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作品名:森の愉快な仲間達 作者:ユダ・イスカリオテ

第1回   桜が咲いたよ
 森の愉快な仲間達は今日も幸せそうです。

 森の向こうに見える“ポッコリ山”のてっぺんの雪がとける頃には、真綿みたいな  ちっこい桜の花びらがぽっつんぽっつん咲いて、桜の季節です。

 桜の花と言えば、森にはひときわ美しい桜の木が一本ありました。

 その桜の木の美しい事と言ったら、まるで春の空に大きく咲いた打ち上げ花火の様でした。

 森の仲間達は、春になるとこの桜の木を眺めに入れ替わり立ち代わりやってくるのでした。



 ある日の事です。

 ウサギのおチビちゃんがやって来て言いました。

「明日、お城で舞踏会があるの。わたしにさらさらのドレスがあったらな…」

 それを聞いた桜の木は自分の枝を揺すって、ハラハラとうす桃色の花びらを落としてやりました。

 花びらはおチビちゃんの背中に舞い落ちました。

 これを見て、おチビちゃんは「はっ」っと何かをひらめきました。

「わたし、この花びらを縫い合わせてドレスにするわね。こんなにさらさらした花びらなら、きっと王子様の目に留まるはずだわ」

 ウサギのおチビちゃんは桜の花びらをかき集めると、喜んでお家に飛んで行きました。



 次の日も、桜の木は枝を空いっぱいに広げていました。

 桜の木は昨日よりもつぼみが減って、ますます奇麗です。

 そこへ、ネコの子供がやって来ました。

 ネコの子供は泣いています。

「お家がわからないよぅ。お家に帰りたいよぅ」

 どうやら迷子のようです。

 ネコの子供は桜の木の近くで、石につまづいて転んでしまいました。

 泣き声が更に大きくなりました。

 あんまり泣き声が大きかったので、桜の木も、地面の中のモグラ君も、お空の雲も驚きました。

「痛いよぅ。お家に帰りたいよぅ。お家がわからないよぅ」

 桜の木は目の前で泣かれたものだから、うす桃色の花びらをハラハラと飛ばしてあげました。

 するとどうでしょう。

 さっきまで泣いていたネコの子供はぴったりと泣き止んで、奇麗な花びらを追いかけて遊びだしました。

 ネコの子供の笑い声は、地面の中のモグラ君にもお空の雲にも届きニッコリ笑顔になりました。

 しばらくすると、笑い声を聞きつけたネコのお母さんが子ネコを迎えにきました。

 よかったね、仔ネコちゃん!



