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作品名:ルジウェイ 作者:ナルキ辰夫

第3回   ★☆レイモン☆★
 そのころ、高エネルギー研究所加速器コントロールルームでは異様な興奮状態に包まれていた。

 高エネルギー研究所の場所は、都市ルジウェイのセンターサークル内の東端に位置し、概観は扇型で階数はルジウェイの他の研究施設と同様の3階建てである。ビルの周りは幅200mに亘って芝生が植えられておりその周りを鉄条網で囲まれ他の施設より警備が厳重になっている。ルジウェイの誇る巨大な加速器の管理・運用を行うところである。

 玄関を入ると中央のフロアに3機のエレベータある、そのエレベータで地下100メートル降りたところに、ルジウェイの誇る巨大加速器の監視室と、その下に加速器を制御する加速器コントロールルームがある、そこには電子機器群が整然と配置されていた。

 不自然なのは加速器に関する機器とは思えない脳波読取装置とそのシートが数台あり、加速器を制御する機器類と無数のケーブルで接続されていることだ。

 レイモンは、血眼になって加速器コントロール用のモニタを見つめ激しくキーボードを叩いている。

 グレリード・レイモン60代前半の痩せ型で背丈は低い方である、髪は殆どが白髪で覆われていて元もとの色は分からない、恐らく黒髪であろう。内臓が悪いのかいつも顔色が悪い。顔の特徴として目立つのが鼻が高く鷲鼻である。現在、高エネルギー研究所所長とルジウェイ最高評議委員の委員を兼務している。

 彼はバーンと伴にルジウェイ創設に深く関わっていて、バーンが行方不明である現在、実質的なルジウェイの代表者であった。

 「くっそ、バーンめ、いったい何を仕組んだんだ」

 レイモンは独り言のように、ぶつぶつとバーンに対する不満をつぶやきながらキーボードを叩いていた手を止めた。そして周りにいるスタッフにどなった。

 「データはまだか?まだ見つからないのか?」

 「だめです所長、肝心な部分だけ抜け落ちています」

 隣にいた助手らしき若者が答える。

 「こちらの方にもありません、」

 別のモニタを見ていたスタッフも同じような返事を返した。

 「もう、再現は不可能なのか、確かにアクセス用のデータは取り出せたはずなのに、データもなければ再現もできないとは、バーンめ私にそう簡単に神の領域を見せないつもりか」

 加速器コントロールルームには、陽子を磁力の力で光の速さまで加速するためのパイプがある。そのパイプから枝分かれするように伸びたパイプが、家庭用の冷蔵庫ぐらいの大きさの真空発生装置に繋がっている。

 レイモンはそれを呆然と眺めていた。

 真空発生装置には小窓があり覗くと黒く光る親指ぐらいの大きさの黒い鉱石が備え付けられている。その質感からはブラックダイヤを連想させるがそれではない。

 「所長、データがマーメイによって転送されています」

 「マーメイが転送、どういうことだ!?」

 「見てください所長」

 スタッフの一人が真空発生装置の横に接続されている解析用と思われるコンピュータのモニタ画面を指差しながら説明しはじめた。

 「解析装置から大量のデータがディスクに書き込まれていますが、一瞬でディスクがパンクしたようでして、書き込まれなかったデータがマーメイの指示でがどこかに転送された形跡があります、ほらここです」

 モニタ画面には解析装置の処理履歴が表示されていた。そこには容量不足のエラーメッセージがあり、次の行には転送する機能が実行され正常に終了された旨のメッセージがあった。

 「一瞬でディスクがパンクするなんて考えられん・・、転送先は分かるか?」

 「はい、少し待ってください、あれ?」

 助手が転送先を調べようと、モニタ画面を見ると見ている目の前で、解析装置の処理履歴が次々と消えていく。

 「何しているんだ、消してどうする!?」

 「いえ、私は何もしていません勝手に消えて行きます、どうしましょう所長」

 レイモンはマーメイのカメラをにらみつけた。

 「こいつだ」

 「マーメイ、やめろ!お前が消しているのだろ分かっているぞ!!」

 マーメイは電源が切れているかのように反応を示さない。

 「おいそこの、ケーブルを引っこ抜け!」

 レイモンは解析装置本体の近くにいたスタッフに指示するが、そのスタッフは「えっ?」と答えるだけで何を指示されているのか理解できていない。

 レイモンは「っく」と声を出すと、解析装置本体まで走り「どけ」とスタッフを突き飛ばす、解析装置本体の後ろの蓋を開け、ケーブルを片っ端から引き抜いた。ケーブルを選んでいる時間はなかったからだ。

 「どうだ、止まったか?」

 「はい、あっいえ、分かりません」

 「どっちなんだ?」

 「所長、システムが落ちました」

 解析装置のシステムがダウンし画面が真っ黒くなったようだった。

 「マーメイ、いやバーンの奴めデータを奪いとった後に、証拠隠滅を図る仕組みまで組み込んでいたのか?」

 「おい、残っている履歴で転送先を調べられるか?」

 「分かりませんが、やってみます所長」

 「たのむぞ」

 レイモンは鉱石が取り付けられている真空発生装置の前まで歩いて行くと、真空状態にするスイッチをOFFにする、すると「シュー」と音がし、鉱石を固定している土台そのものが装置の外に出てきた。

