第15回 白菊の花薫る
○ 羽村堰 玉川上水に沿って展開される桜並木の桜の葉がそよ風でちらちら舞い落ちる。 桜の古木の枝も葉が散って肌を剥き出している。 ○ 花園家の門前 白光がする生地に黒砂を散りばめた花崗岩の門柱に[弁護士 花園]と金文字で 刻まれた表札が浮かびあがる。 ○ 花園家の中庭 応接室の窓下には紫、ピンク、黄色など色とリどりの菊の花が咲き誇っている。 とりわけ白菊の花が目をひき、周辺には菊の薫りが漂(ただよ)っている。 ○ 花園家の日本間 20畳敷きの日本間では青畳が敷き詰められ藺草(いぐさ)の薫りが漂っている。 和服姿の花園佐保子が襖を開けて入ってくる。 佐保子は床の間を背にして紫檀(したん)のテーブルに向かって牡丹の花模様の 座布団に座る。 「さて、きょうはどこからかな」 呟きながら佐保子はテーブルのうえにおかれていた藤原教授の著書に手をかける。 「先日は第4節まで読んだのだから、今日は、第5節 女性の内性器からだ」 佐保子はそのページを開き、読み始める。
◆ 藤原教授の著書 ◆
第5節 女性の内性器
1 内性器の概念 ここに内性器とは、女性の性器のうち、器具などを用いなければ目には見えない 部分をいう。 2 内性器の類型 女性の内性器にはどんな類型があるか。 この内性器としては、「膣」・「子宮」・「卵管」・「卵巣」などがあげられる。 これらについて順次、考察してゆきたい。 3 膣 A 概念 ここに膣とはなにか。 生物学的意味における「膣(ちつ:vagina)」とは、哺乳類の雌に備わっている、 子宮から体外に通じる、「交接器」と「産道」を兼ねる管状の器官で、多くの機能 を有する性的臓器をいう。 生物のひとつである「ヒト(地球人)」においては膣は女性の内性器の一部である。 B 形状 この膣の形状はどうなっているか。 この膣は、その入り口から身体の内部に筒状に伸び、おなじく内性器としての「子宮」の入り口(子宮口)に繋がる。 膣の入り口は、外性器としての「膣前庭」に開口している。 この膣のある位置は、クリトリスおよび尿道口と肛門の間になっている。 通常の状態では、「大陰唇」と「小陰唇」に覆われているので、そのままでは目には見えない。 かといって指で「小陰唇」を広 げてみても単純にその入り口が見えるものではなく、粘膜で被われ閉じられている。 膣壁も閉じられていて「子宮」に繋がる。 C 機能 このような特質を有する膣はどのような機能を果たしているか。 a 膣は、パートナーとのセックスのときには男性のペニスの挿入口となる。 b 膣は、セックス時にはペニスを受け入れ、パートナーに性的快感を与え、射精を促進し、生殖細胞としての精子を 卵細胞としての卵子へと導き受精を実現させる。 このように膣は、ペニスから射精された精液の通路となり、精液に包まれ「子宮」を目指して突進する「精子」の 通路としての重要な役割を担っている。 c しかも膣は、月経時には経血の排出口となろ。 このほか卵巣、子宮、膣それ自体などから分泌される分泌液の排出口ともなる。 d そのうえ膣は、出産時には子宮から母親の体外へと胎児をはこんでゆく通路ともなる。 これが「産道」としての役割である。 D 膣萎縮 女性は主に月経がなくなる「閉経」に伴い、子宮はじめ膣や乳腺の萎縮が始まる。 膣については、ある程度、膣を性的に継続して使用することにより萎縮の速度を遅くすることができる。閉経後に おける熟年期の性生活を芳醇にするためにも、「もう歳だから男は要らなくなった」など言わずに、自分なりに「性的若さ」 を保つ努力をすることが望ましい。 その努力とは、膣を性的快感のセンサーとして適切な頻度で性的に使用することである。 更年期以後は、卵胞ホルモンが減少し、膣を護るために自浄作用が少なくなるため炎症を起こしやすくなる。 