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作品名:ルジウェイ 作者:ナルキ辰夫

第9回   ★☆ジミー・コハマ☆★
 オニールは、装甲車をルジウェイのセンターサークルの真東にある高エネルギー研究所へ向けた。そこはルジウェイの誇る巨大加速器の全ての制御を行うところであり、世界中の物理学者が喉から手が出るほど充実した機器や環境が揃っている。

 「オニール、高エネルギー研究所まではどのくらいかかる?」

 「えーと、ぶっ飛ばしていくから1時間くらいかな」

 「コクト、ちょっとたずねるが」

 「なんだ?」

 「向こうについたら、どうする?俺達二人で殴りこむか、俺はかまわないけど」

 「いや、二人ではつらいものがある」

 マーメイのカメラが「ジージー」と音を立て二人を交互に見ると『私もいますが』と言うと、コクトとオニールは顔を見合わせ思わず吹き出してしまった。

 「こ、こいつは、気が利く電子秘書だ」

 オニールが笑いをこらえながらどうにか言葉にした。コクトも同感だった、今度マーメイの本体であるスパコンの構成を調べてよろうと思った。

 「仲間は多い方がいい」

 「では、マーメイ、君に重要な仕事を与える」

 『はい!コクト』

 「まずは、装甲車制御システムへ入り込み、動ける無人装甲車を全部、高エネルギー研究所へ向かわせろ、そして到着したら研究所を包囲させるんだ、それ以上はまだ何もさせるなよ」

 『確認です、コクト、武装させますか?』

 「もちろんだ、それに歩兵ロボットも乗せてくれ」

 『はい』

 「次に、ヘリ制御システムへ入り込み無人ヘリを武装させ、研究所上空で待機させろ、もちろん動けるヘリは全部だ」

 コクトがあまりにも荒唐無稽というか、大げさ過ぎるような指示をマーメイにするものだからオニールは驚いた。

 「おいおい、コクトおまえルジウェイの全システムをハッキングしたのか?」

 オニールはコクトをまじまじと見つめた。

 「いや、セキュリティシステムを無視しているだけだ、心配するな」

 さりげなく言葉を返すコクトに、システムのことを説明されたってどうせ分からないと思い「そ、そうか」でオニールはそれ以上質問するのをやめた。

 『コクト、装甲車20台、ヘリ10機が稼動可能です。ヘリ10機については私達と同時刻に現地へ到着します。装甲車は10分後です』

 「上出来だ!」

 マーメイはコクトの命令を忠実に各システムへ伝えているようだ、もちろんこんなことをするのはコクトも初めてだ、但し実機を使ってのことで、テストと称して開発チームで戦争シュミレーションはよくやった方だ、まさかあれが役に立つとが起きるとは考えもしなかった。

 「すごいぞコクト、一人でこんなたくさんの兵器を扱えるとは恐ろしいやつだ」

 「まさかいくらなんでも一人では無理に決まってる、これから応援を呼ぶんだよ!」

 「そ、そうか、」

 「マーメイ、元シュミレーションチームのジミーは確かまだルジウェイにいたはずだ、ジミーを探し出して、このモニタにつないでくれないか」

 『了解!コクト』

 広大なアウトサークル内にある1000ヘクタールの果樹園にジミーはいた。

 ジミー・コハマ、彼も元マーメイプロジェクトのメンバーで人材不足の煽りを受けてルジウェイに残った一人である。しかし彼は農業に興味があったらしくルジウェイでの仕事は、広大な果樹園の管理をしている。

 東洋系で生真面目で融通がきかない頑固な性格だが、一旦、組織でも自分でもだが決めたことは最後までやり遂げるまで諦めない強い意志を持っている。

 本人も自分の頑固さはいやと言うほど分かっているため、なかなか自分から何かを決める話し合いには参加しようとしない。自分の偏った頑固な性格がみんなに迷惑をかけると思っているらしい。

 上空から見るとジミーを中心に20人位の子供達が取り囲んでいるように見えるが、近づいて見ると取り囲んでいるのは子供ではなく、子供の背丈ぐらいのロボット達であった。

 ロボットは2足歩行だが新たにもう2足のパーツを継ぎ足して4足歩行にもできる様に作られている、重い荷物を運ぶ時や凹凸のある地形で作業する時は4足歩行できるように設計されていた。

 今回、果樹園にいるロボット達は2足歩行なので軽作業用にセッティングされているようだった。

 「良く見ろ、こいつが駆除する芋虫だ、まぁ似たような形をしたのは駆除してかまわない、いいな?」

 ジミーは周りのロボット達に良く見えるように芋虫を右手で掴み高く上げた。そしてロボット達を見渡し反応を伺う。しかしロボットらはカメラの焦点を芋虫に合わせるのに時間をとられいるのか反応が鈍い。それとジミーの言葉の解析に時間をとられているようだ。

