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作品名:自分が男でなくなる瞬間 作者:藤田

第4回   果てしなき清流のように
           第4回 果てしなき清流のように
     
○ 桔梗の間
  紫檀のテーブルを囲んで花園弁護士と藤原教授が煮えたったスキ焼鍋を
 見つめている。
「そろそろ食べごろかな」
 花園弁護士は菊の花模様の小皿にスキ焼をよそりはじめる。
「それでは、わしはコシヒカリの銀飯をよそるとするか」
 藤原教授はお櫃(ひつ)の蓋に手をかける。
「さあ、どうぞ藤原先生」
 花園はスキ焼を盛りつけた小皿を藤原のまえにさしだした。
「コシヒカリの銀飯をどうぞ。花園先生」
 薄ら笑いをしながら藤原は飯茶碗を花園のまえにさしだした。
「これあ絶妙の味だ」
 藤原はスキ焼を頬張る。
「さきほどのはなしでは[前立腺]は[性感帯]の王様だというそうですが。人間の[性感帯]にはこのほかにどんなものがありますか」
 花園はスキ焼を小皿に盛りつける。
「まず男性の性感帯としては亀頭、陰茎、陰嚢(いんのう)、肛門、会陰(えいん)、乳首など」
 藤原は銀飯を口にいれる。
「陰嚢とは聞き慣れない概念ですが」
「ああ、この陰嚢はペニスの付け根にある袋で、膨らんだ袋のなかには睾丸がそなわっているんだ」
「ほう。体外にぶらさがっているあの皺(しわ)だらけの袋のことか」
「まあね。だから俗語としては[玉袋]とか[ふぐり]とか[いなり]と呼ばれてるんだ」
「なるほどその表皮はオイナリさんに酷似(こくじ)してるね。それに[会陰]とは判りにくい概念ですが」
「まあね。これは[えいん]と読み、男の外性器と肛門との間にある平坦な筋肉組織のことなんです。股を開いて手鏡に映せば左右の繋ぎ目が見えます。いわゆる[蟻の門渡り]の部位です」
「もうひとつ[亀頭]というのはなんですか」
 花園は藤原と視線をあわせる。
「ああ、これは文字どおり亀の頭のようなペニスの天辺の尿道口を囲んだ部位です」
「なるほど。勃起してくると亀の頭になりますな。するとその下の棒状の部位にも名前がついていますか」
「ああ、その棒状の長い筋肉の部位は[陰茎体]といいます」
「ほう。陰茎体ね。性的刺激をうけてペニスが膨張してくると亀頭も陰茎体も充血しておおきく膨らみ女性のバギナに挿入しやすくなるというわけか」
「そういうシステムなんだが。その亀頭部と陰茎体の境界線には筋肉の段差があるんだ。この部位を[カリ部]といいます」
「そう。指で触ると快感がはしるあの部位ですか」
「ペニスのうちではこのカリ部が性感の鋭敏な部位なんです。ですからこのカリ部の訓練によりいっそう高度な性生活をエンジョイすることができるようになるんだ」
「ええと。その訓練ってなんのことですか」
 花園弁護士は首を傾げる。
「そのトレーニングってもんはそのカリ部を普段から適度に刺激することによって性感を感じやすくする性的なテクニックのことなんだ」
「ほう。そのトレーニングによって性感帯の性感を鋭敏にすればするほど性行為のとき、それだけ高度で質のよいものを愉しめるというわけなんだ」
「亀頭部と陰茎体の境界線にあたる段差がおおきいほど男性の性器としては[名器]」といわれるんだ」
「なんでまた段差がおおきいと名器といわれるんですか」
「段差がおおきいほどバギナに挿入してピストン運動をするとき、女性の性器を強く刺激し女性に歓迎されるからだな」
「なるほど。そういうわけか」
「このカリ部の性感をトレーニングするテクニックとして[ウオーターバギナ法]と[エアーバギナ法]があります。これはわしが考案した性的特許行為ですがね」
「いくらなんでも性行為について特許権の取得は無理でしょう。それにしてもその方法はどんなテクニックですか」
