第29回 性愛の極致
○ 清津峡温泉郷の峡谷 秘湯の里といわれる清津峡温泉郷の峡谷をごうごうと急流が流れくだる。 峡谷の一角には、そそりたつ岸壁にしがみつくようにホテル緑風館が建っ ている。 ホテル入り口の門燈が周辺を照らし、果てしなく流れつづける渓流のグレー の峡谷をクローズアップしている。 ごうごうと流れ降る谷川の水音がホテルの周辺に木霊(こだま)する。 ○ 緑風館・桔梗の間 藺草(いぐさ)の香り高い畳20畳ほどの部屋の中央に紫檀(したん)のテーブルが でんと配置されている。 そのテーブルのうえには夕食が済んだあとの食器類がおかれたままになっている。 天井の電燈は消され、桔梗の間は仄暗いムードに包まれている。 二組の布団が敷かれ、藤原教授と花園弁護士が寝息をたてている。
○ 清津峡温泉郷の峡谷 信濃川の支流にあたる清津川の源流にほど近い清津峡温泉郷の峡谷をごうごうと 急流が流れくだる。
○ 緑風館・桔梗の間 藺草(いぐさ)の香り高い畳20畳ほどの部屋の中央に紫檀(したん)のテーブルが でんと配置されている。 そのテーブルのうえには夕食が済んだあとの食器類がおかれたままになっている。 二組の布団が敷かれ、藤原教授と花園弁護士が布団にはいり、寝息をたてている。 壁時計の長針がひくりと動き、オルゴール時計は午前4時を告げるメロディーを 奏(かな)ではじめる。 「ううっ・・・」 布団にはいっていた花園が両腕を突き上げ、枕元のスタンドを点火する。 仄暗い部屋が浮き彫りになった。 花園は腕時計を確かめる。 「もう。午前4時になったか。ちょっと眠ったばかりという感じだったが」 「トイレにいってくるか」 花園は起き上がり、壁のスイッチを押した。桔梗の間は明るくなった。 花園は廊下に消えてゆく。 「わしもトイレにゆくとするか」 藤原教授は掛布団を撥(は)ね、起き上がった。藤原は廊下に消えてゆく。 ○ 清津峡温泉郷の峡谷 秘湯の里といわれる清津峡温泉郷の峡谷をごうごうと急流が流れくだる。 峡谷の一角にはそそりたつ岸壁にしがみつくようにホテル緑風館が建っている。 ホテル入り口の門燈が周辺を照らし、果てしなく流れつづける渓流のグレーの 峡谷をクローズアップしている。 ごうごうと流れ降る谷川の水音がホテルの周辺に木霊(こだま)する。 ○ 緑風館・桔梗の間 藺草(いぐさ)の香り高い畳20畳ほどの部屋の中央に紫檀(したん)のテーブル がでんと配置されている。 花園がはいってくる。 「もう、ひと眠りするか」 呟きながら花園は布団に潜りこむ。 まもなく藤原がもどってくる。 「わしも布団にはいるか」 藤原は布団に横たわる。 「ところで、昨夜、寝る前の話のつづきなんだが。[疑似ウォーターヴァギナ]に よる[シングル型性行為]のはなしは完了したはずですから、今度は[疑似エアー ヴァギナ] による[シングル型性行為]に関するはなしになるとみられますが」 「まあな。わしの著書によれば[疑似エアーヴァギナ]による[シングル型性行為]の [男性編]というチャプターに転換することになります」 「なるほど。新たな章にはいるわけだ」 「まずいくつかの基本概念を理解しなければありません」 「どんな基本概念があるんですか」 「ここに[疑似エアーヴァギナ]とは、女性がその肉体の一部として生来的に保有す る筋肉質の[膣]を[真正ヴァギナ]と呼称した場合、その対概念(ついがいねん)とし て[疑似ヴァギナ]という概念を設定したことを想起して欲しい」 「ああ。その点は意味の著書で読んでいっますから理解しています」 「本著としては、生身の人間としての女性が生来的に保有する筋肉質の[真正ヴァギ ナ]に対して、新たに[もうひとつのヴァギナ]が存在するいう発想に立脚し、そこに [疑似ヴァギナ]という概念を作出したわけですな」 「前代未聞の素晴らし発想ですな」 「その[疑似ヴァギナ]には[疑似ウォーターヴァギナ]のほか[疑似エアーヴァギナ]が 存在すると想定したわけですな」 「人間生活の実態に着眼した素晴らしい想定ですな」 「要するに[疑似エアーヴァギナ]とは、[疑似ヴォーターヴァギナ]と並ぶ[疑似ヴァ ギナ]のひとつということになります」 「よくわかりました」 「その実態をコメントすれば、男性がゼネラルストリップになり、両脚を開脚して腰 をおとし左右の手首を左右の乳首の[斜め下]に宛がい、気体である[大気]にはばりつ き、ペニスを[真正ヴァギナ]に挿入するときのように、ぐいとペニスを[大気]の中に 挿入します。