「眠り姫」 女の子はみんな、お姫様なのである。
それは、ある晴れた日の昼下がり。 姫は王子様を待ちぼうけ。 頭から布団を被り、ふて寝の真っ最中。
「ひどいわ。 時間に遅れるなんて」
姫は王子様に恋をしたのかもしれない。 それは、淡い恋。 咲き初めの花のような・・・。
普段なら、笑って許してあげられるのに。 なんでだろう? なんで、だろ? そして、気付く。 そうか、 私はあの人を待っていたんだ。
あの人の笑顔、 あの人の声を、
「はやく、いらして・・・」
やがて足音が聞こえ、姫の王子様が姿を現す。 王子様は、ふて寝の姫の耳元に低く囁く。 「姫、遅れて申し訳ありません」 それは、心を鷲掴みにするような美声。 少し長めの前髪から覗く、端正な眉目。
あの人だ。 私の王子様・・・。
姫は猶も拗ねている。 ぷうと口を膨らませた瞬間・・・。
ガコっ
王子は苦笑する。
「姫、入れ歯が外れています。」
姫の名前は、山本梅子 九十二歳。
王子の名前は、速見 隆 二十三歳。
職業はホームヘルパー・・・2級なのであった。
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