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作品名:ルジウェイ 作者:ナルキ辰夫

第7回   ★☆オニール☆★
 そのころコクトは一人で都市管理局の危機管理室にいた、そこはルジウェイに大規模な災害が起こった場合等に使われる指令室である。

 しかし殆ど使われたことはない、たまに機器の動作確認のためコクト達が入るくらいである。

 コクトは危機管理室の責任者が座る指揮官用の椅子に座っていた。なかなかすわり心地も良く、周りにはルジウェイのあらゆる場所を写しだすことのできるモニタ群がずらりと並んでいるため、SF映画の宇宙船の船長にでもなったような感じがする、もちろんマーメイと話ができるように、マーメイとの回線も開いておくのも忘れない。

 『ひどいと思わないかコクト、一人でこんな広いルジウェイの緑地帯を警備しろと言われているんだぜ』

 コクトが座っている椅子の右横に備え付けられている、5インチのモニタにオニールの顔が映し出されていた。

 「おいおい、実際に警備してくれるのは、無人ヘリだろ」

 コクトはあきれるように、モニタに映し出されているオニールを見る。

 ティーファー・オニール、ラテン系の陽気な性格でコクトと同じ年である。金髪で茶褐色の瞳の色をしている、彼は治安局ルジウェイ警察の警察官である。実はオニールもマーメイプロジェクトに参加していたことがあってコクトとはその時知り合った。

 オニールはルジウェイ警察の無人ヘリコントロール室にいた、そこには無人ヘリに指示を出すコックピットのような座席が数台あり、オニールは真ん中の席に座っていた。そして右上のモニタには少しふてくされたコクトの顔が映し出されている。

 オニールはルジウェイを取り囲む緑地帯の警備を任されたのだが、無人ヘリの操作の仕方に不安があり、コクトに助けを求めてきたのだ、それも上司には内緒でだ。

 かってコクトは、マーメイプロジェクトのシュミレーションチームにも所属し、無人で動く戦闘機械関連の制御システムの開発に携わっていた、システムは完成し開発チームは一部の保守要員を残して解散していた。問題は人手不足もあって運用する側に対して十分な引継ぎもなされなかったことだ。そのため時々こうしてサポートしていたのだ。

 しかしである、オニールもルジウェイ警察に入るまでは、同じチームで一緒に働いていたのだが、本人曰く「自分はディスクワークに向いていない」と、テスト用の機器の設置や、テストで壊れた無人機の回収など、力作業しかやってなかったのである。

 『コクト異常無しだ、ヘリのコントロールをそっちへ返すから格納庫に戻してくれ』

 「まだ怖いのか、自分で戻せよ、早く一人立ちしてくれよなー」

 『そう、冷たいこというなよ、俺はまだ素人みたいなもんだぜ』

 コクトは腕を組んで「フー」とため息をついた。

 「しょうがないな、わかったよ」

 簡単な命令なら、口頭で支持を出すだけで後は、勝手にマーメイが人間の言葉を解析し、無人ヘリ制御システムに命令を出すので、そう難しいようには思えないのだが、どうもなれない人にとっては、機械相手に命令をだすのが怖いようだ。

 「マーメイ、ヘリを格納庫に戻してくれ」

 『了解、コクト』

 中央のモニタでは、マーメイからの命令で無人ヘリが旋回しているのが確認できた、格納庫へ向け飛んでいくようだ。

 同じタイミングで、コクトの携帯が鳴った、フレアからだった。

 こんなに早く、フレアと再会できるかと思うと胸が高まった。

 「オニール、もういいだろう接続を切るぞ」

 『おう!ありがとうなコクト』

 オニールを映し出されていたモニタが切れた。

 「あっ、」

 コクトはオニールに聞きたいことがあったが、

 「ま、あとでいいか」

 と携帯の受信ボタンを押しフレアに話しかける。

 「はい、コクトです」

 『コクト、私よフレアよ分かる?』

 「もちろん分かるよ、僕の方から連絡するつもりだったんだ・・」

 コクトの返事を聞き終わらないうちにフレアは話しだした。

 『コクト、私をかくまってほしいの』

 「えっ?」

 『詳しくは、後で説明するけど、今から会えない』

 『あっ』

 フレアの驚く声が聞こえたと同時に「ゴトン、ガシャ」と携帯電話の落ちる音が聞こえる。

 「フレア!、フレアどうした!?」

 何度もフレアを呼ぶが返事は無い、そして「プッ」と携帯電話の切れる音がした。
 コクトは急いでフレアの携帯に電話したが、電源も切られているのか接続できないことを伝えるメッセージしか返ってこない。

