第23回 佐保子の盗読
○ 羽村堰 玉川上水に沿って展開される桜並木の桜は葉桜になっている。 桜の古木の枝が垂れ下がり地面すれすれでそよ風に揺れている。 ○ 花園家の門前 白光がする生地に黒砂を散りばめた花崗岩の門柱に[弁護士 花園]と金文字で 刻まれた表札が浮かびあがる。 門柱の奥には広い芝生の庭が垣間(かいま)見られる。 ○ 花園家の庭 庭の芝生の南側では柘榴(ザクロ)の枝には真紅の花が咲き乱れている。 柘榴の木からかなり離れた庭の片隅にはおおきな蜜柑の木が無数に白い花をつ けている。 ○ 花園家の応接室 かなり広いスペースの応接室の奥は乳白色の絹を張った衝立で仕切られ、書斎 になっている。 応接室の表ドアを開けると豪華な応接セットが配置されている。 ソフアーを背にした壁側にはスタンドピアノがおかれている。 黒いピアノの蓋が開けられ、譜面台にはソナチネの楽譜が開かれている。
奥のドアが開いて、エプロン姿の佐保子が入ってくる。 佐保子は絹張りの衝立の脇を抜け、おおきなデスクに向かった。 デスクのうえには一冊の書籍が開かれたままで胡蝶ランを描いた短冊型の栞が 挟まれている。 「これは、うちの先生が読みかけたままにしておいたものらしい」 佐保子が呟きながら書籍に手をかけると、その表紙には「性行動の科学的研究」 という文字が刻み込まれていた。 「これは藤原先生がお書きになった例の著書なんだ」 佐保子は叫ぶようにいった。 「あたし、いちど藤原先生の著書をこっそりと読んでみたんだが、今日はセックス 本番の節を読んでみよう」 佐保子は栞を抜いて著書のページを捲った。
# 藤原教授の著書 #
第4章「ヒト」の性行為
序 説
本章では、「ヒト」の性行為について考察してゆきたい。 筆者は「従来の性行為の定義」に疑問を抱き、自説として「新たな性行為の定義」 を提唱してみたい。
従来、性行為とは主に男女が性的欲求に従い、お互いの身体、特に生殖器官とし ての性器や性感帯などを刺激する行為をいう、と定義づけられてきた。 この定義のもとでは、性行為には男性器の陰茎を女性器の膣に挿入する行為たる 「性交」を含むが、それ以外にも多様な行為があるとされている。
しかし、この見解には疑問が残る。 この見解によれば「主に男女が」とされている点で当初からアプリオリに「性交 は男女がするものという発想」が前提とされているようにおもわれる。 しかしこの「男女併行型」の基本的発想は問題である。そこでより包括的に性行為 の範疇を画定するためには性交為をする「行為主体が単数の場合」も包摂すべきだか らである。そうだとすれば「主に男女が」とすべきではなく、「男女または男性もし くは女性が」とすべきことになる。実際的な理由としても現実の性生活においては、 「男女が相互関係」に立たなくても性行為は存在し、豊かな行為態様によって現実に 性交がなされているのである。 仮に「主に」としている表現に含みがあるとして一歩譲ってみても「男女併行型」 をアプリオリに重視した発想が垣間みられる。
性行為とは「男女または男性もしくは女性」が人間の本能としての性的欲求を満足 するために「男女相互にまたは男性もしくは女性が単独」で身体とか性器とか性感帯 を刺激する行為をいう。 性行為をこのように定義づければ、パートナーを想定しない男性または女性の単独 行為も独立した性行為の類型として明確に「性行為」の範疇に包摂することができる。 このように性行為を定義づけする見解のもとでは、性行為としては「行為主体が複数 の場合」と「行為主体が単数の場合」とを考えることができる。 前者を「ダブル型性行為」といい、後者を「シングル型性行為」という。
第1節 「ヒト」の性行為に関する基本概念
地球上に生息する「ヒト」の性行為を考察する前提として、まず性行為にかかわる 基本概念を確認しておくことにする。