膣をほとんど性的に使用しない場合には、閉経にならない段階においても、膣の萎縮がみられることがある。 たとえば30歳から40歳の女性でも膣の萎縮がみられる。 この点については個人差おあるだろうが、たとえ好みのパートナーが見つからなくても性的快感のセンサーが鈍くなっ て膣が萎縮することがないように自分なりの 工夫をし芳醇な性生活をおくることを推奨する。 その工夫の仕方については、「シングル型の性生活」のタイトルで後述する。 E 膣痙攣 この膣痙攣には、ふたつの類型がある。 a その第一類型は、性交中に心理的な要因で「膣口」から3分の1程度の膣内部の部分に、不随意的に筋肉の痙攣を起こ す現象である。 この現象を「膣痙攣(ワギニスムス)」という。この現象は、セックスに対する不安とか、恐怖、嫌悪などの心理的な 要因が引き金となって起こる異常現象である。 この「ワギニスムス」が起こった場合には、膣へのペニスの挿入ができなく なるのが通例である。 これを防ぐ対策としては、精神療法と平行して心身の治療をすることがあげられる。 b その第二類型は、セックスの最中に、外的要因により女性が驚愕し膣周辺の筋肉を極度に緊張させるため、挿入した ペニスが引きちぎられるほど締め付けられる異常現象である。 その手当としては、素人には無理で、ふたり繋がったまま救急車に運び込まれ、女性の膣周辺筋肉の緊張を抑制するた め注射をするようである。 F 膣狭窄 これは「ちつきょうさく」と読む。この「膣狭窄」は、膣の道が狭いことをいい、性行為障害のひとつである。 この場合は、膣にペニスを挿入すると女性が性交痛を伴うため、正常にセックスすることが困難となる。 その対策としては「膣ダイレーター」という器具を用い膣道拡張の訓練をしてゆくことである。 G 膣圧計 この膣圧計(コルボベリルオメーター)は、膣圧を測定する医療器具をいう。 女性の尿失禁と膣圧とは深い関係にあることが判明している。 この膣圧の平均は40〜60mmHgといわれる。この点、実際例として膣圧が10mmHgという重症の女性が存在す ることが報告されている。 この膣圧計には、膣圧計を増強する機能をもたせたものもある。 H 膣括約筋 a 概念 この膣括約筋は、膣の入り口付近にある、わずかな筋肉組織をいう。 b 性質 この膣括約筋は、女性の尿道から肛門にかけて尿道括約筋、膣括約筋、肛門括約筋が相互に連携しあって括約筋 としての機能を発揮している。 そこでこれらの筋肉群を「PC筋」とか「8の字筋」とか呼ぶ。膣括約筋も右のような筋肉群のひとつである。 c [8の字筋]の鍛錬 この「8の字筋」を鍛錬することで尿失禁の症状をやわらげるなどの効果がある。それは括約筋の鍛錬により 「締まり」がよくなるからだと考えられる。 d 括約筋を鍛錬する方法 まず意識的に肛門をきゅっと締める。そして排尿時にオシッコを止めてみる。オシッコを止めたままの状態で 括約筋を思い切りきゅっと締め付ける。さらに3〜4秒経ったら一気に力を抜き緩める。 このように「締めて緩めて」のパターンを繰り返すことによって括約筋を鍛錬することができる。 e 膣痙攣の場合 この膣痙攣(ワギニスムス)の場合は膣が痙攣により締りすぎてセックスに支障をもらすことになる。 I 膣外射精 コンドームをしないままに裸のペニスを挿入してセックスをし、射精寸前にペニスを膣から脱去して膣の外に射精 することを膣外射精という。 この膣外射精を避妊法のひとつとみる人が多い。しかし専門家によれば避妊法ではないとされる。 それというのもペニスを膣から抜く前に、気づかないうちに精液が膣内部に漏れる可能性が皆無とはいえないから である。 J 膣内射精障害 マスターベーションなどでは、快適に射精することができるのに、膣内では射精することができない症状を膣内射精 障害という。 