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作品名:自分が男でなくなる瞬間 作者:藤田

第21回   第21回  ピンク彩りの接吻
第21回 ピンク彩りの接吻


〇 花園家の応接室
  ソファーに藤原教授と花園弁護士が対座している。
  藤原はライターでタバコをつけ、天井に向けて紫煙を噴きあげる。
  奥のドアが開いて佐保子がお盆を手にしてはいってくる。
「コーヒーのおかわりが煎いりました。熱いうちに、どうぞ」
 佐保子はにこりとしてコーヒーのひとつを藤原のまえにさしだし、もうひとつを
花園のまえにさしだした。
「どうぞ、ごゆっくりなさいませ」
 佐保子は軽く会釈して奥のドアに向かい立ち去る。
「おかわりを熱いうちにどうぞ」
 花園弁護士はコーヒーカップを引き寄せる。
「それではいただくとするか」
 藤原はコーヒーカップに手をかけ、ひとくち啜(すす)りあげる。
「さきほどのMammary intercoursとは、女性の乳房をもちいて男性のペニスを刺激す
る性行動だそうですが。そうだとすればそのセックスアクションにもテクニックとい
うもんがありますか」
 花園弁護士は藤原教授の顔を凝視する。
「ええ。基本的なテクニックとしては、女性の両方の乳房の間にペニスを挟み、乳房
を上下に動かして刺激を与える手法ですな」
「なるほど」
「性器とは異なり乳首は愛液を分泌しませんから潤滑用のローションをペニスに塗さ
なければなりません。この乳首だけで刺激するケースを[乳首ズリ]といい、乳首の間
にペニスを挟んで刺激するケースを[乳頭ズリ]といいます」
「ほう。ふたつの類型があると」
「このような手法によって射精させることもできるんですか」
「ええ、まあ。ペニスをパートナーとしての女性の胸の谷間に挟んだまま射精させるこ
ともできます」
「ほう。なにかこうムカムカしてきたな」
「これを[狭射]といいます」
「なるほど。ペニスを乳房の谷間に挟んだ手法だからか」
「まあね。尤(もっと)も巨乳など豊かな乳房の持ち主でなければパイズリすることは
困難ですが」
「そりゃ、そうでしょうな。フェラにはまだ別の手法もありますか」
「ちょっと異常な[異物挿入]というセックスアクションもあります」
「ほう。その概念は耳にしたことがあります」
「まあね。これは膣とか肛門とか尿道などに物を入れるセックスアクションなんです」
「挿入する異物にはどんなものがありますか」
「一口にいえば、男性のペニス以外のすべてのものといえます」
「ほう。たとえば・・・」
「たとえば指が一般的な異物といえます。膣に指が何本入るかをテストしてみて、女性の
性経験とか好色度をあらわす尺度とされることがあります」
「なるほど。わかります。指のほかには」
「たとえば性具があります」
「セックスアクションに用いるグッツですか」
「ええ。性具の代表はバイブレーターですが。ディルドーなども利用されます。それも
肛門用として細い形状のものや球状のものまで開発されています。このほか尿道用として
医療用の器具が代用されています」
「性グッツも華やかですな」
「まあね。食品類も活用されます。ペニスの代用としてキュウリやナスなど細長い野菜が
用いられます。このほかソーセージ、フランクフルト、卵なども。ちょっと異常な例とし
ては膣内に食品を入れ、独特の味付けをして食べることもあります」
「そこまでくるとたしかに異常というしかないあな」
「さらに変わったものとしてはピンポン玉、ゴルフボール、お札やコインなどを挿入する
例もあります」
「ますます異常ですな」
「しかも[人間花器]という手法まであります」
「生け花のはなしじゃあるまいし」
「これは、まんぐり返しした膣や肛門に花を挿す好みなんです」
「ますます異常になってきた」
