「何時だ?」
「もう少しで時間だ」
「おまえ寝たか?」
「いいや、徹夜でやつらを監視していたさ」
と、オニールは答えたが、目がうそを言っていた。
装甲車の小さな窓から空を見ると快晴である。ところどころに雲が浮いている、その雲があるおかげでどこまでも続くかのように空が立体的に見える。
無人ヘリが2機上空に現れ高エネルギー研究所の周りを数回旋廻したかと思うと、直に見えなくなった。
かなり上空で待機しているようだ。
『コクト、起きてるかー!こちらの準備はできているぞー!』
シュミレーションルームのジミーからだった。
「ああ起きているよ、早々に空からのあいさつか、演出がうまいな」
『わかるか?コクトこれでやつらもびびって変なことはしないだろうぜ』
『それにコクト、ルジウェイ警察も俺達の側についたぞ、少し遅かったがな』
ジミーは得意げにコクトに話す。
「本当か?ジミー!」
それを聞いて一番喜んだのはもちろんオニールだ。
『まあ、詳しい話は後でだ。じゃがんばれよ!』
「ありがとうジミー、恩にきるよ」
不思議にコクトは緊張していなかった。それどころがとても爽やかな気分である、ぐっすり眠れたせいかもな、と思った。
コクトはマーメイとコンタクトが常にとれるように、小型の携帯端末を右耳に装着しマイクが口元にくるように微調整する。携帯端末は小型カメラとマイク、そして通信ユニットから構成されており、数グラムと超軽量で耳にフィットするように作られているため、慣れてしまうとつい着けていること忘れてしまうくらいだ。
また小型カメラは、装着している人が見ている映像をそのままマーメイが見ることができるため、色んな面でいちいち説明する必要がないから便利である。
「オニール、そろそろ行こうか」
「やっぱり、俺も行くのか?」
オニールがあきらめた表情でコクトを見た。
「もちろん、お前の方がプロだろ」
「そうだよな、一応俺はルジウェイ警察の人間らしな、どちらかと言えば俺の仕事だ」
「コクト、これを着けろよ」
と言うとオニールは、コクトに防弾チョッキを渡した。
「ありがとう、オニール、で、どうやって着けるんだ?」
オニールは少しがっくっと肩をおとしため息をつくが、しぶしぶ丁寧にコクトに防弾チョッキを着せてあげた。
「ジミー、なんかあったら助けてくれよ」
『了解!コクト心配するな』
ジミーはそうコクトに伝えたあと、既に配置についている元マーメイプロジェクトのメンバーに合図を送った。
装甲車両から、コクトとオニールが降り研究所のゲートに向かって歩き始めた、コクトとオニールの前面にいた歩兵ロボットが隊列を崩さずに整然と道を空けると、ゲートの前にはライエン、その横には少し疲れた様子のフレアが二人の兵士に両腕をつかまれて立っている。
マイケルは自分で立つことができないらしく、担架に乗せられ4人の兵士が担いでいた。
ライエンの少し後ろにレイモンが目立たないように立っていたが、落ち着きが無い様子だ。
その後ろには数人の兵士が銃を横にし、胸に宛てるようにして持っている威嚇すような構えではなく警護の構えに見える。
研究所の屋上にも同じよう構えで兵士が配置されていた。
コクトとオニールは、ライエンとの距離が10メートル位の距離まで歩くと、立ち止まった二人の横には4機の歩兵ロボットが護衛するように一緒に歩いてきて立ち止まった。
子供くらいの高さの歩兵ロボットが多少蟹股気味にあるいてくるのは、少しおかしくかわいいくらいだ。
これもジミーが自分とオニールを守るためにやっているな、とコクトは理解した。
フレアは自分を助けに来たのがコクトだと分かって少し驚いたが、やっぱりと思った。何故かコクト以外考えられなかったのだ。コクトと目が合うと深くうなずいた。
ライエンが最初に声をかけた。
「コクト、二人を返し我々も撤収する。約束は守ってくれるな?」
「分かっている」
コクトは、毅然と答える。
オニールがつぶやく「なにが約束だ、」と、コクトは目で気持ちを抑えるんだと合図を送った。オニールはとぼけたふりをして上をむいた。
ライエンがフレアとマイケルを拘束している兵士に向かって、二人を引き渡すように指示をだした。
フレアはどうにか一人で歩けそうなので、誰かが付き添うことは無いので両側にいた兵士はフレアから手を離してコクトのところへ行くように促した。
マイケルは担架に乗せられているため、4人の兵士が担架でマイケルを担いでコクトとオニールのところまで運んでくるようだ。
フレアは周りを気にしながら、担架に乗せられたマイケルより一足早くコクトとオニールのところまで来て倒れるようにコクトに抱きついた。
コクトは一瞬倒れそうになったがどうにか踏ん張って持ちこたえた。そしてフレアの背中に手を回してやさしく抱きしめる。
「大丈夫かフレア?」
「ええ、本当に助けに来てくれるなんて、ありがとうコクト」
フレアは横目でオニールをみると言葉には出さなかったが、目でありがとうと伝えた。 もの欲しそうに眺めていたオニールは少しあわてたようで
「あ・おれオニール、よろしく」
シュミレーションルームのモニタ画面でそれを見ていたジミーも
「ああー・・いいな、」
と、つぶやいて周を見ると、他のメンバーもニヤニヤしている。
「コクト、気をつけて、レイモンが何か企んでいそうよ」
フレアがコクトの耳元でささやいた。