1 自慰 この自慰はオナニーともいい、性行為の一種であるが「性交」には含まれないと される。しかし「自慰」の概念は性科学の領域から抹消すべきである。 そうだとすれば、この概念にまつわる「一人エッチ」とか「オナニー」という 言葉も用いるべきではない。さらに「マスターベーション」という言葉も棄てるべ きである。 これまで自慰とされてきた態様の性行為は「単独でなされる性行為」ではあるが、 この性行動はパートナーとの間でなされる「性交」と肩を並べて位置づけるべきも ので、「性交」と同位概念として理解したい。 本著では「自慰」という概念を廃棄してゴミ箱に入れてしまい、これを「シング ル型性行為」と呼称して理解したい。 2 性交 (1) 性交とは勃起した男性のペニスを女性の膣に挿入し男女が性的に交わり性器 を結合することをいう。 これが従来の見解による「性交」という概念の理解である。 (2) 狭義の性交 しかし本著においては、この定義に修正を加え新たな定義づけをすることに した。 まず「狭義における性交」とは勃起した男性のペニスを女性の膣に挿入し男 女が性的に交わり性器を結合することをいう。この意味においては、従来の性交 の定義をそのまま維持することができる。 (3) 広義の性交 次に「広義における性交」とは、勃起した男性のペニスを女性の「真正ヴァ ギナ」に挿入するか、 または「疑似ウォーターヴァギナ」もしくは「疑似エアー ヴァギナ」に挿入し性的快感を感受し 本能的な性欲を満足するために、これら のヴァギナとペニスを結合する性行動をいう。このような理解によれば、男性の ペニスと結合される対象は、「真正ヴァギナ(女性の膣)」のほか「疑似ウォーター ヴァギナ」と「疑似エアーヴァギナ」とを含むことになる。 要するにペニスと結合される性的快感が得られるペニス挿入の対象は女性の 膣(真正ヴァギナ)に 限らず「疑似ヴァギナ」を包含することになる。 本著では「性交」の概念をこのように理解することにより赤裸々な人間の性 行動にメスを入れることにより、その性行動の真相を解明することになった。 3 ヴァギナ (1) 概念の変革 本著においては、「ヴァギナ」の概念にも変革をもたらすことになった。 従来の見解によれば、女性の生殖器としての膣をヴァギナと呼んでいた。 しかし「ヴァギナ」は「女性の膣」に留まるものではない。女性の膣である本 来のヴァギナのほかにも、 ヴァギナが存在していることが、性行動の科学的研究 に関するモニターによる実験の過程において明らかになった。 (2) 真正ヴァギナ 女性の「膣である筋肉質のヴァギナ」は女性が生来的に保有するヴァギナであ るからこれを「真正ヴァギナ」と命名することにした。 これに対し、新たに発見されたヴァギナは本来のヴァギナに類するものとして 講学上これをヴァギナと見立てたものであるから、このヴァギナを「疑似的ヴァ ギナ」と銘々することにした。 (3) 疑似的ヴァギナの類型 この「疑似的ヴァギナ」にはふたつの類型がある。 A 疑似的ウォーターヴァギナ そのひとつは「疑似的ウォーターヴァギナ」である。 ペニスを露出して浴槽とかプールのなかで、お湯とか水のなかにペニスを挿入 しピストン運動をすると、ペニスに感じるその性感は、ペニスを「真正ヴァギナ」 に挿入して性行動をするときと同じか、あるいはそれ以上に高度な性感を得られ ることが判明した。 この場合に濃厚な性感を感じるのは、「お湯」とか「水」という媒体が液体で ありながら、ペニスの触感をとおして「筋肉質の膣」と同じ役割を果たしている からだと考えられる。そこでこのシチュエーションを全体として「疑似的ウォー ターヴァギナ」と呼称し、新たな概念を設定した。 この「疑似的ウォーターヴァギナ」は講学上の概念ではあるが、「真正ヴァギ ナ」に次ぐ「第二のヴァギナ」である。 B 疑似的エアーヴァギナ もういとつは「疑似的エアーヴァギナ」である。 まず全裸になって、あるいは下腹部を露出して大気にへばりつき、腰を使って 「大気」のなかにぐいとペニスを挿入する。両手首の柔らかい部位を左右の乳首 にあて擦りあげながら、これに対応してピストン運動をつづけてゆく。 するとペニスはさらに勃起し、その亀頭部には、女性の膣のなかにペニスを挿入 したときのような性感が湧いてくる。 ここで次第にピストン運動のテンポを速めてゆけば、女性の膣にペニスを挿入し たときと同じか、あるいはそれ以上の性感が湧いてくる。 これは気体である「大気」を媒体に触れるペニスの触感をとおして「筋肉質の 膣」と同じ役割を「大気」が果たしているからだと考えられる。 そこで、この性的快感が得られるシチュエーションを全体として「疑似的エアー ヴァギナ」と呼称し、ここに講学上の新しい概念を誕生させたのである。 これがいわば「第三のヴァギナ」である。 このヴァギナの存在は、モニターによる実験例によって実証されている。 4 オーラルセックス (1) 概念 この「オーラルセックス(Oral sex)」とは、舌、唇、歯など口腔を駆使して行う 性行動をいう。 (2) 類型 この性行動には次のような類型が考えられる。 A フェラチオ(Fellatio) この性行動は、男性の性器を口腔などで愛撫することを意味する概念である。 その体位としては、「正常位型」、「立ち位型」、「シックスナイン(69)型」 などがある。 これらについては、すでに前述した。 この愛撫によって刺激を与える部位としては、ペニスの亀頭部、陰茎体部、 陰茎根部などがある。 このフェラチオには、病的危険性のほか愛撫行為にともなう危険性があること を銘記しておかなければならない。とりわけ「イマラチオ」の場合には注意が 必要である(前述参照)。 フェラチオについては、風俗産業におけるフェラチオはじめ「ダブルフェラ」 とか「疑似フェラ」とか「パンフェラ」などのほか、「お掃除フェラ」や「セ ルフフェラチオ」、「相互フェラ」などを理解しておくことを推奨する。 とりわけフェラチオの具体例が重要である(前述参照)。 B クンニリングス(Cunnilingus) この性行動は、女性のクリトリスとか尿道口、ヴァギナ、小陰唇、大陰唇、 肛門などの陰部に口をつけ、舌や唇、歯などにより性感を喚起するため刺激を 与えるアクションである。 これは「前戯的な性行動」としてなされる「前戯」の典型ともいえる。 そのテクニックとしては「標準型」・「顔面騎乗型」・「肩車型」・「空中 ブランコ型」とか「立ち位型」などがある(前述参照)。このクンニリングスに も功罪がある。 そのメリットだけでなく、ディメリットもあることを識っておくべきである。 C アニリングス この性行動は肛門を口腔などで愛撫するセックスアクションである。 もとより愛撫の対象である肛門を清潔にしておかなければならない。 これを怠ると問題を残しかねない。 D シックスナイン(69) 男女また同性同士が、同時に相互の性器や肛門を唇とか舌を用いて刺激を 与えあい、性的興奮快感を求めあう性行為である。 その体位は性行動の当事者の一方が仰向けに寝る。他方のパートナーは頭 と足の位置を逆にして口が他方の性器に触れやすい姿勢でこれに覆いかぶさる。 するとその体位を横から眺めれば69の数字に似ているので、これをシック スナイン(69)と呼ぶわけである。 双方とも横向きになった体位をとることもある。女性が男性の上に覆いか ぶさる体制のほうが男性器を愛撫しやすくなる。 男性同士でこれをすれば、その実質は、「相互フェラチオ」ということに なる。 この性行動は、セックス本番の前における「前戯」としてなされることが 通例だが、そのまま射精してしまうこともある。 (3) オーラルセックスのなされる場面 このセックスアクションのなされる場面をあげておこう。 A セックス前の「前戯」としてなされる。 この段階で射精することはあまり多くはない。ただその進行中に偶然的に 射精してしまうこともある。 B 射精するためになされることもある。 これは風俗産業でなされるのが通常である。 C セックスの代償行動としてなされることもある。 女性が月経中の生理中とか妊娠中の場合になされる。 D オーラルセックスは許すが性交を許さない女性の場合は、このアク ションしかない(吉行淳之介の小説)。 (4) 性病との関係 A オーラルセックスは愛撫行為によりパートナーの体液に直接触れる ので性病に感染する危険性がある。 B 淋菌性咽頭炎は咽頭が淋病に感染して起こる。これは風邪に類似し た症状がみられるケースが多い。 C 淋菌性目炎は感染者の体液が目に入った場合に起こる眼病のひとつ である。 D クラミジアの混合感染も多くみられる。 5 性交能力 (1) 概念 性交能力とは人間として本来の性交をすることができる身体的な条件 をいう。 男性と女性とでは、その身体的条件が異なるから、その「性交能力」は 男性と女性を区別して考察する。 もとより男女を問わず性交をするという精神的なゆとりのある気持ちを 抱くことが大切である。 (2) 男性の性交能力 A 性交能力の取得 この点、性交ができるためには、「性欲」があり、「ペニスが勃起」し 「ペニスを膣に挿入する」ことができた上で「射精」にいたることができ る、という四つの条件が必要となる。したがって男性は、これらの四条件 の備わった時点において「性交能力」を取得することになる。 このように、男性の身体的条件としてペニスの勃起が可能となり射精が できるまでに生育したときに「性交能力」を取得するわけだが、その年齢 は10歳から12歳とみられる。 