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作品名:ルジウェイ 作者:ナルキ辰夫

第15回   ★☆交渉☆★
 高エネルギー研究所の地下にある監視室では、無人兵器の動きを監視カメラで注意深く観察するライエンがいた。ライエンは最初に到着した装甲車がコマンダー(司令官)用の車両であることに気付いていた。

 確証はないがおそらくこの中にいる人物が無人兵器を操っていると思っている。

 ライエンにとってまったく不気味な相手であった、正体が分からなくては手の打ちようがないからだ、どこかの国が我々の行動を察知して妨害にでたか、あるいは横取りにきたか、まったく検討がつかない。

 無人兵器を操ることができるくらいの権限を持っていると言う事はルジウェイの上層部の何人かが関与している可能性があると思っている。

 「大尉、我々を包囲しているやつとコンタクトがとれないか外のスピーカを使って試めしてくれ」

 「はい、大佐」

 大尉は監視室の監視機器を操作している兵士に準備をするように指示する。が準備が終わらないうちに、監視室の電話が鳴った。

 大尉が受話器を注意深く取り「はい」とだけ答える、しばらく受話器に耳を当てていた大尉の顔が少し強張った。大尉はまるで幽霊からでも電話が来たかのような顔をしてライエンの方を向いた。

 「大佐、コクトとか言う人物からです」

 「なにっ!?」

 「責任者と話がしたいと言っています」

 ライエンは受話器を大尉より受け取りゆっくり、話しかけた。

 「ライエンだ」

 コクトは装甲車のコマンダー(司令官)の椅子に座っていた、コクトの目の前にあるモニタにはライエンの後ろ姿が映し出されていた。

 ライエンはまだコクト達が監視システムを自由に操れることを知らない。高エネルギー研究所の監視システムも都市監視システムの配下にあるためその気になればライエンやレイモンの動きは全て把握できる。しかしコクト達にもそんな余裕があるわけではないため、まだ十分には使いこなしていない。

 コクト緊張を解すため大きく深呼吸をしてから話し始めた。

 「私はコクト、ジャン・フィデル・コクトだ。そちらが拉致した二人をこちらに返して欲しい」

 映画、ドラマで見るありきたりの、シーンをコクトは思いだしなが十分シュミレーションしたつもりだがやはり緊張する、コクトの手の平は汗ばんでいた。

 「私が責任者のライエンだ、」

 ライエンも驚いていた、今探して捕らえようとしている人物自身からの電話である。

 ライエンの声を聞いたコクトはその落ち着きのある口調に対して、本当に自分がプロである彼らとまともな交渉ができるのかと不安に感じたが、いまさら後には引けない、自信のを持つんだと自分に言い聞かせる。

 「大佐、もう一度要求する二人を返してルジウェイから速やかに出て行ってくれ」

 ライエンはコクトが自分のことを「大佐」と呼んだことに少し怖いものを感じた「なぜ知っているんだ?」と。ライエンは受話器を耳にあてたまま周りを見渡した、そして自分の後ろにある監視カメラに目が止まった「こいつか」。

 コクトも動揺した、モニタに映し出されているライエンとまるで目があった様な気がしたからだ、ライエンには自分は見えないはずなのにまるで面と向かっているようだ。ライエンは完全に監視カメラに向かって立っていた。まるでコクトを見るようにだ。

 『断ったら、どうする?』

 コクトは明らかにライエンは自分のを試していると思った。

 「レイモン委員をはじめ貴方30名を時がくるまで研究所に隔離する」

 コクトはできるだけ感情を出さないように淡々と答えた。

 ライエンの顔にも緊張が見える、彼は我々の戦力を把握し、レイモンがここにいることも知っている。そして終わりのアクセスコードを持っている。まるで全てを把握しているのではないかと思ってしまう。

 「コクト、君は無許可で無人戦闘システムをハッキングして我々を包囲している、あとで問題になるぞ、我々はルジウェイ最高評議委員会のレイモン委員の指示で行動しているのだ、おとなしく引き上げてくれれば君の行為を不問にしてもかまわない」

 ライエンはコクトがどこまで把握しているか知りたかった、そのための探りである。

 コクトも負けてなかった、ここはとにかく強気で行くしかないと。但し気をつけなければならないのは、プロであるライエンの口車に乗らないことだ。できるだけ会話を少なくし、付け入る隙を与えないようにすることだ。

 コクトは「ゴクリ」と生唾をのんで、モニタに映し出されているライエンを見てマイクに向かった。

 「確かに無許可で無人戦闘システムを使っているが、あくまでも拉致した二人を助けるためだ、それにいくらレイモン委員の指示とは言っても、あなた方の方が不法にルジウェイを占拠し、ルジウェイ市民二人を拉致ているとしか思えない」

 ライエンはコクトが何処かの国または組織の意向で動いていないと確信した、しかしそれは厄介なことでもあった、裏で圧力を掛けたりそれなりの見返りを条件に妥協したりと、取引ができないからだ。

 「コクト、我々を隔離すると言ったがいつまで隔離する気だ?あまり良い作戦ではないぞ、それに知っているとは思うがここにいるだけがこちらの戦力ではない。一戦交えるつもりか?」

 『大佐、それは困る。俺たちは戦争に関しては素人だ、それにこちらの歩兵ロボットに攻撃を指示すれば、機械的に貴方を全員殺してしまう。火力では圧倒的にこちらが有利だ。戦闘は避けてもらいたい!!』