フレアは昨日のレイモンとライエンのやりとの後、レイモンと彼の部下がヒソヒソ話あっているのを見ている。内容までは聞き取れなかったがかろうじて、コクトの名前だけが聞き取れたのだった。
「えっ、何?」
と、コクトが言ったと同時にマイケルを乗せた担架がコクトとオニールの前に着き、担架をゆっくり地面に下ろした。
一人の兵士が立ち上がったと同時に何かを地面に落とすと、「ピカーッ」と、強烈な閃光があたりを強烈に照しだした。
「わっ、なんだ!」
オニールの叫ぶ声が聞こえる。
コクトは「フレア!伏せるぞ」と、叫んでフレアと一緒に地面へ伏せた。
動揺した兵士の一人が誤って引き金を引いてしまった。自動小銃からは数十発の銃弾が発射され歩兵ロボットと装甲車両に当たり弾丸を跳ね返す金属音があたりに鳴り響く。
研究所屋上に配置されていた兵士も攻撃命令がでたと勝手に勘違いし一斉に歩兵ロボットと無人装甲車に対して自動小銃で攻撃を始めた。
コクトは自分の防弾チョッキを脱ぎフレアの頭の方に被せる。そして自分の頭も防弾チョッキの下に潜り込ませた。
目は閃光弾の影響でまだ良く見えないが、自分の顔のすぐ隣にフレアの顔があるのが分かる。
「フレア、頭さえ無事なら何とかなるかな?」
「ばか!」と、フレアが言った瞬間、流れ弾が数発コクトとフレアのすぐ側に着弾した。 「ひっ!」
二人は防弾チョッキを強く頭に引き寄せた。
強烈な閃光と激しい銃撃音であたりはパニック状態になっていた。
閃光はライエンの目にも影響を及ぼしてる、
「誰だ、勝手な真似をするのは!」
目を押さえながら叫ぶが、この騒音では誰にも聞こえてない。
シュミレーションルームも騒然となった。
モニタが閃光で真っ白になったからだ、ジミーの反応は早かった。
「上空で待機しているヘリを近づけろ、急げ!コクトとオニールは無事か!?」
歩兵ロボットの自律防御システムが動き出し、銃弾がくる方向に向かって反撃し始めた。無人装甲車両も同じである、20ミリ機関砲を研究所の屋上に向かって一斉掃射し始めた。
もはや研究所の周りは激しい銃撃戦になった、しかし閃光はまだ収まる気配も無く周りを照らしているため誰もがパニック気味で闇雲に銃を乱射している状態であった。
しかしその中で担架を担いできた4人の兵士だけは的確に自分の仕事を遂行しはじめた。
まずはオニールが電気ショック銃を打たれ気を失った、次に二人の兵士がコクトを拘束する。コクトも抵抗することはできなかった。もう二人はフレアを拘束した。良く見ると彼らは閃光より目を保護するゴーグルを装着していてこの光の中で自由に行動できるのは彼らだけだった。
ゴーグルを着けた兵士達はフレアとコクトを流れ弾を避けるように中腰で研究所の玄関付近までつれてくると、そこには同じゴーグルを装着しているレイモンが待ち構えていた。
「こっちだ、こっちへつれて来い」
と手招きをして研究所の中に連れ込もうとした、レイモンは研究所の裏庭に逃走用のヘリを用意していたのだ、研究所の中を通って裏庭に待機させてあるヘリでコクトとフレアを連れて逃げるつもりだ。
レイモンが後ろを振り向き研究所内へ戻ろうとしたが、レイモンは我を疑った、歩兵ロボットが3体、既に正面玄関に配置されこちらに銃口を向けて待ち構えていたいたからだ。
「そんなばかな、・・・」
レイモンは信じられなかった、ついさっきまではこいつらは居なかったはずなのに、と。
コクトとフレアを掴んでいた兵士達は唖然として二人を離し両手を挙げた。
歩兵ロボットの出す赤外線照準機の赤い光の線が4人の兵士の頭と心臓あたりを確実に捉えていたからだ。
赤い光の照射を受けていなかったレイモンの頭にも複数の赤い光線が捉えた。レイモンががっくりとし膝をついた、立っていられない様だ。コクトも少し驚いたが、ジミーが助けてくれたと思った。コクトはフレアに近づき言葉をかけた。
「まさかこんなイベントが残っていると知らなかったよ」
フレアは「もう!」と、言うと、コクトの足を軽く踏んだ。
「いてっ!」
閃光弾の影響もだんだん薄れてきた。
ライエンは必死で部下に攻撃をやめさせようとしていた。
「やめろ、ばか」
隣で血相を変えて自動小銃を打ちまくっている部下の頭をなぐる。
「大尉、上の連中の銃撃をやめさせろ、こちらが攻撃すればするほどやつらは、倍の火力で反撃してくるぞ」
「イエッサ、」
大尉は、屋上へ向かって走りだしたが直に玄関での異様な光景を目にする、歩兵ロボットが陣取っていてその前ではレイモンと兵士4人が両手を上げていたからだ。そしてその隣にいるコクトと目が合った。
コクトは早く上に行けと言うように目で上を指した。
大尉は理解したようだ、恐る恐る歩兵ロボットの横を抜けると屋上に向かって走りだした。
シュミレーションルームでも相手の、攻撃がだんだんやみ始めるとジミーが状況確認に動き始めた。
「歩兵ロボットと装甲車両に攻撃停止の命令を出すんだ!、」
「ヘリは上空で待機だ、またやつらが攻撃してきたら今度は遠慮なしに反撃するぞ」
「オッケー、ジミー」
「おや?ジミー玄関に歩兵ロボットとコクトがいるけど、いつのまに誰が配置したの?」
「いいや知らない、・・誰だ?」
ジミーは周りを見るがみんな首を横に振る。
そして改めてモニタに写る歩兵ロボットとコクトを首を横にして見直した。
「どうなっているの?」
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