 「クッ、どうなっているんだ」

 「フレアが、フレアは、犯罪に巻き込まれたのか?」

 「どうする、どうすればいいんだ」

 コクトは少しパニック気味になったが、自分の周りのルジウェイの主要箇所を写しているモニタ群に目をやった、そしてうつむいてじーっと自分の足元を見る、そして深く深呼吸をして頭を再びモニタ群を見渡した。

 「そうだよ、ここは危機管理室なんだ、その気になればルジウェイのあらゆる場所をモニタできる環境が整っている、そしてマーメイもいる・・・」

 「マーメイ、聞こえるか?」

 『はい、コクト』

 コクトの指示を待っていたかのようにマーメイは直ぐ反応し、いつもの女性の声の人工音声で返事が帰ってきた。

 「ヘリはもう格納庫に戻ったか?」

 『いえ、あと1分で格納庫に戻ります』

 「よし、ヘリは格納庫へは戻さず、ルジウェイ西側にある脳科学研究所に回してくれ、そして上空からフレアを探させるんだ」

 マーメイは2〜3秒沈黙した、おそらく人事データベースからフレアに関する情報を取り出しているのだろう。

 『コクト、探すのは、フィンレード・アーモンド・フレアでよろしいですか?』

 「そうだ、急いでくれ」

 『分かりました』

 マーメイが返事すると、格納庫に向かっていたヘリ3機が西の方向へ旋廻するのがモニタで確認できた。

 「マーメイ、それと同時にルジウェイの全監視カメラの映像をリアルタイムに解析し、フレアを探し出してくれ」

 『了解!コクト』

 よし、マーメイに頼むのは頼んだ、あとはリーに聞けば何か分かるかもしれない、コクトは携帯でリーに電話をかけようとするが、リーの電話番号なんて分かるわけ無いことに気付く、再度マーメイのカメラの方を向いた。

 まったく、マーメイさまさまだ、と思った。

 「マーメイ、ブレインスキャンチームのリーに連絡が取りたい、探してサイドのモニタに繋げてくれ」

 『了解!コクト』

 マーメイはてきぱきと仕事をこなしてくれる、いつものことながらありがたいと思う。

 しばらくすると、サイドのモニタにリーの姿が表示された、しかしリーの様子が変だ、目がしきりに回りを気にしている。

 「やはり、何かあったのか?」と小さな声でリーに話しかける。

 モニタに映し出されたリーが小さくうなずくのがわかる。そして小声で話し始めた。

 『よく分からないけどフレアがとんでもないことに巻き込まれているみたいなの、助けてあげて』

 『まだ、あいつらがいるから切るわね』

 「プッ」と音がしモニタよりリーの姿が消えた。

 あいつら!?、ルジウェイに何が起きているんだ、オニールもそうだ、急にルジウェイの警備が強化されたらしく慣れない無人ヘリでの空からの警備をやらされている、コクトの頭の中にオニールの姿が思い浮ぶと、肝心なことを忘れかけるところだったと思った。早くオニールにも連絡しなければ、と。

 オニールはルジウェイ唯一の治安機関であるルジウェイ警察局の人間だ、彼に頼めば警察も協力してくれるはずだ。しかし本来これは警察の役目で、俺が協力する形で、・・・。

 コクトは、そんなことはどうでもいい、早くフレアを助けださなければと雑念を振り払うように頭を横に振り振った。

 「マーメイ、ルジウェイ警察のオニールに繋げてくれ、至急だ」

 『・・・・・』

 「あれ、マーメイさん、どうしたの?」

 いつもはコンスタントに返事を返してくれる、マーメイから反応が無いから、つい自分の命令口調に対して気分を害したのかと錯覚してしまった。もちろんそんなことはありえないが。

 『コクト、セキュリティシステムから警告が数件きています』

 コクトは頭を抱えた「ちっ、やっぱりか」たしかに、たがが都市管理局の一般職員が、ヘリだの都市の監視カメラだの使う権利があるわけない。コクトが自由に使えるのは、マーメイに関する基本使用権と、通信機器の監視システムぐらいだ。

 ヘリに関してはオニールが使用権を持っていたので、たまたま使えたに過ぎない。

 スパコンと言えども、たがが機械であるハッキングでもしない限り融通が効くとは思えないが・・・・・、ためしに悪あがきしてみるか。

 「マーメイ分かるか?、今は緊急事態だ、フレアが何者かに誘拐されて助けを求めてきている、そしてここは危機管理室だ素早く対応する必要がある、全てにおいて危機管理室を優先させるように、セキュリティシステムと交渉してくれ。ルジウェイ憲章では人命が最優先のはずだ」

