第24回 佐保子の模索
○ 羽村堰 玉川上水に沿って展開される桜並木の桜は葉桜になっている。 桜の古木の枝が垂れ下がり地面すれすれでそよ風に揺れている。 ○ 花園家の門前 白光がする生地に黒砂を散りばめた花崗岩の門柱に[弁護士 花園]と金文字で 刻まれた表札が浮かびあがる。 門柱の奥には広い芝生の庭が垣間(かいま)見られる。 ○ 花園家の庭 庭の芝生の南側では柘榴(ザクロ)の枝には真紅の花が咲き乱れている。 柘榴の木からかなり離れた庭の片隅にはおおきな蜜柑の木が無数に白い花をつ けている。 ○ 花園家の応接室 かなり広いスペースの応接室の奥は乳白色の絹を張った衝立で仕切られ、書斎 になっている。 応接室の表ドアを開けると豪華な応接セットが配置されている。 ソフアーを背にした壁側にはスタンドピアノがおかれている。 黒いピアノの蓋が開けられ、譜面台にはソナチネの楽譜が開かれている。 佐保子がトレーニンをしたあと、蓋を締め忘れたものらしい。
奥のドアが開いて、和服姿の佐保子が入ってくる。 佐保子は絹張りの衝立の脇を抜け、でんとした花園弁護士のデスクに向かった。 デスクのうえには一冊の書籍がおかれている。 そのブルーの表紙には「性行動の科学的研究」という金文字が刻み込まれていた。
「あたし昨日、藤原先生の著書をこっそりと読んでみたんだが、今日はセックス本番 の第2節を読んでみよう」 佐保子は栞(しおり)を抜いて著書のページを捲った。
# 藤原教授の著書 #
第2節 性行為概念の再構成
1 性行為の概念 (1) 従来の発想 これまでの性哲学によれば、性行為とは主に男女が性的欲求に従い、お互い の身体、特に生殖器官としての性器や性感帯などを刺激する行為をいう、とさ れてきた。 しかし、この構成はアプリオリに性行為とは男女が主体になるアクションだ と固定してしまう既成の性哲学にもとづく発想である。 それ故、この構成には疑問が残る。その理由については前述した。 (2) 性行為概念の再構成 そもそも性行為とは「男女または男性もしくは女性」が人間の本能として の性的欲求を満たすために「男女相互」にまたは「男性もしくは女性が単独」 で、その身体とか性器や性感帯を刺激する行為をいう。 このような「性行為概念の再構成」により、「性行為のパートナーを想定し た男女間の性行動」のみならず、「性交のパートナーを想定しない男性または 女性の単独性行動」をも、本来的な「性行動」のカテゴリーに組み込むことが できる。 (3) パートナーを想定した男女間の性行動 このパターンにおける性行動の主体は当然、「男女」という複数の人間であ る。そこで本著では、この類型の性行為を「ダブル型性行為」と呼称する。 (4) パートナーを想定しない男性または女性の性行動 このパターンにおける性行動の主体は、「男性または女性」という単数の人 間である。 そこで本著では、この類型の性行動を「シングル型性行為」と呼称する。 2 性行為の相手方選択 まず「ダブル型性行為」においては、性行為の主体は複数であるから当然、その 性行為の相手方が存在する。 (1) 男性と女性間の性行為 性行為は、このように男性と女性という「異性の間」でなされるのが原則的 な形態である。たとえば配偶者間のセックス、恋人同士のセックス、風俗産業 におけるセックスなどである。 (2) 同性間の性行為 この形態の性行為は「男性同士の間」や「女性同士の間」でなされる。 そもそもここでの問題はセクシャリティの問題である。 この点、異性をセックスの相手とする「ヘテロセクシャル」という「性的指 向」に依拠しているのが通例である。これがマジョリティの性的指向である。 これに対し「ホモセクシャル」とか「レズビアン」という性的指向に依拠し ている少数派も存在する。これがマイノリティに属する性的指向なのである。 これが男性同士の性行動や女性同士の性行動にみられる「同性間の性行動」で ある。 