明け方、まだ空は暗いながらも東の地平線の上のまばらに広がる雲は少し明るくなりかけていた。
都市ルジウェイの玄関口である空港は、ルジウェイを取り囲む周長約86.6kmの緑地帯よりさらに2キロ東へ離れた場所に空港はあった。そこはルジウェイと全世界を物理的につなぐ唯一の場所となっている。
夜の宇宙から見れば砂漠のど真ん中にさびしく大きな光と小さな光が細い光の線で結ばれているように見えるだろう。
そこへ、政府専用機と思われる中型の旅客機がゆっくりと着陸体制に入ってきた。民間旅客機と違うところといえば、全ての窓が閉ざされているところぐらいだ。旅客機はたいした衝撃もなくスムーズに滑走路に滑るように着陸してきた。素人でもわかるほどよっぽど腕のいいパイロットが操縦していると思わせるような着陸だった。
旅客機が専用のタラップに接続し、大勢の武装した男達が整然と降りてきた、しかしあとから降りてきた連中については整然とはいえず、どこから見ても科学者か技術者と思われるタイプの連中が周りをキョロキョロし落ち着きがない様子で降りくる。
半分は軍又は警察関係者で、残り半分は技術系の専門集団といったところだ。彼らは、タラップを降りると左右に分かれて整列し、自分達の指揮官が降りてくるのを待った。武装したグループの一部は、旅客機の周りに展開し警戒体制をとっている。
他にもタラップの下では、レイモンと高エネルギー研究所のスタッフ数人が、そわそわしながら指揮官が降りてくるのを待っていた。
タラップの下が落ち着くと、指揮官と思われる人物が降りてきた、年は50〜60位で、ひげを蓄えた初老だが精悍そうな人物である。 レイモンがその人物へ近づいていった。
「お待ちしておりました、ライエン大佐」
彼の名はシーベルト・ライエン、特殊部隊の大佐である、彼は軽くレイモンに敬礼をした。そして周りを確認するように見渡し再度レイモンの方を向く。
「レイモン、我々がルジウェイに展開する日数は短かければ短いほどいい」
「分かっています大佐」
レイモンは申し訳なさそうに返事をするが、内心全てが自分のせいとは思っていない。 ライエンは過去にレイモンの失態を処理したことがあり、レイモンのことを良くは思っていなかった、確かに誰もが認める才能はあるのだが、やたらと名誉欲とプライドが高く、自分のミスを隠すか、誰かに押し付ける傾向があるため、結果重視のライエンとはそりが合わなかった。
おまけに、レイモンは国の上層部にコネがあるため、今回も主要な権限を与えられルジウェイに送り込まれた経緯がある。
同様にレイモンもライエンみたいな融通の利かない堅物は好きでなないようだ。
ライエンとレイモンは待機している迎えの車へ向かって歩き始める、ライエンはレイモンを見ることなく、前を見ながらレイモンへ話しかけた。
「既にルジウェイに配置している我々のエージェントには連絡が行っていて、表ざたにならないように影で支援してくれることになっているが他の国も馬鹿ではない、直に嗅ぎ付けてくるだろう。他の評議会委員の動きは押さえているのだろうな?」
「ええ、鉱石の情報が漏洩するのを防ぐために一時的にサイバー部隊をルジウェイに呼ぶことを了承させています」
二人が軽武装した8人乗りの車両に乗り込むと、車両は直にエンジンを掛け走り出した、他の武装した兵士と技術者集団も待機している軽武装のバスに乗り込んでいった。
軽武装のバスとは言っても、周りは薄い合金で覆われていて、拳銃や自動小銃程度の銃弾なら軽く跳ね返してしまうくらいはあり、もちろん窓は防弾ガラスである。車両の横のは、ポリスの文字とルジウェイ警察のロゴが目立つように貼り付けられていた。軍隊を持たないルジウェイの唯一の治安機関、ルジウェイ警察の所有物であった。
「なんですか、こいつら?」
次々と乗り込んでくる連中、明らかにどこかの国の軍隊と思われる男達、おかしなことに彼らの服装のどこにも国、組織を示す、国旗、ロゴ、文字はなかった。
急遽彼らを迎える任務を指示されたオニールは、不愉快な気持ちを隠そうとはしなかった。
「上からの命令だ、黙ってろ!」オニールの上司らしき男も不機嫌そうに答える。
ルジウェイは、多くの企業と国が資金と人材を提供して建設され運営されているはずなのだが、やはり有力な国又は企業の影響は避けられないようだ。オニールはその辺が以前から気に入らなかった。
「へーい、黙ってます」
オニールの上司はムッとしたが特に何もするわけでもなく黙っていた。
彼らを乗せたバスは次々とルジウェイ空港を後にし、都市ルジウェイの巨大なサークルの中に消えていった。
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