「アダルトの世界ではドジョウや蛙などをいれます」
「ほう。なんだか薄気味わるくなってきた」
「膣圧計を膣に挿入して[膣の締め付け具合]をはかることもあります」
「きつく締め付ければ、それだけパートナーの性感度が昂揚されるかも」
「まあね。ただ異物の挿入には弊害があることを識っておかねばなりません」
「どんな弊害ですか」
「異物の挿入は、細菌による感染、性器粘膜の損傷などの危険性がまつわる
ことを忘れてはなりません」
「ああ。寒気がしてきた。炬燵のある部屋に移動しましょう」
 花園は起ちあがり応接間のドアを押した。
 藤原もそのあとにつづいてドアの向こうに消えてゆく。

〇 花園家の日本間
  20畳ほどの部屋に青畳が敷かれ、床の間の近くに炬燵がおかれている。
  部屋の中央には牡丹の花模様をあしらった来客用の布団が敷かれている。
  襖を開けて花園が入ってくる。そのあとから藤原があらわれる。
「さあ。お炬(こた)にどうぞ」
  花園は座布団に腰をおろし炬燵にはいる。
「わしが上座でよいのか」
  藤原は苦笑いをする。
「教授はお客さんだからな」
  花園はせせら笑いをする。
「フェラはもうおしまいですか」
「いや。[素股]の問題が残っていますが」
「スマタってなんですか」
「素股という漢字はスマタと読むんだが、[素]は[素質の素]です。これは男性の性器
たるペニスを股に挟んで圧迫したり、摩擦したりする性行為なんです。これはセックス
本番に近いアクションだから後回しにしておきましょう。フェラはこれくらいにして、
[前戯(ぜんぎ)の前の愛撫]のはなしにすすみましょう」
「前戯の前にも愛撫はあるんですか」
「ええ。あります。この[前戯の前の愛撫]は互いに愛(め)であいないながら撫でる愛情
の表現で接触することにより性行動の相手方にその愛情を示す原初的な性的アクション
なんです」
「具体的にはどんなアクションですか」
「たとえば相手方を抱き締める[抱擁]とか、唇や舌をあてる[接吻]とか[擽(くすぐ)り]
や[手を握る]などのスキンシップなどがあります」
「なるほど。わかります」
「これらのアクションのうちで最も性的な愛撫を[ペッティング(Petting)といいます」
「ああ、ペッティングね」
「このペッティングの概念は、男性の性器たるペニスを女性の性器たる膣への挿入を
しないレベルの性行為を意味します。このペッティングを[狭義の愛撫]といいます」
「ほう。愛撫の概念も広義と狭義がるんだ」
「まあね。これには、舌や唇でする[接吻:キス]をはじめ、舌や手でする[乳房の愛撫]とか
腿とかペニスや膣といった外性器などを舌や唇、指などで愛撫する行為、さらには[フェラ
チオ]とか[クンニリングス]にいたるまで各種の行為態様があります」
「なるほど。ところで、これには気をつけなければならないことがありますか」
「ええ。そもそも下半身は着衣のままでも射精すれば、着衣の繊維を精子が潜り抜けること
があります。しかも[オーラルセックス]などではパートナーの体液が自分のからだに接触す
れば性感染することもあるので警告しておきましょう」
「おお怖い!」
「つぎに接吻のはなしに移りましょう」
「接吻の概念ですか」
「ええ。このキスには[社交的なキス]と[性行動としてのキス]があります」
「たしかにそうですな」
「接吻とは、人が自分の親愛の情その他の感情を示すために、自分の唇を相手の額とか頬や
唇などに接触させる社交的なマナーをいいます」
「それがいわばクラシックな接吻の概念ですか」
「まあね。これを性行動のシチュエーションに置き換えれば、性行為者が互いに唇や舌を用い
て相手方を愛撫する性行動ということになります。この接吻はキスと呼ばれますが、これを
俗に[口づけ]とか[チュウ]ともいいます」
「いわゆるディープキスとはなんですか」