さらに「第三の性的指向」として異性を愛するとともに同性も愛するという 二刀流の性愛者ともいうべき「バイセクシャル」という性的指向も存在する。 3 複数型性行為と単数型性行為 このような人間の性行為は「複数型」と「単数型」に分類することができる。 そのうち「複数型性行為」としては、 a 男女間でなされる性行為 b 男性同士の間でなされる性行為 c 女性同士の間でなされる性行為 を考えることができる。 本著では「複数型性行為」を「ダブル型性行為」と呼称すことにした。 これに対し「単数型性行為」を「シングル型性行為」と呼称することにした。 従来の発想によれば、これまで「性行為のパターン」としては、 a 自慰(オナニー) b オーラルセックス c 性交(セックス) という分類がなされてきた。 しかし本著では、なんとなく寂しい気分に傾斜しやすい「自慰」の概念は末梢す べしと提唱している。 従来、オナニーと呼ばれてきた性行為は、これを「シングル型性行為」の一類型 として理解し、これを男女間の性行為と肩を並べる対等の性行動概念として性行動 学の分野においてこれを認知することにした。 これにより性行為のカテゴリーに潤いをもたせたいと企図している。 4 再構成された性行為 本著では、このように再構成された性行為のカテゴリーに立脚し、 まず「複数型性行為」について、 A 男女間における性行為 B 男性間における性行為 C 女性間における性行為 と、順次、考察してゆきたい。
○ 花園家の応接室 かなり広いスペースの応接室の奥は乳白色の絹を張った衝立で仕切られ、 書斎になっている。 応接室の表ドアを開けると豪華な応接セットが配置されている。 ソフアーを背にした壁側にはスタンドピアノがおかれている。 黒いピアノの蓋が開けられ、譜面台にはソナチネの楽譜が開かれている。 佐保子がトレーニンをしたあと、蓋を締め忘れたものらしい。
佐保子は絹張りの衝立の奥の花園弁護士のデスクに向かい藤原教授の著書に読み 耽(ふけ)っけている。 佐保子はページをめくった。 「ここからは第3節になるんだわ」 佐保子は両方の乳房に手の平を宛がい、目を輝かせた。
# 藤原教授の著書 #
第3節 男女間の性行為
ー「ダブル型性行為」その1−
1 概念 男女間の性行為とは、性的欲求に従い、男女相互の身体、特に性器や性感帯など を刺激する行為をいう。これには「性交」を含むが、それ以外にも多様なセックス アクションがある。 ここに男女間の「性交」とは、男女が性的に交わり、男性の性器を女性の性器に 結合する性行動をいう。 この「性交」は、生物学的には「生殖」を目的としているが、男女相互の愛情の 表現でもあり、男女相互に性的快感を味わう快楽の享受でもある。 この快楽原理に立脚すれば、法的には憲法第13条により保障される基本的人権 としての「幸福追求権」の一内容ということになる。 2 性交体位 本節では「性交以外の愛撫行為」については、必要に応じてその都度その箇所に おいて考察することにし、当面は「性交」について考察してゆきたい。 そこで「男女間の性交」においては、まず「性交体位」が問題となる。 (1) 概念 ここに「性交体位」とは性行動の当事者である二人が性交しているときの両者 の体の位置関係を意味する。 これを単に「体位」とも呼び、「ラーゲ(Lage)」ともいう。 動物の世界では、交尾のときの姿勢は一定している。 これに対し、「ヒト」の場合は種々のラーゲが工夫され、行為時のシチュエー ションにより、これを使い分ける。いつも同じ体位ではマンネリになるので気分 転換のため、ときにはその体位を変えたりする。もちろん性行動の行為者、個人 の「好みの体位」とか「嫌いな体位」というものもありうる。 (2) 主な類型 その体位は多数にのぼるので、本著ではまずポピュラーな体位から考察してゆ き、余裕があれば特殊な体位についても紹介してゆくことにしたい。 A 正常位 a 概念 この体位は正確には「通常位(missionary position)」というべきである。 