 ライエンは改めて驚く、コクトが心配しているのは我々の犠牲のことだ!?どう対処していいか一瞬頭が混乱する。

 「では、時がくるまで隔離すると言う時とは何だ!?」

 ライエンは、思わず強い言葉でコクトに迫ってしまった。

 コクトはしばらく間を置いてからゆっくりとした口調で話し始めた。

 「二人を解放しない場合は、貴方達が行っている行為をあらゆるメディアを使って全世界に公表するつもりだ、そうなればどんな大国と言えども揉み消すことなど不可能だし、ルジウェイに多額の資金を出資した国々だって黙ってはいないだろう」

 「自分達は間違ったことをやっているとは思っていない、判断は国際社会に委ねるつもりだ。隔離するのは国際社会の判断が降るまでだ」

 「時間がかかるかも知れないが、時間がかかって不利益をこうむるのはそちらの方だと思うのですが、どうです大佐、自分達の要求を飲んではくれませんか?」

 コクトは少したどたどしいと思ったが、伝えたいことはライエンに伝えたつもりだった。

 装甲車の運転席に座っていたオニールは両手でメガホンの形を作ってコクトに向かって小さな声で「ちょっとかっこよすぎるぞ!」コクトにしか聞こえないように話しかけた。
 ライエンが映っているモニタの左横のモニタにはジミーの顔が映っている。

 『おれもそう思うぜコクト』

 ジミーがそう言うと親指を立てた。

 コクトは両手でマイクを覆い「そ、そうか」少しテレ気味に答えた。

 ライエンは黙って受話器から聞こえるあらゆる音に神経を集中していた。長い沈黙が続いた。しかしライエンの視線は監視カメラから離れようとはしなかった。コクトもまるでライエンに見られているような気がして正直少し怖かった。

 「コクト、私が見えるのか?」

 最初に沈黙を破ったのはライエンであった。

 「ああ、」

 コクトは何故か正直に答えてしまった。

 そのあと右手で口を押さえ「しまった!」とオニールを見た。

 オニールも両手で頭を抱え込んで「ば、馬鹿!」と小さな声でつい声に出してしまった。自分達が監視システムを使ってライエン達を監視していることを自らばらしてしまったからだ。

 だが、ライエンにはコクトの正直な言葉はかなり効いた。

 「わかった、コクト二人を解放しよう」

 「但し、こちらにも準備がある明日の朝まで待ってくれ、」

 コクトとオニールは顔を見合わせた、モニタの中のジミーもキョトンとしている。

 あわててコクトはマイクに向かって答えた。

 「時間は?」

 『朝7時でどうだ?』

 「分かった」

 『コクト、二人を解放した後の我々の撤退の保障と、今回の件に関して公表をしないと約束できるか?君個人としてだ』

 「約束する」

 『では、明日7時に会おう』

 ライエンは監視カメラに向かって軽く敬礼をして、受話器を戻した。

 コクトはマイクのスイッチを切ると放心した状態でオニールの方を見る。そしてマイクを指差した。

 「オ、オニール、これ、うまく行った様な気がするけど、うまくいったのか?」

 「こ、この」

 オニールは自分の座っている運転席から狭い車内を体をくねらせならがコクトの座っているコマンダー(司令官)用の座席まで来ると、マイクを指差しているコクトの手を掴み無理やり握り拳にし、自分の右手も握り拳にすると、コクトの拳と突付き合わした。

 「大成功だよ!」

 「やったなコクト」

 コクトは緊張が一気に解け、体中の骨格と言う骨格が全て無くなったかのように、崩れ落ちるように椅子から滑り落ちた。

 「いてて」

 「ああー、こんなに緊張したのは生まれて初めてだよ」

 オニールは「無理も無い」と言って、コクトに手を差し伸べた。

 『まだ明日があるぞコクト』

 モニタに映っているジミーからだった。

 『コクト、オニール今日は疲れただろう。あとは俺達がシュミレーションルームから奴らを徹夜で監視してやる』

 『お前たちの装甲車も歩兵ロボットで守ってやるからゆっくり休むといい』

 「ありがたい、ジミー甘えさせてくれ」

 オニールがジミーに感謝の言葉を送った。

 「俺も素直に甘えるよ、ありがとうジミー」

 コクトも甘えることにした、コクトはシートに座りモニタのスイッチを切ってシートの背もたれを倒すと。

 「マーメイ、聞こえるか?」

 『はい、コクト』

 「ここ以外にいる、部隊の動きも監視してくれ、ジミーたちだけでやつら全員を監視することは不可能だからな」

 『了解しました、コクト』

 オニールがコクトをジーと見ている、コクトはそれに気付くと

 「どうした?俺の顔になにか付いているのか?」

 「いや、コクトおまえやっぱり凄いやつかも」

 「はぁ、そんなことは、○×▲※・・・・」

 と、最後まで言葉が続かなかった、コクトは深い眠りに落ちた。相当疲れていたのだ。しかしである通常ここまで緊張すると神経が高ぶって眠れなく人が多いと思われるのだが、やはりコクトは少し人と違うとオニールは思った。

 「あらら、もう寝ちゃったか俺は少し起きておくか」

 と、思ったのもつかの間オニールも直にウトウトし始め、眠ってしまった。


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