その要因は「刺激の強さ」と「精神的不十分性」にあるのではないか。日常的に手による強い刺激で自慰を繰り返す ことにより、膣内の刺激では刺激の強さが不十分となり射精できなくなるとみられる。 もうひつは、アダルトビデオなどに現われる女性が自分のアイドルになっている場合、現実に抱いている彼女とアイ ドルとのギャップに妨げられて精神的に十分な快感がえにくくなっているのではないかとも考えられる。 K 膣カンジダ症 これは膣・外陰に発生する「カンジダ菌」によって起こる膣炎と外陰膣炎をいう。 その症状は、外陰部の皮膚が赤くなったりして腫れ、痒みがでる。そしてオリモノが白いクリーム状になったり、 酒粕状の粒々が混入する。 この「カンジダ菌」は体内に常に存在するものだが、疲労したとき、抵抗力が低下したとき、抗生物質を使用したとき などに発症する。 その治療法は、膣剤のほか軟膏を塗布する。 これは「性感染症」ではないが、性行為によりパートナーに感染するので、注意して検査したほうがよい。 L 膣欠損症 これは胎生期にミュラー管の発育障害により膣が欠損している先天的に異常な状態をいう。 この場合には、膣が無いだけでなく、子宮も欠損していたり、その痕跡を留めるものもある。 その対策としては、人工で膣を造る手術をするが、自然の妊娠はむりである。 M 膣中隔 これは膣が二段にわかれている状態をいう。これもミュラー管の発育不全が原因とみられている。 これは奇形の一種だが、妊娠はできるし、セックスのときに気づかないこともあるという。 N 膣トリコモナス尿道炎 これは「膣トリコモナス」が尿道に感染して起こる炎症である。 O 膣トリコモナス膣炎 これはトリコモナス原虫「膣トリコモナス」によって引き起こされる性感染症である。 これに感染したときの女性の自覚症状は、性交痛とか臭いの強いオリモノがでる。 ただ、この症状があらわれない場合もある。これに対し男性の自覚症状は、軽いため感染に気づかない ことが多い。 その治療法は、錠剤と内服薬を併用する。 このトリコモナスは、ほかの臓器にも感染するので全身投与が必要となる。 P 膣壁 これは膣を形成している筒状の粘膜組織である。 この組織は、細かい壁状になっていて伸縮自在性に富んでいる。 そもそも膣壁は、挿入されたペニスを刺激することよりも出産時の「産道」としての機能を発揮させるため に壁状に形成されたものと考えられている。 この粘膜組織は「膣口」の筋肉とは違って、その訓練は効かないとみられている。 ただ、出産により壁の数が増加したり、多産の場合は、逆に壁数が減少するものともみられている。 Q 膣炎 これは膣の炎症をいう。 この症状としては、オリモノが増えたり、その臭いが強くなったり、痛みを伴うこともある。 この症状は単純な雑菌によって炎症を起こすこともあるが、その多くは性感染症に侵されたときに発症する。 4 子宮 A 概念 ここに子宮とはなにか。 生物学的意味における「子宮(uterus)」とは、哺乳類の雌の生殖器のひとつで、妊娠時に体内で胎児を育てる とき、胎児の居場所となる「器」としての機能を有する器官をいう。 B 「ヒト」の子宮 それでは「ヒト」の子宮はどうなっているか。 a 子宮の位置 この子宮は膣の奥に位置している。 b 子宮口 膣の奥の最深部に子宮の入り口となる「子宮口」がある。 この子宮口は、いくらか硬めの肉の盛り上がりになっている。この部分は人の鼻の先くらいの硬さである。 指を膣の奥まで挿入すると、こりっとした触感がする部分がある。この部分が子宮口である。、 この「子宮口」は、通常時には閉じている。しかし排卵がはじまると数ミリ程度、その口を開いてくる。 