それは公立高校のなんでもない日常の風景。 昼食を終え、教室の真ん中で数人の男子生徒が談笑している。 「あ〜彼女欲しい!」 二宮は椅子にもたれて天井を仰ぐ。 「そうだ!合コンしよ。合コン」 名案だとばかりに二宮は手を打つのだが、 その時、洋平の心に一人の女性の顔が浮ぶ。
「俺は・・・いいよ。」 そう言って寂しそうに微笑むと、二宮がしたり顔で、洋平を覗きもむ。 「はは〜ん、さてはお前好きな人いるんだろ?」 図星だとばかりに、洋平は赤面する。 「誰だ?誰だ〜?」
好奇心をむき出しに、友人たちが洋平に問いかける。 「ヒントくれよ、ヒント。」
「え・・・っと、年上の女性、なんだ。」 洋平は言いにくそうに口ごもる。
「あっ分かった、3年の佐々木先輩だろ?やっぱり、あ〜俺も分かるわ〜胸でっかいし・・・」 木村がさも納得と言った様子。
洋平は静かに首を振る。 「俺の好きな人は、もっと年上だし、胸ももっとでかい。」 「あっわかった、英語1の益田理恵ちゃん?」 「洋平、お前〜教師を好きになるなんて、けっこうやるな!」
なにがやるのかは全く検討がつかないが、友人どもは洋平を肘でつつく。 「ちがうよ」 洋平はまた静かに首を振る。
その仕草、表情は、彼が苦しい恋をしているかのような、恋にやつれた艶めいた風情を漂わせ、友人たちを哀れませた。
「俺たち、何でも協力するから!言ってみろよ!」 「望みの薄い、恋なんだ」
「そんなこと、告白してみなきゃ分からないじゃないか」 友人たちは真剣に洋平を励まそうと、必死だった。
「いきなりは、無理でもまず友達から、とかさ。」 「友達も、きつい・・・かな」 「どうしたんだよ、その人彼氏がいるのか?」
いや、亭主と子供と・・・孫も、多分。
俺の好きな人は・・・ 『購買部のおばちゃん』
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