それとともに左右の手首で左右の乳首の[斜め下]から左右の乳首の[真正 面]ないし[左右の乳首の[上部]に向けて擦りあげてゆきます。その瞬間、ペニスに快感 がはしります。その性的快感は、筋肉質の[真正ヴァギナ]にペニスを挿入したときの 快感に類似した性的快感であうことがモニターによる実験例で実証されています」 「あるほど。そうなんだ」 「このような手法で左右の乳首を左右の手首で刺激しながらピストン運動を繰り返し てゆけば、しだいにペニスは勃起し、やがてペニスの亀頭部は[カウバー腺]から分泌さ れた分泌液で滑らかに潤ってきます。さらに、ピストン運動を反復してゆけばペニスを 筋肉質の[真正ヴァギナ]」に挿入してピストン運動を展開してゆくときのように性感は 急テンポで昂進しゆくはずです。 このような[性的快感のシチュエーション]を全体として捉え、[疑似エアーヴァギナ]と 呼称ることにしました」 「よくわかりました。すると,このようなこのような性行為にも[体位]はありますか」 「もちろん、あります」 「どんな体位ですか」 「ええ。[手首型正常位]と[親指型正常位]がそれなんです」 「なるほど。手首を活用する体位が[手首型]で、親指を活用する体位が[親指型]ですか」 「そいうわけですな」 「それでは[手首型正常位]からコメントねがいます」 「ええ。まず基本姿勢として、ゼネラルストリップになり、両脚を開脚し、腰をおとして 左右の手首を左右の乳首の[斜め下]に宛がい、ペニスを[真正ヴァギナ]に挿入するときの ように、気体である[大気]のなかにペニスをぐいと挿入します。すると[大気]の空圧によ る触感でペニスは[大気]に食い縛られたような性感を覚えることでしょう。 この基本姿勢は、[疑似ウォーターヴァギナ]による性行為のときと共通しています」 「たしかにそうですな」 「次に[前戯行為]ですが、ゼネラルストリップで両脚を開脚し、腰をおとし、ヴァギナに ペニスを挿入するときの基本姿勢になり、左右の手首を下腹部の臍の両脇にソフトに宛が います。この姿勢で[大気]にへばりつきます。臍の両脇に宛がった左右の手首でソフトに 乳首の[斜め下]に向け下腹部を撫であげながらペニスを[大気]のなかに突き出してゆきま す。乳首の[斜め下]に達した手首で、乳首の[真正面]ないし[上部]に向けて擦りあげてゆ きます。すると全身にソフトな快感がはしります。その快感は現実に生身のパートナーを 抱き締めたときのような性感として全身を走りぬけてゆくことがモニターによる実験例に より実証されています。ここで手首は下腹部の元の位置にもどしておくましょう。 このパターンの手法が軽いピストン運動として[前戯行為]になります」 「なるほど。わかります」 「このパターンで下腹部から乳首に向けた愛撫行為を繰り返してゆきます。この愛撫行為 を30回から50回も繰り返してゆけば、次第に性感も高まりペニスは勃起してきます。 もし急速にペニスを勃起させたいときは、左右の乳首の[斜め下]に宛がった左右の手首で 左右の乳首の[真正面]ないし乳首の[上部]に向けてハードに擦りあげ、その圧力を緩めな いで抑えたまま乳首の[斜め下]から乳首の[真正面]ないし乳首の[上部]に向けてハードに 擦りあげてゆきます。このように左右の手首を左右の乳首に強く押し付けたままの状態で、 この擦りあげ愛撫繰り返してゆくのです。その愛撫と並行してペニスを[大気]に突き出せ ばその効果はアップされ、ペニスは急速に勃起してきます。このパターンの[前戯行為]は、 濃厚で妖艶(ようえん)な性感を醸(かも)しだすことがモニターによる実験例で実証されて います。このような[前戯行為]を数分間繰り返せば、性感はアップされ、ペニスの亀頭部 は[カウバー腺]から分泌された分泌液により滑らかにあってきます」 「よくわかりました」 花園は寝返りをうつ。 