この部分は妊娠・出産が近づいてくると、柔らかくなる。このように柔軟性をもたせて出産に備えるのである。 c 子宮頚管・子宮頚部 子宮の入り口からその中に入ると、いくらか狭い円柱状の管があり、膣壁の組織が延長されている。そして、 その管が少し広くなった部分がある。これが「子宮頚管」である。 この「子宮頚管」は、子宮の下部3分1を占め、主に円柱状をなしている。これは平常時には閉じているが 排卵時になると5ミリ程度は開いてくる。 この子宮頚管の内面は、粘液を生産する一層の円柱上皮によって覆われている。 これは、月経周期に応じて粘液の性質や粘液の量を調整し精子の侵入を歓迎したり、精液の侵入を拒んだり する絶妙なメカニズムを発揮する。 ちなみに「子宮頸管」は、原則として排卵のときしか精液を通さないシステムになっている。 だからこのシステムを活用すれば避妊をすることもできる。 このように絶妙な構造の子宮は、骨盤内で膣の上端とつながった状態になっている。 この子宮の上端部を「子宮底」といい、子宮の下部を「子宮頚部」という。 子宮の下部にあたる「子宮頚部」はその下側で「外子宮口」を介して膣とつながっている。 これに対し、子宮の上部にあたる「子宮底」の左右端は、「卵管」とつながっている。 受精卵が着床するのは「子宮底」の場合が多いという。 d 子宮体部 子宮の下部3分の1が「子宮頚部」であるから、残りの3分の2は子宮の上部にあたる「子宮体部」ということ になる。比喩的にいえば、このこの部分が「子宮という城」の本丸にあたる。 言い換えれば、ここが人間にとって生命誕生のメーンテーブルとなる。 この「子宮体部」こそは受精卵にとって終着駅となり、ここで「子宮内膜」に付着し、着床となるわけである。 この城の中で、精子と卵子が結合してうまれた受精卵はヒトの萌芽として根をおろし、胎児へと成長してゆくの である。ですからこの「子宮体部」は、胎児の保育器といえよう。 この部位は、きわめて伸縮性に富んだ筋性器官である。ここは胎児の成長に対応して自在に膨れあがることがで きるのである。これが外見的には妊婦のおなかというわけである。 e 子宮腔・子宮内膜 子宮体部の内腔を「子宮腔」という。 ここは「子宮内膜」によって覆われている。この「子宮内膜」は、月経周期にしたがいおおきく変化してくる。 月経後の内膜は薄い。しかし増殖期にないるとエストロゲンの作用により次第に厚みを帯びてくる。 さらに排卵期になると黄体ホルモンの作用を受けて分泌期にはいる。 女性が妊娠しなかった場合には、この「子宮内膜」の一部が剥離・剥脱して「月経血」となる。 このように子宮体部の中では、子宮内膜の増殖期から分泌期そして離脱期を経て「経血」となり、その後における 子宮内膜の修復・再生がなされる。このようなパターンによる変化が繰り返されるわけである。 f 子宮底部 子宮という城に入ってゆくと、一番奥に平坦な部分がある。この平坦部が「子宮底部」である。ここには受精した 卵子を運ぶ「卵管」が伸びてきている。 排卵期にセックスした場合、男のペニスから射精された無数の精子群は、所定のルートで運動を展開して移動し、 この「卵管」の奥へ進むことになる。こうして精子がパートナーの卵子と結合すると受精が成立し、子宮内膜に着床 する。 g 子宮の大きさ 子宮は、厚い筋肉の壁で形成され袋状をなしている。女性が妊娠していないときの大きさは、上下の長さが6〜8 cmであり、その幅は4〜5cm程度である。 このように通常期には、鶏卵程度の大きさだった子宮も胎児の成長に伴い、30cmほどに膨れあがる。その容積 は500倍にもなる。これが妊婦のおなかの中身ということになる。 h 子宮壁 子宮壁の厚さは1〜2cm程度である。子宮壁は、その厚さのほとんどが「子宮筋層」という平滑筋の層で形成さ れている。