b 基本姿勢 まず女性は仰向けになり、膝を立てて股を広げた状態になり、男性がその 上に覆いかぶさる。 この場合にも次のようなバリエーションがある。 ア AV正常位 これは男性が上半身を真っ直ぐ立て身体をそらすようにして腰を使ったピ ストン運動をする正常位の変型であるが、これは見せるための体位で、アダ ルトビデオで用いる手法である。 イ 非密着型正常位 これは男性が女性と胸を合わせないで、女性の胸部に上半身を密着せずに 男性は両腕を伸ばしたまま上半身の体重を支えてピストン運動をしてゆく。 この場合、胸や腹部は密着されないが、性器を含めて胸から下は密着されて いるから、この密着された部位に体重をかける工夫をすれば、その部位の密 着感がアップし腰も使いやすくピストン運動を促進できる。 ウ 密着型正常位 これは男女とも胸を合わせ、腹部も密着させる正常位である。 この型がスタンダードな正常位といえる。この体位は身体を密着させるた め皮膚感覚により抱擁の性感を満喫することができ、愛情がパートナーに伝 わりやすい。ただ女性に男性の体重がかかるので女性は息苦しくなることも あるので長時間の性行動は無理である。男性は両腕で体重を支え、女性の重 みの負担を軽減する工夫が欲しい。 c 挿入方法 ヴァギナにペニスを挿入させるため、まず女性が仰向けになり膝を立てて股 を開く。股を開いた女性の股間に男性が膝をつき、体重を安定させた状態にな る。指で摘まんだペニスを女性器にあてがう。男性は女性にへばりつくように 腰をぐいと前進させ、ヴァギナにペニスを挿入する。乱暴に挿入してはならな い。性的気分を損なわないようソフトに挿入する。 d 体位の不具合 女性の性器の構造には個人差がある。 このため、その女性の性器の構造によっては、膣口の位置の関係でペニスの 挿入が困難なため正常位をとれないこともある。 これが「体位の不具合」の問題である。 たとえば、女性の膣口が極端に背中の方に片寄った下側近くに位置している 場合(下付き)とか、この「下付き」とは反対の「上付き」の場合には、男性の 性器との組み合わせが悪く、正常位をとりにくくなる。 それに女性の「股関節」があまりにも硬くペニスを挿入しにくいこともある。 このような場合には正常位以外の体位で性行動をする工夫が必要となる。 B 後背位 a 概念 女性が四つん這いになって膝をついた状態になり、男性は膝をついて女性の 背後からペニスを挿入する体位をいう。 この体位はバックスタイルであることから「バック」とも呼ばれる。これは 多くの動物が交尾するときの姿勢である。だからこれは、「動物位」ともいう べきもので、「動物のやりかた」とか「犬のやりかた:doggy style」とか「四 足で:on all four」、「グレートハウンドの雌犬」・「小さい羊」など各国で 各様の表現がなされている。 b 効用 この体位ではペニスをヴァギナに挿入する前に、勃起したペニスの亀頭部を 女性器のクリトリスに擦りつけて摩擦し女性の性欲を昂進させることができる というメリットがある。そのうえヴァギナにペニスを挿入してピストン運動を しながらも男性は両腕を自由に使えるので女性の乳房・乳首・脇腹とかの性感 帯を愛撫することもできるというメリットがある。 さらにこの体位では、正常位よりもペニスをヴァギナに深く挿入することが できるから、正常位とは異なる性感を女性に与えることもできる。 c 肛門性交の体位 この後背位は、パートナーとしての女性の背後からペニスを挿入するもので あるから「肛門性交」の体位でもある。だから男女間で肛門性交をするときと か、男性間で肛門性交をするときにも、この体位がとられる。 d テクニック 女性の背後からヴァギナにペニスを挿入した男性は、自由に使える両腕で女 性の尻を掴むよりも女性の腰を掴んだほうがよい。 それも腰を掴みっぱなしではなく女性の乳首とか乳房とか脇腹などの性感帯 をソフトに刺激してゆくテクニックが大切である。 