「大尉、聞いての通りだ明日の朝二人を引き渡して撤退するぞ」
「しかし大佐!」
ライエンは大尉が話すのを制すように手で待てと合図送った、そして監視カメラの方を指差した。
「大尉、我々の行動は全てこの監視カメラでコクトらに筒抜けだ」
大尉は一度監視カメラの方を見た後ライエン方に顔を向けた。
「まさか!」
ライエンは監視カメラの方を向いた。
「約束は守る、だがこれ以上我々の行動を見るのはやめてもらうぞ」
ライエンは監視室のモニタ群を見ている若い兵士のところに近づき兵士の肩に手を置いた。若い兵士はびっくりして立ち上がろうとするが、ライエンに肩を押さえこまれ椅子にもどされた。
「研究所の全ての監視カメラの電源を切るんだ、君が見ているモニタの映像は彼らも見ることができるからな、漏れがないように頼むぞ」
「イエッサ!」
若い兵士は、監視カメラの電源をコントロールするパネルのスイッチを慌てて切り始めた。
「大尉!」
「はい、大佐」
「各部隊へ、ルジウェイ郊外の緊急時の撤収ポイントまで引き上げるように伝えろ!」
「作戦は終了した、速やかに痕跡を残さず撤収しろと、な」
「イエッサ!」
大尉は、通信兵の背負っている通信機より受話器を取り出しライエンの命令を各部隊へ伝え始める。
「あとは、レイモンか」
ライエンは監視室から実験室にいるレイモンを眺めた。
「レイモンと話してくる、あとは頼んだぞ」
ライエンは、大尉にそう言い残しライエンは監視室から出て行った。
監視室から加速器コントロールルームまで降りて行くエレベータがあった、レイモンがそれに気付く、エレベータのドアが開くとライエンの姿があった。自らわざわざ降りてくるとはよほど重要な動きがあったと言うことか、とレイモンは思った。
「レイモン、時間切れだ」
「明日朝には二人を返し撤退するぞ」
レイモンは信じられないと言った顔でライエンに詰め寄る。
「まさか、私はこれでもルジウェイの評議会の委員だぞ、外のやつらが何者か分かったのか?私の権限で引き上げさせてやる、それにコクトはどうした!?捕らえられなかったのか?」
ライエンは、ここを包囲している無人の兵器が実はそのコクトが操っていることをあえてレイモンには言わなかった。
「レイモン、彼らはルジウェイの主要なシステムを配下に収めている、それにここの情報も彼等に筒抜けだ」
ライエンは加速器コントロールルームの監視カメラを指差した。
「筒抜け!?」
レイモンは思考が止まったように動かなくなった。
「全て見られているのか?・・・・」
と、言うのが背一杯だった。
そして大きく溜息をついた、なんでこう役立たずばっかりが自分の周りにいるんだろう、こいつはわが国に想像もつかない利益をもたらす可能性があるのに誰もわっかてない、なんて不幸なことだ。
「大佐、こいつを解析するには、ルジウェイが誇る世界最大の加速器と、それを制御する専用のスーパーコンピュータ、そして取り出した情報を我々の理解できる形式に変換してくれるスーパーコンピュータ群そして、最後にこれらスーパーコンピュータ群を効率的に運用管理が可能な会話型システムマーメイと、とても1国家ではそろえられる代物ではない、しかしここルジウェイには全てそろっているのだ。ルジウェイを軍事力で占領してもいくらでもお釣りはくるはずだ!。なんとかならないのか?」
「レイモン、引き際を間違えると我が国は全てを失うことになるぞ、あきらめろ」
近くのソファーに座っているフレアは、うつむいていた頭を上げライエンの方を見ると、ライエンと目が合った。
「お嬢さん、君の友達には完全に負けたよ、聞いての通りだ」
「彼は君達ふたりの開放と条件に我々の撤退を保障してくれた、だから我々の撤収準備が終わる明日朝までは君たち二人は大事な人質だ、大切に扱わしてもらうよ」
と、わざとレイモンに聞こえるようにフレアに話した。
フレアは自分達を誰かが助けに来ていることは、ライエンとレイモンのやり取りで分かってはいたが、今のルジウェイでそんなことができる人がいるとは思えなかった。ライエンが「君の友達」と言っていたのがとても気になる。
ライエンは、フレアの後ろにいる二人の兵士に対して、フレアとマイケルをベットのある部屋へ連れて行くように指示した。そしてフレアに「ゆっくり休むといい」と声を掛けた。フレアはライエンに返事はしなかったが軽くうなずく。
「と、言うことだレイモン所長」
ライエンは監視室へ戻って行った。
そしてライエンにフレアとマイケルを休ませるようにと指示された兵士二人のうち一人は、マイケルを両手でシートから抱き上げた、もう一人はフレアについて来るようにと手で合図をした。
「所長・・、」
立ち尽くしていたレイモンに研究所のスタッフが耳打ちする様子があった。
それを聞いたレイモンの顔が「ニヤリ」とした。
「そうか、まだチャンスあるな、ライエンは当てにならん何人か集めろ、私にいい考えがある」
「わかりました、所長」
と答えると彼はいそいでコントロールルームを後にする。
フレアは歩きながら二人の様子を横目でしっかりと見ていた。そして兵士の案内に従ってフレアもコントロールルームを後にした。
ライエンは監視室へ戻って、椅子に腰掛たそこへ大尉がコーヒーを持ってきた。
「大佐、どうぞ、目が覚めますよ」
「ああ、ありがとう」
「各部隊の状況はどうだ?」
「はい、全部隊撤収に向け準備を行っております」
「ごくろう、外の連中に交代して休むように伝えてくれ、そして大尉、君も少し休みたまえ」
「はい、大佐そのようにします」
ライエンはゆっくりコーヒーを飲み、いつもの事ながら理不尽な作戦だと思っていた、明らかに正義は我々側には無い、レイモンとその支持者連中は、自分の国も含め、各国が協力して膨大な予算をつぎ込んで作り上げたルジウェイを利用し、訳の分からない、オーパーツの力を手に入れようとしている。
失敗に終わって逆に良かったのではないかと思った。へたに成功してしまったらこいつらのことだ絶対に良い方向に使うとは思えない。
コクトのおかげで世界は救われたのかもしれない。と思うと、では自分は何をしているんだと考えてしまう。
ライエンはウトウトしいつの間にか眠り込んでしまった。昨日の深夜からずーと緊張しっぱなしだ無理も無いだいぶ疲れていた。コーヒーごときでは眠気をコントロールできなかったようだ。
大尉が宿直用と思われる毛布をロッカーから取り出しライエンに掛けた。ライエンだけではない研究所を守っている兵士も何人かは既にウトウト眠り始めいる。それを見てもだれも起こそうとはしなかった、みんなライエン同様疲れていたのだ。
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