 次の日も、桜の木は枝を空高く突き上げて凛と花を咲かせていました。
 
 とうとうつぼみが無くなって、見事に花盛りを迎えました。

 桜の枝に、若いスズメが2羽とまりました。

「ボクは、神様に誓って君を守るよ」

「わたしは、神様に誓ってあなたに添い遂げるわ」

 2羽は誓いの言葉を言うと、夫婦になりました。

 桜の木はなんだか嬉しくなりました。

 あんまり嬉しくてめでたいものだから、枝を揺すってライスシャワーの代わりに花びらを振らせてあげました。

 雨のように振るさらさらの花びらに、2羽は大喜びです。



 次の日、桜の枝は少し寒そうな姿になっていました。

 森で一番美しかった桜の木は、今では一番みすぼらしくなってしまいました。

 他の桜の木はまだまだ花が沢山ついていて、満開の花盛りです。

 しかし、よく見ると残っている花の一つ一つはどの桜の木の花よりも美しく、みずみずしいのでした。

 そこへ、ウサギのおチビちゃんがやって来ました。

「わたしね、あなたの花びらをドレスにしてお城へ行ったのよ」

 おチビちゃんは桜の木に話しかけました。

「みんながわたしのドレスを見て、うらやましがっていたわ。もちろん、王子様の目に留まって一緒にダンスを踊ったのよ」

 おチビちゃんが嬉しそうに話すものだから、桜の木も嬉しくなりました。

「今度はね、わたしの耳にあなたの花を飾りたいの」

 桜の木は残り少ない花を一つだけ落としてやりました。



 しばらくすると、ネコの子供がやって来ました。

 ネコの子供はまた泣いています。

「おもちゃがなくなっちゃったよぉ」

 優しい桜の木は、残りわずかな自分の花を落としてやりました。

 ネコの子供は可愛らしい花を見て、泣き止みました。

 そして、花をおもちゃにして何処かへ行ってしまいました。



 またしばらくすると、桜の枝にスズメが2羽とまりました。

 この間、桜の枝の上で結婚したスズメの夫婦です。

「わたしたち、子どもができたのよ」

「かわいい子どもが5羽もできたんだ」

 桜の木は嬉しくなりました。

「あなたの花びらで、子ども達に服を作ってあげたいの」

 スズメの奥さんが言いました。

 すると桜の木は、残り6個しか無い自分の花をスズメの夫婦にあげました。



 とうとう桜の木には花が一つだけしか残っていません。

 森で一番美しかった桜の木は、今ではただの枯れ木同然です。

 森の仲間達は美しかった桜の木のことなんて、すっかり忘れていました。

 森に、夕立が降りました。

 久しぶりの雨に、他の桜の木は喜びました。

 しかし、花が一つだけしか残っていない桜の木は心細くなりました。

 雨がたった一つの花の花びらを一枚づつ落としてしまうからです。

 はらりはらりと、無情な雨が花びらを落としていきます。

 とうとう最後の花びらが散ってしまうと、桜の木はただの枝でした。

 あんまりいそいで花を散らしてしまったので、葉が生えてくるのはだいぶ先でしょう。

 

 雨がやみ、次の日がやって来ました。
 
 森を陽気な太陽が照らし、雨水を雲に変えています。
 
 森には桜の木が一本だけ抜かしてみんな奇麗に咲いています。
 
 あの桜の木はとうとう花が無くなってしまったのです。

 花びら一枚も残っていません。

 今日は森の仲間達がみんな集まってお花見です。

 森の仲間達は一斉に咲く桜をとても楽しみにしていました。

 さあ、みんながあの桜の木のところまでやってきました。

「この木は何の木だったかなぁ」

 ウサギのおチビちゃんが言いました。

「桜の木みたいだけど、花が一つもついていないね」

 ネコの子どもが言いました。

 森の仲間達はそこにある木が何だったか思い出せなくなっていました。

 それもそのはず、奇麗だった頃とは全く違っていて、今では他の桜の木に埋もれてしまっているのです。

「この木は元々枯れ木だったんだよ」

 スズメの奥さんが決めつけました。

 するとどうでしょう、森の仲間達はこのみすぼらしい木を邪魔にしてなぎ倒してしまいした。

 大工のビーバー君が太い桜の幹にかじりつき、力持ちのクマ君が力一杯押し倒し、可哀想な桜の木は地面に倒れました。

 今度は倒れた大きな木を邪魔にして、あろうことかこの可哀想な木を木っ端みじんに切り分けてしまいました。

 桜の木は薪にされてしまったのです。

 こうして出来た薪を見て、誰かが言いました。

「よし、これを使って大きなたき火を作ろう!これだけあれば大きなたき火ができるぞ」

「それはいい提案だね」



 ああ、なんて可哀想な桜の木!

 森の仲間達は夜まで宴会を楽しむと、最後に薪を並べて火をつけました。

「燃えろや燃えろ!」

 大きなたき火を囲んで踊ったり歌ったり大盛り上がりです。

 桜の木は赤々と燃え盛る火の中で、自分が燃えていくのにじっと耐えなくてはなりませんでした。

 桜の木は一晩かけて炭になりました。



 森の仲間達は1年後も、2年後も幸せでした。

 10年経っても幸せでした。

 森の仲間は春になると悪い子を集めてお花見をしました。

 そこには、何を燃やしたかは忘れてしまったけれど炭があって、この炭は誰かが近づくと火を噴いて灰にして
しまうのです。

 今日も、森の悪い子達が燃やされていきます。


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