e 膣口が「下付き」の女性の場合は、この「後背位」が適している。 女性にとって楽な体位だからである。 これに対し「上付き」の女性の場合は、自分の背中をエビのように曲げ腰の 部位を浮かせるようにしなければペニスの挿入がしにくい。しかもこのような 無理な姿勢を長時間続けることは推奨できない。 このほか肉付きがよい女性の場合には、その肉が障害となりペニスの挿入を 継続することが困難となる。 女性の腹や胸と床の間に枕などを挟んだり、女性がその上半身を机とか椅子 の上にうつ伏せにしてお尻を突き出す姿勢をとれば、女性の身体への負担も 軽減される。 C 騎乗位 a 概念 ここに「騎乗位」とは、仰向けになった男性の体の上に女性が馬乗りに跨り、 女性が、勃起した男性のペニスを自分のヴァギナに導き結合させる性交の体位 をいう。 b 効用 この体位は、女性が男性を支配するかたちでセックスの主導権を握ったという 女性願望を達成することができる。なによりも女性は男性の上に馬乗りになれる し、自分で男性のペニスを握り締め、「あたしが入れる」という積極的な姿勢で ペニスをヴァギナに導き性欲を剥き出しにすることができる。一度、ヴァギナに 挿入したペニスの挿入の度合を深めたり、浅くしたり、自分の腰をグラインドさ せたり、ピストン運動に変化をもたせたり、自在に女性が性行動をリードするこ とができる。それ故、この体位は女性にとってその効用はおおきい。 c 類型 この体位には次のようなパターンがある。 ア 騎乗位基本型 男性が仰向けになったところへ女性が股を開いて馬乗りになり、自分でペニ スをヴァギナに誘導し、胸と腹部を密着させる。 この体位は、「正常位」を裏返しにした型で、正常位とは逆に女性が男性の 上に覆いかぶさるが、男性は開脚せずに股間をわずかに広げてペニスを露出し て足を伸ばし、女性が股を広げ開脚したまま男性の上に馬乗りになる点で正常 位とは異なる。 この体位では、男女はかなり胸や腹部を密着することができる。したがって 密着による性感がアップされる。 イ 対面女性上位型 男性が仰向けになった上に女性が向き合って馬乗りになり、上半身を直立さ せるか、または両腕で上半身を支える。女性のピストン運動により男性の目の 上で乳房が揺れることになり、男性の視覚的興奮をアップする。 そのうえ「Gスポット」も刺激されるので、それだけ女性の性感度もアップ される。 ウ 背面女性上位型 男性が仰向けになった上に女性が男性に背中を向けて馬乗りになる。 すると性器の位置が対面型とは逆になり、つれて刺激の部位がデリケートに 異なり、別の味わいある快感をエンジョイすることができる。 エ 変型タイプの騎乗位 このほか騎乗位のバリエーションとしては、いわゆる「茶臼」とか 「花 時計」 などがある。 ◇ 花時計 性技術として注目される「花時計」は、男女が性器を結合させたまま、 ペニスを軸にして女性が時計の針がまわるように回転するテクニックであ る。ヴァギナを回転することによりペニスの 挿入角度が変化したり、 性器の接触部位が微妙に変化するため、男女とも変化に富んだ性感をエン ジョイすることができる。 ◇ 茶臼 騎乗位の体位は「本茶臼」といわれることがある。 この「茶臼」には「月見茶臼」・「時雨茶臼」・「機織茶臼」など がある。 ちなみに「居茶臼」や「帆かけ茶臼」は騎乗位の系統というより「座位」 の系統に属するとみられる。 D 座位 a 概念 ここに「座位」とは、男女が性交をするときに、当事者の双方が共に座った体勢 で性器を結合させる体位をいう。この体位では、男性の勃起したペニスの上に女性 が腰を落して性器を結合させる。 b 類型 この「座位」にはつぎのようなパターンがある。 ア 対面座位(前座位) これは男女が正面に向かいあって座り、勃起して起ち上がった男性のペニスの 上に女性が腰をおとして性器を結合させる体位である。 これは男女が向き合っているため、性器を結合させたままキスをしたり、抱擁 したりして性感をエンジョイすることができる。 