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作品名:ルジウェイ 作者:ナルキ辰夫

第13回   ★☆シュミレーションルーム☆★
 太陽が西へだいぶ傾き、夕日がいつもより大きく感じる、あと数分で日が沈むもうとしていた。

 ルジウェイのセンターサークルの南側に4棟の3階建ての建物が幹線沿いに並んで建っていた、各棟は渡り廊下で繋がれて4棟で1つの建屋を構成している。

 旧マーメイプロジェクトの建屋である。一応マーメイプロジェクトは終了しているため現在は使われていないはずだが、各棟を繋ぐ渡り廊下の照明は点いていた。

 「よっこらしょ、と」

 ジミーは「シュミレーションルーム」と書かれているドアを力ずくで左右に広げるように開けた。通常はセキュリティシステムで管理されているため人間の力で開くようなドアでないが、建屋を管理するシステムは全て停止しているようだった。

 ジミーのいるシュミレーションルームは旧マーメイプロジェクトの4棟の建屋の1番南側に位置する3階にあった。

 「ちょっと、待ってろ」

 ジミーは真っ暗な部屋に中に入って、手探りで照明用のスイッチを探してスイッチを入れた。照明が点くと中央の正面に巨大なパネルとその左右に複数の小さなパネル群が並んでいるのが照らし出された。

 そして同時に、中央のパネルに向かって無人ヘリコントロール用のモニタとコントロール用のキーボードと制御盤、無人車両コントロール用のモニタとキーボードと制御盤、無人戦闘機コントロール用のモニタとキーボードと制御盤、歩兵ロボット用のモニタとコントロール用のキーボードと制御盤が10席ずつ設置されているのも照らし出される。

 初めて見る人なら、巨大なロケットを打ち上げる時に良く見る司令室と良く似ていると思うだろう。

 照明が点くと数人の人間がぞろぞろ部屋の中に入ってきた。

 「懐かしいな、1年ぶりかここにくるのは?」

 「ああ、全然変わっていないな、でもまだ使えるのかこの部屋?」

 何人かが懐かしそうに雑談をし始めた。

 「みんな、装置に触るのは少し待ってくれ、コクトに連絡を入れてみる」

 ジミーはみんなが周りの機器に手を触れるのを止め、自分の携帯を取出しコクトに連絡を入れた。

 コクトはコマンダー(司令官)用の装甲車の外部探査用のカメラを操作し、高エネルギー研究所の状況をモニタで確認していた。

 ジミーから携帯に連絡が入ったことに気付くと、確認作業を中断し携帯の通話ボタンを押した。

 『コクト、俺だジミーだ』

 「おう、待っていたぞ、どうだ何人か集まったか?」

 『ああ、9人は集めたぞ、但し俺が信頼できると思う連中だけだ、今シュミレーションルームいる。何も警戒されずに入れたぞ大丈夫か?このビル』

 「今はフリーの状態だ、これからセキュリティを設定するから、全員フロアの中央に集まってくれ」

 シュミレーションルームの天井には複数のレンズを持つマーメイ専用のカメラが設置されていた。むろん各コントロール用のモニタにもマーメイ用のカメラは設置されているが天井に設置されているのはマーメイがフロア全体を把握できるようにするための高性能のカメラである。

 「マーメイ、シュミレーションルームにいる全員に、操作の使用許可をたのむ」

 『了解!コクト』

 マーメイは、シュミレーションルームにいる一人一人の特徴を捉え、個人データベースより、所属と名前を取り出す。

 今度は取り出した所属と名前を、セキュリティシステムへ送り登録させる、作業は数秒のうちに終了した。

 これ以降シュミレーションルームへは彼らしか入れないし、また彼らしか操作はできないことになる。

 コクトはマーメイの存在のありがたさをあらためて感じた、同じ作業を人間がやったら一時間以上はかかるなと思った。

 「ジミー、みんなに権限は与えた、操作して欲しいのは、無人装甲車と無人戦闘ヘリだ、ああそう装甲車には歩兵ロボットも4体ずつ装備されているから、これも頼む」

 「んー」

 ジミーは腕を組んで少し思考するように首を横に曲げた。

 「コクト、俺達を集めて、昔みたにシュミレーションゲームをやるつもりはないだろ、実機とは接続されているのか?」

 『いや、これからだ、配置に付かせてくれ、すまんがジミーみんなの取りまとめをたのむ』

 「わかった、おーい聞いただろ、ヘリと装甲車のコントロール席についてくれ」

 「よっしゃ」

 「オーケー、ジミー」

 何人かは自分が昔関わった兵器の席についたが、ヘリの開発に関わったのが二人しかいなく、ふたりで10機のヘリを操作することになった、残り7名で20台の装甲車と歩兵ロボットを操作することになる。