この平滑筋を構成するのは「平滑筋細胞」であり、この細胞は妊娠時になると活発に分裂し、個々の細胞 が長さ0,5mmと巨大化してゆく。これは胎児の成長に備えて急激に子宮のを拡張するメカニズムである。 子宮壁の最内層は、「子宮内膜」という粘膜層で形成されている。この粘膜層は、卵巣から分泌されるホルモンの 影響を強く受ける部位である。 この部位は、月経周期に伴い周期的に変化する。 月経はこの「子宮内膜」が剥がれ落ち、血液とともに子宮口、膣を介して体外に排出される現象である。 i 子宮の奇形 この子宮の奇形としてあげられるのが「双角子宮」である。この「双角子宮」とは、「子宮頚部」はひとつになって いるが、「子宮体部」は左右にウサギの耳のように分かれている状態をいう。 これは子宮の奇形ではあるが、しいてオペをする必要はない。ただ習慣性流産、早産を引き起こしやすい。 5 子宮に関する病気 それでは女性の子宮については、どんな病気があるだろうか。これを順次、考察してゆく。 A 子宮体癌 この「子宮体癌(endometorial cancer)」は、「子宮内膜」に発生する癌である。 この「子宮体癌」は、組織学の見地からみれば「腺癌」にあたる。 その要因としては、「エストロゲン依存性」と「エストロゲン非依存性」の類型があげられる。 前者の多くは「子宮内膜増殖症」から発症する。これに対し後者は「子宮内膜増殖症」を経ることなく発症する。 その症状としては主として閉経後の「不正性器出血」としてみられることが多い。 B 子宮頚癌 これは子宮の入り口3分の1くらいの箇所にあたる「子宮頚部」に発症する癌である。 そもそも子宮頚部の皮膚は「偏平上皮」と「円柱上皮」に分類される。このふたつの皮膚の境界線は本来、明瞭に 分かれている。しかし炎症などによって細胞が壊れてゆくと、子宮の中の方の「円柱上皮」が外に出てきて「偏平上皮」 との境界線が崩れてしまう。このような状態のところに「発癌因子」が加わると癌へ移行する危険性が起こる。 このように上皮細胞が悪性腫瘍に転化することがある。 C 子宮内膜症 これは癌とは異なるが、「子宮内膜」の細胞が本来の場所以外で増殖し炎症を起こす症状である。 この子宮内膜症は、派生する箇所や形態などにより次のような種類に分類される。 a 骨盤腹膜子宮内膜症 これは骨盤に守られた下腹部内の腹膜の表面に増殖細胞が点在するもので、腹膜病変といわれる。 b 深部子宮内膜症 これは腹膜の表面5mm以上も潜った箇所に増殖するもので深部病変ともいう。 c 子宮腺筋症 これは子宮筋層内に広がって増殖するもので、子宮筋層全体に広がる筋層の一部に増殖する型がある。 d 他臓器子宮内膜症 これら以外の子宮内膜症もある。 例えば、へそ、帝王切開とか会陰切開などのオペの傷跡、鼠蹊部などの皮膚に発生することがある。 このほか横隔膜とか胸膜、肺や気管支、直腸、盲腸、膀胱、尿管、膣、外陰部、肩、膝、拇指リンパ節、坐骨神経 などに発症することもある。 このように子宮内膜症は、ひとつの疾患ではなく、病原となる「異所性子宮内膜細胞」は、子宮以外の他の箇所に も発生し、その発生個所により特徴的な症状を起こす疾患群であり、その数種が併発することもある。 e 子宮筋腫 これは子宮筋層の平滑筋が異常に増殖する良性の腫瘍であり、悪性腫瘍ではない。 その発生原因については、まだ解明されていない。 これは癌ではなく、悪性腫瘍に転化することもない。このように子宮の筋内にできた良性の腫瘍であるから、たとえ 腫瘍が大きくなっても組織を破壊したり、転移することもないし、命を脅かされることもない。 それでもオペをしたいときのために、オペの方法を選択肢として検討しておくことにしよう。 そのオペの方法としては次のようなメソッドがある。 ◇ 腹腔鏡手術 これには「核出手術」と「全摘術」がある。前者は傷が小さく、術後の癒着も少ない。 この方法は手術により子宮や卵管がダメージを受けにくいので、術後も妊娠の可能性が高まるといわれる。オペの ために3泊4日の入院をした場合、20万円〜60万円程度の費用が必要となる。 ただ保険が適用できるので自己負担は3割として6万円〜17万円を準備すればよい。 しかしこのオペは、小さな穴を通して遠隔操作で処理し、モニターを通して器具を操作する仕組みになっている。 このため高度の医療技術と豊富な経験が要求される。しかも特別の設備が必要となるので、設備のない産院では オペを実施することはできない。 ◇ 開腹手術 これは腹部にメスを入れ、開腹して行う手術である。 例えば筋腫が大きいときとか、筋腫の数が多い場合には、安全性や確実性の観点から開腹手術が選択されること がある。 このオペには、「子宮全摘手術」と「核出術」の二つの場合がある。 このオペは、手術の所要時間が少なく、例えば「全摘手術」の場合でも1〜2時間程度でよい。このため開腹する とはいえ出血量も少なく、輸血の必要もない。ただ、開腹するため、術後の痛みは覚悟しなければならない。 入院期間も8日程度が必要とされる。 「核出術」の場合は、子宮筋層の一部を切開して問題の部分の筋腫をくり抜き、その部分の傷口を縫合するが、 この傷の部分に癒着が起きて、卵巣や卵管、大腸、小腸に癒着することがある。このため術後の経過を観察すること が大切となる。 この筋腫を摘出した部分は弱くなっているので、術後に出産するときは「帝王切開」をすることが多い。 ◇ 子宮鏡下手術 これは粘膜下筋腫とか、ポリープなどの子宮内膜に突き出ている腫瘍を切除するオペである。このオぺではその 先端がループ状になっているメスを使用する。 このオペ以前に経膣超音波や子宮鏡により手術に適するかどうかを診断する。 自然分娩の経験がある人は子宮口が広がっているので問題はない。これに対し自然分娩の経験がない場合には、 手術の前に子宮口を広げる処置をする。 オペの前に全身麻酔をかける。手術の所要時間は30分から60分で、腹部や子宮を切らないから術後の痛みは少ない し、それだけ体に対する負担も軽い。入院期間は2泊3日で、ときにはオペの翌日に退院できる例もある。 入院費用は、2泊3日の場合で25万〜から40万円程度であり、個人負担は10万円程度とみておけばよい。 ◇ 膣式手術 これは開腹しないで、膣の一番奥の箇所を切り、そこから子宮を全摘する方法である。 卵管や卵巣を残したまま、子宮だけをカットし、膣から取り出し、卵管や卵巣を腹膜に縫合する。この方法では開腹し ないので、下腹部に術後の傷跡が残らないし、それだけ術後の回復も早い。 ただ、膣が狭い人や子宮が大きかったり、子宮の周囲が癒着している場合には、この方法はとれない。 手術の所要時間は60分〜120分程度であり、出血も少ないから通常は輸血しなくてもよい。 ◇ 子宮動脈塞栓術(UAE) これは新しい治療法として注目されている。 まず子宮動脈の血管内に細いカテーテルを挿入し、そのカテーテルから血管を詰まらせるような物質を動脈に注入し、 その先に形成された「子宮筋腫」に栄養がゆきわたらないようにして筋腫を小さくしてしまうという独特の新しい治療法 である。 この方法では、強い痛みもないし、深い麻酔をする必要もない。ただ、結了を遮断した後の数時間は、強い痛みや発熱、 嘔吐が起こることがある。もし、子宮にゆくはずの血液が完全に途絶えたり、感染が起こったりしたときには、やむなく 「子宮全摘術」をしなければならないこともありうる。 アメリカでは、3か月で筋腫の大きさが平均で50%まで縮小されたという臨床報告がある。