B 性交能力の喪失 このような「性交能力」に要求される条件が欠如したときに、その人は 「性交能力」を喪失する。 ペニスが勃起不能となる年齢は、通常例では65歳から75歳程度とみ られる。ただ、その時期には個人差が大きく、80歳を過ぎても青年期並み の「性交能力」を保有していることが、この「性行動の科学的研究」の著作 に関するモニターの実験例において実証されている。 ちなみに、「疑似ウォーターヴァギナ」および「疑似エアーヴァギナ」の 発見者は、88歳のモニターであった。 (3) 女性の性交能力 A 性交能力の取得 女性については「性欲」があり、「ペニスの挿入が可能」なまでに膣が 生育されていることが必要である。 その時期は「第二次性徴期」といわれる。女性の場合は9歳から10歳 に「第一次性徴」が終わり、それとともに第二次性徴(思春期)がはじまる。 そうだとすれば11歳程度で「性交能力」を取得することになる。 もっとも個人差があり、早い女児は7歳から第二次性徴がはじまる例も あり、遅い女児は12歳からはじまるとみられる。 B 性交能力の喪失 閉経後でも性交は可能である。そうだとすれば閉経時期は性交能力を 喪失する時期の判断基準とはならない。 膣を使わない女性の場合は、年齢よりも早く「性器硬直」が起こり、性交 能力を喪失することもある。 これとは逆に膣を頻繁に使用したり、適度のケアをつづける工夫をして ゆけば、閉経後でも「性器硬直」は進行せずに、いつまでも膣の柔軟性を 保ちつづけ、ペニスの挿入を受け入れることができる。そうだとすれば女性 の場合はケア次第で死ぬまで性交能力を保有することができる。 そこで女性の老後の性行動の悦楽は、パートナーの責任にかかっていると いえる。 6 勃起 (1) 概念 A ここに「勃起」とは、ペニスが俄かに勢いよく起き上がり、膨らんで硬くな り、性交ができる状態になることをいう。 この状態になった陰茎を英語では「ファルス」といい普段の状態の「ペニス」 と区別する。つまり膨らんだ状態のペニスをファルスと呼ぶわけである。 この状態を俗語では「立つ」とか「ぴんぴんになる」という。 ちなみに「朝立ち」は、朝起きたときにペニスが勃起していることをいう。 B 中枢性勃起 これは視覚、聴覚、触覚、嗅覚、イメージなどから送られてくる性的刺激に よって性的に興奮された状態の情報が神経により脳に伝達され「大脳性刺激」 となり、それが「間脳勃起中枢」を介して「脊髄勃起中枢」に作用してペニス が勃起することをいう。 これが通常の勃起である。 C 反射性勃起 これは「性的興奮」を伴わないで起こる勃起をいい、性的興奮により生起さ れる「中枢性勃起」と区別される。 (2) 勃起のメカニズム A 勃起の必要性 通常の状態ではペニスは柔軟で男性の股間に懸下している。 しかしこの状態ではペニスを膣に挿入することは困難であるから、膣への 挿入を可能にするためにはペニスを勃起させ太く長く硬くしなければならない。 B 勃起のメカニズム a 男性にペニスの勃起はペニス内部の海綿体に血液が流入されてその血液が 溜まり血液を排出する静脈が調節され、内部の圧力が上昇することにより生 起する。 このように男性のペニスの勃起は、ペニス内圧の上昇によって生起される ので伸縮性のあるペニスは内圧の高まりによって、勃起していないときより も太く膨らむのである。 普段の血圧ではペニスの内部構造の関係で鬱血しないような仕組みになっ ているため、ペニス内部に鬱血させるためには血圧を上昇しなけばならない のである。 b 人間は視覚、聴覚、触覚、嗅覚のほか「イメージ」によっても性的刺激を 受ける。 この刺激は神経により脳に伝達される。こうして生起した「大脳性刺激」 は、「間脳勃起中枢」を介して「脊髄勃起中枢」に作用し、血液がペニス内 部の海綿体に流入され、ペニス内部の血液量は増加しペニスは太く膨らみ 勃起してくるというメカニズムになっている。 c このように「脊髄勃起中枢」の作用によりペニスは勃起してくる。 勃起時には「動脈・静脈の吻合」は閉塞され「動脈血」の血流はペニス内 部の海綿体に流入する。 するとペニスは鬱血により膨らんでくる。そして陰茎海綿体からの流出静 脈もその内腔を閉塞して海綿体からの血液の流出を阻止する。このような メカニズムによってペニスの勃起状態は保たれ、性交が可能となる。 