イ 背面座位(後座位) これは女性が男性の正面へ背中を向け、股を広げて勃起した男性のペニスの上 に腰をおとし、椅子に掛けるときのように座って性器を結合させる体位である。 これは女性の背後に男性が座った体勢になるので、男性は女性の背後から抱擁 したり、乳房や股間を愛撫したりすることができる。 c 居茶臼・帆かけ これらは「座位」の応用型といえる。 E 立位 a 概念 ここに「立位」とは、男女が性交をするときに、男女ともそのパートナー同士 が起立したままの体勢で、男性が勃起したペニスを女性のヴァギナに挿入しこれ を結合させる性交体位をいう。この「立位」は「りつい」と読む。 b 類型 この「立位」には次のようなパターンがある。 ア 前面立位 男女ともに立ったままの姿勢で向き合い、男性の勃起したペニスを女性のヴァ ギナに挿入し結合する体位であるが、男性が女性を丸ごと抱き抱える姿勢になる と、男性には相当の体力が要求される。だから体力不足の男性には無理と いえよう。 女性が男性の首に両腕でしがみつき、男性が女性の腰に手をあて抱き抱える姿 は往時、鉄道の列車が停車中のプラットホームで首から胸に吊るした盆状・箱型 の容器で弁当を売り歩いた「駅弁」に類似しているとろから、この体位を 「駅弁」ともいう。 イ 背面立位 女性は立ったままの姿勢で、ときには壁や高い椅子などに手をついた状態にな り股間をやや開く。男性は女性の背後から女性にへばりつき、勃起したペニスを 後方からヴァギナに挿入し性器を結合させる体位である。 この体位は「後背位」の変型ともいえよう。 この「背面立位」は、性俗語では「鯉の滝登り」とか「後櫓」とか「櫓立ち」 とも呼ばれている。 F 側位 a 概念 ここに「側位」とは、性交をするとき、男女が脇腹の一方を下に付けた横向き になって男性のペニスと女性のヴァギナとを結合する性交体位をいう。 この「側位」は、「正常位」とか「後背位」とかの変型といわれる。 b 効用 この体位は、腰を小刻みに動かしながら女性に囁きかけたり、乳房やクリトリ スを愛撫しながら触感による性感を味わうことができる。それに、比較的ペニス に与える刺激が少ないので射精を堪えるのにも有効な体位である。 c 類型 この「側位」には次のようなパターンがある。 ア 対面側位(前側位) これは脇腹の一方を下に付け横になった男女が対面する体勢で勃起したペニ スをヴァギナに挿入し性器を結合させる性交体位である。 この体位ではペニスをヴァギナに深く挿入することは難しいが、「正常位」 とは異なり男性にとって腰への負担が軽減される。 イ 背面側位(後側位) これは脇腹の一方を下に付け横になった女性の背後から男性がペニスを挿入 しヴァギナと結合させる性交体位である。 これもペニスをヴァギナに深く挿入することは難しいけれども、男性にとっ て「正常位」より腰への負担が軽減される。 d テクニック 男性は挿入したペニスをヴァギナの中でリズミカルに楕円運動する。少し潰さ れた楕円形をイメージしながらペニスを運動させ、「膣前壁」と「膣後壁」を刺 激してゆく。その刺激にも変化をもたせてゆくのがよい。 たとえば5回程度のピストン運動のあと1回転させる。 G 屈曲位 a 概念 男女が性交をするときに、まず「正常位」のときのように女性が仰向けになる。 次に女性は両膝を曲げ、これを上に持ち上げてエビのように丸くなる。 この体勢になったら、その上に男性が女性の股間にへばりつき体重をかける ようにして勃起したペニスをヴァギナに挿入し性器を結合させる。 このような性交体位を「屈曲位」という。この「屈曲位」は「正常位」の体 勢が基本となるから正常位のバリエーションのひとつといえる。 b 効用 この「屈曲位」では性器の結合された部位に男性の体重がかかる体勢であるか らペニスがヴァギナの奥まで深く挿入される。だから浅い挿入のときとは異なる 重厚な性感が得られる。