 とは言ってもヘリと装甲車の操縦の大半が自動化されているためオペレータは的確な指示を出すだけである。

 あとは、自動コントロールで機械が忠実に実行してくれる。但し、的確に指示するのが一番難しいことであるのは間違いない・・・。

 「マーメイ、シュミレーションシステムと実機を接続してくれ、そして実機の制御をシュミレーションルームに移すんだ」

 『了解、コクト』

 シュミレーションルームのシステムが稼動し始めると、フロア全体が薄暗くなり、兵器コントロール用のモニタ群はヘリと装甲車が捉えている風景を映し出した。中央パネルには高エネルギー研究所付近の地図が表示され、その地図上に装甲車とヘリの記号が次々に表示されていく、配置状況が一目瞭然に示された。

 シュミレーションルームにいる全員が「おおー」と響めいた。

 「すげぇ、本物だぞこれは」

 誰かが言うのが聞こえる。

 『ジミー、携帯は切るぞ』

 『連絡はシュミレーションシステムを通して行うことにしよう、こちらのコマンダー(司令官)用装甲車の機器とシュミレーションシステムの機器はデータリンクされているから、その方が便利だ』

 「おう、そうだな」

 「ちょっと待て、コクト」

 『なんだ?』

 「確認なんだが俺達のいるシュミレーションルームは今はシュミレーションでは無いってことだよな?」

 『えっ?』

 『あっ、そうそうジミーそちらのいるフロアは現在は作戦室だ、全て本物を扱うことになるから慎重に扱えよ。じゃ一旦切るからな!』

 「お、おい、・・・きりやがった」

 シュミレーションルームから作戦室となったフロアの中央パネルの右上のサブパネルにコクトの顔が映し出された。

 『ジミー、どうだちゃんと写っているか?』

 ジミーはコクトの顔を見てほっとした。

 「大丈夫だコクト」

 今度は中央パネルの右下のサブパネルにオニールの顔も映し出された。

 『よっ!ジミー、いい男に映っているか?』

 「それは、無理だオニール」

 シュミレーションルームで笑いが起こっているのがコクトとオニールが乗っている装甲車からでも分かった。

 コクトも笑っているが笑顔は少しずつ強張った顔になってくる。

 コクトは自分らが可能な、できる体制は全て整ったと思ったら、急に心臓の鼓動が激しくなるのを押さえきれなくなった。そして少し息苦しくなってくるのを感じた。

 フレアを助けたいあまり深く考えずに勢いでみんなを巻き込んでしまったような気がして。自分はとんでもないことをしてしまったんではないかと、だんだん怖くなってきたからだ。

 オニールはコクトの様子が急に変化したことに気がつく。

 「コクトどうした、黙り込んで?」

 「ジミー、少しの間通信回線を切るぞ」

 『え、なんでまた?』

 コクトはシュミレーションルームとの回線を切断した。

 「コクト・・・・」

 オニールも何てコクトに声を掛けていいか少し迷った。

 コクトは深いため息をすると不安そうにオニールの方を向いた。

 「今さらなんだけど、正直いうと怖くなってきた」

 「俺達がやろうとしているこは間違ってないよな!?」

 少し沈黙の時間が流れる、時間してはほんの10〜20秒ぐらいだが二人にはとても長く感じられた。

 「なんだ、実は俺も物凄く怖いけど、正義は俺達にある!」

 オニールは、はっきりした口調で答える。

 コクトの強張った顔がだんだん緩くなってなってきて、オニールを笑顔で見つめた。そして周りの空気からエネルギーをもらうように大きく空気を吸い込み「フー」と邪気を全て吐き出すように息を吐き出す。

 「ごほっ、ごほっ」

 タイミングが悪かったのか咳き込んでしまた。

 「ありがとう、お前の顔を見直したら落ち着いてきたよ」

 「なんだそれ!?」

 「ヘヘッ」

 二人は軽く笑った。

 「しかし、コクト俺も安心したぞ」

 「安心って?」

 「だってよ、お前は武装した連中相手にマーメイに次から次にと指示を出して、ヘリやら装甲車やら使いまくって怒涛のごとくやつらを攻撃してしまうのではないかと少し怖かったぞ、まるで別人のようだったからな」