 簡単な言葉なら解析できる能力を備えているが、マーメイと違い処理速度は遅い。ま、スーパーコンピュータで構成されているマーメイと比較するのは無意味だが。

 数秒後に、「ワカリマシタ」「ワカリマシタ」、、、と20台のロボットが次々に反応し始めた。

 ロボットの反応に頭を抱えながらジミーは次の指示を出すために芋虫を後ろに放り投げた。

 「次に、駆除作業が終わったら水やりだ。全ての木の根元に直接10リッタずつ散水するんだ、水は貴重だから無駄にするなよ!」

 また数秒後に、「ワカリマシタ」「ワカリマシタ」、、、と20台のロボットが次々に反応し始める。

 ジミーがロボットに指示した作業は、害を及ぼす昆虫を一匹ずつ探し出し、電気ショックで感電させて駆除する方法である。むろん駆除された昆虫はそのまま地面に落ち自然に肥料としての役割も果たす、1000ヘクタールの果樹園でそれを人間にやらせたらとんでもない作業量だ。

 水やりもしかり、1000ヘクタールの果樹園にある木々の1本1本の根元に直接散水するのだ。散水機で広範囲に散水するよりも使用する水の量は半分以下で済む。砂漠のど真ん中にあるルジウェイでは水は貴重だ。しかし逆に水さえあれば日照量も多いため農作物の生産性は高い。

 「まだ作業はあるぞ、その次は、・・」

 と言葉の途中でジミーの携帯電話からベートーベンの交響曲「英雄」のさびの部分が鳴り響いた。なぜか着信音に設定していたようだ。

 「なんだ、コクトかタイミングが悪いな」とジミーは携帯電話の電源を切った、ロボット達に指示が終わったら掛けなおすつもりだった。

 ジミーが「次の作業は、・・・」と言いかけると、最前列にいるロボットの状態を表示するLEDランプが激しく点滅し始めた。

 するとロボットは「ジミーサマ、ケイタイニデロ、ト、イッテオリヤス!」とジミーに向かってしゃべり始めた。

 「はぁ?」

 周りのロボットのLEDランプも激しく点滅し始めると同じせりふを次々にしゃべり始める。

 「ジミーサマ、ケイタイニデロ、ト、イッテオリヤス!」、「ジミーサマ、ケイタイニデロ、ト、イッテオリヤス!」

 「どうなっているんだ!?、」

 ジミーは呆気にとられたが、直ぐに気を取り直す。

 「わかった、わかった、だまれ!」

 するとロボット達は一斉に「ワカリマシタ」と言うと一瞬でおとなしくなった。

 ジミーが携帯の電源を入れると、直ぐにコクトに繋がりコクトの顔が携帯のディスプレイに映し出された。

 「コクト!どうした急用か?、どんな手を使ったか知らんけど作業用ロボットに急かされたぞ!」

 『すまん、俺がマーメイに指示してやらせたんだ』

 『ジミーたのみがある、シュミレーションシステムの開発にかかわった人間でまだルジウェイに残っているメンバーがいたらシュミレーションルーム集めてほしいんだ、できるだけ早く』

 「えっ?」

 「しかし、あそこはもう俺達は入れないぞ閉鎖されているはずだが」

 『大丈夫、入れるように手配しておく』

 「はぁ?、」

 ジミーは急に人を集めてくれと言われても何のことだか良く分からなかった。コクトに、コクトも十分それは分かっていた。

 『ジミー、今、ルジウェイはどこの所属か分からない武装集団に占拠されている』

 『俺も全てを把握しているわけではないんだが、こいつらは二人のルジウェイ市民を誘拐し監禁しているんだ、そして今その一人フレアが拷問に掛けられようとしている、助けたいんだ、手伝ってくれ!』

 『ジミー、俺だオニールだ、俺からも頼む』

 「体育会系のオニールか?」

 コクトはカメラをオニールの方に向け、オニールがジミーに見えるようにした。

 「体育会系だけは余分だぞ!」

 オニールは運転席から後ろを向き中指を立てて怒った顔を見せた。

 モニタの中のジミーが笑っているのが分かる。

 ジミーはコクトが不条理なことが人一倍嫌いで、いつも上の連中とぶつかりあっているのを見ていた、よっぽどまともな上司にめぐり合わないと出世は無理だなとよく思ったもんだ。

 しかし、コクトが間違っていることを主張したことは、ジミーも聞いたことはない。

 『よく分からないけど、分かった!、俺の方で何とか集めてみるよ』

 ところでそのフレアとかいうのは女性か?美人か?」

 コクトはモニタを自分の方へ向け「もちろん」と自信をもって答えた。

 ジミーは携帯を切りポケットにしまうとジミーの指示をおとなしく待っているロボット達を見渡した。コクトのせいでジミーは散水の次に何をやらせるか忘れてしまった。

 「まっ、いいか」

 「散水が終わったら作業は終わりだ、風呂入って自分の塒(ねぐら)に帰ってよし、以上だ!」

 相変わらずロボット達の反応は遅い、ジミーの言葉の解釈に時間がとられているようだ。想像するに「風呂とは?」「塒(ねぐら)とは?」の解釈が分からず、マーメイに問い合わせしているのだろう。そしてマーメイからは「風呂=泥を落とし整備すること、塒(ねぐら)=格納庫」と各ロボットに送信されてくるだろう。

 しばらくすると各ロボットが「ワカリマシタ」「ワカリマシタ」「ワカリマシタ」「ワカリマシタ」・・・・と数秒ずつ遅れて返事をし始めた。

 ジミーは頭を抱えて「こいつら、・・」とつぶやきながら管理事務所に戻っていった。


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