そのうえ、この体位はペニス挿入の深度や挿入角度に変 化をもたらせることができるので、他の体位で楽しんでから、最後の悦楽のため にセックスのフェニッシュとして用いることを推奨する。 c テクニック 男性が女性に覆いかぶさると男性の体重が女性の負担となるので、男性は両腕 で自分の体重を支えるよう調整する工夫が必要となる。 この体位は、エビのように丸くなった女性の腰に負担がかかるので長時間の セックスを避けるような配慮も大切である。前戯による相互の愛撫に時間をか け、性的刺激を十分におこない、性的興奮を絶頂近くまで昂進させてから「屈曲 位」で本番に乗り換えるテクニックを推奨する。 H 伸長位 a 概念 ここに「伸長位」とは、女性が仰向けになってまっすぐ両足を伸ばした状態に なり、男性がその上に跨り勃起したペニスをヴァギナに挿入する性交体位をいう。 b この体位では、女性は両足を伸ばし、股間をぴったりと閉じている。このため ペニスの挿入は深くなりにくい。それにもかかわらず勃起したペニスとヴァギナ との間ではかえって深い摩擦を生じ快感をエンジョイすることができる。 両足を伸ばし仰向けになっている女性にはあまり身体的な負担がかからない。 そこで妊娠時の体位に向いている。とはいえ、男性は女性の腹部を圧迫しない ような配慮が必要となる。 I 交差位 a 概念 ここに「交差位」とは、男女が性交するとき、その男女が足を交差させ、互い の足の間で勃起したペニスとヴァギナとを結合させる性交体位をいう。 b 効用 この体位によると勃起したペニスの方向と潤滑なヴァギナの方向とが、ずれた 体勢になる。このため膣壁への摩擦が強くなる。 c ペニスの損傷の防止 この体位では、勃起したペニスが反り返り無理な負担がかかるので、ペニスを 損傷し「陰茎骨折」になるおそれがあるので、細心の注意が必要となる。 d レズプレイの体位 この「交差位」は、女性同士が「双頭バイブレータ」を用いてレズプレーをす るときの体位ともなる。 e この体位には、俗称として、いわゆる「松葉崩し」とか「つばめ返し」とか 「窓の月」とかいう男女の位置によるバリエーションがある。 J 四十八手性交体位 性交体位には、このほか「四十八手性交体位」と呼ばれる類型がある。 お相撲の決まり手でも「四十八手」と呼ばれながら、実はそれを超える決まり手がある。 これとおなじように、性交体位も、実際には「90手」を超える各種の体位が存在し ていることを指摘しておく。
◇ 男女間の性行為の実例 ◇
司法の世界における「裏情報」によれば、「南画」の達人として識られる実力派の 弁護士がその敏腕を駆使して裸女を描くことで有名であった。 その弁護士夫妻の日常における性生活をありのままに実例として紹介したいところ だが、猥褻な記述として批判されかねないので、本著では省略するしかない。 ただ、そのパターンだけを記述すれば、夫婦揃ってシャワーを浴びるなど「前戯の前 の愛撫」にはじまり、ベッドに入ってからまず髪の毛に触れるなど「前戯行為」を肌理 細かく時間をかけてすすみ、頭から足の指先まで全身の接触行為を経て本番にすすむと いうパターンで、焦らず、時間をかけてセックスアクションの峠を登攀してゆき、やがて クライマックスの山頂に登りつめるという。 さらに「後戯」にも配慮していると聞かされ、筆者は感服した。
〇 花園家の応接室 佐保子がデスクに向かい藤原教授の著書に読み耽っている。 「ああ。この節はながかった。あたし、体位のことはあまり考えたことがなかった。いつも うちの先生に任せっきりで、あたし体位をセガンダことは一度もなかったわ。うちの先生は セックスについては、かなりのテクニシャンだとおもう。いつもあたしをクライマックスの 山頂まで導いてくれたから。うちの場合、正常位と側位が普通なんだわ。今度、他の体位を うちの先生にもセガンデみようかしら」 佐保子は起ち上がり、応接室の奥のドアから消えてゆく。
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