高エネルギー研究所に向かって3台の装甲車がライトも点けずに静かに走っていた、中には武装したルジウェイ警察官が乗り込んでいて指揮はオニールの上司が取っている。コクトとオニールを助けにいくのではなく、無断でコマンダー(司令官)用の装甲車を使用しているオニールと指名手配中のコクトを捕らえに行く途中だ。
彼らを指揮下に置いていた武装集団は撤収準備に入っているのだが、彼らにはまだライエンの命令は生きている、ルジウェイ警察の指揮系統は完全に混乱し機能していなく、彼らに中止命令は出されていなかったのだ。
「オニールのやつ、よりによって指名手配中のコクトと一緒になって装甲車を盗むとはまったく、これでは懲戒免職は免れないな」
とオニールの上司がつぶやいていると。急に先頭を走っていた装甲車が「キキッー」大きなタイヤのスリップ音を出して急ブレーキ掛けた。すると2台目、3台目の車両が大きな音を立て「ガシャン、ガシャン」と次々に追突した。
オニールの上司は運転手の頭を殴り「なぜ急ブレーキをかけた!?」と、怒った。オニールとコクトに気づかれないようにライトを消して走行していたせいで3台とも思いっきり玉突き事故を起こしてしまったのだ。
「すみません警部、あれを見てくださいよ」
と運転手が前を指差すと、その方向には無人ヘリが2機、行く手を阻むように航空灯を点滅させ道路に停止していた。
「無人ヘリか、なんでこんなところに?」
「燃料切れですかね?」
「分からん」
警部は拡声器を持って装甲車の上部にあるハッチを空け、上半身だけを装甲車の外に出して拡声器のスイッチを入れた。
『オニールか?』
『無人ヘリを操作しているのはオニールだろ?』
『・・・・・』
無人ヘリからは何の反応も無かった。
『まったく!、オニールいい加減に自首しろ、装甲車を返しヘリを格納庫へ戻すんだ、処分は軽く済むように俺からも頼んでみる』
『・・・・・』
相変わらず無人ヘリからは何の反応も無かった。
無人ヘリは操作不能になってただ道路に止まっているだけか?警部は装甲車に乗っている警察官3名を指差し、
「お前ら、降りて無人ヘリの様子を調べて来い。それと念のためコントロール用のスイッチも切って来るんだ」
警部に指示された警官は互いに顔を見合わせ、「警部いきなり撃ってきたらどうするんですか?」と、いやがった。
「ばかもん!ぐずぐず言わずに早く行け!!」
警部が一喝すると、彼らは渋々装甲車から降りた。
3人の警察官が恐る恐る無人ヘリに近づくと、2機の無人ヘリのサーチライトが一斉に点灯し3人の警察官と装甲車3台を照らし出した。
「ヒエッ!、逃げろ」
と3人の警察官は慌てて装甲車の中に逃げ込んだ。
「殺されるかと思った、ほら警部言ったじゃないですか!?」
「ばか!、サーチライトが点いただけで逃げるか!!」
ルジウェイ警察の士気は完全に落ちていた、上からの命令と言うだけで正体不明の武装集団の配下に置かれ、武装集団の好き勝手にこき使われているのだから無理も無い。
警部は拡声器を無人ヘリの方へ向けた。
『オニール、抵抗する気か?』
無人ヘリに備え付けられている拡声器を調整する音がした「ピー、ピー、、プッ」
「コン、コン」と拡声器がちゃんと機能しているかマイクを叩く音がした。
警部を含め装甲車に乗っている警察官全員が生唾を飲んだ。
『オニールは居ないが、友人のジミー・コハマだ』
シュミレーションルームのジミーであった、ジミーらは高エネルギー研究所へ向かう道路を全て封鎖していた。コクトとオニールが背後から攻撃されないように交代で徹夜で見張っていたのだ。実際来たのが武装集団ではなくルジウェイ警察であったためジミーは少しほっとしていた。
シュミレーションルームのモニタには無人ヘリ2機とその前で玉突き事故を起した状態の装甲車3台が上空から撮影されている映像が映し出されていた。ルジウェイ警察には気づかれていないが、上空では無人ヘリ3機が待機している。近くの道路を封鎖していたヘリ3機を急遽呼び寄せたのである。