C 勃起の条件 ペニスを勃起するためには、ペニスに充分に血液が送り込まれること、送り 込まれた血液を海綿体に留めおくための静脈の調整が正常に機能することが 必要である。 これらの条件が欠如すると「勃起機能障害」が起こる。 D 要約 勃起はペニスが膨らんで太く硬くなり性交が可能になる状態をいう。 これは血管、ホルモン、心理状態などの要因が複雑に絡み合いながら生起 する身体的変化である。 性的刺激を受けた脳が脊髄を通してこの刺激をペニスに伝達する。これに 反応して陰茎海綿体、尿道海綿体に血液を送る動脈が拡張し増量した血液が 海綿体に流入し「海綿体洞」が膨らむ。 それと同時にペニス内静脈の筋肉が縮まり、血流速度を落しペニス内部の 血圧を上昇させ勃起を継続する。 (3) 勃起時のペニスの形状 A 形状の比較 勃起前における通常時のペニスは柔軟で男性の股間に睾丸と共に垂れ下が り懸下している。 これに対し勃起状態のペニスは、膨張して太くなり、硬くなって小動物が 首を擡げたように起ちあがり、その包皮は「カリ部」まで剥け、亀頭部は 露出し、きょとんきょとんと蠕動をはじめる。 ただ「仮性包茎」の場合は、勃起すると亀頭部を覆う包皮は反転し亀頭部 が露出してくる。亀頭部が露出したペニスは起ちあがり蠕動してくる。 B ペニスの勃起角度 勃起したときのペニスの起ちあがる「勃起角度」は年齢により異なり、 個人差もある。 おおむね20歳からの性活動が活発な段階では急角度で、直立したときに 下腹部に接するほどの急角度で起ちあがる例もある。 ペニスが起ちあがる角度は加齢とともにその「勃起角度」は緩やかになって ゆくのが通例である。 この勃起角度はペニスの硬さに比例し、硬く勃起するほどその角度も急角度 になり亀頭部が上を向いてくる。 C 勃起時のペニスの大きさ 勃起していない通常時のペニスの大きさには個人差があるように、勃起した ときのペニスの大きさにも個人差がある。 ある研究によれば平均で13.6cmといわれる。仮に勃起したときのペニスの 長さがこれよりも小さくても性行為に支障はみられない。女性の膣の長さは 7cmから10cm程度だからである。 ペニスが勃起したときの太さと膨張率には個人差があり、たとえば勃起して いないときの大きさが同じ人でも、勃起したときの大きさが同一とは限らない。 D 陰茎骨折 男性のペニスは、勃起しているときに強い衝撃を受けるとペニスの内部の圧 力を支える白膜が裂けることがある。 この状態を「陰茎骨折」という。たとえば「朝立ち」している父親のペニス を幼児が踏みつけたために、この状態になった例がある。ただ骨折とはいえ、 骨が損傷しているわけではない。 白膜が裂ける瞬間には、なにかが折れるような音がすることもあるといわれ る。これは外科的な手術により矯正しておかないと、勃起障害などの原因とな る。ちなみに「シングル型性行動」をする場合とか、「ダブル型性行動」のと きにおいてもペニスに無理な負担がかからないように愛撫行為にも手加減をす ることが大切となる。 (4) 女性における勃起 A 陰核の勃起 これまでの「勃起に関する考察」は男性のペニスについてであった。男性 のようなペニスを有しない女性についても勃起が考えられるだろうか。 この点、女性の「陰核」にも男性と同じような「勃起」が起こる。発生学 的見地からすれば女性の「陰核」は男性のペニスに相当するものといわれる から、ペニスが勃起する以上、陰核にも勃起が起こっても不思議ではない。 女性を取り巻く情勢から性的に興奮してくると、「陰核亀頭」が膨張して きて「陰核包皮」からわずかに露出する。 ただこの点については個人差があり、陰核が勃起しても陰核包皮に覆われ たままの状態の女性もある。さらには陰核が勃起しない女性も存在している。 B 乳首の勃起 女性が性的に興奮してくると「乳首」にも勃起が起こる。この点は男性も 性的に興奮してくると乳首がかなり膨らみ勃起してくる。 男性も女性も乳首が勃起してくると、勃起していないときよりも性的快感 が鋭くなってくる。もっとも個人差があり、人によっては「こそばゆい」と 感じるだけだともいう。 男性のモニターによる実験例によれば、乳首の勃起と性感のアップは訓練 により大幅に向上することが実証されている。 この「乳首の性感アップ」は「疑似ウォーターヴァギナ」とか、「疑似エ アーヴァギナ」をパートナーとして性行動をすることと深くかかわってくる。 この「乳首の性感度」が高いほど、これらの性行動の実質は、よりいっそ う潤いのある豊かなものになることがモニターによる実験で実証されている。 (5) 性的要因以外の勃起 性的興奮とか性的刺激とは異なる他の刺激が要因となって勃起することもあ る。たとえば乗り物による振動、摩擦などによっても勃起する。 ペニスの「朝立ち」は朝になって睡眠から覚めたときにペニスが勃起してい る状態をいうが、なぜ朝立ちするかについては学説がわかれ、真の正確な理由 は明らかではない。 ペニスだけではなく、女性のクリトリスも「朝立ち」する。 (6) 勃起機能障害 A 概念 ここに勃起機能障害とは、ペニスが勃起しないか、または勃起してもそれ を維持することができない状態をいう。 この概念は正式には「勃起機能不全(Erectile Dysfunction:ED)」という。 疲労とか疾病による勃起不能は、このEDには含まれない。 この概念は、「性機能障害」とは異なる。 およそ性行為が完遂するためには「性欲」の昂進により性器が「勃起」し、 「性交」による「射精」がなされ、「オーガズム」に達するというプロセ スをとる。これらのいずれかに障害がもたらされると性交は困難となる。 これが「性機能障害」の問題である。 これに対し、ここにおける「E D」はそのプロセスのなかの「勃起」に ついての問題である。 B 勃起の条件 ペニスが勃起するためには、なによりもペニスに充分な血液が流入しなけ ればならない。 こうしてペニス内部の「海綿体洞」に送り込まれた血液をその「海綿体洞」 に留めおくための静脈の調整が不可欠である。 そこでこれらの条件が欠如すると「E D」が生起することになる。 C 勃起障害の類型 a 機能的勃起障害 これには「心因性勃起障害」とか「精神病性勃起障害」などがある。 b 器質的勃起障害 これには「陰茎性勃起障害」とか中枢神経・精髄神経・末梢神経などの 「神経性勃起障害」のほか「血管性勃起障害」や「内分泌性勃起障害」など がある。 c 混合型勃起障害 これには糖尿病、腎不全、泌尿器科的疾患、外傷・手術、加齢などによる ものがある。 d その他の勃起障害 これは薬物とか脳幹機能障害などによるものがある。 D 治療方法 このような勃起不全を治療するためには以下のような方法がある。 a 薬物療法 バイアグラなどの内服治療薬を投与するほか直接に薬剤を注入することも ある。 b 勃起補助具使用法 これは以下のような勃起を補助する器具を用いる方法である。 ◇ コックリング これはペニスの根元を締め付け、ペニスを常時勃起させたままの状態に する器具である。これは柔軟性のあるエラストマーで造られ、ペニスを軽 く締め付けることによって勃起した状態を維持する。簡単な構造のものは 「コンドーム脱落防止リング」として市販されている。 これによると装着感は多少きつい感じだが、装着したままで射精する ことができる。 ◇ 勃起補助ポンプ これはガラスやプラスチック製の「円筒」にペニスを挿入し、ポンプで 円筒内の空気を抜いてペニスに負担をかけて血流の流入を増加させ、ペニス を勃起させる方法である。こうして勃起したペニスにコックバンドを装着し て勃起状態を維持させる。 7 射精 (1) 概念 A 生物学的意味における射精 この意味における「射精」とは、牡の性器から精子を含む精液を放出すること をいう。 この点、魚類や両棲類などの水棲動物の射精は「放精」という。 B 人間の射精 人間としての男性の場合、一定時間の性的刺激が継続されるとペニスの亀頭部 はカウバー腺で潤い性感が増大し、ペニスの勃起状態が維持され、その性感が 高度に達すると継続されてきた性的刺激に対する反応として男性器から精液が 放出される。 これを射精という。 C 夢精 睡眠中に無意識のうちに男性の性器から精液が放出されることがある。 これを夢精という。 これは自然に起こる射精で、男性が性的に成熟し性交能力を取得したことの 証しとなる。 D 前立腺マッサージ 射精は「前立腺マッサージ」によっても起こる。これは意図的になされる特殊 な性行動であるが、稀には前立腺疾患が原因となって射精することもある。 E 精通 その男性にとって初めて生起した射精を「精通」という。 これは明らかに「性交能力」が備わったことを意味する。 F 早漏 性行為の際に射精が異常に速やかに起こることを「早漏」という。 G 遅漏 性行為の際に射精が異常に遅延することを「遅漏」という。 (2) 射精のメカニズム 男性における射精のプロセスは、「エミッション:emission」と「イジュキュ レーション:ejaculation」の2段階に分かれる。 前者は「精液が尿道前立腺部に集められる過程」をいい、後者は「集められた 精液が尿道を経由して外尿道口から放出される過程」をいう。ただ通常は後者の プロセスを射精と呼ぶ。 A ワンステップ(前段階) 人間の性的な興奮がアップすると、精巣(睾丸)がしだいにペニスの根元のほう に競りあがってくる。つれて陰嚢は小さく引き締まり、精巣は外見ではわからない ほどに収縮してしまう。 このレベルで性的刺激を中断したり、硬く収縮した陰嚢を手で引き戻したりすれ ば射精しない。 もう少しの刺激で射精しそうになると、自分の性感でこれを感知することができる。 B ツーステップ(精液移動の段階) 性的な興奮がさらにアップされてくると、精巣上体(副睾丸)尾部に蓄えられてい た精子は、少量ずつ分泌液とともに精管の蠕動運動により性感末端部にある「精管 膨大部」まで運ばれ、精子はこのホールで射精の瞬間まで待機する。 性的興奮がさらにアップされると、膀胱括約筋が硬く収縮するとともに前立腺液 が「尿道前立腺部」に排出され、「精管膨大部」に蓄えられていた精液も「射精管」 を通って「尿道前立腺部」に押し出される。これがエミッションのプロセスである。 この場合、膀胱の出口は硬く閉じられているので精液が膀胱に逆流することは 阻止される。そして尿道括約筋も硬く収縮しているため閉じ込められた精液は行き 場を失い、前立腺内でその内圧が極度に昂進してくる。この内圧の高まりを感知す るのがむずむずした「射精直前の感覚」である。 ここまで登りつめてもなお射精を我慢するテクニックを俗に「寸止め」という。 この状態で性的刺激を停止すれば、「射精の快感」とは一味ちがって独特の 性感をエンジョイすることができる。この性感は、射精直前のむずむずむした 感覚で独特の味わいがするけれども、このレベルまで性感が昂進してくると射 精を我慢することはかなり難しい。しかしトレーニングしだいでこの技術を活 用することが可能であることがモニターによる実験例で実証されている。 C スリーステップ(精液放出の段階) やがて性的興奮がクライマックスに達するオーガズムに登攀する。この性感 は脊髄のなかにある「射精中枢」が反応し、射精反応を生起するものである。 このレベルに至ると脳でコントロールすることができない反射であるため自 分の意思で射精を抑制することはできない。 精液を尿道口から放出する射精に至る「イジュキュレーション」は、尿道括 約筋が弛緩することからはじまり、前立腺内に充満した精液の内圧により一気 に押し出され、尿道の「球海綿体筋」などの働きにより、ペニスの先端の外尿 道口から勢いよく放出される。 これと同時「精嚢」の平滑筋も収縮を繰り返し、少し遅れて「精嚢液」が律 動的に放出される。ちなみにこの「精嚢液」は精液のおよそ7割を占めている。 射精すると肛門の括約筋も収縮を繰り返すのである。 ペニスからの射精による律動は1秒内外の間隔で数回にわたり連続して生起 する。律動の回数がすすむにつれて、しだいにその間隔も開いてゆき、射精の 勢いも減少してゆく。それとともにペニスの勃起も急速に解けてゆく。 はじめに一度、射精した場合には、その次の勃起・射精までには一定の時間 的間隔を経なければならないのが通例である。 その場合、どの程度の時間的間隔を要するかについては個人差だある。 (3) 勃起しないで射精するテクニック そもそもペニスが勃起していなければ射精もできないのが通例である。勃起 していたペニスの勃起が緩みかけてくると焦るばかりで容易には射精できない。 そのときは焦ることなく、ペニスを勃起状態に起ちなおせばよい。 しかしペニスが勃起していないシチュエーションでも射精させるテクニックも ないわけではない。それは床の上に寝そべり、脇腹や左右の乳首をを擦りあげる ことにより性感がアップされ、性的に興奮してくるとペニスの亀頭部に快感を感 じてきて射精することもできる。 (4) 射精される精液の量 一回の射精により放出される精液の「液量」については個人差だある。 通常の射精では、およそ2〜6ミリリットルの精液が放出される。射精したと きのシチュエーションにより射精量にも差異があり、わずか数滴しか放出され ないときもあるし、普段よりもその量が多いこともある。射精の間隔が少ない ほど射精される液量も減少する。