 『分かりましたコクト、セキュリティシステムと交渉してみます』

 「たのむ」

 「あと、オニールに早く繋げてくれ、まさかこれは拒否しないだろうな」

 『はい、大丈夫です、しばらくお待ちください』

 マーメイはユーザの言葉を論理的に解析し、矛盾がなければそれを、コンピュータ同士でやり取りできる形式に組み立てなおす。

 そしてセキュリティシステムへ送信、セキュリティシステムでは受信したデータをセキュリティの視点から矛盾がないか解析、個人データベースと組織データベースと照らし合わせて、妥当な命令がかを判断する。

 妥当ならマーメイに使用許可を送信する。使用許可を得たマーメイはユーザの命令を各システムへ送り処理を行わせるのだ。

 実際にはさらに複雑なやり取りを行っているが、これが都市ルジウェイが誇る、会話型システムマーメイを中心とするシステム群である。

 コクトはシステム間の優先順位ではセキュリティシステムに敵うシステムがないことを知ってはいるが、マーメイの交渉力に掛けてみたのだ。

 コクトが座している椅子のサイドモニタにオニールが映し出された。

 『おう丁度よかった、ヘリがどこかえ行ってしまったぞ!』

 『今、こちらはバタバタしていて上には気付かれていないが、ばれる前に戻してくれよ』

 コクトはオニールの映し出されたモニタを見て「よかった、」と小声でつぶやいた。そして思わず「オニール会いたかったぞ」と、モニタの両端を掴んだ。

 『なんだ気持ち悪い、さっきまで一緒だっただろ!』

 「そうだったな」とコクトは頭を掻いた。

 「ヘリとも関係あるんだが、オニール助けてくれ」

 『うっ、どうした急にまじめな顔になりやがって』

 オニールがモニタから少し身を引いたのが分かる。

 「今さっき、知り合いの女性が誘拐された、それで急いでヘリを捜索に回したんだが、俺一人ではどうにもならない、助けてくれ!」

 オニールの顔色が少し変わった、

 『コクトその女性って、フィンレード・アーモンド・フレアのことか?』

 「なっ、・・なんで知っているんだ!?」

 オニールが周りを見渡して誰にも見られていないことを確認する様子がモニタで確認できた。そして小声で

 『コクト、ここではまずい。どこかで待ち合わせよう』

 『お前も気をつけろ、そっちにもやつらが行っているはずだ』

 「やつら?」

 『詳しくはあとでな』

 オニールが腕時計で時間を確認し

 『30分後に例のところで会おう』

 通信が切れたのかサイドのモニタ画面が真っ黒になった。

 「分かった、例のところでな」

 コクトはオニールの言葉を繰り返した。

 『コクト、よろしいですか?』

 人工音声装置が生成した女性の声でマーメイが話しかけてきた、コクトとオニールの会話が終わるのを待っていたようだ。

 「ああいいよ、で、セキュリティシステムの方はどうなった?」

 『はい、拒否されました。ヘリに関しても権限消失となり今は格納庫へ向かっています、それに監視カメラの方も通常運用モードのままです。ご希望に添えなくて申し訳ありません』

 「気にするな、下っ端の俺が越権行為をしようとしたのが悪かったのさ」

 コクトは少し苦笑した、つい普通の会話レベルでやり取りができるものだから、時々マーメイに対して人格を感じてしまう自分がおかしかった。

 『コクト、セキュリティシステムをバイパスすることができますが、どうします?』

 「えっ!?」

 「で、できるのか?そんなことが!?」

 コクトが驚くのも無理は無い、セキュリティシステムをバイパスすることができると言う事は、無条件にルジウェイの全システムを利用できることを意味する。それは都市ルジウェイの全権限を握るに等しい。

 『はい、あるお方が、緊急時の時に使用できるように用意していました。今がその緊急時だと思われます』

 コクトの脳裏には、半年前失踪したバーンの姿があった、「バーンか?」と質問するが、マーメイは聞こえない振りをしているのか、答えない。

 コクトは覚悟を決めるかのようにマーメイに伝えた。

 「よし、やろうマーメイ!」

 『本当によろしいのですね?』

 「なんだマーメイ、自分で提案しておいて脅すのか?」

 『いえ、権限があると言う事はそれ相応の責任も発生します、そのための再確認です』

 「そりゃ権限だけは欲しがって責任をとらない奴は大勢いるからな、俺の一番嫌いなタイプだ。そんな連中と一緒にするなマーメイ!!」

 「よろしいです!!」

 強い口調でコクトは答えた。

 コクトはマーメイが自分を試しているような気がして少し「むっ」とした。

 『了解!コクト、これより貴方の命令は無条件に各システムへ通達されます』

 『再度、命令をお願いします』

 マーメイの返事が早い、人工音声装置が生成した女性の声ではあるが、生き生きしているように感じたのは気のせいではないとコクトは思った。それにやけにセキュリティシステムをバイパスする作業が速いなと、そしてマーメイに良いように乗せられているような気がした。「ところで、責任ってなんだ?」と、思った。


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