日本では、一部の病院 で採用されはじめているが、健康保険が適用されないので費用の負担が大きい。 D 子宮腺筋症 a 概念 ここに「子宮腺筋症」とは、本来は子宮の内側にしかないはずの子宮内膜組織がなんらかの原因により「子宮の筋層内」 に潜りこみ、増殖する症状をいう。 b 症状 強い月経痛とか月経過多という症状になる。その痛みは「子宮内膜症」のときよりも強くしだいに痛みは酷くなってくる。 その病状が進行してくると、子宮の中で病巣が増殖し「子宮肥大」となる。子宮が肥大してくると、それだけ子宮内膜の 面積も広くなり、つれて月経時の出血量も多くなる。そのうえ月経後の子宮の収縮もわるくなり、出血が長引くことになる。 このため貧血症状をもたらすことにもなる。そこで日常生活に支障をきたしたり、不妊症の原因にもなる。 c 治療法 ア 子宮のサイズが小さく痛みがない場合 薬を用いないで、その後の変化を観察する。 イ 子宮のサイズが大きくなり痛みが強い場合 ◇ 薬事療法 タゾナール(ボンゾール)、酢酸ナファレリン(ナサニール)、酢酸ブレスリン(スブレッキュア)などのホルモン療法を とることになる。これにより女性ホルモンとしてのエストロゲンの分泌を抑制し一時的に病巣を小さくしたり強い月経 痛や月経過多などの症状を緩和する。 ◇ 直接療法 直接療法としての手術は、従来、「子宮全摘」という方法がとられてきた。 しかし新しいオペの方法として「核出手術」とか「子宮動脈塞栓術」などが採用されている。 前者は子宮腺筋症の患部のみを子宮筋腫のときのように摘出するメソッドである。 後者は子宮筋腫のときとおなじようになされるメソッドである。 ◇ タゾナールリング 最新の薬事療法としてタゾナールリング療法があげられる。 これは直接、子宮にタゾナールリングという「子宮リング」を挿入するメソッドである。 E 子宮ヘルニア ここに「子宮ヘルニア(uterine hernia)」とは、妊娠したときの子宮の一部またはその全部がヘルニア破裂口を通して脱出 した状態をいう。 恥骨筋腱が破裂した場合は、難産になったりするほか、場合によっては、胎児または母体、もしくはその両者が死にいたる こともある。 F その他 そのほか「片側子宮」・「二重頚管」・「子宮角癒合」・「子宮捻転」などをあげることができる。 6 子宮の奇形 最後に子宮の奇形について考察しておこう。 A 概念 そもそも子宮は、胎生期にミュラー管が癒合して発生する。 その際のミュラー管の「癒合障害」が原因となって子宮が奇形をもたらすことがある。 これを子宮奇形(kongenital abunormalities of uterus)という。 子宮奇形がみられるときには、しばしば流産とか早産お原因となり、「尿路奇形」を合併しやすい。 B 類型 この「子宮奇形」には次のような類型がある。 a 中隔奇形 これは、子宮の外見上は単一であるが、子宮内腔が「中隔」によって左右に分離されている奇形である。 この「中隔」には血行がないため、ここに着床すると流産をもたらしてしまう。 b 単角子宮 これはミュラー管の発育の良否にかかわる子宮の奇形をいう。 いずれか一方のミュラー管の発育がわるいときに奇形を生ずる。発育のわるい方を「副角」といい、発育のよい 方を「主角」という。 その治療としては、予防的に「子宮頚管縫縮術」をする。ただ収縮剤を投与すると子宮破裂を生ずる危険があるから 収縮剤の投与は禁物である。 c 双角子宮 これは「子宮頚部」が単一で「子宮体部」はウサギの耳のようにわかれている奇形である。 d 重複子宮 これは左右に子宮が分離して形成された奇形である。その要因は子宮が発生する胎生期にミュラー管の生じなかった とによる。 その治療としては、予防的に「子宮頸管収縮剤」を実施することである。