 花園は藤原と視線をあわせる。
「ええ。この[ディープキス]は、単に唇を触れ合うだけでなく、相互に舌をパートナーの口腔内
に挿入し、その舌を絡(から)めあう濃厚な味わいのするキスをいいます」
「なるほど。そうなんだ」
 花園は頷(うなず)く。
「これは[フレンチ・キス]ともいわれます。これをイギリス側からみれば、フランスのキスは
[フランス式のオープンなキス]だからだという」
「ほう。そうなんですか」
「このようなディープキスに対し、単に唇だけのキスを[ソフトキス]といいます」
「よくわかりました。いわゆるファーストキスとはなんですか」
「ああ。それは相思相愛者が初めて唇を触れ合うときのキスを[ファーストキス]と呼びます」
「ヒトは何歳ころからキスを覚えるんですか」
「ええ。最初のディープキスの年齢は10歳以下が1.3%、11歳〜14歳が7.7%、
14歳〜16歳が23.3%、17歳〜19歳が41,7%、20歳以上が26%という調査
結果があります」
「そうなんだ」
「キスにに対する価値観にも変化がみられると指摘されていますが」
「ええ。その価値観は男性と女性とで異なるというんですが、フリーセックスの時代的風潮も
あり、その価値観にも変化がみられます」
「どのような変化ですか」
 花園あ興味深そうに藤原と視線をあわせる。
「たとえば中学・高校生の間でも恋人同士でのキスに対する容認意識が昂揚しています。キスは
日常的に当たり前のものという価値観が普及しているようです。とりわけ女性中学生の間では
キス経験者が急増傾向にあることが指摘されています」
「なるほど。キスに対する価値観も、かなりの変化ですな」
「このキスと五感とのかかわりですが、接吻はまず唇を触れ合うものですから、人の五感のうち
でも皮膚感覚に属する[触覚]と深いかかわりがあるはずです。ですからキスとのかかわりの度合は、
嗅覚、味覚、視覚に比べてこの触覚が最高位ということになります」
「論理的なはなしだとそうなりますな」
「尤も嗅覚としては、キスにより」パートナーの臭いを感知するのだから、キスは嗅ぐものという
ことになりましょう。これに対し味覚としてはキスは相手方の舌を通じて自分の舌で相手方のなに
かを味わうものといえましょう。だからキスは味わうものということになります。さらに視覚とし
ては、キスは見るものといえるか疑問となります。口づけをすれば目に見えるものはパートナーの
頬や額、髪の毛などでキスそのもではありません。ですからキスと視覚とのかかわりは[キス以前]
と[キス以後]ということになります」
「たしかに論理的にはそうなりますな」
「けどパートナーの唇の渇き具合とか唇の色とか頬や顔の幸せな表情や満足感などは、視覚で認知
することができるでしょう」
「それらの感じ方は男女共通ですか」
「いえ。女性は性的関係において触覚に敏感であるといわれるのに対し、男性は視覚に敏感であると
いわれます。たとえば女性は男性の手や指で髪の毛に触られるだけでソフトに性的快感を感じるよう
になります。これに対し男性は美人に遭遇しただけでペニスが勃起してきたり、アイドルの裸体映像
を見るだけでペニスの亀頭部に[カウバー腺」が滲みでたりすることが実証されています。これら五感
によって感知することができる相手方の情報はキスに繋がる[前戯的性行為]や[本番のセックス]と
深くかかわってきます。ですからこれらの五感による情報を性行動のプロセスにおいて巧みに活用する
ことも性技術として重要になってきます」
「なるほど。奥が深いはなしになってきましたな」
「まあね」
「このディープキスにも、なにかこうテクニックはありますか」
「ええ。そもそもこのディープキスはパートナーとの愛情の深さを確かめ合う濃厚で激しい性愛行為で
すからそれにふさわしいテクニックを工夫しなければなりません」