「ちょっと言葉ではコメントしにくいから、あとで浴室にいってから実演してみせるから。ともかくウオーターバギナ法というのは液体としての水やお湯をバギナに見立てた手法だし、エアーバギナ法というのは気体である空気をバギナに見立てた手法なんだ」
「なるほど。とすれば君の発想によれば女性の肉体の一部たるバギナのほかに水と空気というふたつのバギナも存在することになりますな」
「そうなんだ。女性の本来の筋肉質のバギナを[真正バギナ]と呼び、新たに[疑似的]に認めたバギナを[疑似バギナ]と呼ぶことにしたんだ」
「ほう。バギナの概念に革新をもたらせたというわけか。こりゃあ凄い発想だ。そのふたつのテクニックによってカリ部をトレーニングするわけか。ええとその亀頭部は勃起すると膨らんできますよね」
「その亀頭部は膨らんできても陰茎体ほどは硬直しないんだ」
「ほう。なんでまた亀頭部は陰茎体ほどには硬直しないんですか」
「ペニスの尖端だからバギナに挿入してピストン運動をするとき、膣や子宮を傷つけないようにするためだ」
「なるほど。うまくできてるんだ」
「この亀頭はペニスをバギナに挿入したときのピストン運動により膣壁内の凹凸や膣口での刺激を受けいれる
からそれだけ男性の[性的快感のセンサー]にもなるんだ」
「ところで、さきほどの[陰嚢]なんだが。これも性感帯でしたね」
「ええ。この陰嚢は精子の形成に適温とされる34度から35度を維持する機能があります。つまり睾丸が熱くなりすぎないようにするため温度調節の役割を担っています」
「どうやって温度調節をするんですか」
「これは温度によって収縮するメカニズムになっていて、暑いときにはその表面を広げて放熱し、寒いときは収縮して熱を維持するわけなんだ」
「ほう。うまくできてるんだ。まるで温室に設置してるサーモスタットみたいだな」
「この陰嚢は性感帯とはいえ強い刺激だと不快感をもよおすので、ソフトに接触することが大切なんです」
「それでは、そもそも[肛門]は排泄器官なはずですが、なんでまた[性感帯]といえるんですか」
 花園は首を傾げる。
「もともと解剖学的意味における肛門は直腸の体外への開口部なんだ。排泄器官としては男女に共通していますが、性感帯としてもおなじく性感のセンサーになっているんだ」
「排便すると爽快感がはしるのだから性感帯とされてもおかしくはないな」
「男性の場合、肛門に指や綿棒を挿入して効率よく[前立腺]を刺激して性的快感をエンジョイするという性的指向性もあるんだ」
「それ、ちょっと変態だね」
「ホモセクシャルの場合には肛門を膣とおなじように活用するんだ」
「なるほど。男同士では膣はないから肛門のホールにペニスを挿入するんだね」
「さらには夫婦や恋人など正常なパートナーのときでも膣のほかに肛門を活用する例もあります」
「膣が使えるのになんでまたわざわざ肛門を使用するんですか」
 花園は首を傾げる。
「それは膣と肛門とではその性的な味わいが異なるからだ」
「ほう。そもそも不潔な肛門を活用するのは多彩な性感を愉しむためなんだ」
「まあな。いずれにしても肛門は清潔にしておかなければならない」
「はなしが弾んで夕食をたべたかどうかわからなくなってしまった。もう遅いからお膳はこのままにしてもらおうかな。ママに電話しておこう」
 花園弁護士は起ちあがり床の間の片隅の黒い受話器に手をかける。
「ああ。桔梗の間ですが。はなしがはずんで遅くなったから、もう顔をださなくていい。お膳は明日の朝にして。布団も自分で敷くから・・・。おやすみなさい」
「ちょっとトイレにいってくる」
 藤原教授は起ちあがり桔梗の間をでてゆく。
「それでは布団を敷くとするか」
 花園は独り言をいいながら押入れの襖に手をかける。
 ふたり分の布団を敷きおわったところへ藤原教授がかえってくる。
「わしも放尿して膀胱と尿道をからっぽにして、感じやすくしておくか」
 花園は苦笑いをしながら桔梗の間をでてゆく。