ただ子宮を損傷させてはならない。 C 治療法 a 中隔子宮については、腹腔鏡で確認したのち、そのまま子宮鏡で膣の方から中隔を切除する。 その術後の分娩は、経膣分娩も可能である。 b 双角子宮いついては、腹腔鏡で確認したのち、そもまま腹を開けてストラスマン手術という方法で形成術をする。 c 単角子宮の場合は、発育のわるい「副角子宮」を切除する。この「副角子宮」で正常に妊娠を継続することは生来あり えないので、この部分だけをカットすることになる。 7 卵管 これは子宮から左右に伸びている10〜12cmの管状器官である。 この「卵管」は、「卵管采」・「卵管膨大部」・「卵管峡部」・「卵管間質部」によって構成されている。 その管の先端には「卵管采」があり、排卵によって飛び出してきた卵子を指のように キャッチすることができる。 卵管の内部には繊毛が生えており、その蠕動運動によって卵子を子宮に向けて運ぶ役 割を担っている。 そして「卵管膨大部」のエリアで卵子と精子がうまく出会えると受精するというメカ ニズムになっている。 8 卵巣 これは子宮から両腕を広げたように左右に伸びている「卵管」の下に位置する3〜4cm程度のアーモンド型をした器官 である。 そもそも卵管の中には、当初から数万個以上の「原始卵胞」が用意されている。その 中のひとつから卵子が飛び出して くるという メカニズムいなっている。 この卵巣では、2種類の女性ホルモンを分泌する。
○ 羽村堰 玉川上水に沿って展開される桜並木の桜の葉がそよ風でちらちら舞い落ちる。 桜の古木の枝も葉が散って肌を剥き出している。 ○ 花園家の門前 白光がする生地に黒砂を散りばめた花崗岩の門柱に[弁護士 花園]と金文字で 刻まれた表札が浮かびあがる。 ○ 花園家の中庭 応接室の窓下には紫、ピンク、黄色など色とリどりの菊の花が咲き誇っている。 とりわけ白菊の花が目をひき、周辺には菊の薫りが漂(ただよ)っている。 ○ 花園家の日本間 20畳敷きの日本間では青畳が敷き詰められ藺草(いぐさ)の薫りが漂っている。 花園佐保子は床の間を背にして紫檀(したん)のテーブルに向かって牡丹の花模様の 座布団に座り、藤原教授の著書に読み耽っている。 「ああ、この節は専門語が多くでてきてやや難解だった」 佐保子は栞を挟んで著書を閉じた。
◇ 花園佐保子の独白 ◇ ・・・・わたしったら女のくせに女性の性器については、知識がすくなかったわ。 それだけに随分、役にたったわ。藤原先生は心理学者として活躍されているが、 心理学という学問は人間の行動を研究の対象とする学問だと、うちの先生も言って いた。そうだとすれば、人間の性行動も「行動」のひとつだから、これを研究の対象 としてもおかしくはないはずだ。けどこれまでの社会では、「性」についてのはなし になると、すぐピンクのベールを着せて深入りすることはタブーとされてきた。 しかし、この節を読んでみて、性についての記述にエッチな衣を着せてしまうこと には抵抗を感じるようになったわ。 だれでも性に関する知識が多ければ多いほど、巧みに避妊したり、巧みに妊娠したり、 安産をはかったり、そのメリットはおおきい。 だから単に人の性生活をいっそう芳醇にするだけでなく、多くのメリットを思うと、 この藤原先生の著書の社会的な価値は文字通り、極めておおきいとおもうわ。 これからも夫の目を盗んで密読することにしよう・・・・
○ 羽村堰 玉川上水に沿って展開される桜並木の桜の葉がちらほら散ってゆく。 人影のない桜並木の堤を若い男女のカップルがゆっくり歩いてゆく。
晩秋のそよ風も頬に冷たく感じる季節になっていた。
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