が躍らせれたのは長い人生で初めての経験ではないかと思った。

 「管理チームはアーリとアミアンとの連絡を密にし影から支援してくれ、そして重要な仕事がもう一つ」

 「は、はい」

 管理チームの他のメンバーも椅子から立ち上がる。

 コクトはアーリとアミアンが作ったA4サイズのファイルを片手で持ち上げた。

 「恐らく、いや、確実に、このリストに載っている連中を告発することになる、その手続きの準備をたのむ」

 「分かりました、ボス」

 コクトはうなずくと「お疲れさん、ミーティングは終わりだ、作業に取り掛かってくれ」と、長時間に及ぶ長いミーティングの終了を宣言した。

 「分かりました、隊長!!!」

 小柄なアミアンの声はどうしても小学生の声に聞こえてしまう、最初はみんな堪えていたが、誰かが限界に達して吹き出してしまった。

 アミアンとコクト以外の全員が涙を流して笑い転げてしまった。

 コクトはアミアンを見ると「隊長はないだろう」と、苦笑いをするとアミアンは舌を出して「す、すみません」と、小声で謝った。


 アーリとアミアンの所属する経理統合チームは隣の3号棟の2階にあった、二人は3号棟まで渡り廊下で行き、2階へ降りるエレベータを待っていた。

 「アーリ、何か凄いことになってきたね」

 「怖くなってきた?」

 「ううん」

 「コクトさん、いや、うちのボスのお陰で今までのもやもやしていたのが、全部ぶっ飛んじゃた」

 「あらら、アミアン切替が早いわね」

 「うん、アミアン燃えてきた」

 アミアンの瞳はぎらぎら輝き拳は目の前で強く握り締めていた。

 アーリも気持ちは同じである、ただ自分達のせいでコクトやスケジュール管理室のメンバー、それどころかマーメイプロジェクト全体をとんでもないことに巻き込んでしまったような気がして、少し不安になって来た。

 「アーリ」

 「な、なによ」アーリはアミアンが意地悪そうな視線を自分に向けているのに気付くと、自分の心が読まれたのかと思った。

 「迷いがあるの?、だめよ、もう後には戻れないよ」

 「ば、ばかねー、私だってやるわよ、同志を集めないとね」

 いつもめそめそしているアミアンに励まされている自分がおかしかった、それにしても小さな体のアミアンから強いオーラがでまっくているように見える。一度目標を見つけると物凄い集中力を発揮するアミアンが少し頼もしく見えた。


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