「ここまで性感が昂進してくれば、[前戯行為]としては充分でしょう」 「すると本番にはいるわけですか」 花園は藤原の方に向きをかえる。 「そういうことです。この[手首型正常位]には、A型・B型・C型・D型という4種の[体位] があります」 「そうですか。まず[A型]からコメントねがいます」 「この性行為のパートナーは気体としての[大気]ですから、性行為の場所は、[大気]の存在 するエリアならば、どこでもかまいません。たとえば入浴時における浴槽の脇、書斎におけ るデスクの脇、だれもいない応接室の一角、一人暮らしのキッチン、カトレアとかコチョウ ランとかデンファーレなど自分が愛情込めて育てた花とキスできる温室なども選択肢となり ましょう」 「なるほど。気分の醸しやすいエリアを選ぶわけ」 「ええ、まあ。ただそのエリアの選択にあたっては、公然猥褻罪の構成要件に該当しない ように[非公然性]を具備した領域を選択しなければなりません」 「なるほど。刑法における性犯罪の解釈論になってしまった」 「これは花園弁護士の領域ですがね」 「性行為論も性犯罪論と裏腹になってるんだ」 藤原はけらけら笑いこける。 「まず[A型]ですが、これは左右の乳首の[斜め下]の部位を刺激の中心とした体位です。 まず[脱衣]ですが、[衣類の脱ぎ方]しだいで性感が湧き、ペニスが勃起しはじめることも あります」 「ほう。ちょっとエッチな脱ぎ方をするとか」 「そうそう。脱ぎ方にも自分なりの工夫が大切なんです。ゼネラルストリップになるのが よいでしょう。だとすると冬場は暖房が必要になります。室温は18度から20度くらいが 適温でしょう。夏場でもクーラーはいれないで自然の通風を活用する工夫が望ましい。 たとえば月光の照らしこむ書斎でライトを消したシチュエーションなら最高のムードといえ ましょう」 「この[A型]の基本姿勢はどうですか」 花園は天井に向きなおり背伸びをする。 「両脚を開脚し腰をおとして筋肉質の[真正ヴァギナ]にぺにすを挿入するときのような姿勢に なります。左右の手首を左右の乳首の[斜め下]に宛がい、腰を使って、ぐいとペニスを [疑似エアーヴァギナ]に挿入します。するとペニスの亀頭部は[大気]の空圧に食い縛られ快感 がはしります。この[A型]は左右の手首で左右の乳首の[斜め下]から左右の乳首の[真正面]ない し乳首の[上部]に向けて擦りあげる愛撫行為が基本のパターンとなります。 しかも、ときに はソフトに、ときにはハードに変化をもたせる乳首の刺激行為がポイントとなります」 「なるほど。乳首の[斜め下]ですか」 花園は胸に両手をあててみる。 「なるほど。言葉では表現できない快感がする」 「この[斜め下]の刺激のテクニックも自分なりに工夫することが望ましい」 「この体位でもピストン運動に[拍子]があるんでしょうか」 「ええ。[1拍子]から[10拍子]まであります」 「あず[1拍子]のピストンはどうですか」 「ええ。左右の手首をさゆうの乳首の[斜め下]に宛がい、乳首の[真正面]ないし[上部]に向けて 擦りあげながら腰を使って[疑似エアーヴァギナ]のなかにペニスを突出し、[とん]と1回の快感 を数えたら腰をひけば[トン]と1回の快感が反復されます。ここで左右の手首は左右の乳首の [斜め下]の元の位置にもどしておきます。これが[1拍子]のピストン運動です。おなじような パターンで[とん、とん]・[トン、トン]が2拍子。[とん、とん、とん]・[トン、トン、トン] が3拍子。[とん]・[トン]が4回で4拍子。[とん]・[トン]が5回で5拍子。6回で6拍子。 7回で7拍子。8回で8拍子。9回で9拍子のピストン運動になります。 最後に[とん]を10回数えたら腰をひけば[トン]が10回反復されます。これが[10拍子] のピストン運動になります」 「わかりました。こうして性感に変化をもたせるわけですな」 「拍子によって性感が異なることがモニターによる実験例によって実証されています。 最後に[10拍子]のピストン運動をエンジョイしたら、ここで[4拍子]のピストン運動に転換 します。