○ 清津峡谷
  夜の峡谷を清流が流れくだる。
  清流の水音が谷間に木魂(こだま)する。

○ 桔梗の間
  花園弁護士がはいってくる。
  藤原教授は浴衣姿のまま布団に横たわっている。
「わしも横になるとするか」
 花園は布団にはいり天井を見あげる。
 谷川の水音が流れこんでくる。
「おれ14歳のとき、古めかしい農家の便所でこっそり初めてオナニーをしたんだ。その当時にはマスターベーションとか、オナニーとか、性感帯などという概念は識らなかった。ただ凄い快感を覚えた反面、鋭い罪悪感、コンプレックスが背筋を走り抜けた」 
「まあね。だれでもはじめはそいうもんだ。わしは12歳のことだった。88歳の祖母のおしっこを手助けするため祖母の手をひいてお茶の間と厩(うまや)を隔てる障子を開け俺は厩の脇に降りて祖母の体を支えていたら、祖母はおしっこを始めた。そのとき、はじめて女の膣を見つめたんだ。むかむかしてきた。祖母の手を取って寝室にはいり祖母を寝かせた。俺は矢も楯も堪らなくなって古臭い便所に駆け込んだ。パンツをさげるとおちんちんが膨らんで硬くなっていた。右手で陰茎体を掴み激しく扱いてゆくとしだいに快感がつのり、やがてあっと叫んだ。ペニスの亀頭部の尖端から白いミルクが噴出した。これが最初のマスターベーションだった」
「君のほうがわしより2歳早かったわけだ」
「まあね。性的な成熟には個人差があるからだ」
「そうすると[会陰]も外性器と肛門の間に位置するから性感帯になるんかな」
「ああ。ここには[バチニ小体]の存在もしられているし、[8の字筋]の奥には性感が隠されているらしい」
「やたらと専門語がでてきて、わしにはぴんとこない」
「俺の著書[性行動の科学的研究]を読めばみんな書いてあるが。そのうちだんだんわかってくるさ。この会陰は強めの圧迫とか細かい振動に反応することが多いので、これもセックステクニカルのひとつといえるんだ」
「なるほど。それでは[乳首]のはなしにすすむか」
「そうだね」
「まず女性の乳首はどうなんですか」
「女性の乳首は[乳頭]と呼ばれるんだ。ここは乳首の尖端にあたり授乳器官なんだ。この乳首は[乳腺]と結びつき15〜20個もある乳頭の穴から乳をだし哺乳をしてるんだ」
「その乳首にも奇形があるそうですが」
「ああ。乳首の奇形としては無乳頭とか、陥没乳頭などがあります。このようなときは授乳に支障をもたらすことになりますな。女性の乳首は性感帯としては上位にランクされます」
「男性についてはどうですか」
「男性の場合は乳房が退化してその外形が見られないのが通例です。ただ例外として力士など肥え太った人には乳房らしきものが見られます」
「男性の場合も乳首は性感帯になりますか」
「ええ。個人差はありますが性感帯となります。しかもトレーニングによりハイレベルの性感帯に育成することができます」
「そのトレーニングの手法してはどんなものがありますか」
「それは[性交の体位]に対応した[ 正常位]とか[動物位]とか[後座位]のほか[射精直前性感型]などがあります」
「なるはど。あとで実演してみたいんだ」
「ああ。布団のうえで実演してみましょう。その乳首の性感度も乳首の部位により異なるんだ。もっともこの点については個人差がありますが」
「具体的にコメントしてみてくれないか」
 花園は藤原のほうに向きなおる。
「まず乳首の[真正面]は最も性感度が高い。だからトレーニングにより射精直前の性感度がえられるようになることが実証されています」
 花園は浴衣の胸を肌蹴(はだけ)て乳首の[真正面]に手首をあててみる。
「なるほど。感じるなあ」
「次いで乳首の[真上部]の性感度が高い。乳首の真上部を左右の手首で[八の字型]に左右に開くように刺激すると性交のときの[動物位]のときとおなじような強い性感度がえられるんだ。ちなみに早くペニスを勃起させたいときにもこの手法が効果的なんだ」
「そうなんだ。よしこんどやってみよう」
「その次は乳首の[左右外側]なんだ」
「その次はどこですか」
「その次は乳首の[左右斜め上]です。そして乳首の[左右斜め下]、最後に乳首の[真下]という順位だね。それでは実演してみよう」
「ちょっと待ってください。なんだか明るいので恥ずかしい。スタンドだけにするから」
 花園は起きあがり電燈のスイッチをきる。
桔梗の間はスタンドだけの仄(ほの)暗い明るさに包まれた。
「それでは実演をはじめてください」
「ええと。それでは俺の指示どおり実行してみて。まず[エアーバギナ法]からだ。ここには空気はあるが水はないから[ウオータバギナ法]はあとで浴槽にはいってからにしよう」
「まず左右の手首のプルスを感じる軟(やわ)らかい部位を乳首の[真正面]」にあててみて」
「プルスを感じる軟らかい部位か」
 花園はいわれたとおりのポーズをとる。
「この基本姿勢で[大気]にへばりつくようにしながらぐいと手首で左右の乳首の[真正面]を擦(こす)りあげてみて」