それというのも射精した後で精巣に精液が満 たされるのに2〜3日はかかるからである。具体例をあげると、毎日1度は 射精していた人が3日目に射精した場合、射精量が普段の2倍以上になること がモニターの実験例により実証されている。 製造された精液は、射精されないときには4日以上経過すると蛋白質として 体内に吸収されてしまう。 一回の射精により放出された精液に含まれる「精子数」には個人差がある。 その数は、射精間隔とか睾丸を取り巻く温度環境、射精に至るまでの性的興 奮の時間、年齢などの諸要因により左右される。 このほか「無精子症」とか「欠精子症」などの疾患で精液のなかに精液が発見 されない場合もある。 一度の「性交」において何度も射精したいときは、亜鉛を毎日摂取する方法が ある。 (5) 射精障害 A 射精障害の概念 射精障害とは、ペニスからの射精にかかわる「性機能障害」をいう。 ここに「性機能障害」とは、射精のほか性欲、勃起、性交、オーガズムのいず れかが欠けるか、もしくは不十分な場合にも問題となる。 B 射精障害の類型 この射精障害には、ア 射精もオーガズムもないもの、 イ 射精はないけれ どもオーガズムはあるもの ウ 射精はあるけれどもオーガズムはないもの エ 射精もオーガズムもあるけれども異常に時間がかかるものなどがみられる。 C 射精障害の要因 この射精障害には、ア メンタルな心因性のもの イ 脳の器質的な障害から くるもの ウ 射精を抑制するような薬物の使用に起因するもの エ 誤った自慰 行為からくるもの などが要因となって生起する性機能障害である。 D 治療法 専門医に相談するのが先決である。 とはいえ専門医を発見しにくいので、とりあえず顔見知りの医師に相談し、 産婦人科、泌尿器科、精神科などの選択肢を決めてゆけばよい。 ○ 羽村堰 玉川上水に沿って展開される桜並木の桜は葉桜になっている。 桜の古木の枝が垂れ下がり地面すれすれでそよ風に揺れている。 ○ 花園家の門前 白光がする生地に黒砂を散りばめた花崗岩の門柱に[弁護士 花園]と金文字で 刻まれた表札が浮かびあがる。 門柱の奥には広い芝生の庭が垣間(かいま)見られる。 ○ 花園家の庭 庭の芝生の南側では柘榴(ザクロ)の枝には真紅の花が咲き乱れている。 柘榴の木からかなり離れた庭の片隅にはおおきな蜜柑の木が無数に白い花をつ けている。 ○ 花園家の応接室 かなり広いスペースの応接室の奥は乳白色の絹を張った衝立で仕切られ、書斎 になっている。 応接室の表ドアを開けると豪華な応接セットが配置されている。 ソフアーを背にした壁側にはスタンドピアノがおかれている。 黒いピアノの蓋が開けられ、譜面台にはソナチネの楽譜が開かれている。 窓側におかれた花園弁護士のデスクに向かって佐保子が藤原教授のの著書に読み 耽っている。 佐保子は著書に栞を挟みこれを閉じる。 「ああ。このチャプターは長かったわ」 佐保子は天井に両腕を突き上げ、ううっと背伸びをする。 デスクの脇に起ちあがった佐保子はソファーに横たわり天井を見あげる。
◇ 佐保子の独白 ◇
あたし、藤原先生の著書にでてくる性用語のほとんどを知識としては識っていた。 けど、はじめて聞く言葉もあった。たとえばオーラルセックスなんて識らなかったわ。 うちの先生、ベッドのなかのアクションはかなりのテクニシャンだとおもうわ。 だって週に1〜2度のセックス登山では、いつもあたしをクライマックスの山頂に 登攀させてくれるから。でも藤原先生の著書には、うちの先生がやってない特殊な セックスアクションもあった。セックスエリアも奥が深いんだと思いしらされたわ。 人によってはクンニリングスとかアニリングスとか、それにシックスナインなんて、 そんな性技術をエンジョイしてるんだわ。 フェラチオのことは識ってはいたが、うちの先生にやってあげたことはないの。 「フェラやってあげましょうか」と云ったらうちの先生、どんな顔するかしら。 あたしも、「あれやってちょうだい」なあんて、うちの先生にセガンデみう かしら。 ああ、なんだか、あそこが濡れてきたみたい。トイレにゆきましょう。
ソファーから起ちあがり、佐保子は応接室の奥のドアから消えてゆく。
〇 羽村堰 玉川上水に沿って展開される桜並木の桜は葉桜になっている。 桜の古木の枝が垂れ下がり地面すれすれでそよ風に揺れている。
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