左右の乳首の[斜め下]に宛がった左右の手首で、左右の乳首の乳首の[真正面]ないし [上部]に向けて擦りあげながら、腰を使って勃起しているペニスを[疑似エアーヴァギナ]のなか にぐいと突出します。すると[とん、とん、とん、とん]と4回の快感を数えたら、[トン、トン、 トン、トン]という4回の快感の反復を待たないで、すぐにペニスを突出します。すると[とん、 とん、とん、とん]とセカンドの快感がはしります。このようなパターンでピストン運動をつづけ てゆきます。このテクニックを簡潔に述べれば、[トン、トン、トン、トン]という反復快感を待た ないでそのステップをカットしてしまい、[とん、とん、とん、とん]という[4拍子]の快感だけを エンジョイするという、急テンポなピストン運動を繰り返すという手法です。それだけピストン 運動のテンポも速くなり、つれて、それに比例して性感も急速に昂進してゆくことでしょう」 「そうでしょうな。急速な性感アップか」 「このようないわば[特急4拍子]のピストン運動をどしどし繰り返してゆき、[もう、たまらない] という性感に達したら、ここで[3拍子]のピストン運動に転換してゆき、さらに[もう射精しそう だ]という性感になったら、[2拍子]のピストン運動に転換し、急速に[1拍子]のピストン運動に 転換します。こうしてペニスの[亀頭部に漏れかかった]という性感になったとき、勃起したペニス を[疑似エアーヴァギナ]のなかに深く刺し込むと同時に、左右の乳首の[斜め下]から左右の手首で 左右の乳首の[真正面]ないし[上部]に向けて力強くハードに擦りあげます。するとその瞬間、[マル チオーガズム]の絶頂に達することができます」 「なるほど。これまで経験したことがないはなしだな」 「まあな。[手首型正常位B型]は、左右の手首で左右の乳首の[外脇]を刺激することを中心とした 独特の性感をエンジョイできるメリットがあります」 「するとこの[B型]の本番はどうなりますか」 「ええ。基本姿勢と[前戯行為]は[A型]と共通していますから、ここでは[本番]にはいります。 基本姿勢で腰を据え、左右の手首で左右の乳首の[外脇を前方に向けて擦りあげながらペニスを ぐいと突出し、[疑似エアーヴァギナ]に挿入します。すると勃起しているペニスはその空圧に食い 縛られて亀頭部に快感がはしります。ここで[1拍子]から[10拍子]までのピストン運動にはいり ます。最後に[特急列車型ピストン運動により[マルチオーガズム]の絶頂に登りつめます」 「なるほど。それでは[C型]の本番はどうですか」 「ええ。この[C型]の体位は、乳首の[上部]の強い性感を活かした性行為の技術です。 基本姿勢で腰を据え、左右の手首を左右の乳首の[上部]に宛がい、勃起したペニスを[疑似エアー ヴァギナ]に挿入します。ここからピストン運動にはいります。そお最後に[特急列車型]の連発で [マルチオーガズム]の絶頂に登攀(とうはん)します」 「わかりました。最後に[D型]の本番はどうでしょうか」 「この[D型]の体位は、乳首の[真正面]の部位を主たる刺激の対象とした性技術です。 まず体位としての[立ち居」の姿勢で両脚を開脚し、腰をおとして、ペニスをヴァギナに挿入しや すいような体勢を採り、左右の手首は、左右の乳首の[真正面]に宛がいます。この姿勢で、ぐいと ペニスを[疑似エアーヴァギナ]に挿入します。ここでピストン運動にはいります。 最後に[特急列車型]のピストン運動で[マルチオーガズム]の絶頂に登攀することになります」 「まさに性愛の極致ですな」 「そいうことになりますかな」 「そうすると、これで[手首型]体位の性行為はおしまいですか」 「いえ。[複合タイプの手首型正常位]という独特の体位もあります」 「ほう。複合型ですか」 「この型の性行為は複雑になりますので、別の機会にしましょう。ちょっと眠くなってきたから」 藤原は目を瞑(つぶ)りタオルをアイマスクにした。 「それではもう一眠りしますか」 花園もタオルをアイマスクにした。
○ 清津峡温泉郷の峡谷 清津峡温泉郷の峡谷をごうごうと急流が流れくだる。
|
|