「ああ。こうか。パンツと浴衣が邪魔になった。ちょっと待って」
 花園は帯をほどき、浴衣を開いてパンツをずりさげた。
「こういうポーズか」
 花園は天井をみつめたままぐいと[大気]にへばりついた。
「おおっと。なるほど感じるなあ」
「これで君のペニスは[大気]の[エアーバギナ]に挿入されました。この基本姿勢でピストン運動にはいります」
「おおっと。ピストン運動のたびに快感がはしるなあ」
「ペニスの亀頭部にとん、とん、とん、とんと4回の快感を感じたところで腰を引けば、トン、トン、トン、トンと4回の快感が反復されるでしょう。これが4拍子のピストン運動です」
「なるほど。1回のピストンで4回の主快感と4回の反復快感をエンジョイできるんだ。すばらしい」
 花園はなんどもなんどもピストン運動をつづてけてみる。
「手首に代えて親指で擦りあげてもいいんだ」
「親指で擦りあげるか」
 花園はいわれたとおり親指を乳首の[真正面]にあててピストン運動にはいる。
「手首の軟らかい部位よりも親指で擦ったほうが性感が鋭いね」
「ああ。左右の乳首の[真横]や[斜め上]・[斜め下]・[真下]・[真上]など刺激の部位を変えてゆけば、乳首のそれぞれの部位に固有の性感をエンジョイしながら[カリ部]のトレーニングをすることができる」
「わかった。それでは[動物位型]のトレーニングにすすんでみてくれないか」
「ああ。これは性交するときの体位としての[動物位]のときとおなじ性感を鍛える手法なんだ」
「なるほど。動物が交尾するときの姿勢か」
「まず左右の手首の内側の軟らかい部位を左右の乳首の上部にあてます。この基本姿勢で
ペニスをぐいとエアーバギナに挿入します」
「はい。エアーバギナに挿入しました。ペニスの亀頭部に快感がはしりました」
「乳首にあてた左右の手首は[八の字型]で左右に開きながらピストン運動に対応しておなじパターンのピストン運動をつづけ乳首の刺激を繰り返してゆきます。すると[動物位]のときとおなじような性感をエンジョイすることができます」
 花園はいわれたとおりのパターンでピストン運動をつづけてみる。
「これによって[乳首上部]の性感をトレーニングすることができます」
「それでは[後座位]について実演してみて」
 花園は子供じみて藤原教授にせがんだ。
「まずエアーバギナに向かい性交における体位としての[後座位]のときの基本姿勢をとります」
「今は寝てるからこのままにします」
「それでよい」
「右手首の内側の軟らかい部位を右乳首の[右斜め上]にあてます。そして左手首の内側の軟らかい部位を左乳首の[左斜め上]にあてます。両脚を開き中腰になってエアーバギナにへばりつきエアーバギナにペニスを挿入します。ここでピストン運動をはじめます。すると手首の内側に接触された左右の乳首は自然に刺激されてゆきます。これによってやや深くペニスを膣に挿入したときの性感をエンジョイしながら、左右の乳首の[斜め上の]性感をトレーニングすることができます」
「よくわかりました。それでは[射精直前性感型]をはじめてください」
 花園は向きになって藤原に哀願した。
「これはペニスから精液が噴出する[射精寸前]のときとおなじ質の性感が感じられる乳首のトレーニング方法なんだ。まず両脚を開いて中腰になり個室の[大気]を膣に見立てた[エアー・バギナ]にへばりつきます。そして左右の手首の内側の柔らかい部位を左右の乳首の真正面から垂直にあてます。この基本姿勢でペニスをぐいと[エアー・バギナ]に挿入します。ここでピストン運動にはいります。するとピストン運動の揺れに連動されて手首による乳首の刺激もおなじテンポですすんでゆきます。ピストン運動を継続するにつれペニスの快感度も乳首の快感度も昂進してゆき、[射精寸前の性感]にのぼりつめることができます。ときには[射精しないオーガズム]に到達してしまうこともあるます。これはわしの研究により実証されています」
「藤原教授の特別講義もきわどいところに辿りついたから、そろそろ閉講にしましょう」
 花園はスタンドの灯りを消した。

○ 清津峡谷
  水音をたてて清流が流れくだっている。
○ 桔梗の間
  藤原教授が寝返りをうつ。
  花園弁護士も寝息をたてている。

  花園はいつのまにかドリームの世界に溶け込んでいった。

○ 峡谷の上空
  花園がグライダーで舞い上がっている。
  グライダーは清流に沿って飛翔(ひしょう)してゆく。
○ 信濃川の上空
  花園が操縦するグライダーが飛翔している。
  果てしなき清流の上空を舞いつづける。
○ 日本海の沿岸
  花園が操縦するグライダーが飛翔している。
  グライダーは日本海の上空を飛翔しつづける。







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