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作品名:ルジウェイ 作者:ナルキ辰夫

第12回   ★☆包囲網☆★
 高エネルギー研究所のゲートには車両侵入防止用のコンクリート製の柵が交互に並べられ、直進する車両の進入を防ぐように配置されていた。そこに自動小銃と携帯用のロケットランチャーで武装した兵士10人が守っている。

 玄関横では数人の兵士が芝生を切り裂いてその下にある土を袋につめ土嚢を作りそれを順次玄関前に積み重ねている。そして研究所の屋上にも両端に2名と中央に2名計6名の兵士が警戒に当たっていた。

 研究所地下の監視室には、ライエンと通信兵、ライエンの命令を各部隊へ知らせる役割を持つ大尉と監視室にある監視用機器を操作する兵士一人の4人が詰めている。

 通信兵が誰かと話をしているがいい話ではなさそうだった。

 「大佐、警察から報告です、装甲車とヘリは警察ではコントロールしていないそうです、どこか別の場所からコントロールされているようです」

 「そうか」

 そう簡単に分かるとは思っていなかったのかライエンは驚かなかった。

 「大尉、データセンターに配置されているサイバー部隊に、至急装甲車とヘリを操作している連中を見つけ出し、システムを停止させるように連絡してくれ」

 「はい、大佐」

 大尉はテーブルにある電話機を使用しようと受話器を手に取るが、ライエンに止められた。

 「通信兵が持ている無線を使え」

 「えっ!?」

 「わからんか、ルジウェイの通信網も含めコンピュータネットワークは我々の配下にはない、我々に敵対する誰かが握っていると考えた方がいい」

 「はっ、そうですね」

 ライエンの言っている意味を理解した大尉は、通信兵の背中に背負っている通信機器から受話器をとりデータセンターにいるサイバー部隊に連絡をし始めた。

 高エネルギー研究所の屋上で警戒に当たっている兵士が動揺し始めた、西の空からヘリが10機、横一直線に並んで迫ってくるのが見えたからである。

 重低音のヘリ特有のプロペラ音がじわじわ大きくなって、こちらへ近づいてくるのが分かる。

 兵士の一人が「大佐に報告しろ!」と叫ぶ声が聞こえた。屋上を警備している兵士達は身を低くし自動小銃の安全装置を切り迎え撃つ体制をとった。

 ゲートに配置されている兵士達のも緊張が走った、猛スピードで飛ばしてく装甲車が一台ライトもハイライトでガンガン前を照らしながら迫ってきたからだ。

 装甲車がはゲート手前50メートル付近で急ブレーキを掛け「キキー」と煙を吐き停止した。

 「攻撃しますか?」

 兵士の一人が、隊長と思われる人物に指示を仰ぐが、彼は空を見て生唾を飲み込んで答えた。

 「大佐の命令があるまで待て」

 ヘリ10機が研究所の真上を超低空で通り過ぎて行く、完全に威嚇飛行であった。威嚇される側はたまったもんじゃなかった、まるで自爆攻撃かと思えるくらいの低空で、武装ヘリが立て続けに物凄い轟音で迫ってきたからだ。

 「こいつら本当に自動操縦されているのか!?」

 兵士の一人が地面に伏せながら叫ぶが、おそらく誰にも聞こえていないだろう。

 無人ヘリ10機は研究所の上空を通り過ぎると、研究所を取り囲むように100メートル上空でホバーリングし始めた。

 ゲート50メートル手前で停止した装甲車の全ての窓ガラスがゆっくりと鉄板で覆われていく、スー、ガッチン、スー、ガッチンと窓の数だけ鉄板で覆われる音が、ゲートを守る兵士達に聞こえた。

 次に砲塔のサーチライトがゲートを強烈に照らしだす、日は傾き掛けているがまだ周りは明るい、しかし威圧するには十分だった。砲塔には20mm機関砲が備え付けられているからだ。サーチライトは一通り研究所を舐め回すと「プッ」と消灯した。

 「コマンダー(司令官)用の車両か?無人ではなさそうだな」

 研究所地下監視室の監視カメラでその様子を見ていたライエンがつぶやいた。

 「大佐、まだ来ます」

 大尉が別の監視カメラのモニタを指差す。

 モニタには20台の装甲車が続々と到着するのが映し出されていた。各車両は研究所を包囲するように次々と停車していった。

 ライエンは監視室の下に広がる加速器コントロールルームが見える位置に移動し連絡用のマイクを口に近づけた。

 「レイモン、状況を報告してくれ」

 レイモンは近くにある監視室との連絡用のマイクを取りライエンのいる監視室を見上げた。

 『大佐、君のサイバー部隊が連れてきた男は終わりのアクセスコードなど持っていない、さきほどデータセンターで寛いでいるサイバー部隊に早く本物を探し出し連れて来いと命令したばかりだ。この件は後日、本国で報告させてもらうから覚悟しておくんだな』

 「そうか、・・・」

 ライエンは黙ってマイクを持ったまま腕を組み「フー」とため息をつく、レイモンは自己保身に走り始めたか、彼のことだ今回の件は全て私のせいにするだろう。しかしまだやることは山ほどある。ライエンは連絡用のマイクを口に近づけレイモンに話しかける。

 「レイモン、残念ながら悪い報告はこちらにもある」

 『な、なんだ?』

 ライエンは胆を切るように咳き込んだ後にしゃべり始めた。

 「この研究所が無人ヘリと無人の装甲車に包囲されている、ルジウェイのシステムは全て抑えているはずではなかったのか?」

 『包囲されている!?』

 「警察はまだ我々の支配下にある。他に無人の戦闘システムをコントロールできる場所はないか?」

 『ありえないそんなことは不可能だ!、警察以外で使うには私の許可が必要だ!』

 「じかし実際にありえないことが起きているんだレイモン!」

 レイモンのマイクを持つ手が振るえ始めた「まさか、そんな・・」小さな声だったがライエンは見逃さなかった。

 『心当たりがあるのか?』

 バーンが行方不明である現在、今はレイモンがルジウェイ全システムの最高権限を持っている、しかしレイモンはバーンの思想の元に作られたルジウェイのシステムをあまり好きになれなかった。特にセキュリティシステムと会話型システムマーメイは大嫌いであった。

 そこでレイモンは自分の権限を利用してセキュリティシステムをバイパスする機能を密かに組み込んでいたのだ。意図的にセキュリティホールを作っていたのだ。

 万が一バーンが戻ってきても全システムを自分がコントロールできるようにしたかったのだ、まさかそれが悪用されたのかとレイモンは思ったが、あえてライエンに報告するつもりはなかった。

 「いいや、わからん」

 「それを探すのがサイバー部隊の仕事だと思うのだが、大佐!」

 『そうだな』

 ライエンはここでレイモンと議論しても無駄だと分かっている、ここはサイバー部隊の報告を待つしかない、と。

 「大尉、サイバー部隊の状況を確認してくれ」

 「イエッサ!」

 大尉は、通信兵の背中に背負っている通信機器から受話器を取りデータセンターにいるサイバー部隊に再度連絡をし始めた。

 ライエンはサイバー部隊がルジウェイのシステムを把握できない場合は速やかに撤退することに全力を尽くした方が懸命だなと感じていた。

 我々の正体が公にされた場合の我が国の損失は図り知れない、下手すればルジウェイにおける全ての権益を失うしまう可能性だってある、と。

 「まったく、全てを手に入れようとして全てを失うことなることは避けなければならない。レイモンにいいように乗せられた上の連中にこの状況を見せたいもんだ」


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