「おっしゃるとおりでしょうな」
「まず日常から歯磨きなどをきちんと実行し、いつどこでキスされてもよいように口腔を清潔にして
おくべきです。唇をかさかさにしないでキス直前には潤滑にしておかなければなりません。唇を潤滑に
するためには唾液を塗した舌で唇をよく舐めるとよいでしょう」
「なるほど。そうなんだ」
「口づけをするときは、緊張して堅くならないで、唇の付近の力を抜き、強張らせずに、ふわっとさせて
おきたいものです」
「緊張のし過ぎはよくないですな」
「まずはじめに唇をソフトにあわせます。いきなり舌をぺろりと口腔に突っ込むのはよくない。はじめは
優しく唇を合わせて、そっとパートナーの気持ちを確かめます。相手方の受け入れ許諾を確認したらソフ
トに舌を絡み合わせてゆきます。自分だけ一方的に味わいを持続するのではなく、ソフトな舌の愛撫を
一段落して相手方に愛撫の時間を持たせのもマナーのひとつです」
「そりゃ、おっしゃるとりです」
「こうしてパートナーと交互に、舌による愛撫をを交換しあう形ですすめ、単に舌を絡み合わせるだけで
なく、予め相手方の性感を感知しておき、そのポイントの部位を集中的に舌で舐めてゆくのがコツですな」
「そのポイントには個人差があるとみられますが。一般的なポイントはどこの部位でしょうか」
 花園弁護士は身を乗り出した。
「攻めてゆく一般的なポイントとされる部位は、上顎、歯茎、舌の裏側、唇の両端などです」
「なるほど。これらの部位を舌で舐めながら愛撫してゆくわけか」
「しかも、ただ単調に舌を絡み合わせるだけでなく、舌の付け根までの全体を絡ませたり、舌を尖らせて
小刻みに動かすなど愛撫に変化をもたらせる工夫をしましょう」
「マンネリにならないようにな。わかります」
「さらに舌で愛撫するほか、吸い取ることもパートナーにとって感じやすい。吸う部位は上唇、下唇、舌
そのものなどです。吸ったのちに[甘噛]してやるのもよい」
「わしも佐保子に吸わせてみるか」
 花園は苦笑いをする。
 うすら笑いをしながら藤原教授は語りだした。
「相互に感じやすいキスのポイントは、照明の仕方などムードを作出するデリケートな配慮、洗練された
テクニックのほか心底からの愛情でしょう。キスは愛情の表現を本質としていることを忘れてはなりません」
「いわれてみれば、たしかにそうですな。ところで口紅をつけることはどうですかな」
「ええ。ルージュ(口紅)をつけたほうがよいかどうかについては、個人差がありますから、パートナーの好み
を熟知してその可否を選択すればよいでしょう」
「なるほど。そうすとキスについてもなにかこう功罪が考えられますか」
 花園は藤原と視線をあわせる。
「ええ。確かにキスは社交の分野で洗練されたマナーとして重要な役割を担っているし、性愛者間における
愛情の表現としても欠かせない性行動のひとつです。しかしこのような接吻にも警戒すべきマイナス要因もあり
ます。これを識っておくことも大切です」
「そのマイナス要因にはなにがありますか」
「まずキス病ですな。これは唾液のなかに」含まれるウィルスによる感染症です。正式には[伝染性単核球症]と
いいます。もしキスの相手がこのウィルスを保有している場合、キスによる感染の危険があります。もし感染す
るとリンパ節が腫れ、発熱とか、肝炎に類似した症状になります。ただあまり重症になることはなく、通常は
自然に治癒しますけれども、ウィルスは潜伏し、再発することがあります」
「おお、怖い!」
「もうひとつ歯周病があります。キスをすると虫歯や歯周病の菌が相手に感染するという学説もありますが、
疑問という見解もあります」
 藤原教授はそういいながらライターでタバコをつけ、天井に向け紫の煙を噴き上げた。


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