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作品名:ルジウェイU 作者:ナルキ辰夫

第10回   ★☆砂漠の狐☆★
 翌日、モルタニア軍はルジウェイ西100キロ地点に集結したまま動き出す気配はなかった。

 そこへ10機からなる武装ヘリの編隊が爆音を響かせ近づいていた。

 近年モルタニアは中国の支援で沿岸部の石油と天然ガスの生産が軌道に乗ったことと、レアメタルの鉱脈が次々と発見され、資源大国として急速に発展しつつあった。

 しかし利権を巡って近隣諸国や部族間の対立も再燃し始める、そこで大統領は部族間の対立を押さえるために豊富な資金を注ぎ込んで国軍の増員と兵器の近代化を急速に進めていた。

 モルタニアとしては、アメリカ製の最新装備で軍の近代化を推し進めたかったが、兵器が高価すぎるのとアメリカが難色を示したため、アメリカからの装備の調達は断念する。

 が、代わりに中国とロシアがモルタニアに対して武器の提供を申し出た。アメリカ製の武器の様に高性能とは言えないが、操作性や保守などを考慮するとその方が結果的にモルタニアにはよかった。

 中国やロシア製の兵器は、構造がシンプルな上に使い勝手が良く、兵士の技術の習得にもそう時間がとられることはないからである。

 むろん、中国とロシアが自国の最新の武器を提供することはない、あくまでも一世代前の武器を格安で提供していたのだ。

 そのため機甲師団としての体裁は整っているが殆どが一世代前の装備である、だがアフリカ大陸でこれだけの機械化された軍隊を持っている国家は現時点ではモルタニアぐらいである。

 「カービン少佐、左前方に何かいます」

 ムハメド・カービン、モルタニア軍の若き将校である、彼はアフリカ系とアラブ系の混血で、モルタニア大統領の息子である。そして機甲師団を指揮するワゲフ将軍は大統領の弟にあたる。

 「どこだ?」

 「あそこです、前方約1キロ上空です」

 ヘリのパイロットが指差す方向を目で追っていくと、米粒程の黒い小さな点が見えた。

 「鳥ではないのか?」

 「いえ、鳥にしては変です、同じ場所に停止しているようで、動く気配がありません」

 「いい目をしているな」

 副操縦席に座っているカービンは双眼鏡を取り出し覗き込んだ、そして黒い点に照準を合わす。

 「ビンゴだ!」

 「本体の大きさに比べやたら回転翼が大きい、そして人が乗れるような仕組みにはなっていない様だし、見つけられたはしたが保護色になるように迷彩が施されている」

 カービンは双眼鏡を降ろす。

 間違いない、ルジウェイの偵察用ヘリだ、ちゃっかり我が機甲師団を監視してやがる。

 「打ち落とせ」

 「えっ、いいんですか?」

 「かまわん」

 パイロットは少し躊躇したが、これも軍事演習の一環か、と思った。

 「イエッサ!」

 上空を飛ぶ10機のヘリの編隊から、1機だけが左方向へ抜けるとスピードを上げ編隊から離れていく。

 ヘリのパイロットは慎重に小さな黒い点にしか見えないターゲットに向けて6つの砲身が束になったバルカン砲の照準を合わせた。

 操縦桿に備え付けの安全装置であるキャップを外すと、トリガーを軽く2〜3回引く。

 「ダダダダダダダダ」

 「ダダダダダダダダ」

 「ダダダダダダダダ」

 パイロットがトリガーを引いたのはほんの数秒だが、数百発の銃弾が光の線を伴って前方の空の中に消えていく。

 「どうだ?」

 標的があまりにも小さいため、撃墜したか直には確認できない。

 しばらくするとパイロットの顔が安堵の表情になった。

 「やりました!少佐」

 銃弾が放たれた先で、肉眼でどうにか確認できるぐらいの細長い煙を吐いて、落下する小さな物体が確認できた。

 「よくやった」

 「将軍にいい手土産ができたぞ」

 武装ヘリは白線で簡易的に作られた、ヘリポートに次々と着陸していく。その砂埃はまるで砂嵐でも発生したようだ。

 砂埃がわずかに収まると1台の砂漠仕様の迷彩を施された四輪駆動車が、カービンを乗せたヘリの近くまで行き停車する。

 車から二人の兵士が降り小走りで前まで行くと直立不動のまま若い士官が降りてくるのを待った。

 ヘリの左舷のドアが開くと、カーキ色したカーボイハットを深くかぶった、カービンが砂埃に目を細めて周りを確認後、ゆっくりとタラップを降りてくる。

 二人の兵士は若き将校に向かって敬礼をする。

 「少佐、将軍がお待ちです」

 カービンも彼等に軽く敬礼を返した。

 「うむ、案内してくれ」

 カービンは迎えに来た車の後部座席に乗り込むと、迎えに来た二人の兵士もそれぞれ運転席と助手席に乗り込み、車を走らせる。

 車は整然と並んで停車している戦車部隊の前を砂埃を上げ走り抜けていく。

 「ここまで揃うとまるで、ロンメル将軍の機甲師団だな」

 カービンは運転している兵士に向かって話しかけた。

 「はい、第三次世界大戦でもおっぱじめそうな雰囲気ですよ」

 「まったくだ、はっははははは」

 末端の兵士達には今回の軍事演習がまだ、単なる規模の大きい軍事演習だと思っている様だった。

 車は2〜30人は軽く入れそうな大きな司令部のテントの前で停車した。

 「着きました少佐」

 「うむ、ごくろう」

 カービンの父がクーデタでこの国の実権を手に入れた時、反対派の将軍や反政府組織のゲリラ等をこの圧倒的火力をもつ機械化部隊を駆使して鎮圧したのが、現大統領の弟ワゲフ将軍とカービンであった。

 ワゲフとカービンは反対勢力が体制を整える前に、彼らの拠点を次々に機械化部隊で攻略して行き、反撃の機会すら与えずに、数ヶ月でこのモルタニア全国土を制圧したのだ。

 特に人々は若き士官カービンに第二次世界大戦の英雄ロンメルを重ねて、砂漠の狐と評していた。

 カービンは車から降りると、テントの入り口を警備している2人の兵士が駆け寄ってきた。2人の兵士は若い将校の顔を確認すると驚いて、素早い動きで敬礼する。

 「将軍が中でお待ちです!少佐」

 「うむ」

 カービンは警備の兵士を後にテントの中に入ると、テントの中には少し太めだが精悍そうな初老の将軍が一人でテーブルに広げられている作戦地図を見ていた。

 「おおー!カービン来たか、待っていたぞ」

 ワゲフ将軍である、ワゲフはうれしそうに、カービンに近寄り肩に腕を回し、軽く数回カービンの頬を軽く叩いた。

 「相変わらず、いい面構えをしているな」

 「将軍も元気そうで」

 ワゲフとカービンの居るテントの北2キロ地点では、地上では数台の軽装甲車と上空では2機の戦闘ヘリが、カービンらが打ち落としたルジウェイの偵察用ヘリの捜索を行っていた。

 装甲車上部のハッチから上半身を外に出して双眼鏡で周りの砂漠を見渡していた兵士が、諦めたように双眼鏡を降ろした。

 「ちっ、破片すら見つからない」

 兵士は無線機を取り出し、口元に近づける。

 「一旦、引き上げるぞ、もっと人数を増やして捜索範囲を広げないと無理だ」

 『了解!』

 無線にヘリからだと思われる返信が帰ってきた。


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