残り5機のヘリは他の道路を封鎖していた。
ジミーは『ゴホン』と咳き込んでからマイクに向かって話はじめた。
『現在かってながら高エネルギー研究所へ向かう道路は全て封鎖している、明日の朝には封鎖を解除できると思うのでそれまでは誰も通す分けには行かない。おとなしく引き上げてもらおうか!』
警部を始め3台の装甲車に乗っている警察官全員が「きょとん」とした、事情がのみこめなかったのだ。ルジウェイで何が起こっているのか全てを知っている人は限られている、無理も無いことだった。
警部も動揺はしていたが悟られないように威厳を保つのが精一杯だった。
『我々はルジウェイ警察だ!、邪魔をすると公務執行妨害で拘束するぞ』
ジミーは「カチン」と来た。
『うるさい!何がルジウェイ警察だ!!』
ジミーはマイクに向かって大きな声でしゃべり始める。
『ルジウェイ市民の生命と財産を守るのがお前達の仕事だろう!今お前達がやっていることは、正体不明の武装集団の下僕に成り下がってやつらと一緒になってルジウェイ市民を誘拐し、拷問しているだけではないか!コクトとオニールはお前達の代わりにルジウェイ市民を守るために戦っているんだ!おまえらは恥ずかしく無いのか』
「こ、こいつ、・・・」
「おい、20ミリ機関砲で目の前の2機のヘリを破壊しろ、心配するなどうせ無人ヘリだ、人は乗っていない」
「しかし、警部」
誰も警部の指示に従うのをためらた、なんで自分達が武装集団の配下で働かないとならないんだ?と声には出さないが誰もが疑問に思っていたしジミーの言葉も彼らのプライドにかなりの刺激を与えた。
「お前ら、・・もういい、俺がやる」
警部は拡声器を放り投げ、20ミリ機関砲の台座に座っている若い警察官をどけ、ヘリに向かって照準を合わせた。
「おい、いいのか?」
台座からどかされた若い警察官は回りにいる同僚達に向かって、疑問を投げかけた。
「いや、よくない」
と、年輩の警察官が言うと、警部の方へ向かった。すると近くにいた数人も立ち上がり、一緒になって警部を銃の台座から引きおろした。
「こら、何をする!?」
「警部、あなたを拘束します」
装甲車のサイドのドアが開くと4人の警察官が外に出て2機の無人ヘリの前に歩み寄ってきた。内訳は手錠をかけられた警部とその両端には警部が抵抗しないようにと二人の警察官、そして警部が放り投げた拡声器を拾った少し年輩の警察官がいた。
状況を知らされた、他の2台の装甲車からも警察官が降りてきた。上空からは3機のヘリが彼らに向かってサーチライトを当てていた。
「おい、上にもいたぞ、警部をそのままにしていたら俺達は全滅していたぞ」
外に出た警察官達は、前に2機のヘリと上空にも3機のヘリ、計5機のヘリで囲まれていることを初めて知って震え上がった。
年輩の警察官は拡声器を口に近づけた。
『ジミー、恥ずかしいことだが我々下っ端の警察官は状況がまったく分からない、だが君の言っていることは正しいと思う、いまさらだが我々にできることはないか?』
シュミレーションルームにいる全員から歓声が上がった、「やったー!、警察も俺達の味方になったぞ」と、シュミレーションルームでは9人を半分に分け交代で仮眠をとっていのだが、いつの間にか全員が起きていた。
ジミーはなぜか目頭が熱くなるのを感じた、そしてマイクを口に近づける。
『ありがとう、是非手伝ってくれ』
ジミーはこの状況を早くコクトに伝えたがったが、多分熟睡していると思い明日の朝まで待つことにした。今はコクトとオニールの周りに敵を近づけないように専念することだと思った。
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