 レイモンは鉱石を取りポケットに入れた、そして振り返り、しばらく考え込んで深くため息をし、回りにいるスタッフを見渡した。

 「みんな聞いてくれ、全員で手分けしてデータの行方を捜すんだ、データは研究所の外に転送されている、必ずどこかにあるはずだ」

 周りがざわついた、スタッフの一人が質問をしようと声を出そうとしたがレイモンの方が早かった。

 「それと、マーメイは使うな、マーメイは今当てにならない、逆に間違った情報を流す可能性がある、わかったな!」

 「え、そんな、・・・」

 小さな声であきらめの声が聞こえる。

 彼らが落胆はするのも無理も無い、マーメイを使えばほんの数分で結果を出してくれそうな作業だが、それを人手でやるとなるといつ終わるか検討もつかないような作業量だった。

 彼らがやる作業とはルジウェイにある全てのシステムの処理履歴が記録されているログ情報を片っ端から人間の目でチェックし研究所からデータが転送されてきていないか確認することである。

 これをルジウェイの広大なコンピュータネットワーク上でやるということは、砂漠の砂の中に落ちた一粒の米粒を探すようなものだった。

 「心配するな、この人数でできるとは私も思っていない、本国から応援を呼ぶことにするその道のプロをな」

 そう告げるとレイモンは、自分の執務室へ戻っていった。

 執務室に戻ったレイモンは、革張りのいかにも高級そうな自分の椅子に深く腰を落ち着けた、そしてポケットから黒い鉱石を取り出しそれを眺めながら物思いに耽っていた。

 30年前バーンからこいつを見せられた時はとても信じられなかった、この黒い鉱石は元素記号すら分からない未知の物質でできているらしく現在の人類がまだ把握していない代物だったからだ。

 宝石のような質感だが、この鉱石の黒さは異様だ、黒といっているが実際黒い色をしている訳ではない表現できる色が無いのだ。無理やり表現するとしたら「無」だ!。

 不思議なのは見れば見るほど、まるでこの石に意識が吸い込まれそうな美しい漆黒、自分の意識がこいつに飲み込まれまいと恐怖におののいて必死に抵抗してしまう。

 だが勇気をもって全てをこいつにゆだねようとすると完全に拒否されてしまう。こいつは一体なんなんだ・・・。

 まあ正体はともかく、長年かけてこいつを調べつくしてやっとここまでこぎつけたんだ、間違いなくこいつは我々に何かを伝えたがっている、そしてこいつのもたらす情報は我々にとって莫大な想像もつかない程の利益を与えてくれるだろう。

 しかしバーンがなぜ急にこいつの解析を凍結しようと言い始めたのかがわからん。私に何を隠しているんだ。

 「私が戻るまで解析を凍結し、ルジウェイの運用を確実にすることに専念してくれ」だとお、おまけにマーメイに何らかの小細工もしやがって。自分勝手にもほどがある。私にも色々事情があるのだ、まったく余計なことをしやがって・・・。

 レイモンは、バーンの意思を無視して、黒い鉱石の解析に専念していた、レイモンもバーンもこれは、有史以前の超古代または地球外生命体の残したコンピュータ見たいなものではないかと考えていた。オカルト的にいえば人類の集合意識が物質化したアカシックレコードのような物である。

 そう思いついたきっかけは、この鉱石を試しに電子顕微鏡で確認した時である、明らかに自然にできた鉱石とは思えなかった。

 バーンは、これを調べるには分子又は、原子レベルでの解析が必要であるこに気付く、しかしそれを行うには大規模な設備が必要であった。

 それこそスーパーコンピュータクラスが何十台と高性能・高エネルギーが出せる加速機等、それに付随する機器や施設そして人材、国際宇宙ステーションを建設する以上の莫大な費用、それは不可能と思われたが、バーン、レイモンの二人を中心とする科学者グループによって、世界各国に呼びかけられ実現されたのだ。

 それがこの都市ルジウェイである。建設時の大儀名分「人類の科学技術の発展に貢献する世界的な組織と都市を作る」の裏には謎の鉱石の存在があった。

 しかも最も重要な黒い鉱石に関しては一部の有力者、そしてごく少数の科学者にしか知らされていなかった。

 マスコミに面白おかしく「アカシックレコード発見!!」と書きたてられるのは目に見えていたからだ、また、それとは別に各国の思惑も見え隠れする、公表は時期尚早と判断された。

 レイモンは引き出しの奥から少し大きめの携帯電話を取り出した。アンテナ部分がやたら太く大きい、衛星通信が可能なホットライン専用の携帯電話である。もちろん盗聴が絶対不可能なように通信内容は厳重に暗号化されている。

 「長官、レイモンです」

 「夜分申し訳ありません、事が事だけに緊急を要するものですから・・」


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