 「そ、そうか?」

 「心配するなコクト、お前だけに責任を押し付けたりはしないぞ俺も一緒だ、やるべきことはやろう」

 「それとも救出作戦が思いつかないのか?」

 「いや、考えはある」

 コクトはジミー達のいるシュミレーションルームとの回線を入れなおした、モニタにはジミーの顔が映し出された。

 『コクト、トイレにでも行っていたのか?』

 「すまんジミー、貸した金のことでオニールと少し話をつけたかっただけだ」

 オニールが頭をぼりぼりかいた。

 「へへへ・・・」

 ジミーもそれとなくコクトの気持ちを察したらしく、特に追求はしなかった。

 『で、コクトこれからどうすればいい?』

 「みんな聞いてくれ、少し今までの経緯を説明したい」

 ジミーとオニールがコクトの言葉を待った、シュミレーションルームで何人かはまだそれに気付かずおしゃべりをしていたが、誰かが彼等にむかって「静かに」と声をかけた。シュミレーションルームは静まり全員がコクトの言葉を待った。

 「オニールの話だと、今日の明け方200人前後の武装集団がルジウェイ空港に到着した。彼らはほんの数時間の間にルジウェイ警察を始めルジウェイの主要箇所を占拠したらしい、まだ大半のルジウェイの市民はそのことを知らないと思う。どうも今の最高評議委員会のレイモンが絡んでいるみたいなんだ」

 シュミレーションルームの数人がざわつき始めた。

 「まさか?」

 ジミーがみんなに静かにするように伝えた。周りが落ち着くのを待ってからコクトは話を続ける。

 「目的は僕にも分からないのだが、フィンレード・アーモンド・フレアとマイケル・コーナーの二人ががやつらに捕まって今高エネルギー研究所に拘束されている。フレアはあのバーンの娘でマイケルは僕と同じ都市管理局の人間だが問題のあるような人物ではないことは保障する」

 「フレアから僕に助けを求める電話があったんだが、残念ながら電話の途中でやつらに捕まってしまった、マイケルも管理局から有無を言わさず連れ去られてしまった。僕の目の前でだ」

 『コクト話の途中すまん、なぜ高エネルギー研究所なんだ?』

 シュミレーションルームのジミーからだ。

 「まだ僕にも分からない、見るか?」

 『見れるのか?』

 「マーメイ、二人が拘束されている映像をシュミレーションルームのモニタに映し出してくれ」

 『はい、コクト』

 ジミーらのいるシュミレーションルームのモニタに、シートに拘束されたフレアとマイケルの姿が映し出された。脳波読取装置用のヘルメットはまだ頭にかぶせられたままである。シュミレーションルームに少し動揺が走った。

 「今は落ち着いているが何時また拷問が始まるか分からない」

 『拷問だとお?』

 『オニール、ルジウェイ警察は何をしているんだ?』

 「す、すまんジミー」

 オニールは申し訳なさそうに小さな声で謝る。コクトはオニールに向かって自分から話すから、とゼスチャーでオニールに伝えた。

 「残念だが、ルジウェイ警察もレイモンの指示でやつ等の配下に置かれ協力させられているらしんだ」

 『じゃ誰が二人を、いやルジウェイ市民を守るんだよ!?』

 「俺達だよ」

 短い言葉だがコクトの決意が込められていた。

 『うっ、・・』

 ジミーもそれ以上何も言わなかった。

 「俺達にとって有利な点は無人兵器の持つ火力とマーメイが提供する情報だけだ、高エネルギー研究所を無人装甲車と歩兵ロボットで完全に包囲し中のやつらを身動き取れない状態にしてから拘束されている二人を解放するように交渉してみる」

 「問題はやつらが拒否した場合だ、歩兵ロボットを研究所へ突入させ二人を助けだす、と行きたいんだけど、それだけは避けたい」

 「そうだよな、敵とはいえ何人かは犠牲になるだろうな」

 誰かがボソッと言う。

 オニールもジミーもコクトの言葉を待った。シュミレーションルームも静まり返り全員がコクトの言葉を待った。コクトはそれを確認してから話を続ける。

 「そして作戦はこうだ!」


 コクトの作戦を聞き終えたジミーは「その方法しかないな」と思った。誰もコクトの作戦に意見をする雰囲気はなかった、誰が考えて自分達ができることは限られているからだ。

 「どうにか交渉で解決してほしいな、コクト」

 オニールが最初にコクトに声を掛けた。

 「ああ、そうなるように努力するさ」


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